第601回 今は中古の選択が良いのかもしれない
- 2018.01.20
- 中古マンション
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論を展開しております。資産価値を重んじる方のための購入のハウツーをお届けするもので、お気に障ることもあろうかと思いますが、満点の家はないと思っていただき、失礼はお許し下さい。
5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
第592回 で「中古も視野に入れるべきという根拠」を書きましたが、補足をしておきたいと思います。
あるご相談者のお便りの中に「新築マンションは、後年敬遠される可能性は高くないですか?」という一節がありました。長年マンションマーケットを見て来た筆者でも、読者やご相談者が気付かせてくれることもあって「はっ!」とするのですが、このご質問も将に良い教訓でした。
今日は、ある年代の中古マンションは最近の新築より品質が上という話をしたい と思います。
●新築マンションの値上がりの裏で
既に多くの読者はご存知のことですが、東日本大震災の翌年くらいから建築費の上昇が始まり、マンション価格を押し上げて来ました。更に地価(マンションの用地費)も高くなり、マンションの2大原価がともに上がったのです。
それが分譲価格の高騰となって表れましたが、首都圏の価格上昇の推移を平均単価で示すと、2011年:@214万円➡2012年:@213万円➡2013年:@230万円➡2014年:@235万円➡2015年:@257万円➡2016年:@262万円と、2016年は2012年比で23%の上昇となったのです。
5000万円が6150万円になった勘定です。
底だった2012年を100としたとき、 2013年は8%の急上昇でした(108)。2014年は同10%上昇の110と頭打ち感が見られたのですが、2015年に入ると再び上げ足を早め、2012年比で+20%の120と急上昇しました。
2016年も億ションの発売が減って1戸当たりの価格は低下しましたが、単価は僅かながら上昇となりました。2017年も年間の集計が終わっていないので不明ですが、11月までの数字を見ると前年同月比でマイナスだった月は1回だけと、上昇基調が続いています。
価格の上昇に購買力が追い着かなくなれば売れ行きは必ず悪化します。詳細は省きますが、事実2016年初頭から契約率が低下し、販売戸数も伸び悩んでいます。
一般消費財の場合、原価が上がっても、そのまま売値に転嫁することを避けています。企業努力によって、赤字ギリギリまで頑張るのが一般的です。その努力が限界に達したとき、「値上げさせていただきます」とプレス発表までして値札を付け替え、価格はそのままに分量を減らす策(事実上の値上げ)を講じます。
一般消費財は、値上げするとたちまち売れ行きに響くので、値上げはしたくてもできないのが実情で、価格を据え置くために、スーパーマーケットなどは逆に値下げするために、様々な知恵と工夫を日々繰り返しています。
新築マンションの場合は、原価が高騰したので「値上げします」などという宣言はしません。言うまでもなく、同じ商品は二つとないからです。
勝手に(一方的に)値段を決めて売り出すのです。同じマンションを例えば2年前に建てたら、この価格より10%は安かったであろうと推定はできても、土地の仕入れ時期も建物工事の発注も2年前ではないわけですし、値上げということにはならないのです。
新築マンションは原価が上がったのだから仕方ないと、少し前(1年か2年前)に販売した同地域の同程度のマンションに比べて明らかに高い価格で販売を始めるのです。
1円でも安くと努力を続けている消費財と異なり、「価格.COM(ドットコム)」のような比較ツールもないマンションは、唯一無二の強みから、高くなった商品を涼しい顔をして店頭(モデルルーム)に並べて売っているというわけです。
●マンションメーカーの努力
一般消費財の中には物価の優等生などと言われる商品もありますが、そうでないものも含めて多大な価格抑制努力を続けているのは、消費者でも想像がつきます。
マンションメーカーはその努力をしていないのでしょうか?全くしていないわけでは無論ありませんが、努力の余地が極めて少ない商品なのです。
用地費はマンションメーカーがコントロールできることではありません。建築費もゼネコンに発注するのですから、そのゼネコンがコスト抑制のための努力をしてくれているとはいえ、現実は下がらないのです。大量に発注するから安くしてなどという交渉も通じません。
コンストラクション・マネージメント(CM。工事を種別に分割して、それぞれの専門業者に発注する方式)という手法を使えば安くなると、一時流行しかかったことがありましたが、建設業界の慣行に馴染まなかったらしく、定着しませんでした。
今も、元の形式(総合建設会社=ゼネコンに一括発注する)が主流です。そのゼネコン業界が画期的な低額請負を主導しなければマンションメーカー(デベロッパー)には、手の打ちようがないのです。
●マンションメーカーの非常手段
価格が上がっても、金利が下がったことで購買力が実質的に上がり、またアベノミクスのおかげで一部の企業で賃金が増えたり、株価の上昇が富裕層の財布のひもを緩めたりの効果もあって、高値のマンションがむしろ良く売れたりしています。
しかし、住宅ローンの金利低下以外の恩恵にあずかれない一般サラリーマンには関係ない話です。買いたい地域では、もはや手が届きそうな物件がないのです。遠くの街なら安いマンションもあるようだが、そこまでは行きたくないと購入をためらうどころか、検討対象にすら上がらないのです。
かくして、都心部よりは安いにかかわらず、遠方のマンションで売れ残ってしまったマンションが少なくありません。マンションメーカーは、当然ながら他社の動向も注意深くウオッチしています。「安くても、このエリアには買い手が集まらないなあ」と分析します。
もちろん、都心や準都心では大規模で立派なマンションが建てられる土地がやすやすと買える状況にないので、「この立地、この建物、この価格では売れない」のだと知らされることが続きます。
最後は価格なのです。多少高くても売れるマンション、何億円の値付けでも売れるマンションもありますが、それらは例外的です。一般サラリーマンの購買力を超える商品は都心に近い所でも買える人は限定的です。
こうして、マンションメーカーは価格をいかに下げるかに知恵を絞るしかなくなります。
ところが先に述べたように、価格を下げる余地は少ないのです。広告費やモデルルームの建築費・設営費、維持費、その他の販売経費を削りたくても限度があります。総売り上げの1%か2%かと僅かです。
しかたなく設計そのものを変えるという策に出ます。設計を変えるとは?
