いいとこ取りの理想マンション

あちら立てればこちらが立たず、帯に短したすきに長し、一長一短がある。これが、マンション(住宅)というものである。雑誌の記事を見ていると、よく「待った甲斐がありました。3年探し続けて理想のマンションに出会いました」などという喜びの声が載っているときがある。
 本当にそうだろうか。単に錯覚しているだけなのではないか。私には、そうとしか思えない。理想のマンションなど、存在しえないのだから。ただ、屁理屈を言えば、人によって理想の基準が違うから、他人が嫌だという部分があっても、当人にとっては理想なのかもしれない。タデ食う虫も好き好きというから。
 問題なのは、あり得ないもの、あるいは予算から見て不可能と思われるような高望みをしてしまう人である。それこそ、隣の芝生が青く見えてしまう人間の習性からか、青い鳥を探して長い旅をしてしまうことに、ある種の不幸を感じる。
 
 人間には、感情と理性があり、理性通りに行動できないことが少なくない。分かっちゃいるが・・・というやつである。マンション販売を担当する営業マンが、いくら理屈で攻めても、最後まで首を縦に振らない買い手がいると嘆く声を聞いたことがあるが、人間の心理を分かっていないと思うばかりだ。
 
 理想のマンション像が買い手の頭の中に、できてしまうのは何故か。モデルルームの見学を数多くこなして目利きになったつもりが、逆の青い鳥症候群に陥る原因なのであるが、言い換えると、現実離れしたモデルルーム展示に目を奪われ、それぞれのいいとこ取りした理想像が完成することに気付かないのである。
 理想的な広さのベッドルーム、広いバスルーム、贅沢なユーティリティルーム、20畳もある広いリビングルーム、夢だったミセスデン(専用の私室というほどの意味)、フルオープンのキッチン、専用のバルコニーの付いたキッチン、休日のブランチとしゃれたいスクエアで広いバルコニー、大きな納戸、古い箪笥は捨ててもいいと思えるほどの大きなウウォークインクローゼットなど、数を見てあるけばそれぞれの特長が記憶に残る。マンション会社はそこを狙って展示する。
 だが、リビングルームを広くすれば、部屋は狭くなり、両方望めば、全体の面積が広いものになる。広い部屋は、その分だけ、価格が高くなる。ところが、その広さでも予算を上げずに買えるマンションが他にあったことを思い出す。では、そのマンションを何故選ばなかったのかといえば、そちらは、西向きが嫌だったからだという。
先に行って、広さも満足、向きも南向きというマンションに出会ったが決めなかったという。理由は、収納が足りないからだという。そのマンションは、キッチンから直接バルコニーとユーティリティに繋がっていて、家事動線がとてもいい。これがそれまでにない理想のマンションだと強い印象を持つに至った。せめて収納スペースがあと少し広かったら良かったのに、残念とこぼす。
 これを繰り返して行くと、いいとこ取りの理想像が目に焼き付いてしまう。
 このような罠にはまってしまう人は意外に多いのである。本人は気付かないから不幸である。

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今日はここまでです。  ご購読有り難うございました。  三井健太