第584回 マンション価格と東京大改造計画

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マンション価格が急騰し、購買力が追い付かない状態。これが現状のマンション市場です。新築も中古も同様です。

新築が上がれば連動して中古も値上がりするという構図なので、安いはずの中古も随分高くなってしまいました。統計数字をグラフで表せば、中古が新築価格の下のラインを推移しているのは間違いないものの、特定エリアの特定物件を見ると、新築相場を超える価格で取り引きされている例もあります。

中古を検討している人から、「中古がこんなに高いなら新築の方がいい」といった声も上がっています。一般論としては、正しい見方かもしれません。

新築の供給が少なくなってしまったので、勢い中古に人気が集まり、結果として中古の価格が上がってしまうという状態にあるのです。

購買力が追い付かないほど高くなってしまい、買えなくなった人はどうするのでしょうか? 昔なら安いマンションを求めて郊外へ向かったものですが、最近の人は郊外へ目を向けない傾向が強いようです。

このため、郊外マンションは元々郊外に住んでいる人だけが買うということになるので、都心・準都心需要を誘引できないため、分譲主は販売促進に苦労しています。

「希望するエリアに買えるものがない」と嘆いていた人たちはどこへ向かったのでしょうか?そうです。ウエイティング中なのです。

買いたいものが出て来ると信じて新発売の物件を待ち続ける人も多数ありますが、ふたを開けてみると驚愕の価格。出し惜しみするかのような新築マンションの価格公表の仕方にいら立ちつつ、期待して待つ。しかし、どれも期待外れに終わるようです。

頭打ちになりつつあるとはいえ、まだ下がる気配を見せない。一体いつになったら手が届くマンションが出て来るのだろう。そんな思いを持ちながら、今日も新発売の物件を追いかける日々。

とっくに検討を諦め、「オリンピックが終わるまでは様子見だな」とか、「当分休憩するよ」などと仰る人も多いと感じます。

●無責任な「五輪後に価格は下がる」発言

筆者は滅多に他人のブログを覗くことはありませんし、掲示板も自分から探して見に行くことは年に1回あるかどうかというほど縁遠いのですが、偶然に何かの記事で「東京オリンピックが終わったらマンション価格は下がる」というくだりに遭遇することがありました。不動産関連の経済誌などにも同様のフレーズを見つけていました。

その種の記事は、2014年か15年あたりが一番目についたように記憶していますが、最近はどうなのでしょうか?

多くの識者が五輪後の景気失速を心配し、贅沢品(住宅もそのひとつ)が売れなくなるだろう、売れなくなれば当然のごとく価格が下がると発言していたものです。その受け売りで発言するブロガーや似非(えせ)専門家も続きました。

変人の筆者は、「そうかな」と疑念を持ち続けています。

筆者に届くメールには「今は買うべきではないのでしょうか?」や「オリンピックがお終わるまで待った方がいいでしょうか」という質問が頻繁です。インターネットや週刊誌の記事に影響を受けたのでしょうか。筆者は「買い時は今です」という趣旨のお答えをすることにしています。

その根拠についてはこのブログでも発信して来ましたが、今日は別の角度で自分の意見を強化しようと思います。

●マンションの原価は「土地代+建築費」

新築マンションの原価構成は「土地代」+「建築費」です。これで売値の80%を占めます。粗利は20%しかありません。ここから、広告費やモデルルーム建設費・運営費、販売手数料などを差し引くと利益は10%。大まかに言うと、こんな内訳になっています。

つまり、価格に影響を与えるのは土地代と建築費なのです。土地代は都心で高く、郊外は安いわけですが、建築費はどこでも大差がないので、都心は土地代と建築費が50:50くらいで郊外は30:70といったシェアになります。

マンション用地は、ある程度の広さが必要ですし、駅に近いもの、環境もできるだけ良いものをとデベロッパーは探し求めます。しかし、中々良い用地はありません。日常、たくさんの売地情報が飛び交いますが、「千三つ」の確率でも買えるかどうか、デベロッパーの用地担当者は「買えない・買えない」と嘆く日々を送っています。

都心部では、たまに中小ビルの所有者が廃業や相続に伴って売りに出すことがあります。最近3年くらいに急に増えた東日本橋当たりの新築マンションは、大半が中小ビル跡地ですが、中堅・中小のデベロッパー各社は、これらをこぞって仕入れ、小型マンションを建設しています。小型は大手は参入しないかというと「さにあらず」で、大手の三井、三菱、野村、東急なども顔を見せています。

「こんな小さな物件まで大手が」と感じるものすら大手が手掛けているのです。売り上げを大きく上げたい大手業者は、50戸建てるも500戸建てるも苦労は大差ないので、小規模マンション(小規模売地)は見送ることが多いのですが、適地がないので「背に腹は代えられない」と参入することもあるのです。

