第579回 三菱地所レジデンスの「オイコス」シリーズ誕生の陰で

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過日、三菱地所レジデンスが、ファミリー向けマンションの設計と施工を得意とする長谷工コーポレーションとコラボレーションした「ザ・パークハウス」の新シリーズ「オイコス」を発表しました。

この新シリーズは、どのような意図で生まれたのでしょうか?経緯はともかく、マンション業界が置かれた苦しい事情が透けて見えて来ます。

時代が求めるニーズに呼応するイノベーティブで、デザイン性の高いマンション。ザ・パークハウスの安全性や品質のもとに、自由度の高い、お客さまにあった自分らしい住まい方を提供していきます・・・同社のHPにはこうあります。

実際に供給された物件は、本日(2017年9月30日)現在、以下の3物件です。

1:「ザ・パークハウス オイコス赤羽志茂」(東京都北区志茂・東京メトロ南北線「志茂」駅より徒歩6分・2019年1月中旬竣工予定・総戸数502戸)~近日発売~

2:「ザ・パークハウス オイコス八潮」(埼玉県八潮市・つくばエクスプレス「八潮」駅から徒歩5分・竣工/2018年2月予定・総戸数/66戸)~先着順受付中~

3:ザ・パークハウス オイコス金沢文庫(横浜市 金沢区泥亀2丁目・京浜急行線「金沢文庫」駅より徒歩7分・2018年11月完成予定・総戸数323戸)~近日発売~

価格は、オイコス赤羽志茂が65.26~84.52㎡で3900万円台~7500万円台となっています。平均坪単価は、推定@250~260万円くらいになるでしょうか?とすると、JR京浜東北線「東十条」駅徒歩5分・東京メトロ南北線「王子神谷」駅徒歩6分の販売中・大規模物件「ザ・ガーデンズ東京王子」の平均@258万円とほぼ同じレベルということになりそうです。

オイコス八潮は、受付中の9戸が62.45~81.68㎡で3498~5028万円、平均坪単価@195万円前後で販売中です。これは、2016年9月発売の「シティテラス八潮493戸(八潮駅より徒歩8分)が@180万円台だったので単純比較だけでも10%ほど高いようです。

オイコス 金沢文庫は、58.11~85.02㎡で3,500万円台~7,500万円台とのこと。平均単価は不明ですが、@250万円くらいでしょうか?金沢文庫の供給事例が最近は極端に少なく、相場は形成されていませんが、推定@200万円前後と見ます。としたら、詳しく調査していないので断定はできないですが、2割くらい高いと感じます。

三菱地所レジデンスの物件は、都心や都心でなくても高級とされる住宅地の高級なマンションというイメージがありましたが、藤和不動産と合体(2011年)してからは郊外も下町も、何でも扱うデベロッパーというイメージに変わってしまいました。

合体を機に、ブランドも「パークハウス」から「ザ・パークハウス」に変わりました。「ザ」が冠されても、別に高級路線の物件というわけでなく、どこで開発したマンションでも、グレードが変わらなくても「ザ・パークハウス」なので、失望感を覚えたものです。(最上位の高級ブランドとして「ザ・パークハウス グラン」はありますが)

つまり、「低額マンション・中級マンション、従来の高級・高額マンション。需要があれば何でもやります」というスタンスになったわけですが、現在販売中の物件(近日発売を含む)を通覧してみると、超都心から準都心、郊外まで、城西、城南、城東、常北、都下(市部)、千葉、埼玉、神奈川と全方位・首都圏広範に亘ります。

ここに新たに加わった新シリーズ「オイコス」は、どのようなものになるのでしょうか?わざわざ「オイコス」というサブネームを付けたのは、ブランド戦略の一環であることは間違いありませんが、商品内容はいかがなものでしょうか?想像してしまうのは、野村不動産「オハナ」シリーズです。

