「価格未定」が多い新築マンションの不透明販売
- 2013.03.30
- マンションの売主
ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
お気づきでしょうか?新築マンションの価格の分かりづらさを。
予告広告では、価格を未定とするのが常識です。ついでに、販売戸数も未定となっています。
最低価格と最高価格の「価格帯」を「〇〇万円台」と明示してあっても、住戸ごとの価格表は正式決定ではないからと、見学者にコピーさえ渡さない。これも業界の慣習のようになっています。
数字の入っていない表を渡され、手書きしてお持ち帰りくださいと言うのです。
価格を決めないままの販売活動がしばらく続き、やがて「登録」という名の購入希望者の申込を受け付けるというスケジュールに至りますが、その寸前まで正式の価格は公表しないのです。しかも、第〇期〇次受付といった「期分け販売」が一般化し、公表する価格も僅かの戸数のみ。
このような販売手法には、どのような狙いがあるのでしょうか? 今日は、マンション業者の広告・販売戦略の一部を解剖してみようと思います。
●買い手が最も知りたいのは価格
どんなに素晴らしい物件でも、予算をはるかに超えていたら購入することは難しくなります。広告で肝腎の価格が分からなければ、知りたい人は資料請求をするか、モデルルームを訪問して知ろうと動きます。これがレスポンス(反響)ということです。
一定の商品情報を流さなければ買い手に魅力を感じてもらえませんから、売主は広告で誇張気味の商品特性をアピールします。欠点は伏せ、利点・長所のみを幾分デフォルメしながら広告するのです。
買い手は、売り手の策略に乗り、関心・興味を持ちます。しかし、肝腎の価格が出ていません。
そこで、「場所は最高だね。価格もきっと高いのだろうね」や「価格は高そうだが予算的に届くかな?どうなんだろう」などと、関心を持った買い手の多くが、期待しつつ業者にコンタクトを取ります。
●レスポンス客の分析をしたい業者
マンション販売において成否のカギを握るのは価格です。高く売りたい業者、安く買いたい客。
不動産は唯一無二の商品でもあるだけに、高いのか安いのかが判断しにくいものです。そこで、類似のマンション、近隣のマンションと比べながら妥当な価格、適正な価格を買い手は探ろうとします。
高く売りたい業者と述べましたが、暴利を取ろうとしているわけではありません。土地代+建築費+適正利益が売値となるのですが、業者の適正利益とは経営の継続に必要な利益という意味でもあるのです。
計画段階で立てた適正利益が実現できるかどうかは、買い手に商品が支持されるかどうかにかかって来ます。
短所もあるのが普通で、それでも価格が安いからという理由で買ってくれる人がいます。あるいは、近隣物件に比べて高いのは明白であっても、場所がいいからここに決めたという人など、例示すればキリがないですが、理由の如何に関わらず、支持者が現われます。
この顧客動向を見ながら、一定期間内に完売できそうかどうかを早く知りたいのが売主です。
見通しを立てるには、顧客分析が必須です。それには先ず多数のレスパンスを取らなければなりません。
●条件の悪い住戸を売れ残したくない業者
モデルルームの来訪者との商談の中で、「この客は暫定(予定)価格の〇階〇タイプなら買ってくれそうだ」と分かります。
しかし、その数は何割かの住戸に留まります。予告広告で動員できる数は限られるからです。数が少なければ顧客分析どころではありません。
そこで、広告の量を増やし様子を見ます。それでもレスポンスが大して増えないときは、価格の最低を決めて「3LDKが〇〇万円から」と広告します。もちろん、条件の悪い住戸を最も安い価格に設定するのです。
どのように条件が悪いかは広告上で明らかにしませんから、安さに魅かれて来場者が増えます。その結果、条件の良くない住戸と知っても、買い手にメドを立てることができるかもしれません。
●完売までの道筋が見えないとき
しかし、一番売りたい住戸は、条件の良い住戸でも条件の悪い住戸でもないのです。平均的な住戸、中間の住戸を売りたいのです。
100戸のマンションを売るには、少なくとも500家族以上、普通は1000家族のモデルルーム来場レスポンスが必要です。その数を短期間に集めることができれば成功は間違いないのですが、そうは問屋がおろしてくれません。
顧客が少なければ、少ない中から成約に結び付けようと販売担当者(売主)は考えます。その場合、値引き作戦が安直で最も効果が高いのです。
しかし、一旦正式決定した価格、いわば公示価格を簡単に値引きして売ることには問題があります。先行契約者の反感を買うからです。
公表した価格から値引き販売したことが分かれば、定価で購入した買い手から不当廉売だとして告訴された事例も過去に何度もあったからです。判決はいずれも業者の勝訴でしたが、企業イメージに傷が付きました。
今日、値引き販売は普通のことと言われますが、それでも好ましいことではないのです。まして、竣工してから半年、1年経過した時点で売れ残っているのでないとすれば、値引き販売は業者にとっても、経営上あってはならないのです。
しかし、何年も時間をかけて完売に漕ぎつけるというわけには行きません。できるだけ早く完売したい業者は、序盤から価格を動かしたいのがホンネなのです。
●価格を動かすには見せないに限る
ここまでの説明で、レスポンスを取り、顧客分析をしながら売れそうな価格を探る「リサーチ」と成約率を上げる「値引き作戦」が短期完売に必要ということが、おぼろげに分かっていただけたと思います。
そのためには、公示(公表)価格を最小限の戸数にしておくことが重要になります。先行契約者も定価が分からない以上、文句を言いにくいはずです。
実は、売りにくい住戸は極端に安くして「目玉商品」とし、ルーフテラス付きの角住戸など好条件の住戸は思いきって高く設定し、全体の利益を確保したいという狙いもあるのです。つまり、値引きで損する分を、他で取り戻そうというわけです。
予定価格とはいえ、一旦提示した価格を上げるのは、検討中の顧客の心理を考えると無理があります。まして、広告に明示してしまうと上げることは法的にも不可能なのです。
そこで、幅を持たせるか、少し高めの数字を告知するのです。
これらの戦術は、価格を見せているようで見せない、見せても一部分に留めるという手法です。業界で半ば共通化した「不透明」な広告・販売手法と言えるかもしれません。
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