マンションの価格の信頼性

 ちょっとしたことで記憶が呼び戻されることがある。今日、理由は言えないが、数年前に発覚した、建築士による「耐震偽装事件」を思い出した。
必要な強度のないマンションやビジネスホテルが全国各地に多数建築され、そのうちの何棟かは解体の憂き目をみることとなった。国会でも取り上げるほどの大事件である。
 そのようなマンションを買ってしまった人には、ただ「お気の毒」というほかにないが、得た結論は、価格の安いマンションは、疑ってかからなければならないというものだ。
 偽装マンション分譲業者は、以前から「安さと広さ」を企業コンセプトにして業績を伸ばしていた、東京では注目の企業であった。何故、わが社のマンションは安いのかには、一応の説明が用意されており、同業者から見ても、なるほどと思わせる経営戦略を窺わせるものがあった。
 比較的人気のない場所を選んで用地を仕入れること、専有面積を広くすること(同じ条件の土地に100戸のマンションを造るより、1戸当たりの面積を2倍にし、50戸のマンションを造る方が、玄関ドアは半分で足りるし、便器もユニットバスも、キッチン設備も、みんな半分ですむからだ)、できるだけシンプルな設計をすること(複雑のものほどコストアップする)などが、コストダウンの秘訣だと公表していた。
 原価計算書まで公開していたわけではないので、専門家でも判断はしかねたが、後から考えると、建築コストは相当安く抑えていたということになるし、そのカラクリは、構造計算の偽装にあったということになる。
 マンションの価格構成は、土地代+建築費+販売経費+利益となるが、このうち一番比重の高いのが建築費である。もちろん、東京のような地価の高い地域では、土地代の占める割合は、それなりに高くなる。
 くだんの業者が建設・分譲した下町エリアでは、土地代の比率は高々30%、建築費は50%と推測される。とすれば、単純計算で、建築費を10%下げれば、売値は5%下がる。たかが5%ではない。マンション価格の5%と言えば、1戸あたり200万円、300万円と大きな金額だ。
 建築費の世界は摩訶不思議で、10社くらいのゼネコンから見積もりを取るのが普通だが、どうしてこんなに差があるのかさっぱり分からない。1億円や2億円の差は、日常茶飯事で、安いのはいつも同じゼネコンということもない。仕事が欲しいときは、安値でも取ろうとするし、乗り気でないときは、常識的な金額で応札してくる。また、土木部門で潤っているから余裕がある分を建築部門に回す形で、利益を度外視した金額を提示するゼネコンもある。
 下請けを泣かせながらコストを抑えて安値受注を図るということもあるようだ。近所で別の工事が同時期にあることから、なにかと効率がよい。それが安値の要因だという説明を聞いたこともあった。

 マンション業者にとって、良い土地が仕入れられるかどうかは生命線であり、その次に、建築費をいかに抑えるかが事業成功のカギを握る。
 用地の取得は簡単ではない。不動産仲介業者、信託銀行、ゼネコン、設計事務所など、あらゆるところにアンテナを張って、情報を集める。その中から優良な土地を選択し、地主と折衝して売買契約に至るまでには、いくつもの壁がある。経験した者にしか分からない苦労もある。しかも、優良な土地ほど仕入価格は下がり難い。地主が強気だからだ。土地がなければ、マンション業者は仕事が始まらないから、地主の言い値で買うこともしばしばである。
 次は建築費の方である。建築費には、設計料や、近隣対策費なども含むが、なんといっても高額なのは、ゼネコンに払う建築代金である。建築代金は、分解すると、「設備」と「構造」になる。コストを抑制するためには、ドアハンドル1個、壁のクロス材1つでもおろそかにしない。品質を落とさずに安いものはないかと、日夜研究したり調査したりを繰り返している。
しかし、チリも積もれば山となるから、ハンドル1本、クロス1枚でも馬鹿にならないとはいうものの、設備や仕上げ材で落とせるコストはしれている。やはり大きいのは、「構造・躯体」のコストである。早い話が、鉄筋とセメント代である。あの事件は、ここを大胆に節約していたことを露呈させた。
 
 基本の部分である。地震大国の日本では、決して手を抜くわけにいかない所だ。どれだけ頑丈にできているか、素人には全く判断しようのない部分である。そこは、マンションの売主と施工業者を信用して購入するしか方法はないのである。最近は、現場見学会なる催しをマンション業者が、企画したりしているが、素人が見たって分かるものではない。手抜き工事の抑止力になるわけでもない。
 
 マンションの価格が安いなと感じたら、一応疑ってみるといい。しかし、説明を業者に求めても納得できる答えが得られるかは、ケースバイケースなので、なんとも言えない。原価計算書を見ただけでは(見せてくれることはないが)直ぐ分かるというものでもない。構造計算書や、構造図面も素人には理解不能だろう。
 
 結局は、業者が信用できるかできないかを別の角度から測るしかないのである。
今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。三井健太