新築マンション発売戸数減少の余波

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

このほど、不動産経済研究所から2015年1年間の新築マンションデータが発表されました。

それによれば、首都圏の発売戸数は4万449戸で前年の4万4913戸から9.9%減となったそうです。東京が2万3899戸で前年比5.2%減、神奈川県7,964戸(同、21.3%減)、埼玉県4,415戸(同、1.3%減)、千葉県4,171戸(同、18.5%減)と軒並み減っています。

中でも東京23区は1万8472戸で前年の2万774戸から11.1%の大幅な減少となったのです。唯一増えたのが東京都下(5,427戸。22.6%)でした。八王子市た立川市、西東京市などで大型マンションの発売が相次いだためでした。

大幅な減少の要因についてはさておき、供給減少には二つの意味があります。今日は、それについて解説しようと思いますが、その前に同研究所が例年のとおり事業主別の供給ランキングも同時に発表していますので、それを紹介しておきます。

●2015年・事業主別の新築マンション供給戸数ランキング(全国ベース)

第1位:住友不動産 5,398戸(2年連続1位)
第2位:野村不動産 4,556戸
第3位:三井不動産レジデンシャル 4,308戸
第4位:三菱地所レジデンス 4,005戸
第5位:大和ハウス工業 2,770戸
第6位:プレサンスコーポレーション 2512戸
第7位:東急不動産 1,838戸
第8位:東京建物 1,501戸
第9位:大京 1,440戸
第10位:タカラレーベン 1,399戸

目立つのは、関西資本のプレサンスコーポレーションと東京のタカラレーベンがBEST10に食い込んでいることですが、あとは全て大手デベロッパーで占められています。メジャー7と呼ばれる7社以外で唯一顔を出しているのが大和ハウスです。

相変わらず、大手の寡占化状態は変わっていないと言えるでしょう。

●新築マンションの発売戸数推移を見る

首都圏の新築マンション発売戸数は、2000年代初頭を見ると7万戸から8万戸もあったことをご存知でしょうか。ピークには9万戸を超えています。

最近は、冒頭で紹介した2014年2015年の2年間だけでなく、2008年以降は最低が3万戸台、2013年に5万戸台に乗せたものの、他の年は4万戸台へ大きく落ち込んでいます。

2000年まで遡ってみましょう。

2000年95,635戸(過去最高)、 2001年89,256戸、 2002年88,516戸、 2003年83,183戸、 2004年85,429戸、 2005年84,148戸。ここまでの6年間は8万戸以上でしたが、2006年74,463戸、 2007年61,021戸、 2008年43,733戸、 2009年36,376戸と、右肩下がりで推移。 2010年に44,535戸と4万戸台に戻し、以後も 2011年44,499戸、 2012年45,602戸、 2013年56,478戸、 2014年44,913戸、2015年 40,449戸と、2013年を除き4万戸台で低迷しているのが実態です。

発売戸数が伸びないのは、なぜなのか?需要がなくなったから供給も抑えざるを得ないためか? 人口・世帯数が首都圏で大幅に減少した?そんなことはない。マンション購入適齢期と言われた30代、40代の世帯がいなくなってしまったのか?団塊2世と言われるボリュームゾーンが適齢期を過ぎたから?いや、それなら適齢期の2010年前後に低迷するのはおかしい。

価格が高くなったために、購入を断念する人が増えてしまったのが大きいのか?晩婚化の影響で適齢期の人たちが買い出動して来ないからか? 

それとも、需要側の事情ではなく供給側の問題か?つまり、デベロッパーに開発意欲がなくなってしまったのか? リーマンショック後の世界同時不況・世界金融危機が多くの中小マンションデベロッパーを死に追いやったのは事実だが。

マンション開発に向く土地が枯渇した? 建築費上がり過ぎて採算が取れないからか?

等々、データを調べ、世界の動き・国内の景況などの背景を浮かべながら自問自答をして原因を考えて行くと、「これだ」と確信を持てるものがないのです。というより、複数の要因が重なり合って 今日の現象を作り出しているのは事実なのですが、決め手になる要因が見つからないのです。

しかし、どうやら、「供給したくてもできない業界に低迷の要因がある」という確証にも似た考えに最近は支配されつつあるところです。

買いたいと思っている人は少なくない。15年前と比べても大差なく存在する。そんな風に思うのです。確かに、価格高騰に嫌気して冬眠状態に移行した人もありましょう。しかし、この数年、住宅ローン金利が低下し続けて来たので、それによって息を引き返した人も大勢あるはずです。

10年前の価格と今日の価格(2005年と2015年)を比べれば首都圏全体で40%も上昇したのは確かですが、金利の低下で購買力が20%以上押し上げられたのも事実です。

鶏が先か卵が先かの話に似たようなことですが、供給したくてもできないというデベロッパー側の問題が大きいように思います。その事情については次の機会でお話ししようと思いますが、供給量の低迷は買い手にどんな問題をもたらしたのでしょうか?

