天災は忘れた頃にやって来る
- 2017.03.30
- マンションと地震
このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
1995年1月17日、阪神淡路大震災の起こった日です。あの日、神戸や西宮、芦屋、尼崎、宝塚などの大阪市以西の各都市では、一戸建て住宅の過半がペシャンコになり、高速道路が倒壊、昭和40年代の古いマンションの多くが全壊・半壊しました。
昨年は熊本県を震度7の大地震が襲いました。しかも、本震の後に余震でなく同規模の本震が来るという、前代未聞の現象でした。驚かされたのは、被害者だけでなく気象庁をはじめとする専門家だったのです。
天災は忘れた頃にやって来ると言います。阪神淡路大地震は千年に一度と言われました。今回の熊本も百年ぶりの大地震だったそうです。
地震発生から半年を経た2016年10月9日のNHKスペシャルは衝撃でした。ご覧になった読者も多いことと思いますが、熊本地震の被害住宅の中に「全壊」認定された新・耐震基準のマンションがあったからです。
熊本地震は、震度7の激震が続けて2度も起きたためもあったのでしょうが、想定外の被害がいくつも発生したということでした。
最初の地震(前震)では倒壊しなかったが、2度目の地震で崩れ去った一戸建てがあったということや、耐震基準を満たしているはずの新しい一戸建てさえ倒壊したということを地震直後の報道で知っていましたが、マンションでも「全壊」認定が1軒あったというのは知りませんでした。
その半年前のニュースで、熊本市の応急危険度判定で「危険」を示す赤い紙が貼られたマンションの映像を見ました。また、倒壊は免れたものの、建物を支える柱やはりの一部が壊れ、鉄筋がむき出しになった映像も流れました。
住民のほとんどが避難を余儀なくされており、所有者への取材では、「避難しているのは水道管が壊れたうえにエレベーターも故障して生活できない状況だから」というものでした。
その後しばらくして、分譲マンション管理会社の業界団体である「マンション管理業協会」が被災状況を取りまとめていますが、それによると、管理受託している7,610棟のうち回答があったのは、5,973棟、内訳は、大破が1棟(0.02%)、中破5棟(0.08%)、小破151棟(2.53%)、軽微53棟(0.89%)、被害なし5,763棟(96.48%)となっています。
日本建築学会による5段階で評価されており、「崩壊」、「大破」、「中破」、「小破」、「軽微」の5つです。
当該報告では、「崩壊」という「柱・耐力壁が破損し、建物全体または建物の一部が崩壊に至った」被害報告はないとのことでした。
しかも、新旧の耐震基準で区分していないので、大破の1棟も中破の5棟も、勝手に旧・耐震基準による古いマンションなのだろうと筆者は思い込んでいました。それだけに、番組は驚愕の内容でした。
映像は、コンクリートに穴が開き、壁の向こうが見えてしまう状態を示すものでした。
専門家(大学の教授)の説明によれば、新耐震基準であっても、耐震性は地域によって違うのだというのです。ここが筆者の知らなかった恥じ入る部分で、衝撃でもあったのですが、「地域係数」という概念があって、基準の耐震性に地域ごと0.9とか08といった数値をかけてよいことになっているというのです。
つまり、耐震基準の0.9倍とか0.8倍の弱い建物が合法的に多数建設されているということでした。地域係数は昭和27年に市町村ごとに定められており、地震の起きやすい地域は1.0、地震が少ない地域は0.9となっていたのです。
熊本は0.9以下の地域だったのです。
長く大地震がないとされて来た地域で起きた想定外の大地震、しかも震度7の本震が2度も立て続けに。被災者・被災地域の行政庁はもとより、気象庁など国の関係機関や大学などの研究機関、建設業界などに与えた衝撃は想像を絶します。
ちなみに、番組では日本地図を1.0地域と0.9地域に色分けして示していましたが、一瞬テレビ画面を通して見た記憶では、関東と東海、新潟は1.0地域でした。
なお、福岡は、かつて0.8の地域だったそうですが、2005年(平成17年)に発生した玄界灘地震(福岡県西方沖地震)を機に条例を改正し、1.0に変更したのだそうです。
熊本地震の被害者にはお気の毒ですが、係数0.9と定めた地方自治体が悪いということになったようで、現・耐震基準は震度7でも大丈夫であることを証明した格好になり、基準の見直しはしないと後に国は宣言しています。
1981年に施行した現・耐震基準は、その3年前に起こった宮城県沖地震の教訓から大きく改められました。1995年の阪神淡路地震後も、部分的な改定が行われたと記憶しています。
私たち日本人は災害のたび、二度とこのような被害を受けないよう願って、様々な対策を講じて来ました。三陸沿岸の各地にある津波対策の堤防も、数十年前の津波体験から設けられたのだが、想定外だったと何かの本で知りました。
翻って、東京でも伊勢湾台風(昭和34年、愛知県)の際に、伊勢湾に干潮面上約5メートルの高潮が襲来したことを教訓に、東京都では、昭和35年から高潮防御施設の建設を計画し、対象区域を東京港全体に広げて建設工事を実施しています。そのおかげで津波も大丈夫と聞いたことがあります。
しかし、人間は忘れっぽい動物です。恐怖の映像を見たくらいでは、地震や津波の怖さは忘れてしまうのかもしれません。
自然災害ではありませんが、2015年10月に露見した横浜市の傾斜マンション事件。まだ1年半しか経っていないのに、もう忘れてしまった人も少なくないようです。
人間の寿命から見て、千年も前のことは誰も覚えていないのですから、対応ができていないのも仕方ないのかもしれませんが、1年半年前の事件は言わずもがな、20年くらい前の事件や天災なども忘れずにいたいものです。
流行は短いものですが、マンションを購入するとき、地盤、杭工事、耐震性、遮音性、耐久性などと、売主の施工管理・品質管理体制などを厳しく問う買主の姿勢は不易であるべきです。
とはいえ、若い買い手の中には、阪神淡路の被害状況でさえ記憶にないという人もあるでしょうし、首都圏の人にとって阪神淡路の記憶は薄いということかもしれません。
10年も経ったら、事故や事件、天災を教訓とするチェックポイントなど、忘れ去られてしまうかもしれません。まして、何も覚えていない、体験がない若年層の買い手にチェックを求めても無理がありそうです。
耐震診断すら受けていない旧耐震基準のマンションを検討するとき、少しは「大丈夫かな?」と思いながらも、「40年以上も無事に存在したマンションなのだから」と自分に言い聞かせて買ってしまう人がいるのは確かです。
旧耐震基準のマンションは全て危険と決まったわけではないものの、耐震診断を受けていない以上は安全を保証されないはずですから、敢えて危険なマンションを買うことはないと思います。
35年間、東京には震度6強以上の巨大地震が来なかっただけです。
「天災は忘れた頃にやって来る」ものです。天災や欠陥マンション事件の記憶がない人も、自分で作る「マンション購入時のチェックポイント表」の項目に「品質管理は大丈夫か?」と「耐震性は問題ないか?」を加えておきましょう。
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