価格表を渡さない新築マンション。そのわけは?

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

新築マンションのモデルルーム見学に行ったことのある読者の中には、空白の価格表に手書きで価格を書き取って帰った経験をお持ちの方があることと思います。

買い手が最も知りたいのは価格です。しかし、広告にはある段階まで価格が明示されていません。

買い手は資料請求をしますが、中々明らかになりません。そこで、とりあえずモデルルームに行きます。しかし、現地へ行っても、住戸ごとの価格表は正式決定ではないからと、見学者にコピーさえ渡してくれません。

それでも、何とか予定価格を聞き出すことに成功します。その際、担当者は手元資料として価格表をちらつかせます。

まだ、ども部屋にするかまで絞り切れていない買い手は、複数の価格を知りたいと言います。

すると、数字の入っていない表を渡され、手書きしてお持ち帰りくださいと言うのです。これは、今や業界の慣習のようになっています。

価格を提示しておいて、価格表を渡さない。これはどういうわけでしょうか?

価格表を提示できる段階にあるということは、販売価格の全体、すなわち総販売額は社内稟議で決まっているはずです。ただし、住戸別の価格は、顧客の反応を見て調整(変更)をするのが常態化しています。

ルーフテラス付き、専用庭付きといった特殊な住戸、角住戸、眺望の良くない低層階の住戸、眺望の良い最上階、間取りの良くない住戸、「可もなく不可もなし」の中間階の住戸、モデルルームに選んだタイプと同じ住戸といった特色を考えながら10戸か20戸、大規模物件なら30戸か50戸の価格を「予定」と付記した価格表として作成し、それを提示します。

間取り図を見ながら、「このタイプは10階でおいくらですか?」と尋ねる顧客。予定価格表を見ながら「10階でしたら、8階が〇〇万円なので大体〇〇万円くらいの予定ですね」などと答える担当者。

予算を自身で把握している客は、「それじゃあ届かないなあ。では、こちらのタイプの5階あたりは?」と尋ねます。

予算が決まっていない客の場合は、「買えるかしら?」という前段があるので、担当者は「資金計算をしましょう」と予算の把握に努めます。言い換えると、買える客か買えない客かを見定めようとするのです。

その後、「私たちの予算では、このタイプは無理ねえ。この予算で買える部屋はどの辺になりますか?」に転じます。

こうしたやり取りを経て、担当者は客の購買力と希望住戸との隔たりを掴もうとします。

週初めの販売会議にて。

「予算の厳しい顧客が多く、人気は下層階に集中しています」や「上階の高額住戸にも有力な顧客はいます。角住戸も抽選になる勢いを感じます」、「問題は中間階ですねえ」、こうした営業マンたちの声を聞いて、マネージャーは「中間階をもう少し全体的に下げて角部屋とか上階の方を上げるよう修正してくれ」と指示を出します。

こうして、翌日には「新・予定価格表」が担当者の手元に渡ります。

価格を既に聞いていた客の一人は、再びマンションギャラリー(販売事務所)へ出向いたとき、「価格が変更になりました。ご検討の〇〇〇号室は50万円上がってしまいました」と通告されます。

予め「予定価格ですので変更があるかもしれません」と聞いていた客は、幾分がっかりしつつも「しかたないわねえ」としぶしぶ受け入れます。

さて、このような場合、「変更になる場合があります」と表記しておけば、印刷した「予定価格表」を渡してくれても良さそうなものですが、なぜ価格表を渡してくれないのでしょうか?

理由は、売主の言葉をそのまま使うと、「決まってもいない価格表をお渡しするのはお客様の誤解を招きかねない」からです。

客の反応を見ながら住戸の人気度を把握し、売れ残りそうな住戸はより安くし、人気が集中しそうな住戸に安くした分をONして全体の販売価格を減らさないための調整を図るのですが、その変更は1回で済まない場合もあります。

そのたび変更した「予定価格」をプリントして外に出してしまうと、「第〇回変更」と付記しておかないと混乱が生じるかもしれないが、「第〇回変更」もスマートではないので、やはり価格表は正式決定まで一切渡さないことにしよう。このように売主側は社内ルールを定めたのです。

価格を変更するのは、住戸の向きや日当たり、間取り、その他の条件によって異なる価値とそれに見合う価格をマッチさせようという意味があるのですが、うがった見方をすると、「売りにくい住戸は最初からバーゲン価格で行け。その損は人気住戸を高くして全体利益を確保しよう」という販売戦略から来ているのです。

もうひとつ付け加えると、「苦戦中の物件の値引き販売で減った利益をここで稼ぐんだ」と上役から檄を飛ばされた現場は、「価格未定」を発売日の直前まで続け、値上げのチャンスを窺っているということです。

しかも、1期販売で予想を超える好調な結果であったりすると、2期販売ではさらに価格を上方修正、つまり値上げする物件も最近は少なくないのです。

その結果生じる不合理などには、委細構わずに値上げを断行する企業も増えています。例えば、縦1列が同じプラン・面積である場合、10階が3000万円で9階が2950万円、8階2900万円と50万円ピッチの価格が、7階に来たら3100万円になっているといったおかしな価格表ができてしまうのです。

もちろん、7階を3100万円と表示する段階の価格表には、8~10階は「売却済み」「商談中」などと表示してあるので、値上げを知らない買い手も多く、遅れて来た客が不運だったということになってしまうのです。

しかし、8~10階の価格を知っていたら、そのアンバランス、不合理な価格差に何を思うでしょうか? 

住戸別の人気度を見ながら価格を調整する、合理的な説明が成り立つような価格差をつけるといった価格戦略・販売戦略は昔からありましたが、売れ行きがいいから途中で値上げするなどという策は聞いたことがありません。

バブル経済の真っただ中、大川端リバーシティ(最寄り駅は大江戸線の月島)で販売を予定していた三井不動産は、高く売れることが分かっていた超高層マンションの販売を敢えて中止しました。

地価暴騰をますます煽る(地価狂騰、マンション価格暴騰は既に社会問題化していた)からというのが理由だったのです。

先に分譲した1棟が成功裡に終わり、次に控えていた2棟目の物件の販売を止めたのです。これは、政府の要請によるとも言われましたが、何はともあれ不動産業界のリーディングカンパニーを自任していた同社の政治判断でした。

話が脱線して来たので今日はここで終わりにしますが、最近のマンション業界には傲岸さが頭をもたげて来たように見えるのです。とても残念なことです。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://mituikenta.web.fc2.com)までお気軽にどうぞ。

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