長谷工とデベロッパーの蜜月は続く?

今日は作り手側の仕入れ事情に迫ってみることにしました。

というのも、この3年ほどの新築マンションの供給事情を俯瞰すると、施工会社である長谷工コーポレーションから土地情報が持ち込まれて事業化に踏み切ったと思われる物件と、その相手のデベロッパーが随分増えたと思うからです。

建築費の高騰のために、結果的に建築費の安い長谷工コーポレーションに発注するケースが増えたという背景があるのは確かですが、もうひとつの理由は同社の土地持ち込み攻勢が強まっているからではないか。そんな気がするのです。

●マンション用地はデベロッパーの生命線

マンション事業は、どんなに良い設計のアイディアがあっても、有能な建築デザイナーをかかえていても具現化するキャンパス、すなわち土地がなければ絵に描いた餅に過ぎません。

大手デベロッパーは、資金力と情報収集力に物を言わせて条件の良い土地を取得します。条件の良い土地とは、面積の大きな土地、利便性の高い土地を言います。

また、大きくはないものの、滅多に出ない高級邸宅地の中の億ション・スーパー億ションが似合う土地も大手ならではの仕入れ能力と言えます。

中小デベロッパーには真似のできない芸当なのです。

マンション事業が成功するかどうかは、土地の条件で80%は決まるとされます。どこにどんな土地を取得したかで先が見えてしまうとも言われています。

マンションデベロッパーにとって、生きるも死ぬも土地次第というわけです。

マンションを建てられる規模の広い土地は、便利な場所ほど少ないものです。鉄道が走り、駅ができると、駅の周囲から土地は開発されて店舗や住宅が立ち並びます。駅から遠い所から開発して駅前を空けておくという都市計画はまずありません。

駅前に公園や大規模スポーツ施設を配置する例はありますが、基本形は生活インフラを駅前に、その外に住宅を建てる。少なくとも過去はこの形でした。

戦後70年以上を経過し、焼け野原だった東京も空地はもはや見当たりません。

しかし、逆に70年を経過したからこそ、再建築という動きが増えたということになります。
古いビルを建て替えるか売却かで悩んだ所有者は、生業の後継ぎがいないなどの理由から売却を決断。企業は資産配分を換えるなど、リストラの一環として古い社宅や倉庫を売却。

都心から少し離れた世田谷区や杉並区、都下では、大手企業が所有していたグラウンドを手放すことを決定。同様に、住宅街に敷地面積で500坪もある邸宅を構えていた個人が相続税対策のために売却。

私学が都心の土地の一部を売却して郊外にキャンパスを移転。湾岸エリアでは倉庫や工場が、アジアへの移転に伴い不要になったので売却を決定。

このような土地所有者の事情からマンションメーカーに売り渡され、新しいマンションが建設されるのです。

稀な例では、団地の建て替えや商店街をまとめて再開発。こうした事例もありますが、これも戦後の歴史の長さゆえです。

 ●「土地がない」の嘆きはデベの常なる悩み

筆者がマンションメーカーの社員だった昔も、そして今も首都圏でマンション適地を取得するのは大変な仕事です。

デベロッパーによって差は当然あるのですが、1か月に数百件の売地情報が持ち込まれ、その中の5%か10%を選んで現地検分、その中の半分以下を購入の意思有りと持ち込んだ先(多くは仲介業者・銀行の不動産部門)へ返答。その中で実際に契約へ至るのはさらに半分以下となります。

「千三つ」と揶揄される低い確率で、やっとマンション用地は取得できるのです。

用地担当者は淡々と仕事をこなすのですが、本音は担当者自身も、また上司も社長も、土地がない、土地がないと嘆いています。

と言いながら、首都圏全体では、年間に100カ所前後のマンション開発を続けて来たのも事実です。 過去最高は年間に9万戸もの新規分譲を行ないました。その土地は、その2年か3年前に取得したものです。

