第614回 高いマンションを買える特別な人たちと強気な売り手
- 2018.03.25
- マンション市場
このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論を展開しております。資産価値を重んじる方のための購入のハウツーをお届けするもので、お気に障ることもあろうかと思いますが、満点の家はないと思っていただき、失礼はお許し下さい。
新築マンションは年間に約4万戸、中古マンションは同 約4万戸。合計8万戸。この数は2017年の1年間に首都圏で売れたマンションの戸数です。買った人たちの中には、法人や外国人もありますが、ごく僅か。大半は一般個人です。
首都圏の世帯数は、1423万世帯(2005年国勢調査)となっています。
内訳は、東京都:575万世帯、神奈川県:355万世帯、埼玉県:263万世帯、千葉県:230万世帯となっています。
1423万世帯の内、2017年にマンションを買った世帯8万は、0.56%に過ぎません。新築マンションだけなら0.3%未満(0.28%)です。1000世帯のうちの3世帯に過ぎません。ほぼ毎年この比率は変わりません。
新築マンションの1戸平均価格は今や首都圏の平均で5900万円にもなります。この買い物をする人が4万人もいるが、比率で見れば0.3%の少数派というわけです。翌年、翌々年に購入する予備軍も入れて仮に0.6%としてもやはり少数派です。
少数派はお金持ち、そう言って過言ではありません。最近4年くらいに30%以上も急騰したマンションですが、少数派の人たちの購買力に余裕があるのでしょうか。売れ行きが低迷していると言っても極端なマンション不況というほどの悪化は見られません。
確かに、値引き販売に踏み切った物件がないわけではないのですが、新たに発売される物件は相変わらずの高値です。筆者の目が届く範囲では、直近相場より明らかに安い価格で売り出した物件はありません。たまに見かけますが、よく見てみると、品質の低下やピンポイントで見た立地の悪さなどから、必ずしも安くはないのです。
2017年の価格(単価)は前年比8.4%も上がりました。2016年が前年比1.9%だったのでようやく頭打ちになって来たと思ったのは誤りでした。高くなって売れ行きも悪化しているというのに、なぜ相変わらず高いのでしょうか。
冒頭取り上げた、特別な少数の階層のことが関係しているかもしれません。もしくは、デベロッパーの考え方が変化して来たのかもしれないのです。
●強気のデベロッパー。その本音をうがつ
今は我慢のしどころだ。好景気が来る。売れ行きは必ず持ち直すはずだ。だから営業部の諸君、当分は苦しいかもしれないが、どうか一層の工夫と努力を重ねて販売促進を図ってくれ。
これは筆者の妄想です。しかし、存外これがデベロッパー各社の本音ではあるまいか?最近そんなことを思いました。理由は、先述のように価格上昇が止まらないからです。
新築マンションの原価は、土地代+建築費であって、どちらも既に確定済みです。(土地は2年前に高値取得、建築費は足元のゼネコンの繁忙ぶりから下がっているとは思えない。人手不足は相変わらず続いている)
建築費の引き下げのために間取りをシンプルな無個性にし、二重床を止めて直床にしたり、共用施設を減らしたり、また地下住戸を設けて戸数を増やしたり、見えないところでコストカットしたりしてきましたから、品質はこれ以上落とせない、つまりコストダウンの限界に来ていることから原価を下げることができないのです。
ここから妄想の続きです。
販売経費も落とせない、むしろ増える傾向にある。最後は利益の圧縮だが、それも売り出してみてからの話で、先ずは所定の利益計画通りに進めよう。いよいよとなれば、値引きもやむをえないが、値引き住戸数の割合を少なくし、値引き率も極力抑えれば、プロジェクト全体の利益は何とか確保できるだろう。
だから、値引きの開始時期を可能な限り遅らせて欲しい。多少完売が遅くなっても値引き率が低ければ利益は確保できる。経費は多少増えても値引きしない方が得だろう。S社さんなどは竣工から5年も6年もかけて値引きなしの販売をするらしいじゃないか。
しかし、竣工後も売れ残りを抱えて販売活動を続けるのは、先行入居者の手前、好ましいことではありませんし、商品の管理・養生も手間がかかります。何より、当社のマンションは売れ残りが多いという噂が広まったらイメージダウンになるのではないでしょうか?
