「建設労務費上昇がマンション価格急騰の犯人」を再確認

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

マンション建築費の約45%は労務費だと言われていますが、最近の建築費高騰は、この労務費の上昇に原因を求めることができます。 円安効果で資材が上がったことも一因と言われますが、同時に原油価格の低下もあって、影響は労務費ほど大きくないのです。

ともあれ、建築費が上がれば、新築マンションの価格高騰は避けられなくなります。事実、この3年、マンション価格は急騰しました。このブログで何度も述べて来たので繰り返しませんが、今後の見通しはどうなのでしょうか?

今日は年頭に当たり、新築マンションの価格を左右する建設労働者の人件費について考えてみました。

●公共工事設計労務単価が30%も上昇

ここに、「公共工事設計労務単価」という指標があります。これは、官公庁が発注する建設工事、いわゆる公共工事の入札に参加する建設会社に向けて官公庁が提示する人件費の単価、すなわち「人件費はこの金額以下で積算しなさい」とする入札条件の最高単価です。

安部政権が打ち出した3本の矢の二番は、平たく言えば「公共工事の大盤振る舞い」でしたが、その中には「東日本大震災の復興工事」も含まれています。

これが建設職人の不足を生みました。 ゼネコン各社は職人を確保するのに躍起になりました。その策が賃金の上昇を招きました。

賃金上昇は、「入札不調」つまり、参加業者がゼロという事態を招くこととなりました。入札に当たっては上限価格が提示し、これ以下の金額で応じられるなら参加しなさいと、発注する側の官公庁は条件を付けて業者を募るというわけです。

入札不調がしばらく続きました。その原因が労務費の設定に無理があると分かり、官公庁はやむを得ず単価を上げたのです。

そして、2015年2月から「公共工事設計労務単価」は東京都の場合で、次のように改訂されたのです。
(いずれも所定労働時間内8時間当たりの単価で、カッコ内は2012年の数値。職種は主なもののみ)

  特殊作業員22,000円(17,300)/ 普通作業員19,200円(14,000)/軽作業員13,700円(10,800)/造園工20,100(17,900)/ とび工24,600円(18,500)/ 石工24,700円(19,400)/ ブロック工23,600円(19,200)/ 電工23,600円(19,300)/ 鉄筋工24,800円(18,700)

これを見ると、3年前の単価から平均して約30%の大幅上昇となっています。職人確保の激しさを表す一面ですが、実勢価格(労務単価)はもっと上がっているとも言われています。

●今後の見通し

最近聞こえて来る情報は、人件費の上昇もようやく落ち着いて来たというものです。では、建築費は今後、下がって来るのでしょうか? 残念なことに確信を持って下がると言える材料はないのです。 公共工事が減少に転じ、民間工事も停滞するという可能性はないかと考えてみましたが、どうやら可能性は極めて低いと言わざるを得ません。

東京都に限れば、むしろ増えるかもしれないのです。 根拠は東京オリンピックの関連工事が始まるのはこれからだからです。

ご存知、メイン会場の国立競技場は2019年11月完成を目指して着工されるのはこれからです。その他の競技場、インフラ整備(バリアフリーの街づくりや高速道路の老朽化対策など)、そして5000戸と言われる選手村の宿泊施設もまだ手を付けられていません。

民間工事では、都心の再開発が各地で盛んに行われていますが、これらは2020年を過ぎて終わりを告げるわけでもないのです。2019年中に間に合わせるために急ピッチで進められるのはホテル建設ですが、それ以外の高層ビル・施設は2021年以降にまたがるものが多いからです。

ピークは2019年であろうと予測することはできますが、それまでの4年間、一段の人手不足に陥る可能性は排除できません。

●マンション建設への影響は?

大手ゼネコンに言わせると、マンション建設は請けたくない工事のトップなのだそうです。細かくて面倒で、儲からないからだと言いいます。 そういえば、過去のマンションブームを思い起こすと、ゼネコン業界にとって「利益なき繁忙」などと言わていました。

施工精度に関して言うと、施主(発注者)、すなわちマンションデベロッパーの要求水準が高いこと、おまけに最終点検時(内覧会)には、小さな傷や汚れも見逃さないエンドユーザー(マンション購入者)の厳しい指摘もクリアしなければならないからです。

仕事量が減って来ると仕方なく請け負うが、忙しくなると敬遠するのがマンション建設なのです。 職人に仕事を与え続けないと逃げられてしまい、忙しくなったとき確保しにくくなるから、多忙な時期でも一定程度は請け負うのだと何度も聞かされました。

採算性が高く、代金回収の不安がない公共工事だけで経営が成り立てば言うことなしですが、そうも行かず、民間工事、なかんずく比較的規模の大きい超高層ビル、大型マンションも取ろうとします。

しかし、小規模マンションなどは請け負うとしても順位は下の方になってしまいがちです。とりわけ大手ほど小規模なマンションには見向きもしません。 現在販売中のマンションで、大手5社(鹿島・大成・清水・大林・竹中)が施工しているものは限られています。数百戸の大規模タワーマンションで時おり見かける程度です。

大手ゼネコンは、子会社でも儲からない工事は請け負わないことに徹しています。大成有楽不動産や清水総合開発といったデベロッパーが親会社に発注しているた物件は、ここ何年か殆ど見かけません。

大規模マンションの工事ですら、準大手・中堅などと呼ばれるゼネコンばかり。 特に目立つのが長谷工コーポレーション、次いで前田建設工業、三井住友建設、東急建設、戸田建設といったところです。

他は、中小に分類されるゼネコンばかりです。 長年マンション分譲の世界に関わって来た筆者ですら久しく忘れていたゼネコン名や聞いたことのないゼネコンが施工しているマンションを見かける昨今です。

デベロッパーにしてみれば、名の通ったゼネコンに発注したいはずです。買い手の安心感も随分違ったものとなり、販売もしやすいからです。しかし、予算をはるかに超える金額で発注せざるを得ないのが実情です。それは中小ゼネコンも大手ほどではないものの、さほど変わらないと言われます。

義理で入札参加した大手ゼネコンの見積額に比べれば何割も安いのは確かですが、もはや中小ゼネコンの中からでも期待する金額で請け負ってくれるところは皆無になってしまったようです。

この状況は2012年くらいから始まり、2013年以降ひどくなって2015年まで3~4年続いています。 廉価版マンションを設計・施工できるとされる長谷工コーポレーションですら、コストカットは限度を超えてしまったようで、筆者が遭遇する最近の物件は同社を起用していても価格は旧相場の20%高の販売価格が普通になっているのです。

筆者が提供している「マンション評価サービス」では、机上(インターネット上の情報による)評価に限ると。細かな仕様までは分からないのですが、ご依頼者が送って下さるパンフレット等をつぶさに眺めると、外壁はタイル無しの塗装仕上げや、外階段は鉄骨といった例が多くなっていますし、完成後の内覧会に行くと、エレベーターの速度が遅い、エントランス周りの仕上げも絵で見たより安っぽい、タイル貼り・一部吹き付けと書いてあった外壁のタイル部分は30%くらいしかないといったものが少なくないのです。

価格高騰期には必ず起こるコストカット現象ですが、最近のマンションを見ると、さながらバブル期以前の1970年代に戻ったかのようなスペックと言って過言ではありません。

建築費が下がる可能性は当分ないとして「高止まり」ということになるのでしょうか?それともまだ上がる可能性があるでしょうか?

理由・根拠は次の機会に譲りますが、筆者はまだ上がると見ています。ただ、コストアップがそのまま分譲価格に反映されるかというとさに非ずです。それでも、じりじりと上昇を続けると予想しています。

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