マンションの完成時期と金利上昇のリスク

ブログテーマ:業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

新築も中古もマンション販売が好調です。販売好調の要因には、価格と金利の先高感(観)があると説明されることが多いようです。
ところが、個別に見て行くと、新築物件の中には竣工まで1年以上、長いものでは2年近くも先のものが見られますから、そのような先物を買う人は金利の上昇を気にしていないのだろうか?そんな単純な疑問を感じます。

ご相談者の何人かに尋ねてみました。「そうなんですよね」と、一様に心配であることを吐露するのです。それでも先物を買って行くのです。その人たちの心理が測りにくいと感じます。

今日は、住宅ローン金利の先行きについて考えてみます。

盲目になりがちな販売現場

マンションを購入する人の80%以上は、住宅ローンを利用しています。その買い手は、気に入ったマンションであれば商談が進む過程で「資金計算」と称する、返済額の計算を受ける場面に遭遇します。

毎月の返済額と管理費等との合計支出額や、融資を受けるために必要な年収の最低額などがパソコンで瞬時に計算されます。

その金額を見て、多くの買い手が「これなら買えそうだ」と感じ、マイホームが手に入る喜びで気分を高揚させます。

そこから再び品定めの楽しさを繰り返します。つまり、資金計算は暫定的に部屋を仮決めして予算を把握する作業だったからです。どの階がいいか、どの向きがいいかなど、価格表を横目にしながら、より良い間取り・住戸を探すのです。

少し高いがやっぱり角部屋がいいか、無理をせずに計算してもらった程度の価格の部屋が順当なところかなどと思い悩みながらも、何分か前に見たモデルルームでの感動に浸ります。

こうした状態にあるときは、金利が上がったら返済額は変わるのだということを忘れてしまっていると考えられます。また、この場面では、売り手(営業マン)も購買意欲の盛り上がりに水を差すようなことは決して発言しないものです。

実は、資金計算の際に、「変動金利」か「固定金利」かの選択の場面があったはずなのです。
「金利が上がるという話も聞くので、固定金利のローンの方が今は安全ですよねえ」などと聞いたりしています。

その結果、資金計画書は、金利の低い「変動型ローン」と、少し高くなる「固定型ローン」の2枚が作成されたりするのです。

このような経緯があっても、時間が経つに連れて、例えば、固定型を選択した人は「固定は安全だ。固定だから金利が上昇しても心配ない」との意識が脳裏に埋め込まれてしまうため、ローンを組む(融資を受ける)前の金利上昇には無防備になってしまうのです。

営業マンの「固定なら35年間ずっと変わりませんから心配はありません」の声が一段とそこを強化します。

こうして、関心はローン以外のところへ向かってしまい、すっかり金利変動リスクが忘却の彼方へ消えて行くのです。

住宅ローンの金利というのは、あくまで融資実行時点の金利が適用されるので、マンションの工事完成が1年先のような現場での資金計算書の数字とは異なるのです。勿論、その数字は上がることもあれば、下がることもあるということになります。

融資実行後の金利上昇だけが話題の中心

変動型ローンを一度でも検討した人は、その金利の低さ、返済負担の小ささに少し驚き、自分の購買力の大きさに自信を持ったりするようです。

固定型ローンの返済額との比較もして、リスクはあるがこれだけ安いなら変動型を選ぶ方が得策だなどと、自分の判断を支持するのでしょう。

こもとき、変動金利がこの固定型と同じになったら、こんなに返済額が増えてしまうのかという見方はしないのです。
変動型と固定型の両方を試算してほしいというオーダー自体が少ないとも聞きます。せいぜい、固定期間選択型のローンの中から、3年固定と10年固定の比較をしてみる程度だと言います。

変動型はリスクはあるが、半年に一度の見直しだというし、明日急に上がるというようなものでもないから、まあその間に借り換えとか、いよいよとなったら売却とかを考えればいいと軽く考えてしまう人もあるようです。
何より、過去10年以上も歴史的低金利が続いていますから、とんでもない大きな上昇はないだろうと金利推移を表したグラフを前に、営業マンも高をくくっていて、それに近い発言をしてしまうのです。

以上のような会話は、あくまで融資実行後の金利についてです。契約後から引き渡し時期(融資実行時)までの間に金利が上がるリスクに関しては殆んど触れられないのです。そこを話題にすればするほど、顧客の購買意欲が後退する危険を営業マンたちは恐れるからです。できたら、その問題はスルーしてくれと強く願っているものです。

