目立つ長谷工。その意味を考える

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

最近の新築マンションの施工ゼネコンを見ていると、どこもかしこも長谷工コーポレーション。そんな印象が深まっています。 そう言えば、工事中マンションの25%くらいは同社が担当していると、どこかで宣伝していたのを思い出しました。

もの凄いシェアです。独占とは言えないまでも、考えられない数値です。過去にこんな寡占状況はなかったはずで、大多数のゼネコンは何をしているのでしょうか? まるでマンション業界を見限ったかのようです。

どうしてこんなことになったのでしょうか? 

ともあれ、今日は長谷工マンション急増の裏側を覗いてみようと思います。

●バス便・郊外マンションは長谷工だらけと予測していたが・・・

このブログで「バス便マンション・郊外マンションは長谷工だらけ?」と書いたことがありました。調べてみると、投稿したのは2012年11月25日のことなので、もう2年半になるのですが、筆者の予想を超える展開になっています。

理由は、建築費の高騰が廉価版(規格)マンションを増やすであろうとの予測に基づいていました。

その後も2度、長谷工関連の記事を書きましたが、いずれも長谷工の施工する建物の品質にかかる記事でしたが、今日は角度を変えてお話ししようと思います。

●長谷工の強みは土地情報とセットの受注にある

長谷工は、昔から用地情報を集める専門部隊を充実させ、売地情報とセットで工事を受注するという手法で業績を伸ばして来た特異なゼネコンです。

ほかのゼネコンも土地情報を収集していないわけではないのですが、長谷工ほど担当者も多くないので、情報数も少ないのです。

長谷工の場合は、不動産会社以上に多くの人員を配し、積極的に売り地を探して歩くといいます。 さらに大きな違いは、売地として表面化している土地だけでなく、近い将来、売地になりそうな予備軍情報を集めている点にあるようです。

つまり、誰も知らない売地情報を早くからキャッチし、持ち主(法人)へ食い込み、買収を狙うのです。

ときには、自社で一旦購入し、しかる後にマンションメーカー(デベロッパー)に転売すると言います。かつては、長谷工自身が子会社を設立して(長谷工都市開発やファミリーといった企業が存在していた)グループとしてマンション分譲事業に乗り出した時期もあったのですが、最近は止めています。

ときどき、共同事業主(売主)として長谷工も参画している例が見られますが、これは案件を持ち込んだ相手デベロッパーの都合によるらしく、基本は施工に特化している企業です。

さて、マンション工事にしろ、商業ビルやショッピングセンターなどのビル工事にしろ、建設業界の受注競争は常に激しく、見積り金額を安くして応札しなければ工事は取れないものです。

一時期は「談合」によって、順番に受注できるようにしていたこともありましたが、相次ぐ摘発で今はそれが困難になっています。

また、高度経済成長時代は国・地方自治体からの公共工事が次々に発注されたので、さほど熾烈(しれつ)な競争をしなくても業界全体で潤えたのですが、工事量が減少したため、仕事を取るのは至難の業になってしまいました。

安くすれば当然ながら利益の確保が困難になるので、各社各様の生き残り策を模索してきました。

一時期は「造注」と言い、請負体質ではダメだとばかりに自ら仕事を造り出して施工する道を選んだこともありました。

そのひとつが、自らマンション業者になって土地を買い、その工事もするという一石二鳥の戦略でしたが、餅は餅屋とでも言えばよいか、失敗をたくさん重ねて撤退の憂き目を見たゼネコンは少なくないのです。 長谷工コーポレーションもその一社です。

長谷工は、生き残り策に上述の「土地持ち込み・セット受注」という得意の戦略で今日に至っているのです。

●広がった提携企業

その昔、長谷工が土地情報を持ち込みつつ工事請負を伸ばすという戦略を取る中で、協力したマンションメーカーは多くありませんでした。

名鉄不動産、総合地所などは今も続いている提携先ですが、その昔は日商岩井(現・双日)、近鉄不動産、カネボウ不動産なども長谷工と深い取引があったと記憶しています。

長谷工の持ち込む土地情報には、そこに乗せる建物の計画図がラフながら添えられ、かつ収支計算書(工事見積もり額から広告費、販売経費、利益までを独自に試算)とともに提供するので、持ち込まれたデベロッパーは手間がかからず大助かりと歓迎したのです。

マンションの開発計画でデベロッパーが恐れるのは、計画段階と販売時期とでタイムラグがあるため、市況の悪化や最も金額の大きい建築コストが計画時から大きく変わってしまうことです。

市況は仕方ないとしても、建築費が土地買収時の見込みと建築許可が下りる段階で取った見積り額とでは99%異なってしまうという現実が悩みの種でしたから、工事費を予め約束してくれる長谷工コーポレーションは何より有り難い存在なのでした。

しかし、約束する工事費は、長谷工のプランであり、設備・仕様によるものですから、デベロッパーが細部においてこうしたい、ああしたいと言えば金額は加算されて行きます。

長谷工の提案するプランと持ち込み先デベロッパーの商品イメージのギャップが大きければ、詰まるところ販売価格は跳ね上がってしまいます。そのために、商品づくりに独自性やこだわりを持つデベロッパーは、長谷工案件を取り上げることはなかったのです。

