長谷工マンションが増えている

ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

このブログで「バス便マンション・郊外マンションは長谷工だらけ?」と書いたことがありました。調べてみると、投稿したのは2012年11月25日のことなので、もう2年になるのですが、筆者の予想したような展開になっています。

●好調な長谷工

すなわち、やたら長谷工コーポレーション施工の物件が目立つのです。

違っている点を敢えて挙げると、バス便マンション・郊外マンションに限らないことです。

現在、首都圏の施工中マンションの30%くらいは長谷工コーポレーションによるものではいかと感じるほど多いのです。

日本経済新聞の報道によれば、同社の2015年3月期の営業利益は大手ゼネコン・大成建設や清水建設と肩を並べるのだとか。

長谷工コーポレーションの経営が好調なのは、マンションデベロッパーからの施工依頼が増加し、採算の良い案件に絞って受注できるからです。

何故、同社が引く手あまたになっているのでしょうか? ゼネコン業界は、東北復興関連など工事案件は豊富で、従来から手間がかかり儲けが少ないマンション施工を手控えるところが多いためと分析されています。

長谷工コーポレーションは、元々マンション施工に特化して成長して来た企業であり、日本一の実績と安定した施工能力に定評があるのですが、平たく言えば規格型マンションを大量生産する能力に長けているということです。

建設労働者・技術者の人件費や資材の高騰が問題になっている現在でも、そのコストアップを吸収できる効率の良い案件を選別受注していることが利益率の向上につながっているとされます。

●長谷工は“設計”も請け負う
規格型マンションを大量生産して来たということは、設計も同社が担当しているということを意味します。

ご存知のように、マンションは事業主(マンションデベロッパー)の構想に基づき、依頼を受けた誰かが設計し、その図面をもとにゼネコンが施工するというものです。

マンション設計は、○○設計とか〇〇建築事務所の看板を揚げている一級建築士事務所が担当します。

建築許可が出たら、それをゼネコンに発注するのですが、発注先は通常なら指名入札方式によります。複数のゼネコンを選定し、それぞれの見積書の提出を待って発注先を決定するという流れになります。

ゼネコンも〇〇建設一級建築事務所という名の看板を揚げています。つまり、設計も可能なのです。自ら設計もして工事も受注する体制を整えています。

設計事務所は、一般的に意匠(デザイン)優先的な色が濃い、格好良く言えば芸術性や作品性を重んじる傾向が強いと言われます。

これに対して、ゼネコンの設計部は自社の施工のやりやすさやコストダウンの策を織り込みながら設計します。

長谷工は、コストダウンにおいて長年の経験から日本一と言われる技術力を有すると言われます。しかし、他社が設計した図面では、その長所が生きて来ないのです。設計段階から参画してこそ、同社の強みが発揮されるというわけです。

長谷工が施工を担当する物件は、殆んど全部が設計も担当しているはずです。ご興味のある方はチェックしてみましょう。売主のHPで物件概要のページを開き、「設計・監理・施工;長谷工コーポレーション」と記載されている場合が該当します。

ところで、設計・施工ともに施工会社ということは、競争見積もりによって施工会社が決まるのではなく、設計段階で既に施工も特命発注が内定していることを意味しますが、これはどういうわけでしょうか?

いくつかの理由が考えられますが、代表的なものは用地の紹介(持ち込み)がゼネコンからというケースです。実は長谷工のお得意のパターンなのです。同社は開発用地の探索部隊をマンション開発業者(デベロッパー)以上に充実させていると言われています。

積極的に土地を見つけ、ときには自ら購入してしまいます。そこから開発に参画するデベロッパーを探し土地を転売するか、ときには共同開発を仕掛けるのです。

マンションの売主が複数であるケース、大半が数百戸の大型マンションですが、これは首都圏では珍しくありません。多いケースは5社も6社も共同売主という物件もときどき見かけます。

現在分譲中の物件では、豊洲の「Bayz Tower and Garden(550戸)」が東京建物・三井不動産レジデンシャル・三菱地所レジデンス・東急不動産・住友不動産・野村不動産・東京電力の計7社となっています。このような形態です。

長谷工コーポレーションが売主に加わっている例では、千葉県の「ガーデンゲート千葉ニュータウン中央(468戸)」が名鉄不動産、大栄不動産との3社が売主になっています。このケースは、将に土地を長谷工コーポレーションが取得し、他の2社に参画を呼び掛けたものと推測されます。

●長谷工人気は建築費高騰が背景にある

「設計・監理・施工」ではなく、施工だけ長谷工というパターンはないのでしょうか? 先に述べた通り、例はないに等しいと思います。筆者が寡聞にして知らないだけかもしれませんが気付くことがありません。

ともあれ、長谷工がらみの新築物件が増えている背景には、建築費の高騰があります。

土地を買った。設計も完了した。許認可も降りる見通しが立った。ところが、予算内で請け負ってくれるゼネコンがない。どこも予算の3割も4割も高い。ネゴシエーションもうまく行かない。 売値が当初計画の2割高、3割高になってしまう。これでは売れないだろう。さてどうしたものか。

デベロッパー各社の共通の悩みはこのようなことです。

ところが、長谷工コーポレーションが土地を紹介して来るケースでは、大まかなプランと建築費の概算見積りが付帯して来るのです。つまり、「当社の設計であれば、このコストで請け負います」と半ば条件付きになっているわけです。

細部ではプラン変更の余地やグレードアップによって増額があるとしても、見積りを依頼してみないと分からないというレベルではなく、最初から売り値を見通すことができる事業なのでデベロッパーとしては安心して取り組むことができます。

最近の各社の動きを聞くと、一度設計したプランを長谷工流に変更して施工を長谷工に発注したという例もあるというのです。にわかには信じられないことですが、あり得ない話でもありません。

ともあれ、大手7社(三井、三菱、野村、住友、東急、東建、大京)をはじめとして、中堅クラスも長谷工コーポレーションに発注していない業者を探すのは至難の業です。その事実を見るにつけ、長谷工の人気は高まっていることが分かります。

●問題は建物品質だ

長谷工の人気はコストダウンの技術にあるわけですが、技術だけではありません。大量受注による建物の設備や部品の調達コストも安く抑えられるというメリットが指摘できます。

複雑な造りにすれば当然コストアップになります。 背広にはオーダーメード、イージーオーダー、レディメードの3種類がありますが、2着で3万円のレディメードがある一方、30万円のオーダーメードがあるのと同じで、マンションも手をかければかけるほど、また個性を競えば競うほどコストは上がり、分譲価格も高くなって行くのです。

長谷工の建物は、規格型のマンションにして特別な材料も部品も極力使わないこと、作業工程を減らして時間と手間をかけずに労務費を抑えることなどによってローコストとしていることが特徴です。

その結果出来上がる建物は、高級マンションから遠いものです。目の肥えた人には、安物マンションに見えるかもしれません。

デベロッパーが設計段階で、ここはこうしろと多少のコストをかけてもグレードアップする部分はありますが、全体的には規格型建物の域を出ないものです。

それでも住み心地は特に悪いということはないかもしれません。

あるマンションの広告でこんな文言(コピー)を見つけました。

「洋服のように簡単に替えのきかないのが住まいであろう。貴方の人生を纏う(まとう)住まいだからこそ、選び抜かれた生地で、仕立てにこだわり、着心地がいい、そんな住まいであって欲しい」

長谷工の設計・施工マンションがどのようなものか、それを住み心地の観点で評価するのは、ほかならぬ買い手(住まい手)自身ということになるのでしょう。

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