マンション用地は社宅跡地がふさわしいものですが、多くの企業が社宅を手放してしまい、最近はとんと売りものがないのです。倉庫跡地は湾岸エリア、工場跡地は板橋区や北区などから出て来ることはありますが、数が足りません。

最近は訪日客の増加でホテル需要が高まり、ホテル業者に横取りされてしまうとも聞きます。

嫁一人に婿10人状態のマンション用地は、高値になりがちです。立地条件がよく、まとまった広さの土地にデベロッパーが殺到し、互いに買収額を競り上げてしまうからです。

今後も、この傾向は続くことでしょう。郊外部はともかくも、都心・準都心、郊外でも駅前などの限られたマンション用地は下がる見通しが全く立ちません。

●建築費も下がらない

次に、もうひとつの柱である建築費について見ましょう。

東日本大震災以降、復旧・復興工事で建設業界は多忙を極めています。人手不足のために建築費は2割も3割も上がったと言われます。

建設という仕事は、ブルドーザーやクレーン車、杭打機といった機械も使うものの、過半は人力なのです。だから、建築費の45%は人件費と言われます。人がいないとどうしようもない仕事です。しかも一定の熟練者でなければなりません。鉄筋工、配管工、とび職、タイル工、大工といった専門職ばかりです。

官公庁から降りて来る仕事を業界内で分け合いながら存続していた建設業界が、あるときから劇的に減る方向へ潮流は変わってしまいました。このため、建設業界は統廃業や倒産が増えて、専門職は業界に見切りをつけて減少しました。

仕事が増えたから戻ってこいと言っても今更戻れません。高齢化も進んでいるので、人手は慢性的に不足しています。女性を雇用したり、外国人研修者を活用したりしていますが、殆ど焼け石に水と言われます。

結局、全国から職人をかき集めて不足を解消させているわけですが、日当(人件費)は上がらざるを得ません。人件費の上昇が一服したという声もありますが、人手不足は解消されていないために(2017年4月21日報道)、建築費が値下がりに転じることにはならないようです。

ときどき、建築資材(鋼材など)がいくらか値下がりしているという報道に触れることもありますが、先述のように建築費の45%は労務費(人件費)と言われるだけに、建築費が大きく下がる材料とはなりにくいのです。

今後の見通しについても、建築費に関しては悲観的な見方が圧倒的です。つまり、まだ東日本震災の復興需要は残っていますし、国土強靭化の名のもと、公共投資が急増しているうえ、今年(2017年)は東京オリンピック関連需要が本格化して来たからです。

今回のオリンピックは可能な限り既存の施設を利用しようとしています。大規模な競技場は「国立競技場」くらいですが、大きいのは中央区晴海に予定されている選手村の建設です。これは、オリンピック終了後に民間に払い下げられます。取得する民間企業は、これを住宅に改修して一般に分譲または賃貸することになりますが、選手村の建設費は全部で5600戸もの大規模なものだけに、周辺整備費も含めると数千億円にもなると見込まれています。

老朽化した高速道路の改修をはじめとする道路工事などを含めると、オリンピック関連工事は、兆円単位で発生すると言われます。

これらの建設は五輪後になくなるわけです。特需的なものがなくなれば、必ず反動減になり、価格も下がる。これが常識です。マンションの工事費が下がるとしたら、東日本大震災の復興工事がなくなり、東京オリンピック関連工事がなくなって建設業界が暇になることですが、急激な落ち込みはないという見方も少なくないのです。

これまでもそうであったように、新たな仕事は生まれて来るものです。代表的なもの、それが、東京都心の再開発です。公共工事も出て来るはずです。

●再開発が建設業界を後押しする

過去の景気対策を見ると、政府が打ち出すのは決まって公共工事です。高速道路やダム建設、庁舎の建て替え、学校の建て替えといったものでした。これらの一部は「箱もの行政」という批判のもとに消えたかのようですが、形を変えて続けられています。

アベノミクスも異次元の金融緩和と公共工事が柱といって過言ではありません。景気対策を前面に出すかどうかは別として景気浮揚策は政権が決して手放さない政策の柱です。何故なら国民が常に望むテーマだからです。

今後の公共工事は老朽化したインフラ(橋梁や道路など)の改修工事が中心になるかもしれません。50年を経過して問題になっている施設・設備が無尽蔵にあると言われるからです。小池都知事が打ち出している「無電柱化」も公共工事として浮上して来ることでしょう。

東京だけでなく地方の大都市でも再開発ブームが続いています。老朽化インフラと同じで、街も老朽化しています。人口の集中が続く大都市では、土地の効率活用、すなわち高度化が必須になっています。容積率のプラスによって再開発を誘導しようという動きも活発ですが、これもアベノミクスの一部です。規制緩和の一環というわけです。

東京を見ると、10本の指では収まりません。次で具体的におさらいしてみますが、既に工事が始まっていて東京五輪までに終わるものもありますが、五輪後も続く大型案件、これから始まる案件が目白押しにあります。これらが、建設業界の繁忙を支えることになるはずです。