そうだなあ、売れ残り状態が長く続くことは、市場の支持を得られていないことを意味するし、そのような商品を世に送り出しているというのは企業としてどうなのかと思うよねえ。
それは奇麗ごとではないでしょうか?企業は利潤を確保してこそ存続するわけですから。
その通りだが、でも社会的貢献という使命もある。社会的貢献もできず、利益も確保できないなら、マンション分譲という事業は縮小または撤退もやむを得ないよね。
そりゃまた、乱暴な意見だね。利益を確保しつつ企業イメージを落とさないビジネスを展開することはできないというのかね。
いえ、そうは申しませんが、努力の限界点に来ていると思うのです。ですから、せめて、利益の圧縮をお願いしたいのです。
まあ、分かるけど利益率を圧縮すると、それが常態化して努力を怠るようにならないかね。
経営という観点では、目標を定め、どれほど困難でも達成に向かって社員・役員ともに一丸となって努力することが大事なのではないかと思います。
苦しい時期ですが、多少の遅れなら入居者も社会も受け入れてくれるはずですから、竣工完売を目標に今後も頑張って行くとして、ダメなときでも竣工から3か月あたりを限度として販促提案を審議するということにしてはどうでしょうか。
折衷案ということか?ともかく利益は確保するべし。出発から値段を下げるような弱気な姿勢は止めよう。商品企画にしても、販売にしても一層の努力を頼みます。
以上のやり取りはデベロッパーの役員会を仮想したものです。デベロッパーは価格が高くなって販売が困難になり、多くのプロジェクトで値引き販売が常態化しているので、どうしたら正常に戻せ、かつ所定の利益を確保できるか。その葛藤に苦しんでいる様子をお伝えしました。
同時に、買い手の皆さんには値引き販売や価格が今後下がる期待は持てないかもしれないという見方を述べたつもりです。
●筆者の予測が外れるとしたら・・・
価格は頭打ちになるはずだ。これ以上高くなると、買える人が減って市場は在庫の山になる。あわてた企業は利益を削ってでも価格調整するだろう。調整幅は高々5%だろうが、たとえ5%でも下がれば市場には安堵感が広がるかもしれない。何より、価格が少しでも下がれば諦めかけた人の購買意欲に再び火をつけることができるだろう。筆者はそう考えて来ました。
売り手も、利益は多少減っても契約が進めば、竣工時の売り上げ見込みが立つ安心感を持てます。上場企業は株価を気にするので、売り上げ不振という情報を発信したくないのです。中間決算で、例えば契約は70%済んでいるので、年間の決算数字(引き渡しベース)は目標通りになりそうだ、利益率も前年並みを達成できる見通しだなどと株式取引所に「企業短信」の形で開示したいので、契約(販売)が順調に進むかどうかも重大な経営目標なのです。
価格高騰が売れ行き不振を招くことはどうしても避けたいはずです。ゆえに、プロジェクトごと、企業ごとの差はあるものの、全体では5%くらいの価格下落はあるだろうと筆者は思うのです。
下落の時期は、おそらく2019年後半からだろう。上がり過ぎたのだから。そう予想しています。
この予想が外れるとしたら、何が起こったときだろうか?そんなことも考えてみました。
地価も建築費も下がる見通しは今のところゼロです。コストダウン策も限界まで来ているように思います。利幅の圧縮にも踏み切れないとしたら、価格下落の可能性は限りなく低いとは言えないだろうか?
購買力の観点から見えて来るものはないだろうか?冒頭で述べたように、販売ターゲットは僅か0.6%の世帯なのです。この人たちの購買力を押し上げる素因はないだろうか?筆者が日ごろ接触している買い手さんは大半が「パワーカップル」(第600回 「億ションの条件を考える)をご参照下さい https://mituikenta.com/?p=1914)のせいか、みなさん堅実だなと感じますし、ゆとりもあるのです。
具体的には、「頭金はもっと出せるが、低金利なのでできるだけローンを多く利用したい」という人が多いと感じています。
ということは、良い物件と感じたら多少価格が高くても購入へ向かうのだろうと思えるのです。しかし、余裕のない人もあるでしょうし、やはり価格上昇はこの辺りで止まってくれないと市場全体としては一段と売れ行きが悪化するということになるのでは?
金利がさらに下がったらどうか?その可能性はゼロではないものの、変動金利の住宅ローンが0.4%台という現在、もう限度ではないか?いや、下げ余地はまだある。どちらにしても、こればかりは予測がしにくい。
返済は厳しいが、今買わないと一生マイホームは持てないという強迫観念を抱いて買い出動する人が増える。つまり、買い急ぐということは起こらないだろうか?
●五輪以後は下がるという巷間の見方が間違っていると分かれば
筆者は一般の見方に逆らうかのように、マンション価格は五輪後も下落しないという考えを何度もブログで発信して来ました。
その根拠はともかく、待ったが相変わらず高い。注目していた〇〇計画が予想していたより高値でがっかりした。このような声が増えると販売は再び加速するかもしれません。
最近のお便りに中には、「2020年以降下がると聞いていたけれど、2022年か23年だという声もちらちら見るようになった、そこまではもう待てないので、最近見た中から選ぶことにしました」というものも現れ出しました。
勘違いか、誤った情報なのかは分かりませんが、2020年まで待ってもいいかなと考えていた人がようやくギアをチェンジし出した。そんな印象もあります。
価格が上がってしまうのを止められない売り手ですが、高くても売れるとなると、強気の姿勢が強まり、価格は全く下がらない状況になるかもしれません。
カギを握るのは「パワーカップル」という気がします。この層が中心需要である現在、業者の指定する価格を黙って受け入れつつ買ってしまうと、売り手をつけ上がらせるだけです。売り手に危機感を持たせるには、慌てて買わないことが必要です。値引きもやむを得ないと思わせること、値下げの覚悟を持たせること、その方向にリードする力を発揮するのは買い手なのです。売り手が困るのを喜ぶわけではありませんが、更なる努力を促すには買い手も反乱こそがパワーになるのです。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。
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