巡回管理方式の不安

ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

よくある質問のひとつですが、小型マンションの管理問題です。昨日もこんなメールが届きました。
「36戸のマンションを検討していますが、管理が巡回方式(週2回)とのことです。不安なので営業の人に確認したところ、最近は顧客要望で管理費を削るために巡回管理も珍しくない。また、大手のセキュリティシステムがあり、管理会社の24時間365日のコールセンターもあるから大丈夫ですよと言われました。本当でしょうか?」と。

ここの「顧客要望で管理費を削るため」という回答はとても怪しいものですが、それはともかく巡回管理は戸数の少ないマンションに多く採用され、古くから普通に見られる管理方式です。

マンションの管理とは、所有者の資産を管理することでもあるのですが、ともすると「管理会社任せ」のきらいが残ります。そのためか、巡回管理に潜む問題がクローズアップされることは少ない気がするのです。
最近は需要者側に「管理」に関する意識の向上が見られるようですが、まだまだ管理費が高いか低いかの観点に留まる側面も少なくありません。
今日は、巡回管理の問題点にスポットを当ててみました。

●小型マンションでは普通の巡回管理
管理人を常駐させれば、それだけ経費がかかるので、小型マンションの場合は1戸あたりの管理費が高くなり過ぎます。例えば、管理人に月平均25万円の給与を支払うとしたら、25戸のマンションでは1戸あたり1万円の負担となります。100戸のマンションなら2,500円ですむわけですから7,500円も高くなる計算です。

超高級マンションの場合なら、購入者も高額所得者になり、その負担増をさほど気にも留めないことでしょうが、中間層向けのマンションでは毎月のランニングコストが大きな負担感となるため、コスト抑制の選択として「巡回管理方式」に落ち着くのです。

●巡回管理員の仕事
ところで、管理会社から派遣される巡回管理者は実際にどこまでの仕事をこなすのでしょうか?
巡回管理員は、担当マンションにやって来ると、まず管理組合と書かれたポスト中の郵便物を回収して内容をチェックします。次に、マンション内を屋上から地下室まで一周して、設備の故障箇所はないかを目視で調べ、それが一通り終わると、誰もいない管理人事務室で各種報告書や議事録等を整理して、キャビネット内にファイリングしたりします。

また、季節の変わり目には共用部の照明の点灯時刻を変更するためにタイマーをセットし直し、廊下の蛍光灯で切れていたものを交換し、掲示板の掲示物を張り替えるという作業もあります。これで、巡回の仕事は終わりです。
清掃は清掃人が週に1~2回程度やって来て行なうので、巡回管理員の仕事ではありません。
通常、これらの作業に30分から1時間ぐらいかかるそうです。

●巡回管理のデメリット
では、巡回管理のデメリットはどんな点にあるでしょうか?
それは、災害発生のとき、例えば急な大雨で共用エントランスが冠水したときなどに居住者が自ら掃除をしなければならないことや、不審者が侵入しても注意する人がいないことが挙げられます。

3.11地震でエレベーターが非常停止したとき、管理人が常駐していたマンションでは速やかに復旧の手配やら住人に対する告知などの活動がなされ、住人の不安が解消されたという報告がありますが、管理人がいないマンションではどうだったのでしょうか?

巡回でも問題ないのなら、どこのマンションも巡回になるでしょう。そのような動きがあるという話は聞いたことがありません。

管理人が常勤していなければ、管理は乱れるものです。規約があっても、守らない人がいる。それが現実だからです。
管理人は常に目を光らせ、ゴミを拾い、自転車置き場を整頓し、軽微な修繕箇所に気付いたら手直しの手配をする、不届きな入居者がいれば規約や共同生活のマナーを遵守するよう注意を促す。
マンションの管理人とは、管理組合から委託された番人なのです。

こうした行動を通じて、マンションを「長く綺麗に保つ」ようにするのが管理人の仕事です。
いつも居るのと、たまに回ってくるだけでは、同じ年数でも明らかに「綺麗さ」が異なります。マンション管理は、清掃人が決められた周期でやってきて綺麗にすればいいというものではないのです。巡回では限界があるはずです。
管理人がいなくても、日常生活に支障はありませんが、長い目でみると、資産価値の劣化が早い。それが、巡回管理マンションの一般的な傾向です。

