バス便マンション・郊外マンションは長谷工だらけ?
- 2012.11.25
- マンションの施工
ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
長谷工コーポレーションというゼネコンを知らない人は少ないでしょう。ゼネコン業界の中では準大手ですが、マンション施工に限ると最大手です。
数あるゼネコンの中で、マンション(しかも分譲)に特化して成長してきた稀有な存在の企業だということは知らない人も多いのではないかと思います。
今日は、長谷工とデベロッパーとの関係について述べようと思います。
●かつての長谷工
長谷工コーポレーション(以下、長谷工)は、かつて長谷川工務店という社名でした。20年以上前に現社名に改称しています。
長谷工には、とかく批判的な噂が多いのですが、真偽はよく分からないというのも確かです。ともあれ、長谷工は自ら売主になることもありますが、原則は工事の請負、つまり施工会社という立場でマンション事業に関与する企業です。
バブル経済勃興のはるか以前、1970年代だったでしょうか、規格型の格安マンションを施工することで一世を風靡したときがありました。格安に造るということは、どこかに居住性の悪化につながる工事の方法を実践していたのです。
設計の単純化、規格化、施工の単純化、短縮化、同一製品の大量仕入れ、こうした方法がローコストマンションを造り出しました。
その結果、数年しないうちに粗悪なマンションのレッテルを貼られることになり、すっかり評判を落とします。業界人だけでなく、一般の人が欠陥マンションの長谷工というイメージを持つに至ったのです。
●現在の長谷工
ネガティブな企業イメージを払拭するまで一体どれほどの時間を要したことでしょう。年配者は、今でも長谷工アレルギーを持っているほどです。
同社の企業努力はいかほどであったか想像を超えるはずです。ともあれ、同社はコストを抑えながらも良質のマンションを施工するスキル着々と蓄積して来ました。現在、マンション施工において、長谷工ほどコストダウンのノウハウと技術を有しているゼネコンはないと言われます。
しかし、マンションは、安いだけでは売れません。場所が良いことや売主のブランド力、建設地にふさわしい高級感ある建物を企画することにより、価格が高くなっても売れる物件は少なくありません。従って、そのような場所で用地が取得できたときは、ローコストを売りにする長谷工を起用する必要はありません。
東京都区部を活躍の舞台とするマンションメーカー(デベロッパ―)は、長谷工に発注することは殆んどないですが、郊外マンションや都内でも最寄り駅から離れた場所などは価格の安さが必須の条件になるため、どこよりも安く請け負うことができる長谷工を頼むデベロッパ―も現われます。
マンション用地が中々買えないとき、大手が敬遠した不便な土地を買ってでも売り上げを確保しなければならないデベロッパ―は、低価格を前提にしなければならないため最後は長谷工さん頼むという構図になるのです。マンション業界の長谷工ニーズは小さくないのです。
ちなみに、2012年11月13日号のスーモに掲載された新築マンションの内、「これから発売される物件」の中で長谷工の施工になる件数を数えてみたところ、何と15物件もありました。
長谷工の施工マンションは、ローコストであっても粗悪なマンションというわけではありません。そのような物を造れば再び轍を踏むことになるため、最低限のラインをキープすることになります。
早く言えば、「品質はそこそこで価格が激安のユニクロ製品」のようなマンションを建てることになります。
●大手も長谷工に発注する時代に?
「大規模・郊外マンションは長谷工に」――まるで合言葉のようです。今では、大手財閥系の三菱も三井も住友も、また野村も大京も、大成建設系や清水建設系のデベロッパーまでが長谷工に発注しているのです。
これは驚くべきことですが、何かを暗示しています。そのことについて考察してみましょう。
景気低迷の折り、分譲価格を抑制することが至上命題になっているからでしょうか?それも確かにあります。
都心の優良な土地の取得が困難になって、やむをえず販売が懸念される郊外の土地も取得する必要に迫られているため、分譲価格を抑制することが重要な課題になった。これも要因です。
実は、一定の売り上げを確保しなければならないデベロッパー各社は、単なる工事請負だけでなく、マンション用地情報の収集に強みを持つ長谷工を頼りにしている側面が強いのです。
これまで長谷工案件の多かったデベロッパーを紹介すると、総合地所、名鉄不動産、三交不動産などですが、ここに割り込んで来たのが既に述べた三井、三菱、住友、野村、大成有楽、大京などのほか、新日鉄都市開発、東武鉄道、東急電鉄、相鉄不動産、伊藤忠都市開発などが挙げられます。
デベロッパー各社は日々、優良な土地情報を探索していますが、マンション用地はオープン情報ばかりではないため、実際は水面下で獲得競争に動いている方が多いのです。
長谷工コーポレーションは、デベロッパーより多いと言われるほど土地情報を常に有していると言われます。専門の収集部隊を抱えているとされ、採算に乗りそうな土地を探し当てる力量が高いのです。その中には、用地争奪戦に巻き込まれないよう、自社で一時的な仮取得(その後、分譲主になるデベロッパーに転売)に踏み切ることもあるのです。
同社の強みは、土地を少し高く買っても建築費の安さで採算ラインをキープすることができる点にあります。
●郊外の大型物件は長谷工の独壇場か?
