仕様は建設会社が変わると違うという勘違い

ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

「駒沢の〇〇を見て、〇〇マンションは噂より随分安っぽいと感じましたが、次に見た荻窪の〇〇は感動しました。施工会社が変わるとこうも違うんですね」とこのような感想を掲示板で見つけました。

これは、マンションの設計や施工はゼネコンが決めるとの思い込みによるものです。そう思っている人は多いのでしょうか? 今日は、マンションの開発と建設にかかる仕組みについてお話ししたいと思います。

●マンションが出来上がるまでの流れ

マンション開発という事業は、多額の費用と時間がかかるリスクの高いビジネスです。建てさえすれば何でも売れる時代が過ぎ去り、マンション業者は売れ残って在庫を抱え込む危険と背中合わせの中でビジネスを続けています。

土地を取得してからマンション建設、販売して資金を回収するまでの流れは、おおまかに書くと次のようになります。

土地の購入➔建物の設計➔開発・建築の許認可➔建築工事➔販売➔建物完成➔購入者に引き渡し➔同時に代金回収➔事業終了

この流れに沿って、各項目を少し詳しく見て行きましょう。

●用地取得

マンション分譲は、土地がなければ成り立たないビジネスです。
2008年に起きたリーマンブラザーズ事件がきっかけとなり、金融危機、世界同時不況に見舞われました。その影響でマンション・不動産業者が大量に経営破綻した結果、新築マンションの供給戸数も大幅に減りました。

しかし、それでもマンション建設に向く土地の争奪戦は激烈で、大手といえども良い土地がなかなか入手できず、仕方なく条件の良くないものまで手を出してしまうという実態があるようです。

駅に近い、環境が良い、形が良く設計がしやすい、まとまった戸数ができる、といった条件の良い土地は滅多に手に入りません。年間の売り上げ・利益計画を達成するためには、難のある土地も仕入れて加工し、商品として仕上げて行く必要があります。

●土地を取得するときの仮の設計と採算性の検討

土地を購入するに当たり、どのような建物ができそうかをシミュレーションし、コストを試算して、市場で通る価格に納まるかどうかを検討します。

建物のシミュレーションとはボリューム計算と呼びますが、建築基準法その他の制約の範囲で考えられる建物ボリューム、すなわち販売面積がどのくらい取れるかを実際に作図して算出します。
言うまでもなく、同じ土地に住戸が50戸しかできないのか、100戸になるのかでは、価格が全く違ってくるからです。
作図は、多くの場合、出入りの設計事務所に依頼します。大手業者の場合は、社内のセクションで作図します。

コスト計算は経験から割り出します。土地代以外の主なコストは建築費ですが、作図して出したボリュームの数値に、坪当たり50万円とか60万円といった単価を乗じて計算します。

この一連の作業で割り出した価格が市場で受け入れられるのかどうか、言い換えると採算が合うかどうかの検討を行います。

同時に、試算した販売価格を相場と照らし合わせながら、商品イメージを構想します。駅からの距離や環境、建物の高さや規模がもたらす競争力といったことを念頭に置きながら、販売可能かどうかを検証していくのです。

●設計事務所の選択

土地を無事に取得できると決まったら、本格的な設計作業に移ります。ここで設計事務所をどこにするかを決めるのですが、ボリューム計算を外部の設計事務所に依頼した場合なら、自動的に本設計も依頼するのが普通です。
というのも、まだ買えるかどうかも分からない段階での設計料は予算措置がないため、買えなかったときは何らの報酬も支払わない。これが業界の慣習だからです。

依頼する設計事務所は、ゼネコンの設計部である場合も少なくありません。その建築工事の施工ゼネコンが最初から決まっているケースです。
通常は出来上がった図面に基づいて複数のゼネコンに見積もりを依頼し、その中から最も安い工事金額を提示したゼネコンに施工を発注するのですが、プロジェクトまたは想定される工事内容によっては、最初から特定のゼネコンの協力を取り付けて進める場合があるからです。
分譲パンフレットの建築概要に、設計・施工とも〇〇建設と記載されているのが、このケースです。

●商品計画・建物のプランニング

設計を依頼するに当たって、事業者(マンションデベロッパー)は開発・建設(商品計画)の構想を設計者に伝える必要があります。マンションを開発・建設し、商品として販売して収益を上げるのは事業者・売主です。販売リスクは事業者が負うのです。従って、商品計画はあくまでも売主主導で進めるのが当然です。

デベロッパーの企画・プロジェクト担当責任者は、この地にどのようなマンションを建てれば販売可能かを用地取得のときから考え始めています。

駅から遠いから、安さを打ち出すべきだから、シンプルな構造にしようとか、敷地の大きさを活かして大小の植栽を豊富に配し、入居者専用の大きな公園や散策路を設け、環境の良さを売りにしよう、あるいは、駅前の利便性は売りになるが、喧騒の短所もあり、規模も小さいので、ここは単身者狙いのコンパクトマンションで行こうなどと構想します。

