商社のマンション開発
- 2011.10.15
- マンション市場
ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
新築マンションの供給企業の中に総合商社があることは案外知られていないようです。その特異性についてお話ししましょう。
現在、分譲マンション事業を行なっている総合商社は、丸紅、住友商事、三井物産、三菱商事、双日、伊藤忠、豊田通商、昭光通商の8社です(伊藤忠は子会社の伊藤忠都市開発)。かつて「蝶理」や「安宅産業」、「大倉商事」、「ニチメン」、「トーメン」といった企業も盛んにマンション事業に関与していた時代もありましたが、現在は会社そのものが消滅したりして事業者に現われることはありません。
この中でマンション開発が長年活発だったのは、丸紅と双日、伊藤忠の3社です。消滅した企業以外の他も今もときどき見かけますが、以前からさほど活発にマンション事業を手掛けているというわけではありません。資金力にモノを言わせて大型案件に共同参加するという「便乗型」が目立つと言えましょう。それに比べれば、先の3社は単独開発に積極的でした。「でした」と過去形で言うのは、最近はやや動きが鈍ったように見えるからです。
近年、業界全般を俯瞰すると、人口の減少傾向や空き家の増加など、あるいは少子高齢化という社会構造の変化が、新築マンション事業の将来に希望が持てないとして軸足を中古の流通やリフォーム市場等に移す動きが活発です。
総合商社もマンション開発に見切りをつけたのかもしれません。
そんな中で、先の3社の動きを見ておきましょう。
●丸紅
過去35年を遡ると、マンション供給戸数ランキング上位に最も多く登場するのは丸紅です。
1975年に全国第4位にランク、77年から2004年まで連続28年もの間、毎年ランクインし、しかも上位に顔を出しています。しかし、2005年以降は圏外に去りました。
2010年だけを見ると、首都圏で約450戸、近畿圏ではゼロと新規供給は低迷しています。過去最高の供給は平成6年(1994年)の4347戸。最後のランク内(19位)であった平成16年(2004年)が1598戸でした。
※2010年の供給ランキングデータは3月10日の記事をご参照下さい。
●双日
双日は、ニチメンと合併して社名を変更する前の日商岩井時代に遡って見る必要がありますが、昭和50年以前は全国トップの位置にありました。もっとも、その頃は次のデータでお分かりのように、大京や三井、住友といったデベロッパーがマンション事業に参入し始めの頃で、全体の戸数水準自体が低いときではありました。
ともあれ、昭和54年(1979年)まではベスト10位以内の発売戸数を誇っていたのです。
最近は、丸紅同様に活発な展開は見られず、20位圏外です。手元資料では2010年に首都圏で110戸、近畿圏でも100戸程度の発売と低迷しています。
<1975年(昭和50年)の全国ランキング>
1位:日商岩井2162戸 3位:トーメン1105戸 4位:丸紅1067戸 5位:安宅産業1082戸 8位:山善85戸 9位:ニチメン845戸 18位:伊藤忠不動産546戸 20位:住友商事(上位20位以内に商社・商社系が8社も入っていた)
ちなみに10年後の1985年(昭和60年)のデータを見ると、さすがに専門の不動産会社が台頭し、商社は9位の丸紅だけとなりました。20位以内には他に商社は見当たりません。
<1985年(昭和60年)の全国ランキング>
1位:大京10223戸 2位:リクコス2620戸 3位:三井不動産2493戸 4位:朝日住建2260戸 5位:野村不動産2085戸 9位:丸紅1525戸
●伊藤忠商事
伊藤忠商事は、伊藤忠不動産という子会社、そして現在の伊藤忠都市開発と開発主体が変わってはいますが、今日までマンション開発(他に一戸建ての団地も行なう)を継続して来ました。
ただ、日商岩井(双日)のようなランキングトップに立つような派手さはなく、平成7年に2281戸を発売してベストテン(10位)に入ったのが目立つほか、この前後の平成5年(1993年)から10年(1998年)にかけて連続6年間ベスト20位の下の方に顔を出した程度。
ただ、2009年には久しぶりに17位(1211戸)に登場、2010年にも14位(1181戸)に残っています。つまり、他の商社とは反対の動きになっているのです。
伊藤忠都市開発が特筆されるのは、商社系でありながら独自路線と言えばいいのか、専業のマンションメーカーのような商品開発にオリジナル性を出そうとする姿勢が見られる点です。
それが何かというと、オリジナル収納システム「KATASU(カタス)」を開発。現在開発中の分譲マンション「クレヴィア二子玉川」(東京都世田谷区、総戸数51戸)に導入したのを手始めに、以降の開発物件にも取り入れて差別化を図ろうとしていることです。
同社は、新築マンションを購入・入居後10年未満の200人にインターネットによるアンケート調査を実施。同調査結果から、マンションの収納には(1)使うところに使うものが収納できない、(2)フレキシブルな収納の必要性という2点に着目。2つの居室間で自由に組み合わせて収納できる同システムの開発に至ったのだそうです。
特長は、家族のライフステージに合わせた組み合わせをクローゼット、本棚、デスク、AVボードなどの9タイプ・14バリエーションのユニットからセレクトできる点。キッズトンネルや両居室間で使える布団収納など、新たな空間提案も盛り込まれており、スペースを組み替えたり移動したりすることで、家具を捨てることなく、エコロジーにも繋がるとしています。
同社のホームページによれば、特徴は①キッズカタスが
●机や椅子も入って、勉強スペースにもなる。
●図鑑、絵本や漫画・・・たくさんの本が入って図書館にもなる。
●おもちゃもいっぱい入る!しかも片付けやすい収納。
②ファミリーカタスが、
●キャスター付収納。布団はもちろん、趣味の道具なども収まる。
●本もたっぷり入って、家族の図書館、書斎にもなる。
●家族の写真や、子どもの描いた絵を飾るなど。ファミリー・ギャラリーとしても大活躍
とアピールしており、なかなか肌理(きめ)細かくユーザーの収納ニーズに応えようとしています。(言葉だけでは分かりづらいでしょうが・・・)
商社系または商社のデベロッパーとしての共通点は、どちらかと言えば、住まいの手づくり感覚に欠け、薄利でも大量販売で多額の利益を求める姿勢にありました。その印象からすると、伊藤忠都市開発のそれは明らかに違っています。
ランキングにも登場して来る同社は、「脱商社」を図ろうとしているように見えます。
★ご興味のある方はこちらから同社の物件を検索して覗いてみましょう。
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