中々売り出さない価格未定マンション。その心は?
- 2016.08.30
- マンションの売主
ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
分譲マンションの販売は、ご承知のように広告で関心客を「資料請求」の形で探知し、次の段階ではその関心客を「モデルルーム」に呼び寄せるところから始まります。
モデルルームに来訪した人が全部買ってくれるわけではないので、販売戸数の何倍もの集客を図ります。物件の魅力度によって差はあるのですが、平均的には販売戸数の10倍以上の集客数が必要とされます。
100戸のマンションを完売するには1000家族の来訪が必須となるのです。
1回の広告で1000家族がいっぺんに来てくれるわけではないので、例えば10回の広告で1回当たり100家族を動員するといった形になるわけです。
10回の広告を10日間で一気に露出しても効果はないので、広告媒体の特性や費用効果などを考えてバランスよく実施します。
テレビの30秒CMなら、1日10回くらいずつ1か月連続で出したりすることもありますし、インターネットの自社HPとSUUMOなどの検索サイトへの掲載と、ビルの壁面看板などは販売期間中ずっと出しっぱなしですが、新聞紙面広告やチラシの折り込み広告なら1週間に1回のペースで出したりします。
これらの広告は、初め「価格未定」となっています。これを「予告広告」と言います。これで顧客動員を狙うのです。
価格が未定でも、立地条件がとても良いとか、日本一の高さであるとか、人気物件ほど短期間にたくさんの顧客を動員できますが、並みの物件は反応が少なく、期待する顧客動員ができない状態が長く続いたりします。
筆者は、仕事がら住宅情報誌・SUUMOを毎週通覧します。すると、当然ながら物件は入れ替わりがあるものの、同じ物件を何度も目にすることとなります。
大規模マンションは、その販売戸数に見合う大量の顧客動員を必要とすることから、大量の広告を複数の媒体を使って実施します。3か月~6か月に渡り広告を流し続け、必要な顧客が集まったと見れば、そこで販売開始となります。
モデルルームの見学者は受け入れつつ、契約を要望する人には「待った」をかけ続けますが、機が熟したと見ると、「●月●日より受付開始」、もしくは「●月●日から●日まで」と期間を区切って「購入申し込み」の受け付けを始めるのです。
販売開始は、先着順受付、言い換えると「早いもの勝ち」という方式と、期間中の受付によって同一住戸に申込者が重なったときは買い手を抽選で決める方式(登録抽選方式と言います)とのどちらかで行われます。
どちらにするかは売主の任意で、反応の大きさや物件の戸数、その他いくつかの要素を考慮して決めて行きます。
どちらを選択するかは、広告の反応によります。まあ、簡単に言えば「先着順方式」は人気薄、「登録抽選方式」は比較的人気のある物件と言って間違いではありません。登録抽選方式でも期間が1週間タイプと2日か3日の短期タイプがあり、後者は人気薄と考えていいのです。
●プレ販売期間の意義
ところで、マンション業者は販売を開始するまでの期間を顧客動員という目的以外、どのような狙いを持っているかご存知でしょうか?
予定販売価格が受け入れてもらえるかを探ること、言い換えると、売りたい価格が通用するか否かを見定めることにあるのです。
その狙いを実のあるものにするためには、どうしても「予定価格」を提示しなければなりません。「まだ正式決定ではないのでお渡しするわけには行きませんが、一部を披露しますと、価格はこのとおりでございます」などと言いながら「予定価格表」をちらつかせます。
買い手は、希望の広さと間取りタイプ、階数などを睨み合わせつつ、「本当は角の〇〇タイプがいいのだけど、予算的に無理だわね。こちらの〇〇タイプが現実的な検討住戸ということになりそう。でも、ちょっと狭い。もう少し広い●●だと、2階か3階になっちゃうし・・・」などと感想を述べます。
そして「価格はいつ決まりますか」と質問しつつ、もう少し安くなることへの期待をにじませたりします。
一方、眺望の良い上階の特定住戸は価格が高いに関わらず、希望者は殺到する気配であったりします。
こうした顧客の反応は、会議の席などで「条件の良い上階住戸と角部屋は、もう少しアップしても大丈夫そうだが、80%を占める中部屋の中低層階住戸は、集まりが良くないうえに、申し込みは低額の下層階に偏ることが必至」などといった発言となります。
議論の結果、「では、次週は人気住戸を100万円ずつアップしよう。その分で中住戸を少し下げてみよう」などとなるのです。
しかし、この調整は全体の売り上げを変えない方法であり、単にバランスを調整するだけです。
20%の住戸を100万円ずつ上げても、80%の住戸は25万円下がるだけです。これでは、めざましい効果は出ないことが多いものです。
しばらく様子を見ますが、効果がないと分かると、仕方なく全体の売り上げを落とす、すなわち利益も圧縮して価格を下方修正します。
このようにして最終的な価格を決定するわけで、販売開始前の「予告広告」期間は適正価格リサーチ期間というわけです。
もう一つ、大きな狙いがあります。それは、売り出し戸数を決めることです。
短期間に大多数の戸数を売ってしまおうとするなら、それだけの大量動員が必要です。
しかし、実際に広告に反応した客の数は十分でなく、このままでは計画の100戸を半分に絞らないと売れ残ってしまうかもしれない状況にある場合、その悲観的な見込みが確実と見なされれば、販売戸数を計画より減らして売り出すことを決定します。
無論、その反対もあり得るわけで、その場合は計画戸数を積み増しして販売するわけです。
業者によっては、「価格が安過ぎだ。販売戸数はそのままで、値を上げろ」という指令が出されるケースも稀にあるのです。
マンション販売は、全部の戸数をいっぺんに売り出す企業もないこともないのですが、大半は「分割分譲(期分け販売)」という形式を採ります。
「第〇期○次販売 予告広告」という広告では、殆ど「販売戸数未定」となっています。この戸数未定表示こそが、売主に自信がない証拠で、どのくらいの数が成約に至るかが見えないからです。
ともあれ、予告広告の反応、商談してみての感触、「要望書」と称する、ある種の「仮申込書」の提出を顧客に出させ、その集まり具合を見るなどして販売戸数を決めるのです。
●いつまでも売り出さないケースは?
