第683回 「40年先を見据えてのマンション購入作戦」 シリーズ第2回・郊外の一戸建ては危険?

※このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております

10日おきの更新になりました。引き続きご愛読賜りますようお願い申し上げます。(次回は6月20日です)

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40年、そんな先のことまで考えて買う人は現実にはいないかもしれません。しかし、敢えて先の先まで考えてマンションを買うことの大切さについて述べたいと思います。シリーズ第2回です。

前回の記事で、Xさんは想定外の家庭内事情から郊外の一戸建てを手放し、都内のマンションへ買い替えることを検討している話をしましたが、一戸建ての売却予想額は購入価格の半値以下というものでした。

今日は、一戸建ての資産価値についてマンションと対比しながら、お伝えしようと思います。

●郊外の一戸建てが値下がりしやすい理由・背景

 一戸建ては建物部分が20年も経過すると評価ゼロになるので、地価が大きく上昇しない限り、値上がりすることはないという分析が一般的とされています。

 地価上昇が長く続いていた時代、建物は古くなっても地価上昇が建物の減価分を埋めてくれると考えられていました。

 現在は反転して郊外の需要は減少し、従って地価も下がる一方というトレンドが続いています。地価が下がれば、建物の減価率の高い一戸建ては急カーブで値下がりするのが道理です。

 ところで、建物が20年で評価ゼロになるのは何故でしょうか?実際には、まだ十分な耐久性があるはずです。最近、大手ハウスメーカーなどが、自社建築物件に限って独自の評価システムを設け、20年でもゼロにならないケースがあることを証明しているのですが、他は相変わらず「ゼロ評価」となるようです。

 20年でゼロ評価は、中古住宅を取り扱う仲介業者に建物の精密な評価システムがなく、単純に築年数だけで減価率をはじき出すという旧来の査定方法を用いているためです。

 ともあれ、郊外の一戸建て住宅は土地代だけの非常に安い査定となるだけでなく、安くないと売れないという市場実態があるのです。

 繰り返しになりますが、郊外の一戸建て需要は急速にしぼんでしまったからです。

郊外に初めて家を買いたい若年世帯そのものが減少し、シニア世帯も不便な一戸建て立地を嫌って、駅前マンションに買い替える動きを見せています。男女雇用均等法の成立以降、正規職員の身分で働き続ける女性が年々増えて、昨今の若い世帯は遠方の家を敬遠する傾向が強くなったためです。

 売り手は多いが買い手はいない。極端な表現をお許しいただければ、郊外の一戸建ては、こんな状態にあります。

 今後もこの傾向は続くはずです。なぜなら、都心の職場では結婚後も働いてくれる女子社員を望み続けるからです。少子高齢化の進行は、働き手の絶対数が増えないことを意味し、外国人では代替(だいたい)できない構造になってしまったからです。

●都区部の一戸建てならどうか

 郊外の一戸建てはその価値が坂道を転げるかのように下落してしまうことは確実です。もはや誰も買わなくなる、そんな時代が早晩やって来るかもしれません。

 では地価の下落確率の低い都区部の場合は大丈夫なのではと考えてしまう人もありそうですが、コトはそう単純ではありません。

 都区部の地価は既に高いわけですから、一般サラリーマンが手を出せる一戸建ての敷地面積は100㎡もない物件が多いものです。しかも、マンションのように駅から5分などといった利便性の高い住宅は殆どないのも実態です。

 駅から遠くても10分までの条件で探すと、敷地は60㎡、70㎡などとなってしまいます。

 密集地にあって両脇を似たような家に挟まれていたりもします。家のつくりも、高級感があるとは言えません。2階建てならまだしも、3階建ても多いのです。

 このような一戸建てでも、利便性から買い手は現れますが、建物評価は郊外とさほど変わりません。土地分は値下がりなく評価されるものもあるので、郊外ほどの値下がりはないのが救いですが・・・。 

●マンションか一戸建てかは最終的に個人の価値観による

 狭小敷地の3階建て住宅でも構わないという人、せめて2階建てで敷地は100㎡程度ある家が欲しいと、東京都下などで物色する人もありますが、いずれも駅から徒歩10分圏には多くないのです。

 そうなると、共働き世帯には通勤の問題が重くのしかかって来ます。無論、予算を増やせば駅から5分で敷地も100㎡以上、建物も高級感がある物件を購入できるのは言うまでもありません。

