デベロッパーの姿勢に失望。そんな間取りを何故つくる?

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

長年マンションの設計企画に携わった筆者は、浮かんだアイディアを随分実現して来たという密かな自負があります。 実用新案特許を取ればよかったのにと惜しんでくれる知人もいましたが、それはともかく、アイディアの多くは「間取り」に関するものでした。

その中には、定番になったものも複数あります。プランを練ることが仕事の一環であっただけでなく、好きな作業でした。

そんなキャリアから、今も間取りには関心を持ち続けているのですが、作り手には失望ばかりです。最近は「いい間取りだ」と感じる物件を見ることが殆どないからです。

無料の「住んで気づくダメ間取りと名作間取り・特選50」は、最もオーダーが多い資料ですが、そこに住み手・買い手の関心の高さを見て取れます。

ともあれ、今日は「デベロッパー」と「設計士」に届けと願いながら本稿を書いて行こうと思います。

●玄関横にエアコン室外機を無造作に置く

内覧会の立会いに出かけると、たまに見かける「エアコン室外機隠し」の配慮にほっとすることがあります。

玄関脇のポーチ部分に、何の囲いも区画もなく、無造作に「室外機はその辺に据えて下さい」とでも言いたげな様に失望させられることが多いからです。

リビングルームやバルコニーに近い方の個室の場合、エアコンの室外機はバルコニーに設置するようになっていますが、玄関側の個室(通常2室)の場合は、外廊下に置くしかありません。

置き方は、個室の窓の高さに合わせて花台を設け、その下部とするのが普通です。こうすることで、室外機を視界から遠ざけることができるからです。

さらに進んだ形もあります。室外機は排気口の部分をオープンにしておかなければ機能しないため、完全に箱で隠すことはできませんが、一面を格子か柵にすれば、コンクリートの箱の中に置く形は可能になります。

室内が出窓のようになっていて、外へ回って見ると、出窓の下にエアコンの室外機が見え隠れしている形のマンションもたまに見かけます。

昔は、そのような配慮が当たり前だったのですが、いつの間にか新築マンションの企画から消えてしまいました。

●主寝室のプライバシーに無配慮

これは過去に書いたのですが、共用廊下側の寝室(玄関横の寝室)二つのうち、ひとつは主寝室である場合が多いのですが、窓ガラス一枚を隔てた向こう側を誰かが遠慮なしに通行します。

寝室にいると、通行人の靴音が聞こえて来ます。その点に無配慮なプランが当たり前のように世に出ます。

二つあるうち、片方が廊下から少し引っ込んだ位置に窓面を設定した例をときおり見かけますが、そのケースも残念ながら子供部屋の方であって、主寝室ではないのです。

昔は、廊下と主寝室との間に何らかのバリアーや緩衝空間(吹き抜けなど)を設けたプランが普通でした。いつの間になくなってしまったのでしょうか?

●昼でも照明の要る部屋が二つある3LDK

タワー型マンションには、真北を向く住戸が当たり前のように設けられます。南向き信仰の厚い日本で北向き住戸が定着したことに意外な感じもするのですが、北向きでも良しとして購入する人の心理は、窓が大きく開放的、立地によっては眺望がすばらしいということのようです。

後押ししているのが割安な価格にあるのですが、それにしても、抵抗が小さいのは北向きでも意外に明るいと知ったからではないかと筆者は推測しています。

北向き住戸は当然ながら直射日光はないわけです。しかし、窓が大きく開いていると外光は存分に得られるのです。反射光というのでしょうか?科学的な説明はできませんが、北向きでも窓が大きければ、日中に照明は要らないものです。

ワイドで高さも十分な掃き出し窓のあるリビングルーム、個室の高窓もワイドであれば、ともに明るく快適な住まいとなるのです。

ところが、南向き住戸の北側個室、つまり玄関横の個室はどれを見ても暗く、昼間でも照明が必要です。言うまでもなく、窓が最小面積しかないからです。最小とは、法的な採光基準を満たすだけの面積しかないという意味ですが、個室のワイド寸法が狭いため、大きくしたくてもできないのです。

マンションの1住戸の長方形をイメージしてみてください。廊下側のワイド寸法(間口)は、縦方向の寸法より短いうえに、玄関を間に挟むので、両脇の個室のワイドはどうしても狭いものになります。

もっとワイドスパンにできないものか、ワイドスパンになれば北窓もワイドになって、昼間から照明などなくても過ごせる部屋になるのに、何故それができないのでしょうか?

答えは簡単です。羊羹を切るように住戸の形を決めてしまうからです。敷地の形状によって建物の形は概ね決まって来るのですが、筆者が見る限り、「こうすればできるのに」と思うケースは少なくありません。

それでも、敷地配置図面に羊羹を先ず置いてしまうのは、そうする方がコスト面で有利だからです。

ワイドスパンの住戸で構成しようとすれば、羊羹の形は変形してしまいます。建築コストは、形状が複雑になるほどアップして行きます。

設計士は、敷地形状を見ながら、コストを抑えつつ良い間取りを創ろうとします。しかし、最後はコストありきの平凡なプランになってしまうのです。

建築費が高い現況では仕方ないということなのでしょうか? 筆者はそう思わないのです。建築費の予算は、バブル期を除くと、いつの時代も潤沢ではなかったのです。コストと戦いながら、いかに優れたプランのマンションを作るか、それがプロフェッショナルというものです。

髙くては売れない立地条件のプロジェクトもあるでしょう。しかし、髙くても良いプランを立案すれば売れる立地条件のプロジェクトもあったはずです。

デベロッパーは、ユーザーに対して「より快適なマンション、より心地いい住戸」を提供するのが使命だと思うのですが、然るに、コストの壁に跳ね返されて退歩してしまったプランニング。この現実を業界人はどう考えているのでしょうか?

幸か不幸か、マンションという商品は、「立地条件」という価値要素が過半の比重を占めているので、建物プランで進歩がなくても市場価値を持ち、販売可能という特性を持っています。

だから、つい甘んじてしまう。そういうことかもしれません。しかし、それでいいとは考えていないと信じますが、「百点満点のマンションなんて存在しないのだから・・・」と買い手を説得にかかっているとしたら、傲岸不遜のそしりは免れません。

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