第583回 「築61年マンション。ついに建て替えへ」

日本で集合住宅というと江戸時代からあった「長屋」ですが、鉄筋コンクリ―ト造となると歴史は浅く、日本国内で最も古く、現存するものは、長崎県にある通称・軍艦島に残る複数の住宅のうち、7階建の30号棟と言われます。1916年(大正5年)の建設で、日本初の鉄筋コンクリート造の高層アパートとされています。

世界文化遺産に登録されたことでご存知の人も多いことと思いますが、軍艦島は明治時代から昭和時代にかけて海底炭鉱によって栄え、最盛期の1960年(昭和35年)には5,267人が居住、人口密度は東京特別区の9倍以上、83600人/km²と世界一に達したと言われます。

炭鉱施設・住宅のほか、小中学校・店舗・病院・寺院・映画館・理髪店・美容院・パチンコ屋・雀荘・社交場(スナック)などがあり、島内においてほぼ完結する都市機能を有していたそうです。

関東大震災の復興住宅として東京中心に23棟建てられた「同潤会アパート」も有名ですが、2015年を最後にすべて建て替えられました。最も有名な建て替え例は「表参道ヒルズ」です。

これらは、すべて賃貸住宅(同潤会は後に分譲された)でしたが、分譲マンションとしては、1955年に第一生命住宅(現、相互住宅)が「武蔵小杉アパートメンツ」を販売しています(後に建て替えられて「」武蔵小杉タワープレイス)等に生まれ変わった)。

翌年には、日本信販(現UFJニコス)の不動産部門である日本開発(株)が「四谷コーポラス」を分譲しました。28戸の小型マンションです。今となっては安アパート風ですが現存しています。これが最古の分譲マンションとして現存しています。築61年です。

この「四谷コーポラス」が、このたび建て替えられることが決まったと報じられました。マンションの建て替えは合意形成が難しく、事実上不可能な場合が多いのですが、ある要素が加わることで可能になるもののようです。

報道によれば、「四谷コーポラス」では28世帯が日ごろのコミュニケーションがよかったために合意形成がスムーズだったとあります(デベロッパーの旭化成不動産レジデンス談)。

筆者は、それだけではないと思うのです。何がポイントかというと、建て替え資金の捻出が比較的容易だったからです。

具体的な資金計画書を見たわけではないのですが、5階建て28戸が地下1階・地上6階の51戸に化けるようですから、もともと容積率に余裕があったか、容積率が割り増しになったかして建物のボリュームが増えたのです。増えた分を販売することで資金の大部分が賄えるからです。

建て替わる新築マンションのうち、28戸が所有者に渡されるか、金銭を受け取って他に移り住むかの選択になるわけですが、今回のケースは27戸が分譲対象とあるので、26戸が地権者に渡ることになったようです。

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(写真は四谷コーポラス:三井健太撮影)

●マンションの寿命は百年?

この報に触れて、昔のマンションは寿命が短いのか長いのか、果たしてどっちなのだろうか?そんなことを思った人もあったのではないかと思うのです。

先に述べた軍艦島は居住者のいない住宅なので、荒れ放題、「朽ち果てる寸前」という印象ですが、四谷コーポラスはコンクリートの躯体はしっかりとしています。同潤会アパートも築80年過ぎて居住者があったのです。

つまり、マンションの寿命は、80年は優にある、石炭産業が今も健在だったら軍艦島の集合住宅には今も人が住んでいたとするなら、100年の耐久年数があるとも思えるのです。

では、なぜ「四谷コーポラス」は61年で寿命を終えることになったのでしょうか?