オハナは、外周部で開発。「上質な住まいを魅力的な価格でお届けしています」とHPで謳っています。

オハナシリーズの第1号は確か2012年発売の「平塚」だったと思いますが、現在、「船橋習志野台146戸・価格未定」「オハナ 北習志野241戸・3LDK/2,298万円~」「オハナ 相武台225戸・3LDK/2,500万円台~」、「オハナ 淵野辺ガーデニア516戸・3LDK/2,400万円台~」「オハナ 東川口」「オハナ 蕨錦町129戸・3LDK/2,900万円台~」「オハナ 町田オークコート310戸・3LDK/2,800万円台~」「オハナ 昭島中神(東京都昭島市)価格未定」など多数展開中です。

最低価格は、どれも2000万円台に設定していますね。

オイコスもオハナと同じような中身だろうと連想してしまうのは、両方のシリーズの展開にかかわる設計・施工会社が長谷工コーポレーションだからです。

長谷工コーポレーションは、廉価版マンション・規格型マンションの施工で最も強みを持つゼネコンと言われています。その設計と施工なら、売主が変わっても中身は似たようなものと思うわけです。

商品企画を主導するのは、あくまでデベロッパーであり売主なので、本来ゼネコンは無関係です。商品企画という業務をゼネコン任せにしたのでは、デベロッパーの存在意義はありません。しかしながら、現実はというと、土地を探してくるのも長谷工、基本プランを企画して設計図を持ち込むのも長谷工、施工も長谷工というプロジェクトが多数ありますし、年間の販売物件の90%が長谷工絡みなので、まるで「おんぶにだっこ」と揶揄されているデベロッパーもあるのです。

一般にゼネコンは、デベロッパーの選出した設計事務所によって作られた設計図に基づいて工事費を積算し、同時にライバル・ゼネコンとの競争に勝って初めて工事請負という仕事の受注に至るのですが、稀に再開発などの案件で地権者と密接な関係を築き上げたゼネコンが、そのまま施工を特命で受注できることがあります。

この場合の発注者は、再開発組合から選ばれたデベロッパーが途中からプロジェクトに加わるので、そのデベロッパーとなります。

ゼネコンは、土地所有者から受注します。普通、発注者はマンションデベロッパーです。しかし、デベロッパーは「競争入札」方式で発注先を決めます。いくら銀座で飲み食いしても、見積もり競争に勝たない限りゼネコンは仕事をもらえないのです。

そこで、先に述べた再開発プロジェクトのようにデベロッパーが土地を取得する前から開発予定地を押さえることが必要になります。マンション用地を日々探し続けるデベロッパ―より先回りして土地を買ってしまえば、欲しがるデベロッパーに対し、当該用地を譲る代わりに工事を無競争で(特命で)発注してもらうことができます。

かつて、ゼネコン自ら売主になって分譲した時代がありました。自ら売主になれば「分譲利益」と「工事利益」のダブルで利益を取れると思ったからです。また、ライバル社と工事費の叩き合いをしなくて済みます。

ところが、「餅は餅屋」でした。マンション販売事業のキーになる部分がよく分かっていなかったゼネコンは失敗続きで、とうとう自ら売主になるのはリスクが大き過ぎることを思い知らされるのです。やがて、ゼネコン各社はマンション販売事業から撤退しました。

今でも、たまにゼネコン(施工会社)が自ら売主として販売している物件を見かけますが、これは不本意ながらそうなってしまった特別なケースです。

自ら売主になって事業展開しているゼネコンは、経営破綻し「株式会社大京」の傘下で再建中の穴吹工務店が有名です。見積もり参加しませんかと声がかかるのを待っていたのでは生き残っていけないと、自ら土地を取得して仕事を造り出そうという戦略「造注(ぞうちゅう)」を積極的に展開し、一時は当時日本一の供給戸数を誇った大京を抜いて全国トップに立ったのです。