ところが最近はすっかり様変わりしてしまいました。過去2~3年の提携先を調べてみると、かつては全く及びでなかった大手までが長谷工と組み(すべて土地持ち込み案件かどうかは定かではないのですが)、信じられないスペックで分譲中という例も散見されるのです。

●情けないデベロッパー

「長谷工コーポレーションに発注しているデベロッパーはどこだ」 こんな注目を筆者がし出したのは3年前でしたが、今では数えきれないほど多数にのぼっています。

野村不動産、住友不動産、三菱地所レジデンス、三井不動産レジデンシャル、東急不動産、大京などの大手も多数発注していますし、大成有楽不動産や清水総合開発、東レ建設などのゼネコン系も親会社でなく長谷工と提携しているのです。

ダイワハウス工業や積水ハウスなどの住宅メーカー、相鉄不動産、三交不動産、東急電鉄などの鉄道系、その他には伊藤忠都市開発、新日鉄興和不動産、ゴールドクレスト、コスモスイニシア、フージャーズコーポレーション、タカラレーベン、アートプランニング、サンケイビルなど、まだまだあります。

この状況をどう見るべきでしょうか? ひとつは、いかに土地の取得にデベロッパー各社が難儀しているかの姿を想像することができます。

しかし、「なかなか良い土地がない」という嘆き節は昔からのことで、今に始まったことではないのです。

バブル後、企業の「含み経営(土地の簿価と時価の差を資金調達その他に利用する経営)」が終焉し、企業・団体が構造転換を図る過程で放出した所有地(社宅・運動場・工場・倉庫など)を比較的容易に取得できた時期もありましたが、それらの放出が一巡してしまったのです。

それが用地取得難の背景にあるのは確かですが、含み経営の時代、すなわち持ったら手放さない法人が多かった時代にもマンション用地は取得して来られたのです。

マンション用地の情報は、個人の中古住宅のように公平に買い手に伝わる仕組みにはなっていません。それぞれの土地が任意の相手に極秘裏に売却されるか、信託銀行などを通じて指名した複数の買い手にによる競争入札で売り先が決まって行くのです。

従って、指名されないマンションデベロッパーは、いくら待ってもマンション開発に向く売地に出会うことはありません。そこで、様々なチャネルを使って売地を探すのですが、中心は日ごろから付き合っているブローカー(仲介業者)です。

彼らから毎日持ち込まれる多数の情報を机上で取捨し、候補物件は現地調査を行い、採算をはじき、可能なものについては「買付証明書」という名の「購入意思」を伝え、売主とネゴシエーションを行って売買契約へと至ります。

こうした一連の活動を通じて用地を買収して行くのですが、売り上げ確保に必要な土地が買えないというとき、長谷工コーポレーションが有力な土地情報を持って来てくれたら、将に渡りに船ということになります。

長谷工案件でない土地ももちろん取得するデベロッパー各社ですが、一番頭の痛い問題は、期待する金額で工事を請け負ってくれるゼネコンが見つからないことです。

それだけに、工事金額が半ば約束される長谷工案件は魅力的なのかもしれません。

しかし、マンションデベロッパーにとって土地は生命線です。それがあってこそ、商品開発・企画の実力を発揮できるのです。 そもそも土地がなければデベロッパーにはなれないのです。

長谷工がやたらと目立つ状況から見て、適地を取得する体制を再構築するなど、土地情報入手の強化策を改めて考えるべきべきではないか。そんなふうに思います。

●長谷工案件ももはや安値ではない

筆者が提供する「マンション評価サービス(無料)」で気付くことのひとつは、「最近の長谷工案件も安くないなあ」ということです。

大量受注により廉価な部材の大量仕入れを実現させ、規格型の設計とローコスト工法などによって建築費を安くすることができる長谷工案件も、決して安いとは言えない例がが増えて来たからです。

マンションに限らず、ビル建築は機械化が難しく多分に手作業なので、いわゆる建設労働者の人件費が工事費の中で高い比重を占めますが、重機運転士、とび職、鉄筋工、配管工、タイル職人、内装工などの専門職の人手不足が深刻になっています。

このため、彼らの日当がいずれも高騰していると伝え聞きます。 専門職はすべて下請け企業が抱える人員なので、長谷工といえども抑えきれないということなのでしょう。

土地を少しくらい高く買っても建築費の安さでカバーし、分譲価格を抑えることができたという長谷工の強みが発揮できなくなっているのです。

用地はデベロッパーが独自に取得し、設計と施工のみ長谷工に発注しているマンションもあるはずです。それがどの程度あるかは把握できませんが、「他のゼネコンより安いのは確かであるとしてもプランに魅力がないなら長谷工に発注するメリットは小さい。見直そう」という動きが今後は広まるかもしれない。 そんなことも思う近頃です。

それにしても、最近のマンション価格の上昇は異常です。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://mituikenta.web.fc2.com)までお気軽にどうぞ。

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溢れる情報で混乱を来たしそうなとき、物件の価値を筆者の冷徹で公平・客観的な観点からの評価コメントをお読みいただいた結果、「頭の中が整理できた、先入観や固定観念、誤解などが氷解した、悩みがすっきりした、前に進めそうだ等のお声」をたくさん頂いています。