一般の消費財では品質を落としたら消費者の支持を得られません。マンションでも基本は同じですが、背に腹は代えられないので、品質の低下や分量の減少という策を窮余の策として採用するのです。
つまり、目立つところは変えずに目立ちにくい部分をコストダウンできる設計、よく言えばシンプル設計をすること、エレベーターの数を減らすこと、仕上げ材を廉安価ものに落とすこと、タイルを張る面積を半分にすること、特注品を使わず普及品を採用すること、植樹の面積や本数を減らす、共用施設を減らして売り住戸を増やす、間取りをシンプル田の字型にするなどです。
分量の減少という策は、専有面積の減少ということですが、例えば72㎡の3LDKを68㎡の3LDKに圧縮するのです。
全体が7200㎡の専有面積を取れる計画の場合、平均面積72㎡で構成すれば100戸の住戸ができますが、これを68㎡にしたら105戸か106戸になります。総売り上げが50億円としたら、100戸作った場合は、1戸平均5000万円ですが、これを105戸で割れば4760万円と下がります。
実際は、このような単純な計算にはならないのですが、大筋ではこうなります。
仮に、4500万円くらいに抑えたい計画地の試算で5000万円になった場合でも、戸数を5戸増やせば4760万円になるので、4500万円には届かなくても何とか売れるだろうと考えます。
このように面積を圧縮すれば、見せかけ(1戸平均の価格)は、値上がりに見えないというわけです。
●価格抑制策は品質の低下を意味する
見えないところで、あるいは目立ちにくい所で材料を普及品に変えれば、豪華さがなくなるとか、シンプルな設計にすることで表情に乏しいデザインになってしまうといったことが起こります。
何年か前には普通にあった玄関横の花台や出窓がなくなり、囲いも何もなくエアコンの室外機が玄関脇に置いてあるのが最近は当たり前のように設計されています。二重床構造が普通だったのが、直床構造も目立つ最近です。
1階のエントランスホールの床仕上げも、天然石からタイル張りにグレードダウンになっているのが多いというのが筆者の印象です。
しかし、室内はともかく共用部は品質を維持して欲しいものだと思います。
後付けできないディスポーザーや複層ガラスなどを除けば、内装は自分で変えることができます。リセールする際も、次の買い手さんがリフォームするかもしれません。従って、少しくらいグレードが低くても問題はないのです。
しかし、共用部はそういうわけに行きません。
アルコーブの形状を変えることも、エアコンの室外機に囲いをつけることも後からはできません。外壁の吹き付けをタイルにすることも、エントランスホールの床や壁の飾りを変えることも、不可能ではありませんが極めて困難です。もちろん、エレベーターの数を増やすのも同様です。
新築マンションは、完成予想図を見て想像しながら選ぶのが常識です。しかし、完成形を正確にイメージできる買い手さんは少ないのです。出来上がったものを見ても、こんなものかと感じるだけの人も多いのが現実です。
しかし、中古物件ばかり検討して歩く人は、共用部分の良し悪し、少なくとも「豪華・立派・高級感・上質感」といった形容で見極めることができます。エントランスホールの天井が低い・高いもすぐに分かります。
いつか売却するときが来るとして、次の買い手さんがどう思うのか、どんな印象を持つのかといった見地から検討物件を見ましょうと勧めても、実際は中々分からないようです。売れ残っている完成マンションを見た場合でも、見過ごしてしまうのです。
しかし、何年か経つと、自分の買ったマンションが思っていたほど高級でも優良なものでもないことに気付くはずです。そのような失望を味わうことになるであろう、そう思える新築物件が今は多いときです。
「室内はともかくも」と言いましたが、柱が張り出して天井がデコボコしている、寸詰まり箇所が目立つ(圧縮間取り)などは見学者を失望させるに違いありません。
このような心配が募ると、共用部も外壁も、廊下もエレベーターも、あるいは階段なども全て実物を見られる完成マンション、中古マンションがいいのではないかと思えて来ます。
第592回 で「中古も視野に入れるべき根拠」に挙げたのは、①新築マンションの供給戸数がひと頃の半分に減ってしまったから、②新築価格が恐ろしく高いから、③市場が適正と判断した価格で売られるのが中古だから、の3つでした。
これに今日付け加えたい④は、「新築より中古の方に優良な建物が多いから」です。
もちろん、建てられた年代によっては、最近の新築と大差ないと言えるものもありますし、また、ディスポーザーがない、複層ガラスでないという中古もあるのも事実です。
筆者は、新築の全てを否定しているわけでも、中古を礼賛しているわけでもありません。あくまで一般論として、あるいは傾向として述べたものであり、現実のマンション選びの段階では優先順位を念頭に置きながら個別に点検し、選択すべき物件を見定めなければなりません。
(本稿は、第593回 残念な流行「直床と平板な玄関」https://mituikenta.com/?p=1837 も併読くさるといいかもしれません)
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。
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