長谷工も、かつては子会社の長谷工都市開発やファミリーといった企業に土地を買わせ、特命受注で業績を伸ばしたときもあったのですが、「造注」先を子会社から資本関係のない一般デベロッパーだけに特化しました。どういうことかを説明しましょう。

長谷工コーポレーションの強みは、廉価版マンションの建築ノウハウだけではありません。土地を探す能力に優れています。本来プロのはずのデベロッパーより土地を見つけて来るスピードに長けているのです。

見つけた土地をデベロッパーに紹介しつつ工事を受注するだけでなく、時には先に自社で買ってしまう(一時的に抱く)という思い切った策も講じています。

工事がしやすい土地(面積の大きい土地)、単名地主(工場跡地などの法人)に目を付け、そこに工事費が安く上がるプランと予定工事見積、さらには事業採算の計画書(収支計算)、市場調査レポートまでをセットしてデベロッパーに案件を持ち込むのです。筆者は、その場面と計画書一式を過去何度も目にしたものです。

「この土地をお買いください。当社ならこの建築費で建てられますので、分譲価格は〇〇になります。これで販売なされば、市場調査レポートにあるように僅かなリスクで事業は成功裏に終わるはずです」と甘言をささやくのでした。

長谷工コーポレーションは、設計も自社で行うことを前提にしています。そうでなければ工事費を安くすることができないのです。詳細は割愛しますが、工事費を下げる基本は「省力化」と「規格化」、「単純化」、「部材の大量調達」といった方法になります。

窓枠、窓、バスユニット、洗面台、便器、玄関ドア、室内ドア、屋外階段などの部材ひとつひとつの形やサイズ、品質もさることながら、間取りの形まで決めておけば、コストダウンが図れます。さらに、施工手順や工程の管理によってもコストダウンは大きく変わります。

長谷工コーポレーションの設計・施工の定番は「直床構造(非二重床)」と言われますが、これだけでも手間は3分の1、材料費も半分ですむ、全体の工期も他社より1か月は短縮できると聞いたことがあります。

ただ、誤解のないように断っておかなければなりませんが、設計図まで長谷工にお任せにしたのでは、デベロッパーの色がなくなりますし、「売れる商品づくり」を目指すデベロッパーは、差別化という味付けを考えます。

大昔、長谷川工務店といった時代の設計は、外観だけでそれと分かってしまうのですが、今の長谷工は外形的には分からないように設計しています。

定番と述べた「直張り」も、デベロッパーの意向で二重床になっているケースは少なくありませんし、他の面でも定番のスペックを上回っているものもあるのです。

話を元に戻しましょう。三菱地所レジデンスのオイコスはなぜ生まれたのでしょうか?その背景について語りましょう

東日本大震災以降に起きた建築費の上昇は、マンション価格の高騰を招き、その結果、販売不振マンションを続出させるに至りました。

都心の一等地など、好立地では価格が高騰しても購買力の高い需要層が分厚く存在するので、売れ行きが鈍ったとはいえ、所定期間(遅くとも竣工時)には完売に至りますが、郊外物件や立地条件に弱点を持つ物件などは建物完成後も長く売れ残る事態になっているのです。

購買力が価格の上昇に追い着かない状態にあるためです。販売期間は想定以上に長くなり、最後の方は値引きによる販促もやむを得ない事態になってしまいました。

これは、三菱地所レジデンスのことではなく、市場全体・業界全体の問題です。もちろん、同社も例外ではありません。

とまれ、三菱地所レジデンスは価格をいかに抑制するかという課題に長谷工コーポレーションの力を借りる形で取り組み始めたのでしょう。野村不動産のオハナ着手に遅れること5年でしょうか? 

