あなたが自宅売却の営業マンになるとき
- 2014.02.05
- 中古マンション
ブログテーマ:業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
我が家を売るときがやがて到来します。永住するつもりの人は別ですが、人生90年時代がそこまで来ている日本では、現在の年齢から見て、あと50年は生きるであろうと想像するなら、同じ家に住み続けることは難しいと考えるのが自然だからです。
転勤の可能性がある会社員でなくとも、そう考えておかしくはありません。
転居のときに自宅をどう処分するかですが、売却もあれば賃貸して保有し続ける人もあることでしょう。
本稿では、売却する場合のことを想定し、いかに上手に売るか、すなわち少しでも高く売るかというテーマで書きました。
昨年8月20日の記事を一部流用(復習)しながら、まとめてみました。
●中古マンションの売りにくさ
中古マンションは新築に比べると、恒常的に在庫が溢れています。つまり、売り出し戸数の割に成約戸数の割合が低いのです。
東日本不動産流通機構の統計によれば、2012年の中古マンションの新規登録件数は181,682件もありますが、成約件数は31,397件、成約率は17.3%に過ぎません。
一方、新築マンションは不動産経済研究所のデータで、2012年1年間の新規発売戸数が45,602戸、前年末在庫と合わせると51,768戸が市場に出ました。当年末の在庫は5,347戸でしたから、1年間に46,421戸が売れたことになります。成約率はなんと89.7%に達するのです。
絶対数でも中古マンションの成約件数は少ないですが、成約率の低さが特に目立ちます。
●中古マンションは不安心理が先立つ
優良な中古マンションは、市場に出るか出ないうちに買い手がついてしまうと言われます。しかし、これは例外です。先のデータは、中古マンションは売れ足が鈍いことを意味しています。
その原因は、売り方の差(※)にもありますが、最も大きな原因は建物への不安が払拭しきれないことにあります。・・・・・・・・・※新築マンションは、大々的な広告宣伝と華やかな商品展示(モデルルーム等の演出)によって顧客動員を測ります。特定マンション1件(戸数は多数)のためにスタッフを大量配置するなど、専従態勢を敷きます。その結果、短期間に100戸、200戸と販売が進むのです
・・・・・・・・これに対し、中古マンションは物件個別の宣伝など殆んど行ないません。
販売担当者も1物件を専属的に売ろうとはしません。より売りやすいものへと意識も行動も移って行くため、並みの物件は中々売れません。わずか1戸が3か月たっても売れないのは、平時なら普通のことでもあるのです。
新築マンションの販売現場では、あらゆる角度から買い手の不安を払拭する準備・営業努力が傾倒されます。そうする理由は簡単です。自社商品だからです。売れなければ経営を危うくしかねないからです。
耐震性や耐久性などの基本構造をはじめ、建物の性能に関する説明を丁寧に行ないます。床下や壁の内部など見えない部分については、断面模型などを使ってアピールします。
ガラスの断熱性や防音サッシの性能は、メーカーから借りて来た模型などを使って体感できるようにしています。
免震構造の効果をアピールするために、一般の耐震構造との差を模型の揺れで実演しています。
これらのデモンストレーションは、モデルルームを見学した経験をお持ちの読者ならお分かりいただけるはずです。
全て買い手に「安心感」や「納得感」を与えたい意図から用意された仕掛けです。
これに対して、中古マンションは実物を目視するしかなく、建物内部がどうなっているかなど全く分かりません。
工事中の新築マンションを買うのと違って、実際の景色や日当たり、管理状態を確かめることができるという、一面のメリットがあるのは確かですが、それだけでは安心できないのでしょう。
また、新築マンションでは最長10年のアフターサービスと定期的な点検なども行なわれますが、中古はアフターサービス期間内でも分譲主からの保証を受けることができないのです。瑕疵担保についても同様です。対象者は、あくまで分譲時の買い手に限られるからです。
自分が購入した後に、これまでに表面化しなかった欠陥が出てきたらいやだなと思っても、対策はありません。
「現状有姿(げんじょうゆうし)」という、買い手の見たままの実物取引が中古売買の常識なのです。見えない部分に関して売主は全く関知しないというわけです。
引き渡し後3か月以内なら、修理や交換に応じるという瑕疵担保責任を明記する売買契約もありますが、その範囲はコンロや給湯設備に限るのです。
これでは不安を拭いきれないのも道理です。
●中古マンションを購入するときの拠り所は?
では、中古マンションを買った人たちは、どこに安心の拠り所を求めたのでしょうか?あるいは、どのような考え方をして決断に至ったのでしょうか?