その頃は、バブル後の企業改革(会計基準の変更が影響を与えたと言われる)がもたらした資産売却がマンション業者の用地取得を盛んにしましたが、それは用地取得の歴史的な取得合戦でもあったのです。

2000年代初頭のことでした。しかし、歴史的な合戦は短期間で沈静化しました。企業が売却する土地はなくなったのです。もちろん、今も出て来ますが、一大ブームは終わったということでしょう。

その結果、たまに出て来る土地は熾烈な争奪戦となってしまいます。マンション業者にとって用地は生命線なので、競争の果てに高値取得とならざるを得ません。

最近3年間にマンション価格は20%も上昇しましたが、その主因は建築費の高騰にあると分析されていますが、都心や準都心では土地代の値上がりもあったことは想像に難くありません。

●郊外都市や工場地帯の土地は長谷工の独壇場か?

用地不足は取得価格の上昇をもたらすと述べましたが、都心・準都心、あるいは郊外の人気駅周辺は、先に述べたように今も売地はあるというものの多くはありません。

人気の駅・街ばかり狙っても、年間の売り上げ目標に届かないので、やむを得ず人気度では低い次の街を探します。それでも足りないので、郊外都市や環境に懸念がある工場跡地なども検討します。

そこで登場するのが長谷工コーポレーションです。同社は、同業のゼネコンと一線を画す強みを持っていると言います。それは、圧倒的な人員を擁する用地取得部隊にあります。

ゼネコン業界は、常に価格競争にさらされて来ました。競り合うために儲からないのです。それが根底にあるので「談合」が常態化したのです。

とまれ、特に繊細さが要求されるマンションは薄利と言われます。そんな業界事情の中で生き残る策として長谷工コーポレーション(旧、長谷川工務店)は、「土地も探しますので、施工も特命発注でお願いしたい」という作戦を編み出しました。

そのとき、「施工費も高くありませんから」とアピールしました。

これは大きなアドバンテージでした。昭和40年代の後半から規格型マンションなら安く建てられることをセールスポイントに、同社は独自路線を歩んで来たのです。

一時期、「安かろう・悪かろう」の評判が立って、経営的にも窮地に立ったのですが、今では長年の経験が「安いが悪くもない」マンションを建てる設計と施工技術、設備機器の調達力等、同業他社が追いつけない力を備えるに至っています。

他社が設計した建物を単純に請け負う形では同社の利点が発揮できないので、基本は設計も施工もセットという条件が付くものの、マンション業者は同社を有り難い存在と受け止めているようです。

特に、販売価格が高くなっても、高額所得者層を集めて販売可能な都心・準都心と違い、郊外や工場跡地などでは、販売価格を一定線に抑えなければなりません。そのためには建築コストを切り詰めるほかないので、土地込み、予定販売価格の企画込みの長谷工案件はマンションデベロッパーにとって何より有り難い存在となっています。

土地は長谷工コーポレーションがデベロッパーに持ち込んだ案件と推測できる、そんなマンションが今日も首都圏で多数販売されています。いつもの同社の流儀で、「長谷工の設計による規格型の建物であれば施工費を安くできるから、土地代が多少高くても販売価格はこのくらいで行けるのでどうか」とアプローチしたのでしょう。

長谷工の提案に乗り土地取得に成功したデベロッパーは、工事業者を決めるときに予算オーバーばかりで、その後のネゴシエーションに苦労して来た経験から、提案と大きな差がない金額で施工してくれる長谷工のかかわりは頼もしい存在に映るのでしょう。

最近は同社と関係のないデベロッパーを探すのが難しいほどです。少し前は特定の数社だけでしたが、今は大手の野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産、、東急不動産をはじめ、大和ハウス、積水ハウス、大成有楽不動産、新日鉄興和不動産などが名を連ねています。

いかに土地が買いにくい状況にあるかを示す事実だと言えますし、同時に建築費高騰が生んだ長谷工への秋波の実態と言えましょうか?

長谷工との蜜月はいつまで続くのでしょう。

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