これまでも同社と三菱地所レジデンスの取引はあったのですから、なぜ今なのか理解に苦しむところです。現に、長谷工コーポレーションの施工で「ザ・パークハウス花小金井ガーデン(西武新宿線・花小金井駅7分)468戸」を今も販売中です。

多分、新たな厳しい段階に入ったのでしょう。

筆者が知る限り、三菱地所レジデンスの場合、「設計基準書」は、どのデベロッパーと比べても厳格です。正確には厳格でした。詳しくは覚えていませんが、「そこまで徹底するのだ」と品質へのこだわりに感心させられたことが記憶に残っています。

オイコスの仕様について、具体的な中身が分からないので現段階で論評はできませんが、他社の長谷工案件を見ていると、もはやこれ以上のコストダウンはできまい、筆者はそう感じています。

それを一段と踏み込んでオイコスでは断行するつもりなのかと訝しく思います。しばらくは三菱地所レジデンスの動向から目を離せないとも思っているところです。

背景のもうひとつは、用地不足です。都心でなくとも首都圏には人気のある街が多数あります。人気が高い場所のマンションなら多数の需要が集まり、価格が上がっても購買力の高い需要ボリュームも多く集まるので販売には苦労しないものです。

しかしながら、人気エリアにマンション用地はもともと少なく、それを多くのデベロッパーが虎視眈々と狙っていることもあって、取得は非常に難しい状況にあります。たまに、思い切って高値で入札しても、その上を行くライバル社や異業種が土地をさらってしまうというのです。

2012年12月に始まった「アベノミクス景気」が、1990年前後のバブル経済期を抜いて戦後3番目の長さになった。世界経済の金融危機からの回復に歩調を合わせ、円安による企業の収益増や公共事業が景気を支えている。ただ、過去の回復局面と比べると内外需の伸びは弱い。雇用環境は良くても賃金の伸びは限られ、「低温」の回復は実感が乏しい・・・最近の新聞にはこんなふうに書いてあります。

消費が相変わらず伸び悩んでいますし、節約志向もずっと続いています。先行きの不安を感じている人も多いようです。これが家を買おうとする気運が盛り上がらない要因なのだと思います

都心のマンションが比較的好調なのは、フルタイムの共稼ぎ族・パワーカップル(日本経済新聞の命名)の増加のためですが、郊外にパワーカップルは行かないのです。郊外マンションは夫だけの収入で予算を組む階層向けになるため、パワーカップルと比べると購買力は低いのです。

購買力に乏しい需要階層向けに低額マンションを開発しても、価格とのギャップはまだ大きいのでしょうか。上述の「ザ・パークハウス花小金井ガーデン」も西武新宿線「花小金井」駅南口 徒歩7分・8分と近くはないが遠くもなく、環境も静かな住宅街の中にあって悪くないのですが、Ⅰ街区:平成28年7月建物完成済、Ⅱ街区:平成29年1月建物完成済で、今も売れ残っています。平均坪単価は@210万円と決して高くはないのですが。

最近、バス便の物件も散見されますが、駅近よりは安いので買いやすく、それで手を伸ばす人もあるようです。しかし、販売は長期化の傾向を見せています。

結局、マンションが売れるか売れないかは、価格と購買力がマッチしているかどうかという点にかかってきます。

もちろん、立地条件との関わりによるのですが、「この立地では5000万円を超えたら売れない」とか、「この立地で5000万円の部屋を買ってくれる人はせいぜい10人だ」といった会話を業界内部では日常業務の中で繰り返しています。つまり、地域ごとの「限界価格」が存在するのですが、「価格の壁」という用語も生まれました。

最近数年の間に、地価が上がり建築費が上がって、限界価格を超えてしまうプロジェクトばかりになったのです。その壁を突破するために、マンション業者は知恵を絞り、様々な努力をして販売促進を図ろうとしています。それ以前に、いかに魅力あるマンションを造るかに知恵を結集しています。

しかし、地価は下がらないし、建築費も高くなったまま下がる気配は微塵もない。高い物件は売れない。この難題をどう乗り切るのか。各社、大きな課題を突き付けられています。

三菱地所レジデンスのオイコスシリーズが、この課題を克服するひとつの答えになるのでしょうか?

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