それを設計事務所に伝えて、具現化を依頼するのです。

「場所は都心の一等地だから高所得者が販売ターゲットになる、従って設備や仕様はハイグレードなものに。エントランスと、続くロビーなどは豪華な感じに」や「子育て世代のヤングファミリーがターゲットだから、価格を抑えることが優先する。従って、一定のグレードは守りつつ広くて開放的な間取りがコンセプトだ。例えばこんなプランが代表的」といった具合に担当者の考えるイメージを設計士に伝えます。

設計士(1級建築士の建築デザイナー)は、その構想に従って細部を図面に表現する作業にかかります。

設計士が構想に沿って作図した1次プランをデベロッパーの企画担当者に持って行くと、「そうじゃない。ここはこんなふうに変えて欲しい。駐車場はもっと増やせないか。向きの悪い住戸の魅力づけとしてワイドスパンにできないか。敷地境界から、もっと距離を取ることができないか。エントランスに車寄せを設けるのは無理か」などと、要望が出されます。

このやりとりは、何回も行われます。
最後の方は間取りプランの細部になるのが普通で、「この部屋はクローゼットをもう少し縮めて何とか5帖大をキープしてください。キッチンからダイレクトに洗面所に行ける動線を確保でkませんか。バルコニーの物干し金具の位置はリビングルーム正面ではなく、右へずらしてください。玄関が狭いので、洋室面積を削って、あと10cm広げよう」などと話し合いながら、きめ細かく詰めて図面を完成させて行くのです。

●工事費とゼネコンの選択

設計図が完成すると、建築許可を得る段階に移行します。同時に建築費の見積もりをゼネコンに依頼します。

最初からゼネコンが決まっている、つまり競争入札でないケースでは、そのゼネコンと発注者であるデベロッパーとの間で工事費の金額がおおよそ約束されているものです。とはいえ、あくまで構想段階のラフな図面での粗見積もりの金額を提示したに過ぎませんから、ゼネコン側では本当に赤字を出さずに工事を請け負えるかの検証を必要とします。

従って、競争であろうと特命工事であろうと工事金額が出されます。そして、競争見積もりの場合は原則的に最も安い金額を提示して来たゼネコンに発注します。
とはいえ、予算の中にすっぽり収まる金額を提示することは稀で、ほとんどが予算を超えた金額になるのです。そこで、最後はネゴシエーションです。これは、特命工事の場合も同じです。

ネゴの過程では、どうしても予算内に納まらないということもしばしば起こります。そこで、やむなく売主は決断します。「仕方ない。ディスポーザーは諦めよう。これで5000万円カットだ」。また、「バルコニーのスロップシンクも止めよう。これで給水工事と排水工事がなくなるから1000万円浮くね」などと、当初のプランの一部を断念します。

ときには、見えない部分の仕様、例えば給排水管を高級品から普及品に落とすというようなことも決断します。また、当初は標準装備のつもりだった「食器洗い乾燥機」や「エアコン」を顧客の優良オプション制に変更したりもします。

このようにして、工事費が決まると同時に最終的な設備の採用や使用部材のグレードが決まるのです。

***************************

お分かりいただけたでしょうか? 要するにマンションの設計、設備や仕様の決定はすべてマンションメーカー(デベロッパ―)が主導しているのです。ゼネコンや設計事務所は、あくまで注文者の意向を汲んで建物を実現させる請負の立場なのですね。

プランもコストも決まったら、あとは着工と販売を待つのみとなります。

着工に当たっては、近隣住民の了解を取り付ける作業が必須です。販売に当たっては、ライバル物件の動向も考慮しながらタイミングを測ることや、最終的な分譲価格の決定という一大関門を乗り越えなければなりません。この部分は別の機会にしたいと思います。

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://mituikenta.web.fc2.com)までお気軽にどうぞ。

★三井健太のマンション相談室は、分譲マンションの全てが分かるサイトです。

★新築も中古も物件検索はこちらが便利➔http://mituikenta.web.fc2.com/index2.html

<<<追伸>>>
「三井健太のマンション相談室」では、マンションの基礎知識を分かりやすく解説した「WEB講座」を公開しています。「地震関連の講座」、「マンションの遮音性」、「新築と中古マンションの対比」、「値上がりするマンションの選び方」など全部で現在70講座あり。お好きな講座・興味ある講座のみを拾い読みすることが可能です。是非ご利用ください。
最近の講座は、NO.68「マンションの杭工事と液状化対策」NO.69「リノベーションとリフォーム」NO.70「マンションの設計・施工の信頼性」です。講座のコンテンツ一覧はこちら→http://mituikenta.web.fc2.com/kouza-index.html