これは個人差のあることで、また調査データのようなものも発見できず、分かりにくいテーマですが、例示してみましょう。
①大手マンションメーカーの分譲したマンションだから大丈夫だろう
②大手ゼネコンが施工したマンションだから大丈夫だろう
③先の大地震でも特に修復が必要な箇所はなかったと説明を受けた
④内見中、室内はとても静かだった。遮音性も悪くはないのだろう
⑤清掃が行き届いており、管理状態も良さそうだ
⑥管理人さんの目が光っているし、オートロックなのでセキュリティも良さそうだ
⑦管理費等の滞納者がゼロと説明を受けた
⑧売る人が少ないというから、きっと良いマンションなのだろう
大体こんなふうに考えて自身を納得させたのだと思います。
ここで気付くことがあります。売主と施工会社が大手というくだりです。逆に言えば、大手の物件以外は不安が解消できないことになります。
ところが、気に入って買いたい欲望が強まると、マイナス思考よりプラス思考というか、楽観的というか、そのような心理状態になるようで、
⑨疑ったらキリがない。まあ大丈夫だろう
⑩住んでみて不具合があったら売ればいいさ
などと自分に言い聞かせて不安を打ち消すのです。
●中古マンションを検討するときのスタンスは?
中古マンションを買おうかというとき、買い手には、内覧の際の観察ポイント、見えない部分の指摘事項、調査方法など、一定の予備知識が必須です。
しかし、それでも十分に納得できる回答を得られない可能性が高いのです。
2000年から始まった「住宅性能表示制度」によって、建物品質に関する客観的指標が新築マンションの物件ごとに提示されるようになりました。最近は80%くらいまで普及して来たようです。
今後は、中古マンションの紹介の中にこれが増えて来ます。また、仲介業者が一定範囲で品質保証を行う例も出てきました。しかし、いずれも、緒に着いたばかりです。
中古マンションを購入するときは、買い手自身の目利きや知識が鍵を握りそうです。
●商品が持つ説得力と仲介営業マンの説得
ここまで述べたことは全て前置きのようなものです。いかに中古マンションが売りづらいものであるかをご理解いただくためでした。
お見合い結婚のように、一目惚れの幸運に出くわせれば結構ですが、そうは問屋が卸さないことが多いと覚悟しておくべきなのです。
ともあれ、中古マンション・自宅の売却は、一目惚れしてくれる買い手をじっと耐えて待つか、腕のいい仲介営業マンに頼るしかないのでしょうか?
商品は展示しておけば足りるというふうに、自慢の我が家なら結構ですが、客観的に見て高い価値を持つ我が家であるとしても、より高く売りたいと考えるのが普通ですし、そのためには座して結果を待つのは芸がないと思うのです。
では、営業マンに個人的に特別ボーナスでも約束する(昔そんな手法があった)などして、よくよく頼みますか?
中には、外交辞令ではなく実際に誠実な活動を行い、買い手を口説く構えを見せる営業マンも存在しますが、結果は当てになりません。理由は既述の通りです。腕のいい営業マンに当たる確率も低いものです。
そこで、所有者・売主が自ら腕のいい営業マンになることを勧めます。といっても、いかにも「営業しています」という姿勢では警戒されて逆効果です。では、どのようにすればいいのでしょうか?
●所有者こそが最高の営業マン
先に見た通り、中古マンションの買手は不安心理が強いものです。そうであれば、先ずはその解消に努めればいいということになります。
見えない部分、例えば耐震性や耐久性などの「構造に関する部分」や「省エネ性能」、一見しただけでは分からない「管理サービス」や「上下階・左右からの音」、「環境」などに関して説明することです。
と言っても、懸命に説明をしたり、聞かれもしないことにペラペラと喋ったりするのは抵抗があるし、売り急いでいるなどと勘繰られて逆効果になるかもしれないと二の足を踏むはずです。実際その通りでしょう。
筆者がお勧めするのは、「資料の整備」という方法です。つまり「販売ツール」を効果的なものにして見学者に見せる(コピーを持ち帰ってもらう)のです。
単に「分譲当時のパンフレットを渡す」では不十分だからです。住宅性能評価書なども、形式を見ると分かりにくくて使えません。
シンプルに、例えばQ&A式の資料を作成し、パンフレットの中から抜粋した資料と合体させて20ページくらいのクリアファイルに納めるというのはどうでしょうか?
手作りの販売資料ですが、タイトルは「新しく所有者になられる方へ」などとしても良いでしょう。
安心して住んでいただけるための資料作りというスタンスですね。キーワードは「不安解消」です。あなたが、買い手であったときのことを思い起こしながら作成するのです。
「何故この家族は売却するのだろう。何か問題があるのは?」と、このような疑念も見学者の多くは持っているものです。そうしたことにも軽く触れるといいかもしれません。
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最後に、今あなたがマンションを将に買おうとしていらっしゃる読者なら、購入時の資料や悩んだ経緯などを書いた記録などを大切に保管しておくことを付言します。5年後か10年後か分かりませんが、売却のときの資料作りにきっと役立つはずです。
可能なら、売主さんに無理を言ってパンフレットは余分に確保しておきましょう。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://mituikenta.web.fc2.com)までお気軽にどうぞ。
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