予告広告を繰り返しながらプレ販売を展開することで、価格決定と販売見込み戸数を読もうとするわけですが、思惑または計画から大きく乖離した結果(経過)であるとき、マンション業者はどうするのでしょうか?
先に述べた通り、売り出す戸数を減らすというのがひとつの選択肢です。プレ販売の途中で買い手に提示する「予定価格」を引き下げることにより販売見込み戸数をアップするという策もあります。
しかし、後者はスタートから敗北を認めるようなものなので、日本人の気質からか、この決定は容易ではありません。
SUUMOを毎週見ていると気付くのは、最初の広告から既に半年も経過しているのに、まだ「販売開始」されない物件の存在です。
広告予算も随分と累積したであろうと勘繰ってみたりしつつ、販売開始予定時期をときどきチェックしてみると、7月中旬とあったのがいつの間にか8月下旬に変わり、直近では9月にずれ込んでいたりします。
小規模物件では、予算に限りがあるので長く広告を繰り返すということはありえないので、上記のような例は大規模マンションの場合とご理解下さい。
大規模マンションは、付加価値も豊富で、魅力的な物件が多いとはいえ、集まりが悪いとする判断根拠は、初期で売ってしまいたい戸数自体がも多いからです。
例えば300戸の物件で、第1期で150戸は売りたいとする計画なら、少なくとも1500組の来訪者が必要になります。毎週末に100組ずつの来訪者があっても、1500組に達するまでに15週、約4か月の期間を要します。
実際に広告を開始したところ、週平均50組しか集まらないとなると、30週7か月以上を要することになるのです。
販売現場では、せっかく集めた顧客を競合物件に取られることを恐れ、早期の発売を望む声が高まります。しかし、「売れ残りを出したくないし、そうかと言って300戸の物件で第1期が30戸や50戸では先が思いやられるしなあ」などと悩みます。
立ち上がりからつまずくわけにいかないとの思いは全社共通なので、結局は予算を前倒しにして広告を増やす方向へと動きます。それまで以上の広い地域にチラシを配布したり、高額な新聞全面広告の実施に踏み切ったりするのです。
それでもめざましく効果が表れない状態が続きます。
いつまでも売り出さないでいれば、インターネット上の掲示板には歓迎できない書き込みが増えたりもします。 未定のはずの価格情報も洩れ始めます。それが、ライバル社の営業マンらしき匿名の書き込みで「高い」と批判されたりします。
長くプレ販売を続けることは、デメリットが大きいのです。しかし、完売までの道のりを考えるとき、「好評完売」や「第1期〇〇〇戸成約」などの好調ぶりをアピールするべきという思いに囚われるのでしょう。
その結果、発売を決断できず今日も広告は「予告」のままです。おそらくは、価格を見直そうと考えているのかもしれません。バランス調整などではない、抜本的なそれを。
●中々売り出さない物件・小出しの発売戸数は訳ありと思うべし
もうお分かりのように、販売開始が遅れている物件は客集まりが良くない物件と言えます。売り出したとしても第1期の戸数が全体の30%以下の場合も同様と見てよいのです。
また、分割回数が多い、既に何回かの売り出しを行なった物件のうち、第●期・第●次などの表示の数値が大きい物件は、1回当たりの発売戸数が少ないことを証明しているわけで、集客に苦労していることを示します。
●売れない物件の大半は「立地に問題があるか価格が高いか」どちらかである
規模を問わず、売れない物件の多くは、立地条件に魅力がないのです。
バス便がその代表ですが、バス便でも順調に売れるとしたら、徒歩圏物件を凌駕する魅力があるもので、例えば圧倒的なスケールの公園を眼前に見下ろすような位置関係にあるとか、圧巻の眺望が得られるといった別格の環境が備わった立地条件を持つ物件です。
それに加えて価格も安い(手頃な価格)ことが必須条件になります。
駅には遠くないが乗り換えを要する支線・枝線の駅が最寄りであることに加えて、もともと工業地域だったエリアにあり、当該物件の周りも特に環境が良いわけでない、そんな物件でも格別な安さであれば売れてしまうものです。
売れない物件は価格が割高なのです。利便性の高い物件は、よほど環境が悪くない限り、価格が少しくらい高くても売れてしまうことが多いのですが、駅から遠く、その弱点を補って余りある自然環境・眺望などの条件を併せ持たない限りは、中々売れません。
そのような物件の最後の手段は、価格を安くすることです。どのくらい安ければ適正な価格か、あるいは割安な価格と言えるのかは、個別に精査しなければ分かりませんが、一目瞭然、誰が見てもそう感じるといったインパクトが必須であることは確かです。
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どうせ買うなら、売れ行きの良い物件、すなわち大勢の顧客から支持される物件、評判の良い物件を買いたいと思うのが購入者心理です。やはり、売れ行きは軽視できません。
・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。
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