第599回 安価な建売住宅に思う
- 2018.01.10
- 建て売り住宅
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論を展開しております。資産価値を重んじる方のための購入のハウツーをお届けするもので、お気に障ることもあろうかと思いますが、満点の家はないと思っていただき、失礼はお許し下さい。
5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
筆者は、親の家を建て替えた経験を持ちます。わけあって、そこが筆者の本宅です。基本設計は筆者自身でやり、某ハウスメーカーの設計士と2回か3回打ち合わせしただけで、発注し建設しました。
長年、マンション暮らしの筆者ですが、一戸建ての居住性はマンションとは一味違って、それなりの満足感があることを実感しました。リビングを吹き抜けにして天窓を設けたので、明るさも想像以上だったこと、こだわりのトイレなど、自分が設計に深く関わったことも満足感を一層高めるものでした。
妻に色決めを任せたところ、予算の中で選べる製品に好みの色がなく、気に入ったカラーの便器や洗面化粧台、浴槽、キッチン、建具のデザインなどは全て上級品のグループから選ぶこととなりました。おかげで、建築コストが当初の見積もりより1000万円以上も上がってしまったのです。
そのせいかどうか、家族の満足度も高く、快適に暮らしていると感じています。義母も大切に使わせてもらうと語り、言葉どおり草花をめでるかのように奇麗にしてくれています。
一戸建てには、マンションにない良さがあるとともに、短所もあります。我が家は二階建てですが、年老いた親が2階に上がってくることはありません。筆者を除くと、女性ばかりの家なので、セキュリティの面でも心配があります。誰もいない日はありませんが、窓が多いので戸締りには気を使うようです。
マンションばかり研究して来た筆者ですが、一戸建てに無関心なわけではありません。2017年12月22日の新聞記事(日本経済新聞)に「戸建て分譲住宅に割安感。マンションに比べ建設費上がらず」というのがありました。ご覧になった方も少なくないことと思います。
割安な戸建て住宅が伸びているらしいという話は1年以上前から聞いていましたが、拍車がかかっていることを示すのが、この記事なのでしょう。
新聞によれば、70㎡換算価格で新築マンションと建売住宅の価格を比較し、次のように紹介しています。
土地の面積は一切無視して価格を比較しているのが問題ですが、先ずはご覧ください。
世田谷区 建売5532万円 マンション7258万円 (マンションが31%高)
杉並区 建売5260万円 マンション7711万円 (同46%高)
練馬区 建売4229万円 マンション5792万円 (同37%高)
江東区 建売3894万円 マンション6573万円 (同69%高)
町田市 建売2826万円 マンション5090万円 (同80%高))
埼玉県川口市 建売2503万円 マンション5100万円 (同104%高)
横浜市戸塚区 建売2900万円 マンション4899万円 (同69%高)
千葉県船橋市 建売2235万円 マンション3894万円 (同74%高)
新聞によれば、建売住宅の大手・オープンハウス社の価格は都区内中心(シェア70%)で一戸平均4435万円で、5年前と変わっていないのだそうです。ついでに、引き渡しベースの販売戸数は、過去2年で70%も増えたとあります。
これに対し、新築マンションは高値が続いており不動産経済研究所の11月のデータは首都圏全体で5551万円、アットホームが集計した建売住宅の平均価格より60%も高いと告げています。
東京カンテイのまとめでも、1~11月(上記の市区別データも同社)の首都圏の全ての市区でマンションが建て売り住宅を上回ったそうです。70㎡換算ではなく、単純な分譲価格の比較ではマンションの方が建売住宅の20~40%高のようです。
マンション価格が高くなったのに対し、建売住宅の価格が安定しているのは、二つの理由が考えられます。
ひとつは用地代です。100㎡でも建設可能な建売用地に対し、マンション用地は商業地でも500㎡、できれば1000㎡以上といった、まとまった広さが必要です。
交通便も建売住宅が駅から遠くでも商品化できるのに対し、マンションは駅から徒歩10分以内でないと難しいといった差があります。このため、マンション用地は希少で高値になる傾向があります。
二つ目は建築費です。マンションは鉄筋工、とび職、型枠大工などの不足が続いているが、建売住宅は職人の不足感が薄いそうです。国土交通省によれば、2016年の新築マンションの1㎡当たり工事費は2011年に比べて30%も高くなったが、建売住宅はほぼ横ばいだそうです。
マンションの建築費が何故こんなに上がったのか、その背景に「東日本大震災の復興工事」とアベノミクス関連の「公共工事の増発」、「都心の再開発事業」、「オリンピック関連工事」があるというのが定説です。
●建売住宅の立地と建物品質
マンション立地は駅から徒歩10分以内が圧倒的に多い(それを超えると売りづらいという経験則による)のですが、建売住宅は駅から遠いものが多いのです。
いつも不思議に思うのですが、マンションの購入者は利便性を優先条件にしていますが、一戸建て購入者は利便性を妥協してしまうようです。一戸建てを購入する人だって便利な場所の方が良いはずです。
駅に近いところには物件がないからでしょうか?
