中古マンションの価格上昇が止まりそう。新築は?

価格上昇が続いていた中古マンションの転換期はいつ頃になるのか、注視してきましたが、ようやく先が見えて来た感じがしています。

昨年10月の「杭工事欠陥問題」の余波は「人の噂もなんとやら」で、すっかり消えてしまったようです。、そこは筆者の読みがはずれた部分でした。

しかし、「高値警戒感(観)」とでも言えばよいでしょうか? 「もしかして自分は高値掴みをしようとしているのではないか」という危惧を抱き始めた人が増えて来たようです。

つい先日も、ご相談者から「しばらく様子を見ることにしました」というメールを頂きましたが、これは最近なかったタイプです。

評価の低い物件と知ったとき、これまでは「別の物件を探します」というメッセージが主で、マンション探しそのものを休止するというのは数年ぶりのことです。

「価格上昇が急過ぎる」ことは、探索中の買い手に「値上がりの実感」を伝えるのでしょう。
中々良い物件に巡り合えず、探し続けて行くうちに、価格がどんどん遠ざかって行く感じがして来るらしく、「もうこの辺で手を打たないと・・・」と決断を迫られていた段階を過ぎ、「出遅れたらしいです。もう当分手が出ません」と変化して来たのです。

●値下げ事例も増えている?

半年前までの印象は「価格交渉すらできない」中古も少なくないというものでした。

少し前からは「価格交渉ができるようになった」のですが、最近は売主が強気過ぎると「あっさり去ってしまう買い手が増えている」ようです。その結果、市場に店ざらしになっている物件も多いのだとか。

そう聞いたせいだけでなく、WEBサイトに長く残っていると感じる中古物件が少しずつ増えている気がします。

●3月の調査では「中古マンション頭打ち」/5月も「都区内価格に天井感」

新聞報道でも、「価格が下げ渋って来た」と伝えています。価格上昇は続いているものの、上昇率は小幅になったというのです。

マイナス金利の導入で住宅ローン金利は過去最低をまたまた更新し、買い手の購買力を押上げています。さらに、英国のEU離脱ショックが長期金利を一段と下げる展開になっており、今後も「購入チャンスだ」と思わせる情勢は続くことでしょう。

しかし、既に十分な効果を示して来た住宅ローン金利が、価格の上昇分を吸収するレベルになるかは疑問です。

最近目立ち始めた郊外の大型マンション(新築)に関心を抱く一次取得の若年層に対して好影響を与えることは間違いないものの、都区内の比較的高額な物件には効き目がないだろうと思うのです。

もうひとつ付け加えると、「金利低下で購入は可能かもしれないが、高値掴みは嫌だ」という買い手心理が強まっている印象があるのです。

買い手の焦り気味だった購買態度は、慎重な購買態度へと転換を始めたので、これが中古マンションの売り手の強気に水を差し始めているに違いないとも思います。それが価格の下振れを招いて来たと推測しているところです。

●新築マンションの価格は下がりにくい

一方、新築マンションの価格動向はどうでしょうか?

結論を先に述べれば、構造的な意味で「新築は中古マンションより下がりにくい」のです。

中古の場合は、売れないと困る事情を抱える個人が少なくないはずで、内覧希望が中々ないということになると「仕方ないから売り出し価格を300万円下げましょう」などとなり、内覧者が来始めても契約に至らない状況が続くと、「価格交渉に応じましょう。〇〇までならOK」となります。

この間、およそ3か月から半年です。そのくらいのスピードで結論が出ないと困る個人オーナーは多いのです。

これに対して、新築マンションは値引き開始まで1年以上かかるのが普通です。値引きを決断する局面は、建物工事が完成し、入居が始まる前後のことです。

販売の開始は建物完成の半年以上、1年くらい前、早いものでは2年も前なので、値引きの開始までには長い時間を要するのが普通です。

さて、現状はどうでしょうか。

既に値引き販売に踏み切っている例も散見されますが、全体的な傾向を示すものではないと見ています。売れ行きは、絶対戸数で見れば減っているので、好調とは言えないのですが、業界各社は在庫調整を図りながら、言い換えると売れ残りを悟られないように小出し戦法の販売を続けています。

幸か不幸か、新規供給戸数はこの数年、大きく低迷しています。そのおかげで、価格高騰で減少している需要とのミスマッチには至っていないのです。つまり、苦戦しながらもなんとか所定期間内に完売を達成しているわけです。

そうは言っても、うまく行かない物件もあるのは事実で、それが最後の手段で値引き販売に踏み切るというわけです。

最後の手段の値引き販売は水面下の作戦なので、調査会社が集計する価格データには反映されません。あくまで定価ベースの集計だけが公表されているのです。

いまのところ、明らかに価格が下がったという統計数字は見られません。販売に苦戦する事例が増えて来れば、定価自体を下げる物件も少しずつ現れ、それが全体の「高値安定」「高止まり」という分析結果をもたらすかもしれません。しかし、下げに転じる段階はまだ先と見ています。

●物件全体の価格見直し事例も僅かに見られる

ご存知の読者も少なくないと思いますが、新築マンションは価格を伏せたまま「予告広告」によって集客し、商談の中から適切な販売価格を探ります。適切と言っても、それは売り手の論理の中でのことで、一定の利益を確保したうえでの住戸間調整に過ぎないのです。

言い換えると、住戸ごとの価格のバランスをとるためのリサーチ期間を設けるのが業界の慣習になっています。

「決定ではなく社内資料です」と断りながら、「ここは〇〇〇万円の予定です」と客に提示し、反応を見て、人気薄の住戸を下げ、下げた分を高人気の住戸に積み増しするという作業を行うための期間が必要なのです。

ところが、最近は上げる住戸はなく、殆ど下げる調整になったという事例が出ているのです。この決定は、当然のことながら利益を圧縮することを意味します(例外もありますが)。

分譲マンション事業の利益率はもともと大きくはないので(額は大きいですが)、市況の変化で価格戦略を見直すというのは簡単ではありません。

土地を仕入れ、開発を行い、商品化を進め、厳しい建築予算の中でゼネコンと請負契約を結んで着工。そして販売開始。ここまで、小さな物件なら半年か1年ですむかもしれないのですが、大型になると2年、3年を要します。

苦労して生み出した商品の販売利益が、計画から大幅に縮むなどというのは事業主にとって忍び難いことです。

予告広告で集客を図り、プレセールス活動をしてみたが反応が悪い。そんなとき、「この価格では売る自信がありません」とは現場の社員からは言い出せないものであり、仮に「厳しい」ことをアナウンスしたとしても、少ない利益を全部吐き出すような決定にはならないものです。

利益計画を見直しせざるを得ないとしても、下げ幅は小さく、売主は当初の計画通りに進むしかないのが実態なのです。

従って、新築マンションはスタートしてしまうと価格は下げることが難しく、土地を高く買ってしまったりすると、もはや事業を凍結するほかなくなります。そのうえで、新たに安い土地を探して再出発するという道を選択するのです。

勿論、抱えている案件全部を凍結したら、販売商品が枯渇してしまい経営が成り立たなくなるので、高いけど何とか売れそうなもの、少し利益を削って価格調整すれば売れそうなもの、などと分類しながら販売活動を続けます。

このような舞台裏は、やがて「価格の高止まり」へ、次に「価格の低下」、そして「価格の安定(底値)」へとトレンド転換を強いるのですが、その時間は急激なものではありません。ざっくりと言えば、高止まりに1年、価格低下局面を経て安定期に達するのに2年か3年といったイメージです。

新築マンションは中古に比べると値動きは遅いものだと知っておかれるとといいでしょう。