 大手マンションデベロッパーは、建売り部門も設けて分譲を手掛けて来ました。そんな建売住宅に筆者も偶に出逢うことがあって、実物を見学したりすることもありますが、この立地とこのグレード感、広さがあれば満足する買い手もあるだろうな。価格もサラリーマン諸氏が買える手ごろなレベルなので。

 そんな感想を抱きます。

 管理費も修繕費の積み立ても不要だし、駐車料金もいらないなら一戸建てを選択肢とするのも悪くないのではないかとも思ったりもします。

 しかし、マンションには管理費等の出費があっても一戸建てより良いと考える人が東京には多いわけで、比較すればマンションに軍配が上がるということなのです。

 マンションか一戸建てかの選択は、資金事情によって答えが出てしまう場合が大半ですが、立地条件や建物品質を妥協しても一戸建てにこだわる人が少し存在するのも確かです。

 どちらにするか、最後は本人の人生観や価値観によるとしか言いようがありませんが、都区部においては圧倒的にマンション需要が多いだけに、一戸建てを選んでしまうと後悔することになる可能性が高いと思わざるを得ません。

●マンションでも買ってはいけないものがある

 マンションの方が市場は大きく、東京圏で選ぶならマンションに限ると筆者は考えますが、マンションなら何でもいいわけではありません。ここでおさらいをするのはやめますが、買ってはいけないマンションも多いのです。

 一戸建てもマンションも、個別の条件によって差があるわけで、一般的な傾向や常識に当てはまらない価値変動を見せる例があることを記憶にとどめてほしいです。例えば・・・

 都区内でも、駅から近いから大丈夫と思っていたマンションが、期待外れの評価になってしまった。理由を調べたら「徒歩10分」の条件がネックになっていると分かった――こんな例があります。最近は徒歩5分以内の希望が多く、10分は遠いと考える人が多くなったからです。

 一方、徒歩12分と遠いにもかかわらず、市場評価は徒歩3分の物件と変わらない例もあります。駅からの距離だけですべてが決まるわけではないことを裏付けています。駅から遠いことは致命的な弱点と言われる中、その物件は別のプラス要素が多数あり、弱点を完全に補っていたからです。

●Xさんの選択したマンション

 都心でもすべてのマンションが高い資産価値を維持するわけではありません。売却時に有利なマンション選びをしましょう。その要点は・・・・です。このようにレクチャーしておいたせいもあって、また、面談時間の中では話足りないからと勧めた拙著「マンション大全」を読みこなしたというXさん夫婦は、素晴らしいマンションを選びました。

 無論、そもそも買い替えの動機は娘さんの都内ワンルーム移住をやめさせることだったので、娘さんの通勤が優先される選択になりました。会社まで乗り換えなしで通勤できることは当然、鉄道の乗車時間が僅か10分という利便性の高い物件を買ったのです。

 新築では無理だと分かっていたので、中古マンションで築10年、タワー大規模、ブランドマンションをX家はゲットしました。依頼のあった、評価レポートの文中に「住んで誇りを感じるマンション、自慢のマンションとなることでしょう」と筆者は書きましたが、Xさんもご満悦だったようで、部下や知人など誰を呼んでも恥ずかしくないマンションだと胸を張りました。

 ときどきマンション内の展望ラウンジやパーティルームを利用して、部下とのコミュニケーションを図ったりするそうです。

●Xさんと10年ぶりの再会「終の棲家をどうする?」

 Xさんが都内の新居を買ってから10年ほど経ったある日、コンタクトがあって筆者との再会が実現することになりました。言わずもがな「相談したいことがある」というのです。

Xさんのご相談以下のようなものでした。

「買ったマンションは築20年を超えたが、維持管理が良く立地条件が希少だということから、今でも人気が高く、経年減価はほとんどないどころか、最近は少し上がっている。売れば結構なキャッシュが残りそうなので、含み益を実現させて手元資金の余裕を持ちたい。3年前に定年になり、今は子会社で働いているが、70歳になったら仕事を辞めて伊豆で暮らそうと考えている。娘も嫁いだので夫婦二人だけの暮らしだ。伊豆では中古の別荘を信じられないほど安く買うことができそうだ。キャッシュで買っても、現金資産は十分に残るし、生活費も田舎暮らしなら安く済むのではないかと考えている。伊豆移住計画はどうか?」――このようなものでした。

