大手のブランドに揺らぎ、暗雲垂れ込めるマンション販売。

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

●発売戸数減少・契約率低下の2015年9月期

新築マンションの契約率というデータが毎月公表されていますが、ご存知の読者も少なくないと思います。不動産経済研究所という調査機関が毎月中旬に前月分を新聞発表しています。

今年1~9月の経過を並べて見ましょう。

1月74.9%。2月74.5%。3月79.6%。4月75.5%。5月71.1%。6月78.7%。7月83.7%。8月74.3%。9月66.0%。

このデータは首都圏全体のもので、当月に新発売した物件が月末までに何%売れたか(契約はまだでも購入申込みがあったものを含む)を表します。
契約率の70%を好調・不調の分岐点としているのですが、上記数字を注意深く眺めていただくと、この9か月間で70%を割り込んだのは9月だけと分かります。

秋は通常なら契約率も上がり、契約戸数も伸びるものですが、この9月は発売戸数を絞ったにも関わらず契約率は低下したのです。発売戸数は前年同月比で27.2%も少なく、夏枯れと言われる低調な8月との前月比でも6.9%も減らしています。

これは一体どういうわけでしょうか。同研究所のコメントには「発売の先送り」とあります。お盆明けから動き出す秋のマンション商戦では、例年買い手の行動は活発なので、その反応を見て各社とも売り出し戸数を決めるのですが、これほど減らしたということは、反応が予想していたより鈍かったことを示す何よりの証拠です。

では何故反応が鈍かったのでしょうか? 推測できるのは、価格が買い手の実感として上がり続けて来たことにあるのではないかと思います。

買い手を集めるための広告では価格が未定となっているものが圧倒的に多く、モデルルームに行かないと分からない販売戦略を採る売り手が殆どです。 バス便マンションで価格が安く設定されたものは、価格を早めに公表するのですが、価格が高い物件は発売直前まで明らかにしないのです。

価格を公表してしまうと動員数が減り、モデルルームに閑古鳥が啼く状態になってはいけないと考え、予算の足りない人でも何でも数多く集客しようとするのが業界の常套手段になっているというわけです。

そして、予告広告で集めた買い手との商談を通じて、申込みしてくれそうな顧客の数をおおよそ把握して行きます。選挙の票読みのようなものです。

その作業を通じて「何戸くらいしか売れないのでは?」という危惧が大きくなると、ここで発売戸数を減らし、先送りを決断します。つまり、例えば全部で100戸ある販売マンションのうち、今月は20戸だけにする(分割販売として業界に定着した策)というわけです。これが発売戸数の減少につながっているのです。

一方、現場では票読みが堅すぎると、発売戸数も極端に減らすことになり、それも歓迎すべきことではないので、ついつい甘い観測(読み)が生まれて来ます。その結果、発売戸数を減らしたにもかかわらず、契約率も期待以下になってしまうのです。

これが9月の結果だったということでしょう。

読みが外れたのは、買い手が慎重姿勢に転じて申し込みを見送った人が続出したからです。

●低調だった理由は価格の上昇が続き警戒感が強まったことだ

「発売戸数の減少」と「契約率の低下」は相互に密接な関係があることがお分かりいただけたでしょうか?

9月は買い手の「慎重姿勢」や「高騰価格に対する戸惑い」が数字に表れた格好です。

その状況証拠をお見せしましょう。

今年1~6月の専有面積1坪当たりの単価(=平均坪単価)は@246.8万円でしたが、これは前年同期(@233.3万円)比で5.78%の上昇でした。東京23区内に限定してもほぼ同率で、@287.8万円から@304.6万円と5.84%上昇しました。

20坪の面積換算では4666万円から4936万円に、都区内は5756万円から6092万円となったのです。

この1年間で毎月の数字を追いかけると前月比でさほど変わらない月や逆に若干の値下がりを見せた月も皆無ではなかったものの、トレンドとしては上昇し続けて来たことが明らかです。

価格の先高観は、急がなければという「買い急ぎ心理」を生みます。しかし、上がり過ぎると今度は「警戒感」に反転すると考えられます。

株式や不動産・マンションは「上がるから買う、買うから上がる」という循環をもたらし、高値が高値を呼びますが、永遠に右肩上がりが続くことはないのです。必ず「高値警戒」心理が生まれます。

1980年代後半のバブル期は右肩上がりが5年くらい続きました。しかし、その後の後遺症を体験した日本国民は、景況などの背景の違いもあってか、急な高値への警戒感が早めに強まっているのではないか。筆者はそんなふうに感じます。

●杭工事欠陥事件の影響

昨年の住友不動産に続き、今回の三井不動産レジデンシャルの欠陥マンション事件(杭の支持層 未達)は、ともにあり得ないような欠陥の露見という衝撃的な事件となりました。大手ブランドですら、信頼は大きく揺らいでしまったようです。

これがマンション販売の悪化に影響を与えることは必至で、10月以降は9月よりも更に数字が悪くなるでしょう。

事件の根底に建設業界・マンション業界の慣習や体質などがあるのだとすると、大手であろうとなかろうと、買い手の疑心暗鬼や不安心理がマンション購入の見送り・様子見心理の広がりを生むと考えるからです。

販売現場では、既に慎重な姿勢を窺わせる買い手が一段と増えていると聞きます。

このような欠陥マンションが、ごく一部の特殊な事件であったと分かれば、当該住人の方々にはお気の毒ではあるものの、販売面の波及は限定的でしょう。しかし、その証明がなされるまでは二の足を踏む買い手が減らないでしょう。

業界人は今、誰もが「大変なことになって来た」と感じているに違いありません。

発売の先送りも増えるでしょう。しかし、着工してしまった建物、契約が僅かでも進んでいる物件は販売停止というわけには行きません。少しずつでも発売し、販促を図ろうとするはずですが、期間あたりの発売戸数の減少は続き、契約率も低迷すると予測できます。

●売れ行きの悪化は価格の低下につながるか?

