玄関にアルコーブのないマンションは要注意
- 2015.09.15
- マンション設計
ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
建築費の高騰の波に苦労しているマンションメーカー。対策は限られていますが、そのひとつはスペック(設備・仕様)を落とすことです。
スペック(設備・仕様)を落とすとは、思い切ったコストダウン策に踏み切ることを意味しますが、今日は「アルコーブ」に着目してお話しします。
●アルコーブとは?
アルコーブ(Alcove)は、欧州で部屋や廊下など壁面の一部を少し後退させて造る窪みや空間の意味で使っている言葉ですが、これを日本人の誰かがマンションの共用廊下から少し引っ込んだ玄関前の部分を指す言葉として使い始め定着したのです。
余談ですが、マンションとは英語の本来の意味が(プールがあるような)大邸宅です。これも分譲マンションの黎明期に誰かが使い始め定着したのです。
さて、アルコーブと似たような住宅用語に「玄関ポーチ」があります。
これは、建物の玄関前で、壁から突き出た庇(ひさし)のある入口スペースを指します。
雨が降った日に傘を持って玄関を出入りするとき、雨に濡れずに済むという機能があります。
一戸建ての外観デザインを左右するポイントのひとつでもあるのですが、マンションの住戸にも門扉と玄関ポーチのついたタイプが見られます。
戸建て感覚のプランで、ベビーカーなどを置くことも可能であるといった実用性のある、外部の専用空間です。
アルコーブとポーチの違いは、アルコーブが玄関扉の幅か、少し広い程度の狭い窪みのスペースであるのに対し、ポーチは住戸スパン全部くらいの広い玄関前スペースで、角住戸には門扉を設けてプライバシーが確保できるものです。
ついでに言えば、ホテルやマンション1階のエントランス前にある大型のポーチを、車寄せと呼んでいます。また、その庇はキャノピー(天蓋=てんがい)と言うようです。
(その他の専門用語は、三井健太のマンション相談室サイト内「不動産用語解説」をクリックしてご覧ください)
●アルコーブは何のためにあるの?
前にもどこかで書いたはずですが、改めてお話ししましょう。
先ず、木造アパートや古い賃貸マンションを想像してみて下さい。端から廊下を見ると、同じ大きさ・色・デザインの玄関扉がずらりと並んでいますね。
これを筆者は「のっぺり顔」と言っているのですが、分譲マンションでは凹凸を設けることで、「彫の深い顔」を狙ったのです。端から見て各戸の扉は見えにくくなっています。 その方が賃貸マンションとの差別化になり、憧れのマイホームらしくなるからです。
ここがわが家だ。これが顔だというものが商品価値を高めることに役立ったのです。
アルコーブは、玄関扉を開けた瞬間、外出を喜ぶ元気な子供が走って来て扉に衝突するといった事故を避けられるという機能も持つに至ったのです。
そのアルコーブが最近のマンションの一部でなくなってしまったのです。いったいぜんたい、何が起きたのでしょうか?
●アルコーブ取り止めの理由
凹凸のある顔がのっぺり顔になってしまった、つまり商品企画が昔レベルに戻ってしまったのは何故でしょうか?
コストダウンのため。それが全てです。
マンション全体にも言えるのですが、凹凸を設けるより、一本の直線にした方が施工上の手間もかかりませんし、コンクリートの量も減るからです。
僅かなコストカットなのですが、大きなコストカット策を使い切ったあとは、こうした細かな部分を削って「ちりも積もれば」式に積み上げながらコストを圧縮するのがマンションメーカー日常茶飯事の作業でもあるのです。
しかしながら、アルコーブはこれまで手を付けて来なかった部分です。
「ディスポーザーを止めよう」は、コストダウン効果が高いですし、天井高を下げれば、その分でコンクリート使用量が減り、それに付随して直貼りの床になるので、これも効果は極めて大きいのです。また、エレベーターを1基減らすと、エレベーターの機械は1000万円に過ぎなくても、エレベーターシャフトの施工費とコンクリートが要らなくなるので、トータルでは2000万円をカットでき、これまた効果が大です。
こうしたコストダウン策は設計段階から取り組むものですが、設計が終了し、ゼネコンとのネゴシエーション段階に入り、予算とのギャップを埋めきれないときは妥協策として設備・仕様の見直しを行います。
例えば、キッチンのワークトップを天然石から人工大理石に変更、玄関の踏み込み部分を天然石からタイルに変更、複層ガラスを一枚ガラスにといった、まだまだあるスペックのダウンをして行くのです。
アルコーブの取り止めは、設計の見直しで生まれたものか、設計の当初から盛り込んだ企画であったかは不明ですが、最近よく目につきます。
それを目にするとき、筆者は「とうとうここまで来たか」と思わざるを得ないのです。
●アルコーブ取り止めは究極のコストダウンマンション
賢明な読者はもうお分かりと思いますが、「アルコーブがないくらい大したことではない」のではなく、「アルコーブがない」ということは、究極のコストダウンマンションである可能性が高いことを示唆しているのです。
目に見える部分だけでなく、遮音性能、断熱性能などの劣る設計・施工になっていることが懸念されるということです。
コストダウンを象徴する「アルコーブ取り止め」や「直床工法」マンションは、品質を注意深くチェックしながら検討を進めるべきです。
外側(モデルルームなど)の華やかさだけに目を奪われないよう冷静でありたいものです。
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