Xさんとの対話をご紹介しましょう。

「確か20年ローンで買われたのでしたね?」

Xさん「そうです。10年経過したので、残金も半分近くまで減りました。いつの間にやらという感じですが、良いマンションを買えたおかげで、売却後の手取り額を計算してみてびっくりしました」

「住宅ローンの返済は貯金と同じですからね。Xさんが建売住宅をお買いになった30年前と違って、毎月の返済は金利に消える部分が少なく元本返済にどんどん回って行くのですね。ですから、毎月積み立て貯金をしているようなものです。ただ、その貯金も自宅マンションが値下がりすれば吹き飛んでしまうので、元本無保証型の貯金というわけです」

Xさん「マンションを買ったときは、毎月の返済額が大きく増えたので正直なところ抵抗もあったのですが、ローンの返済って捨てる金でないのですね。三井さんの本にも書いてありましたが、最初の家で大損し、今度の家で儲けたので、実感しています。伊豆の別荘を買っても、手放すときには二束三文になってもいいくらいの鷹揚な気持ちになれそうです」

「伊豆も広いですが、リゾートマンションでなく一戸建てなのですね?」

Xさん「そうしようと思います。一人なら管理人さんの常駐するマンションがいいと思うのですが、当分は家内と二人なので」

「なるほど、悪くないですね。確かに500万円も出せば、300㎡の敷地に100㎡の住宅がついている物件がゴロゴロしていますものね。家賃10万円で借りたと仮定して比較すると、5年分程度の負担で買うことができるわけですから、6年目以降はタダで譲渡しても損はないことになりますね」

Xさん「そうなんですよ。田舎暮らしなら生活費も少なくてすみますから、年金で足ります。貯金には手を付けずに妻に残してやれますし・・・」

「良いお考えです。ただ、田舎暮らしは都会にはない苦労もあると聞きます。そのあたりのことはよくお調べになってから行動に移された方がいいですね。私なぞは、田舎暮らしが性に合わないので選択肢にありませんが・・・」

Xさん「少ない資金で終の棲家を手に入れる策は他にありますか?」

「家財はできる限り処分し、大切なものだけトランクルームに預けて、1LDKマンションを都心から少し離れた駅の駅前などを買うというのはどうですか?伊豆の別荘よりは高いですが、将来の処分ははるかにしやすいですし、二束三文なんてこともありません。奥様が一人になっても、そのまま住み続けることもできます」

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 Xさんの終の棲家に関する結論は持ち越しになりましたが、複数の選択肢が考えられることだけは分かりました。それも、買ったマンションが期待以上のキャッシュを生み、金銭的な余裕があればこそでした。

Xさんはこう述懐しました。

「もし、娘が一人暮らしをしたいと言い出したとき、それを許して郊外の一戸建てにこだわりを持ち続けていたら、余裕ある老後はなかったかもしれません。勿論、三井さんのナビゲートがなければ今の価値あるマンションを手にすることもなかったと思いますが」

●次回は「古~いマンションを買ったYさんの話」

 ここからは、Yさんのご相談に移ります。ときは、東京オリンピックが終わって1年、2021年秋のことでした。

 Yさんは50歳。2007年に築25年の古いマンションを購入しました。今、築39年になる自宅の売却を考えたいというご相談です。

Yさんの所有マンションは23区の東部、地下鉄沿線で駅から5分にありました。3百戸余の大型物件です。工場跡地を開発したらしく、敷地の広さを生かして、敷地内にはプライベートガーデンと広場などがレイアウトされ、敷地外周部と広場には高木が生い茂っています。少し大仰な表現をすれば森の中のマンションという風情です。

 最近1年の取引価格を調べてみると、意外に安いことが分かりました。Yさんからもらった情報では、大規模修繕も2年前に終わったそうで、管理状態はとても良いのだそうです。修繕積立金も1戸当たり200万円を超すそうで潤沢な管理組合であることが分かります。

駅から近い、閑静な住宅地、駅力も低い方ではない、買い物施設も飲食店も十分そろっている街です。なのに、同年数の近隣マンションに比べて高値を付けているようでもないのです。それでも、購入した額よりは高く売れる可能性が高いようでした。

Yさんは、このマンションに住み続ける選択肢も捨ててはいないようでしたが、築40年を迎えるに当たって、今後は価格上昇の期待が持てないので、今が売り時ではないかと考え始めたのです。

・・・・・・・・・・続き「Yさんのご相談経緯」は次回お送りします。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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6月5日の第210回は「坪単価の高いマンションほど値下がりしにくいものだ」です。

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