駅に近いところにも売土地はあるはずですが、地価が高いので建売業者は敬遠するのでしょうか?
建売物件を見てみると1カ所で、3棟なり5棟なりを建てています。1棟だけの建売は少ないのです。つまり、まとまった大きさの方が効率は良いわけです。ところが、大きい土地はマンション業者と競合します。その結果、高い土地を仕入れることになりかねません。それを避けようとすれば、結局は駅から遠い土地を選ぶしかないのかもしれません。
建物の品質はどんなものでしょうか? 安普請なのではありませんか?そんな疑問を持たれる人もあるかもしれませんが、軽々に批評はできません。冒頭で述べたように、有名なハウスメーカーで建てた筆者宅の注文住宅も当初契約の数字と変更やオプションで1000万円も変わったのです。つまり、材質やデザインなどによって価格の幅は大きいのです。
安い建売住宅は、目が肥えている購入者を想定していないのだと思います。それで十分満足と感じる需要層を対象に販売しているとも言えるかもしれません。昨年、建売住宅を2カ所だけ見学しました。
比較的高額な物件と下町の廉価な物件ですが、やはりと言うべきか、筆者にはどちらも「こんなものか」という印象でした。
価格ありきなので敷地面積は狭小です。庭はなく、場所によりますが、50㎡の敷地面積という建売住宅もあるのです。当然のように3階建てのプランになっています。
●どちらを選ぶかは個人の価値観によるが
マンションは、区分された住戸を購入するように見えて、実はマンション全体を購入しています。外壁、屋根、外構、中庭、エントランスホールや廊下、エレベーターなどの共用部とともに購入するのです。
格好のいい外観、広く豪華なロビー、まるでホテルのような内廊下、共用ではあるがゲストルームやスタディルーム、子供の遊び場といったものを商品の一部、プラスアルファの価値と見て買うのです。
また、マンションの「眺望」などは建売住宅には望んでも得られないプラスアルファです。
そうしたものを無視して、かつ駅に近いかどうかなども無視して価格を比較することにどれほどの意味があるのでしょうか?マンションか一戸建てかの問題は、個人の価値観によるのだと思います。例え安くても、駅から遠いところには住みたくないとか、たとえ安くても3階建ての庭もないような一戸建てはいやだ、反対に70㎡では狭すぎてマンションはダメとか、管理費や駐車料金が勿体ないからマンションは選ばないなど、考え方は人それぞれです。
ただ、マンションは上述の付加価値があるうえに建売住宅より安かったのが、いつのまにか逆転したという事実を異常と捉えて報道したのかもしれません。
その昔、マイホームといえば「狭いながらも庭付き一戸建て」と相場が決まっていたのが、地価の高騰で一戸建ては夢のまた夢に遠ざかり、代わって登場したマンションが、都会におけるマイホームの主流になって行きました。
東京の人はマイホームを考えるとき、最初からマンションという人が多いのです。新築のモデルルームを見て感激し、ますますマンション購入に憧れ、建売住宅という選択肢はどこかに行ってしまったようです。
そこに登場して来た安い建売住宅(マンションが上がったことによって相対的にやすくなったんですが)、そこに飛びついた人も多いに違いありません。
●一生そこに住むことになるかもしれない
しかし、その建売住宅は古くなったらどうなるのでしょうか?マンションのように転売はできるでしょうか?できるのは間違いないとしても、どんな値段になってしまうのでしょうか?木造住宅の建物評価は20年でゼロなどという定説もあるようです。つまり、20年後に売るときは土地代だけになるという話です。
マンションだって選択を誤れば、20年経て半値になる例がないわけではありません。しかし、一般的には貸しにくく売りにくいのが建売住宅だと言われます。
筆者の家は、やがて使わなくなる可能性があります。そのとき、どう処分するのかは悩ましい問題です。多分、半値八掛け以下だろうし、それでも売れないかもしれないと思っています。賃貸も簡単ではありません。
親戚の誰かにタダ同然で売るか、わずかな賃料で住んでもらうかになるだろうと今から覚悟していますが、それは立地条件が悪いからです。
都区内の建売住宅は、筆者の家より立地は数段上でしょう。だから、そんなことにはならないはずです。しかし、購入者の皆さん、将来のことをどこまで考えてお買いになっているのか、単にマンションより安い、マンションより広いというだけで購入しているとは思えないのですが。
少し前にご相談のあった方の場合は、転勤もないし、自営業なので一生そこに住むことになるでしょうから、売却も賃貸も考える必要がないという話でした。このような家族だけが建売住宅を選択しているわけではないでしょう。
低額の建売住宅の台頭をどうとらえていいものか少し悩んでみようと思います。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。
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