●入居者から追い出された不届きな賃借人
巡回管理でも綺麗なマンションがあるとしたら、入居者のモラルが高く、お互いに気をつけながら自ら管理するという意識が徹底されているためと考えられます。
私はかつて、都内の某マンション(今ではヴィンテージの部類に入る有名な高級マンション)にオフィスを構えていたときがあります。分譲マンションですが、オーナーが賃貸に出したのです。勿論、本来の用途は住居ですからオフィス使用は禁止です。オーナーも私も暗黙の了解の中で賃貸契約をしておりました。
ところが、そこには半年も居続けることができませんでした。理由は、オフィス使用が他の入居者の知るところとなり、管理人に通報されたためです。

管理人は毎週のようにやって来ては「事務所として使っていませんか?」と尋ねるのです。その度に事務員は「いいえ住まいです」と言い続けましたが、あまりに執拗な訪問に音をあげることとなったのです。
想像するに、通報した住人の誰かが複数だったのかどうか分かりませんが、「あそこは間違いなく事務所として使っているはずだから見てきて頂戴」と管理人を何度も追い詰めたのでしょう。
室内に侵入することはできないため、玄関先で質問を繰り返すしかなかったのですが、それでも効果はあったというわけです。管理人が常駐していなかったら、こうは行かなかったでしょう。

もう築後25年を超えていますが、今もそのマンションは管理状態が良く、市場価格は分譲時と変わらないと伝えられています。

話を元に戻します。
管理の良いマンションは、入居者間のコミュニケーションも良いものです。互いに他人の子供に注意・指導しても問題が起きないような良好な関係が出来上がっていたりします。
自分の財産は他人(管理会社や管理人)任せにしないで自分で守る、こうした意識がないとこうはなりません。

この意識が欠落し、管理会社任せにしてある巡回管理のマンションは、寿命が縮むと思って間違いないのです。
冒頭の質問にある24時間警備やコールセンターなどは、本来の資産管理という観点からは無関係なものと言って差し支えないでしょう。

●劣化が早い巡回管理
1日に数か所を巡回するだけの巡回管理員では、どうしても見逃してしまうところが多くなります。

綺麗なマンションは高く売れますが、汚れた印象が強いマンションは見学者が失望し、購入に踏みきらないかもしれません。そうなれば、売却価格を下げざるを得ません。つまり、共用部の汚れ、見栄えの悪さは資産価値の低下につながるのです。

電灯切れのような、目視ですぐ分かるようなことより、ちょっとした補修個所、例えば鉄部の錆びや植栽の枯れ、外壁の亀裂、タイルの剥離などを目ざとく発見することが建物の劣化を防ぐ管理人大切な仕事なのですが、これが巡回管理の場合おろそかになるのは否定できません。
特に、外壁の亀裂は毛細血管のような細いすき間に雨水が浸透して内部の鉄筋を腐食させます。鉄筋が錆びると膨張して爆裂を起こす原因となります。こうした劣化が進めば、気付いたときには多額の修繕費用が発生する事態になりかねません。
そこまで行かないまでも、人の顔にできるシミやソバカスと同じく、放置すれば老化現象が目立つようになるのです。
また、自転車置き場やゴミステーションの整理整頓、共用部のゴミ拾いなども「綺麗」にするという観点から管理人の重要な仕事です。

●綺麗な道にはゴミは落としにくい
初めから綺麗な場所にはゴミをポイ捨てしにくい。これは人間心理ですね。マンションの共用部もそうです。ホテルのエントランスやロビー、廊下などのように、いつも綺麗な状態のマンションは汚れにくいものですが、その反対のマンションは汚れ方が加速しがちです。
巡回管理のマンションには、劣化が早まる危険があると覚悟しなければなりません。

静かな住宅街にあり緑の環境が気に入って購入した「低層の小型マンション」、駅前の便利さに惚れて買った「ペンシルビル状の高層少戸数マンション」、こうしたマンションを選択した人は、入居後の管理に並々ならぬ関心を払い続けることが大事です。
それも、自分一人ではだめで他の多くの住人とともに自分の資産を守る意識を高く持ち続け、自ら活動することも必須と言ってよいでしょう。あるいは、管理費を値上げしてでも管理人を少なくとも半日以上は定置させる契約を管理会社と結ぶべきです。
こうしたことが面倒と思う人や、管理費の値上げの合意を取りつけるのは難しいと思うなら、巡回管理のマンションは避けるべきと言えるかもしれません。

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