新築マンションの売れ行きが悪化したら、分譲価格は下落に向かうのでしょうか?残念ながら直ちに下落することはないのです。

新築マンションは生鮮食品とは異なります。通常でも値引き販売はありますが、その数字を公表することはしません。公表するのは、完成済みマンションの売れ残り住戸、しかも、その中のごく一部、モデルルームとして何か月か使用した住戸だけなのです。

売れ行きが悪化したとき、その原因が価格の問題だけではない場合、価格は硬直的です。

今回の事件は、将に価格の問題ではありません。今後、売り手は様々な傍証データや検査を通じて「この建物は大丈夫です」をアピールするはずで、価格を下げれば売れるような事態ではありません。

しかし、欠陥騒ぎ以前に高値警戒感が強まって来た経緯があるのですから、価格の下げも視野にあるかもしれません。

検討中の買い手には不安心理が完全に除去できなくても、「値引き」が決断のトリガーになることはあり得ます。従って、水面下で値引き販売は増えるはずです。

これは、統計に表れない価格低下現象です。

統計上の価格も下がる可能性があるとしたら、まだ着工していないマンション、着工はしているが1戸も売っていない新規発売物件からです。しかし、それも急に下がることはありません。

何故なら、土地代という原価も建築費という原価も確定済みか、建築の発注先が決まっていないケースも現状では発注金額が下がる可能性が低いからです。

工事費が下がるのは、東日本大震災の復興工事がなくなるか、東京オリンピック関連工事がなくなること、東京都心の再開発工事が止まることなど、建設業界の繁忙が後退すること、建築資材費が値下がりすることなどが条件になるのです。

ここ当分、建築費が大きく下がる材料は見つかりません。

結局、最後は売主が赤字覚悟で価格を下げるしかないのです。しかし、売り出し前から赤字事業を決断するのは企業としては中々できないことです。

赤字が必至の物件は凍結し、安い土地を新たに取得してコストダウン策を徹底するなどの策を講じるにしても、それは短時間でできることではありません。地価が急に下落するとも思えません。

安くなった物件が出て来るとしても、それが販売開始されるまでは早くても今から2年以上も先のことになるのです。

そのことを裏付けるお話しを次でしましょう。

●リーマンショック前後を検証してみると

価格高騰が続くと、ある日突然まさかの事件が起きて価格下落のきっかけになるようです。

2006年から2008年にかけて首都圏全体の価格は、坪単価で@183万円、@203万円、@214万円と急騰しました(2008年の価格は2006年比で約17%も上昇)。

2008年秋、ご存知「リーマンショック」が起きて2009年から世界金融危機、世界同時不況となりました。

リーマンショックとは関係なく、2007年後半から2008年にかけてマンションの販売は陰りを見せていました。高値に需要が追い付かなくなったか、高値を嫌気していたのです。値引き販売も横行していました。

そこに起きたリーマンショック事件。これがきかけとなってマンション販売は急停滞となりました。

しかし、2009年の価格は@212万円と前年と大差なく、2010年は更に上昇して@219万円となったのです。ようやく下落傾向を見せたのはリーマンショックからおよそ2年後の2011年のことでした。@214万円に下落したのです。

しかし、下がり続けることはなく、2012年も@213万円と、わずかな下落、ほぼ横ばいだったのです。ピーク時から3%ほどしか下がらなかったというわけです。

この間、水面下で値引き販売は行われましたが、全体数字を大きく狂わすような大量戸数の値引きは行われなかったです。統計上の数値を修正することができたとしても問題外でした。

その後のことですが、2013年は2012年比で8%も上がってしまい、2014年も2015年半期も上昇トレンドが続き現在に至っています。

このような経過から言えるのは、新築マンションの価格は買い手が期待するほど下がってくれない(硬直性が高い)ということです。

(中古は新築と異なり、値動きは早い特性がありますが、今日は説明を割愛します)

●今後の購買スタンスはいかに?

以上のような展望の下、買い手には今後どのようなスタンスが望まれるでしょうか?

あくまで建物の安全性が売主から説明され、その不安がなくなったとしてですが、価格交渉を大胆に試してみることをお勧めしたいと思います。

デベロッパーは、あまり時間をかけずに完売を目指しています。建物竣工から半年くらいが最長の完売目標時期です。理想は竣工時の完売とする売り手が普通です。

交渉に当たっては、理由などを複雑に考えることはありません。買い手にとって、理屈抜きに安い方がいいからです。

「価格が高く、自分の当初予算と開きがある。勉強してもらえませんか」と言えばいいだけです。是非チャレンジしてみましょう。売れ行きが悪化すると「買い手市場」になるものです。少し前の「売り手市場」からの反転です。

今回の事件は、単に「不運だった」や「一部業者の問題」で片付く性質ではないのかもしれません。 しかし、これがきっかけになって価格急騰にブレーキをかけるチャンスが来たと言えるかもしれません。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://mituikenta.web.fc2.com)までお気軽にどうぞ。

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