とすると、マンションの建築費が下がるという見通しは出て来ません。

●東京大改造プロジェクト

オリンピック用のホテル建設は急ピッチかもしれませんが、とても足りません。民泊で対応しても足りるのかどうか微妙と言われます。東京オリンピック以降も訪日外国人は増えると見込まれていますから、ホテル建設ブームは続くことになるのでしょう。

さらに、品川駅のリニア新幹線関連工事や山手線の「新駅」の開設と関連工事、浜松町駅周辺開発、日本橋呉服町再開発など、都市再開発が目白押しに予定されています。

品川地区・・・JR東日本が車両基地の活用で新駅(山手線・新田町)とオフィスを開発する。JR東海がリニア新幹線を計画

虎ノ門~麻布台地区・・・森ビルが中心に、虎ノ門ヒルズ周辺で外資系企業を誘致するためのオフィス備(虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー・虎ノ門トラストタワーなど)やインターナショナルスクール、住宅などを整備するほか、日比谷線の「虎ノ門駅」の新設や空港リムジンバスも発着可能なバスターミナルなども設ける予定で、六本木ヒルズに匹敵する規模のグローバルなビジネスセンターとする予定。
330mの超高層ビル(一時的に日本一の高さとなる)など、一部は2022年に完成予定。

日本橋~八重洲地区・・・三井不動産が商業施設を併設したオフィスビルを整備

渋谷地区・・・東急電鉄などが駅ビルを超高層化(渋谷キャストをはじめとする複数の商業ビルが誕生する。ほかにも代官山Rプロジェクト=東急東横線の地下化でできた渋谷―代官山間の線路跡地にビル2棟建設。ホテルやオフィス、保育所などが入居予定)

浜松町地区・・・世界貿易センタービルの建て替え・ニッセイ浜松町クレアタワー・竹芝ウオーターフロント開発事業

田町地区・・・三菱地所と三井不動産がオフィスビルやホテル建設中

有明地区・・・住友不動産が商業施設や外国人向け住居を整備

その他・・・・日比谷三井ビル建設/三井物産本社ビル建て替え計画

●2020年以降も続く東京大改造計画

東京駅常盤橋地区・・・三菱地所が日本一の高さ390mとなる大手町常盤橋B棟を建設する。27年に完成する予定

東京駅八重洲地区・・・三井不動産による八重洲二丁目地区再開発

中野地区・・・中野サンプラザ・区役所一体開発

東京都だけではありませんが、リニア新幹線の計画は、トンネルなどの土木工事と、品川駅・名古屋駅などの新設工事が2025年頃までかかるようです。

●結論:マンション価格が下がらないかも

マンション価格は下がりにくいことがお分かり頂けたと思います。土地代も建築費も下げ余地が少ないのです。

しかし、価格を下げなければマンションは売れません。既に2年前の秋以降、販売不振状況にあるのです。昨年は価格が頭打ちになりましたが、今年もじわりと値上りが続いています。このままではけがをする、そんな危機感をデベロッパー各社は抱いています。しかし、有効な策は描けていません。

最後の策は、利益率10%を5%に圧縮することしか考えられません。設計変更をして建物グレードを下げる策も限界に来ているからです。

買いやすい価格のマンションを郊外に作るとか、駅から遠い立地に建てるのも決め手にはなりません。デベロッパー各社は八方ふさがり状態です。もはや最後のカードを切るほかないのです。しかし、利益率10%をゼロにして販売することはありえません。せいぜい5%程度の圧縮が限度です。つまり、これから値下がり局面を迎えるとしても、その程度なのです。

2009年、2010年頃も同じ状況でした。2005年頃から2008年にかけて急騰したとき、各社が取った策は利幅の圧縮でした。土地はもう既に高値で購入していたので原価は変わりませんでした。建築費も、大きく下がる環境にはなかったのです。建物をシンプル設計にしたり、グレードを下げたりという策も取ったものの、それだけでは足りず、仕方なく利幅も圧縮したのです。

当時の価格(坪単価)の推移を見てみましょう(23区平均)

2005年:226万円
2006年:236万円(上がり出した年)
2007年:282万円(前年比19%もの急騰)
2008年:281万円(頭打ち)
2009年:263万円(6%の低下)
2010年:274万円(再び上昇したが前・前年比3%の下落)
2011年:268万円(前年比2%の下落)
2012年:264万円(今回の値上がり前の最後の年。2013年以降は再び急騰。2007年比6%の下落に過ぎなかった)

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2012年が今回の急上昇局面での最後の安値の年でしたが、ピークの2007年・08年から僅か6%しか下がりませんでした。この年が東日本大震災の翌年に当たっています。

蛇足:2015年:326万円(2013年以降急上昇。2012年比23%アップしてようやく頭打ち)/2016年:332万円(しかし、昨年も僅かに上昇。2017年も同様の傾向が続いている)

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