野村不動産が2012年初頭から開始した新シリーズOHANAブランドのマンションは、これまで「八坂萩山141戸」と「平塚桃浜134戸」で成功を収めました。この次は「玉川上水322戸」と「豊田多摩平の森151戸」ですが、いずれも郊外型の大型物件です。これらはすべて長谷工の施工になる物件です。
大京が間もなく販売を開始する埼玉県越谷市の「グランアルト越谷381戸」も長谷工です。積水ハウスが販売中の「グランドメゾン狛江(東京都狛江市)524戸」、三井不動産レジデンシャルの「パークホームズ矢向センターフォレスト(川崎市)347戸」など、例を挙げるといくらでも出て来る印象です。
共通点は、大型マンションが多いこと、郊外物件か都区内でもバス便や最寄り駅から徒歩15分以上歩く不便な場所にあることです。工場跡地の開発という事例も目立ちます。
●長谷工のどこが問題なの?
このブログで長谷工を何故取り上げるのかという疑念が飛び出して来そうなので、最後にその答えを付言しておきましょう。
コストダウンの手法にいささか疑問を感じるからです。表面に現われるコストダウン設計の欠点はいくつかありますが、最も特徴的なのは、普通なら14階建てに留まる所に15階建てを建築していることです。それに伴い、各住戸の天井高を確保するため、床の二重構造を取りやめて直貼りにしているのです。
直貼り床のどこがいけないのでしょうか? 二重床にしないと階下に生活音を響かせるのでしょうか?いいえ、必ずそうなるとも言えないのです。二重床の方が直床より遮音性は高いことを証明するデータはありません。むしろ、直床の方が遮音性は高いというのが一般的です。実際、二重床で遮音性の低いマンションはいくらでもあるからです。
最大の問題は、将来のリフォームが制約を受けやすいということです。つまり、10年以上も先に行ってから問題に気付くというわけです。しかも、大掛かりな間仕切り変更を計画したときに初めて気づくというレベルなのです。従って、直床は粗悪品というレッテルは貼られずに済みます。
また、直張りのフローリング材は、遮音性を高めるためにクッション材の付いたタイプが用いられるため、歩行すると柔らかくて沈み込む感じがあり、何となく頼りない印象を受けます。実際に施工の仕方が悪いと壁際に置いた家具が重みで沈むのです。
その点、二重床は遮音性を高めるためのコストが増えますが、沈み込むようなフローリング材を採用せずに済みます。床材の選択の幅も広がるメリットが多いようです。
上記以外に、直床は本当に問題ないのでしょうか? 残念ながら、客観的な答えはありません。直(じか)よりは二重にした方が良さそうだというイメージが先行するだけとも言えます。
いずれにせよ、経験豊富な大手マンションメーカーが敢えて長谷工の起用に踏み切るのは、ユニクロ的商品を供給する姿勢の表われです。一般に、コストダウンの方法は、気付きにくい所で量や質を落とすことです。エレベーターの数を減らす、構造を単純にして工程数を減らす(直床工法が典型。他には建物全体の形状をシンプルにするなど)、安価な建築材料を採用するといった例が見られます。
問題は、そのことが居住性の低下やグレード感の低さに、すなわちマンションの質の低下につながってしまうことにあります。
初めから「ユニクロ的なマンション」と承知して買うのか、高級ブランドのはずが中身はユニクロだったと後で知って落胆するか――ここも問題かもしれませんね。
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