金利上昇の実感が乏しいからか

金利が上昇すれば返済負担が増えるということは、買い手の誰もが知っていることです。商談の中で具体的な数字も見たはずです。

それにも関わらず、多くの人たちが金利の先高観(感)を持ちながら竣工が1年半も先の物件を購入しています。

これはいったいどういうことでしょうか?怖くないのでしょうか?上がるかもしれないが2%も3%もアップすることはないだろうと高をくくっているのでしょうか? 少しくらいなら許容するしかないと覚悟を決めているのでしょうか? 「予想を超えて上がったら、そのときはそのときだ」と大らかな気持ち、または余裕がある高所得者だからなのでしょうか?

おそらく、答えは「現行金利が上がっても、融資実行金利とさほど大きく変わることはない」、そうと信じているということではないかと考えます。あと半年や1年の間に大きな金利上昇はなかろうと考えている節があるのです。

しかし、1年後に1%くらい上がる可能性は絶対ないと言い切れるものでもないのですが、それを商談時点で実感せよと言っても土台無理な話なのかもしれません。

ローン金利の1年先を読む

さて、今後住宅ローン金利はどのように動くと見るべきでしょうか?向こう1年くらいを展望してみましょう。

と書いたものの、この予想は専門家でも外すほど難しいのです。円安と景気回復が物価高につながり、金利は高くなると予想する人より、日銀の異次元と言われる大胆な金融緩和策が続くので、しばらく上昇の心配はないという見方の方が強いようです。

来年度(2014年4月)には消費税が8%に上昇、来年10月には更に2%上昇することで物価上昇が間違いなくやって来ます。それが金利の上昇につながる心配はないのか?
日本国債の発行残高は先進国の中で群を抜く規模なのに、その信認は揺るがない。従って国債が暴落する危険は少ない。国債の価格が下がらなければ金利は上がらない。しかし、その構図が果たしていつまで続くのか?
安倍政権が打ち出した成長戦略が国際的にも歓迎され、日本経済は復活するという見方が増えているが、それを支えているのが日銀による金融緩和であり、資金は市場にあふれている。
一方、賃金が上がって消費が増えるが、円安で物価は上がる。景気回復は物価上昇を伴いそうだ。物価の番人たる日銀は、そこを見て金融引き締めに転換するのではないか?いやいや、まだそこまでは行かないよ。景気回復の軌道に完全に乗るのは、1年以上も先だろう。

このようなことを、あれこれ自問自答し、考えれば考えるほど将来予測は困難の度を深め、私ごとき素人には混沌とするだけの難しいテーマとなります。もっとも、高名なエコノミストでも完璧に予測できる人はいませんが。

ともあれ、政策が大きく反対方向に舵を切る可能性は、少なくとも向こう1年くらい、どうもなさそうに思います。従って、金利も大きく変わる(上昇する)ことはないと見て間違いないかもしれません。

そもそも将来を予測することは大変むずかしいことです。世界のどこかで予想もできない事件が金融の激変を引き起こす可能性はいつもあるのです。浅学菲才の当職には金利の見通しを的確に予想するなど、大それた課題です。

結局、金利の1年先を予想する確証はないのです。1年先を心配し、慎重に考えたい人は竣工間近な物件を選択するほかないと思います。もしくは、金利上昇が家計を圧迫するようなときは、頭金を追加する計画を持っておくこと、若しくは最初から余裕のある借入額にしておくこと。対策は、これしかありません。

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~目次(抜粋)~
1章 マンション業界の概括/
・・・5.デベの力量 /10.模倣で成り立つマンション業界
第2章 マンションの歴史と分譲会社の栄枯盛衰/
・・・1.構造転換を迫った大事件/2.撤退企業と生き残った企業/撤退企業の犯した過ち/3.国策に後押しされたマンション業界 /4.繰り返したマンションブーム
第3章 現代のマンション事情/
・・・新しモノ好きの日本人/ワケあり物件に注意/3.リノベーション住宅/4.単身者とコンパクトマンション /5.永住できないマンション/高い修繕積立金/人の寿命より家の寿命が短い/8.「値上がりしないマンション」を購入する場合の覚悟/
第4章 マンション業界の裏側/
・・・2.青田売りと完成売りの真実/モデルルームの魔力/完成済みマンションの舞台裏/6.ゼネコンが売主だから安いはウソ/7.安かろう悪かろうに注意/ 10.不動産屋の話はウソばかり ?/13.値引き販売の真実

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