コンクリートの躯体は、外からの目視では、まだ当分住めるような感じがしました。しかし、もしかすると雨漏りが頻繁に起きていたのかもしれません。エレベーターのない5階建てなので、不便をかこっていたのかもしれません。オートロックも何もないマンションなので、外部から管理人室の前をすり抜けて各住戸の玄関前まで侵入できてしまう不用心さが、セキュリティの高い住まいを望んだのかもしれません。

居住者不満や願望を知る由もありませんが、住み心地が悪かったことは間違いないでしょう。

マンションは「鉄筋コンクリートの躯体」と「エレベーターや水道・ガス・電機などの設備」とに大別されます。寿命は、それぞれに異なります。躯体は百年であっても、設備は40年程度と言われます。エレベーターは長くても40年で交換しなければ危険と言われます。

いずれにせよ、何もしないで永久に存続するわけではなく、人間とお同じように、年齢を重ねればどこかに故障が起きますし、筋肉が減ったり、骨が弱くなったりもするのです。また、百歳まで生きる人がある一方、60歳くらいで死んでしまう人がいるように、マンションの寿命はばらつきがあります。

 マンションが短命で終わるもの、長持ちするものと差が出てくるのは、下記にあげる要素が大きく関係しています。

①劣化のしにくさ
②設備配管類の維持管理のしやすさ
③入居後の適切なメンテナンス
④地震などの外的要因

耐久性を知る方法として、「住宅性能表示制度」を利用する方法があります。
同制度を利用したマンションでは、そのマンションがどれだけ長持ち仕様で造られているかを、一般の人にもわかりやすく表示しています。それが「劣化対策等級」というものですが、 等級ごとに、以下の耐用年数が期待できるマンションであることを示しています。

■等級3……おおむね3世代(75年~90年)
■等級2……おおむね2世代(50~60年)
■等級1……建築基準法に定められた対策がなされている(
最低基準)

新築マンションを調べていると、最近は半分以上が「等級3」の性能を有していると思います。

ということは、多くのマンションが75年以上の寿命があることになります。しかし、等級2以下でも、メンテナンスを適切にして行えば同じくらいは持つはずです。逆に、等級3のマンションでも設備を含めてメンテナンス・交換をきちんと実施しなければ寿命は50年くらいで尽きるかもしれません。

寿命の長さは「メンテナンス」の仕方がカギを握るということになりそうです。最近のマンションは分譲時から「長期修繕計画」を立案し、少なくとも30年間は計画的に大規模な修繕をして行きましょうと売主デベロッパーは提案してくれています。

購入後は売主との関係が薄れますが、居住者(オーナー)は管理会社の助言に従い、定期的(3~5年ごと)に計画書を見直し、30年後も、その後の10年なり20年なりの新計画書を策定してメンテナンスを適宜行うことが必須になります。

●中古マンション購入時の不安は余命か?

新築の方が中古より何となく安心と考える人が多い感じがします。感じがするというのは、購入予定者(ご相談者)との会話から筆者が心理分析した結果や具体的にヒヤリングした結果に基づいています。

「新築の方が、気持ちが良いから」と「中古は長く住めない気がするから」というのが最も多い理由です。

前者は理解できますが、後者の理由で中古マンションの検討を最初から諦めてしまうのは勿体ないと思うのです。なぜなら、中古の方が新築より良い物件が多いからです。

良い立地にある、良い間取りが多い、オープンスペースの樹木が育って無機質なマンションに彩を添え、マンション全体の印象が良い、管理状態も分かる(居住者のマナーの良し悪しが分かる・管理意識の高さが窺える)といった長所が中古マンションにはあるのです。もちろん例外もあるのですが、新築に劣るものは少ないのです。

「長く住めない気がする」というのも正しい認識ではありません。築75年がマンションの寿命だとして、築20年のマンションの余命は55年です。新築は余命75年です。この差を何と見るか、筆者は35歳のご相談者に聞くと、55年住めれば何も問題ないと答えが返ってきます。55年も住み続けるとは考えにくいとも仰います。

50歳の方は永住したいと言います。そして、「55年あれば百まで住み続けられるね」と答えます。

筆者は、「優良な中古」を探しましょうと進言することが最近は随分増えました。新築が少ない、高いばかりでろくなものがない。そんな思いが強いせいもあるのですが。

筆者が運営する別のブログ「三井健太の名作間取り選」
https://mituimadori.blogspot.com」をご高覧いただくと最近のマンションと古いマンションの間取りの違いが良く分かります。

古いマンションを買って、壁紙を張り替えるだけでも病院色の新築マンションよりずっと楽しいものです。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。

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