●買いたいが買うものがない

タイトルのように「金利が低いし、高い家賃を払うくらいなら買った方がよいようだ(一次取得層)」や「バス便の一戸建ては不便だから駅近のマンションに引っ越そう(二次取得層)」といった根強い需要が存在するにも関わらず、「適当な物件が見つからない。一応は少ない中で候補を決めてみたが、飛びつくほど気に入っているわけではない」と、物件検索の日々。

「ときどきモデルルーム見学にも出かけるが、価格が高い割に場所はもうひとつ。仕様も安っぽい。新築マンションって、こんなものなのか?」

このような声も聞こえて来ます。そうして2年以上、筆者の知る中では5年も探しているが未だに決まらないという人もあります。

一時、中古にも目を向けたものの、「他人の垢がついた家に住む気になれない」という人も多いのです。相変わらずの新築志向と言うべきでしょうか? リフォームしたらいいと聞くが、多忙のため、リフォーム計画の立案と注ぐ時間がないという声もよく聞きます。

バブル期を思い起こすと、都心から離れた場所でも「ここを買うしかない。いま買わないと一生マイホームを持てないかもしれない」と一種の強迫観念に囚われた人々が買い急いだのでした。高度成長期にも、一戸建てになると、「遠い・高い」が当たり前でした。

やがて限界を超えてしまいました。つまり、遠いマイホームと近いが高過ぎるマイホームは誰も買わなくなったのです。初めは「遠く」も「高く」も、「えい、ままよ」と開発していたデベロッパー各社も、次第に警戒感を強め、開発に躊躇するようになって行きました。

そうして、新築マンション以外も住宅という品物は市場から消え、「風前のともしび」状態となって行ったという歴史があります。新築マンションで言えば、バブル末期の1988年から減少し始め、88年が32,080戸と前年の41,057戸から22%も減り、89年と90年は39,000戸台へ持ち直しかけたものの、91年と92年にはついに2万戸台半ば(25,910戸、26,248戸)と大幅に減ったのです。

バブル崩壊後は、徐々に回復し、先に見たように95,000戸もの歴史的な供給をするまでとなったのでしたが、いま「歴史は繰り返すのだなあ」と感慨を持つに至っています。

買うものがなければ仕方ないわけですが、品数がゼロではないだけに、まことに悩ましい時期にあると言うほかない昨今です。

「品物がない」に加えて、もうひとつの問題として浮上しているのが「中古市場」です。

●中古マンションの価格高騰

新築志向が強いと書きましたが、新築がないなら中古でも探そうかという動きが活発になりました。その結果もたらされたのが「中古も値上がり」という現象です。データは省きますが、周知のように中古マンションの価格も最近3年間のトレンドは右肩上がりです。

当然と言えば当然の軌跡です。 新築の価格上昇によって中古マンションの相対的な安さが目立ち、そこに注目する人が増えます。その結果、程度の良い中古マンションを中心に価格が上がり出します。

中古マンションは、売り手と買い手の間でネゴシエーションが普通に行われて来ました。しかし、買い手の内覧が1日に2組も3組も続くと、そこでは価格の下げ圧力はかからなくなります。つまり、売り出し価格のままで契約に至るのです。

通常なら、交渉によって5%程度の値引きで契約されます。それが市場価格となります。しかし、値引きがなければ市場価格は5%上がることになります。 

中古マンションの価格は、「取引事例比較法」という方法によって査定され、査定額のままで売り出す人、査定額にいくらかONした金額で売り出す人とに分かれます。実際は後者が多いと考えられます。

査定額を超える価格で売り出された中古マンションが、そのままの価格で成約すると、その後の「取引事例比較対象」として採用され、査定額の上昇を招きます。

こうして、中古マンションの価格はじわりと上がり、やがて値上がりトレンドは鮮明となります。新築の価格も上がり、安いはずだった中古マンションも値上りするとなると、買い手はますます厳しい状況に追い込まれてしまいます。

ご依頼に従い、中古マンションの評価をしていると、ときどき驚きを感じる事例に遭遇します。それは、成約事例の中に新築相場を超える中古が見られるからです。

築浅で、グレードの高い、そして何より駅前の便利さなどが図抜けているに違いないのですが、本当にそれだけの価値がある物件なのかは疑問に感じられることも少なくない昨今です。

本ブログで2年以上前に「中古にも目を向けるとき」と書いた記憶がありますが、その中古も価値の高くなってしまい、良い売り物に出会えるだろうか? 悩ましい時期です。

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新築も中古も、マンション選びは本当に難しい時期になってしまいました。しかし、価格が落ち着くときまで待つという選択が正しいとは限りません。どちらかと言えば、買いたいとき、買わなければならないときにある人が多いのです。「買いたい時と買い時は一致しない」ものですが、選択にはいっそう熟考が必須になっていると言えましょう。

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