第649回 これからは築30年中古が取引の中心になる

このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論を展開しております。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

 

中古マンション購入の検討者から評価レポートのご依頼がひっきりなしに届きます。10年未満の築浅物件もあれば、築30年を超えるものまで、その年数は幅が大きいのですが、多くは20年未満です。

 

調査をお引き受けして分かることは、「できるだけ新しいものを」と考えている人が多いことです。敢えて古いものを探している人はなく、古いもの検討している人も、場所と広さと予算を検索のキーワードで探していたら当てはまる物件が築30年だった、40年だったというものです。それに気づいて除外してしまう人もあるでしょうが、興味を持って候補に残す人もあるのでしょう。

 

新築か、中古ならできるだけ築浅がいいと考える人は、「中古は分かりづらい・中古は不安」という心理があるように思います。

 

●中古マンションに対する不安

買い手から見ると、中古マンションは買いにくい・選びにくいという問題点があるようです。中古マンションには不透明な点・不安に感じる点が多々あり、それに対し仲介業者が新築ほど事前の準備をしていないケースが多いので、決断に至るまでは手間も時間もかかるのです。

 

ここで中古が買いにくい理由を挙げておきましょう。理由は5つに集約できます。

 

理由(1) 室内の見た目が悪い

中古マンションの多くが、壁が黄ばみ、浴槽は「湯あか」がついている、ガスコンロは油まみれになっていたりします。こうした光景を目にすれば、見学者の購買意欲が高まることはないでしょう。

 

理由(2) 外観や共用部分が古ぼけていたり汚れていたりする

レトロ好きな人もあるのでしょうが、日本人の多くは古い物より新しい物を好む傾向があります。新しいものは良いものという先入観もあるのでしょうか、一目で古いと分かると、購買意欲はがたんと落ちるのです。

室内の見学前に必ず目にするのが外観であり、エントランスやロビー、エレベーター、共用廊下です。 定期的に清掃や修繕を実施していても、決して新築のようには見えません。

 

理由(3)設備が古い・ないものも多い

ディスポーザーは新築でも付かないものは少なくないですが、食器洗浄乾燥機は大半が標準装備されています。中古は食器洗浄乾燥機もない物が多いのです。ビルトイン浄水器なども中古マンションでは少ないですね。

浴槽のまたぎは、新築マンションなら450ミリ以下が定番ですが、中古マンションは600ミリタイプが多いことに加えて、浴室内のデザインも「お洒落感」はかなり劣ります。

テレビモニター付きのインターホンが100%普及したマンションですが、モニターの画像がカラーか白黒かというと、築25年以上では白黒が多いのです。

 

理由(4)バリアフリーになっていないものが多い

1階の玄関ホールから住戸前までバリアフリーになっているだけでなく、室内も大きな段差がないのが最近のマンションですが、古いマンションでは共用部も室内も段差が解消されていないものが多いので、これにも抵抗感を覚えてしまいそうです。

 

理由(5)建物に対する不安が拭えない

中古マンションが買いにくい最大の理由はここにありそうです。 先に挙げた4つの理由はむしろ付け足しと言ってもよいほどです。

不安を具体的に言うと、次のようなものと考えられます。

 

①耐震性の不安・・・幾多の地震経験から新しいマンションは対策がしっかりなされているが、古いマンションは十分ではないという漠然とした不安と言えましょう。

②耐久性の不安・・・築20年以上の古いものを検討する人が主に抱く部分です。あと何年ここに住めるのだろうかというものです。

③瑕疵がないかという不安・・・瑕疵は「隠れたキズ」というほどの意味ですが、悪意のない売主には追及できない瑕疵担保責任のことです。まさか欠陥マンションということはないだろうかという疑問と言い換えてもよい部分です。

最近は大手仲介業者が売主に代わってガスコンロや湯沸かし器といった設備の瑕疵担保保証というサービスを導入していますが、重要な点は目に見えない構造的な部分の瑕疵に関するものです。入居後しばらく経って(例えば数年先に)発覚したときどうなるのかという不安です。

新築マンションは10年間の保証が法律によって担保されています。中古マンションにはそれがないのです。

大抵は個人の売主から購入する中古マンションですから、瑕疵担保は免責になっていて万一のことがあっても責任を追及する先はないのです。

④遮音性の不安・・・れは新築マンションでも同じですが、古いものは最近のものより遮音性が低いという先入観が働くためと考えられます。

 

買い手の不安を解消してくれる営業マンが少ないという問題もあります。

 

●中古マンションを購入するときの拠り所は?買い手心理は?

では、中古マンションを買った人たちは、どこに安心の拠り所を求めたのでしょうか?あるいは、どのような考え方をして決断に至ったのでしょうか?

これは個人差のあることで、また調査データのようなものも発見できず、分かりにくいテーマですが、筆者のご相談経験から列挙してみましょう。

 

①大手マンションメーカーの分譲したマンションだから大丈夫だろう

②大手ゼネコンが施工したマンションだから大丈夫だろう

③先の大地震でも特に修復が必要な箇所はなかったと説明を受けた

④内見中、室内はとても静かだった。遮音性も悪くはないのだろう

⑤清掃が行き届いており、管理状態も良さそうだ

⑥管理人さんの目が光っているし、オートロックなのでセキュリティも良さそうだ

⑦管理費等の滞納者がゼロと説明を受けた

⑧売る人が少ないというから、きっと良いマンションなのだろう

⑨建物に傾斜はないようだし、東日本大震災の揺れにも耐えた物件なのだから耐震性は大丈夫だろう

 

大体こんなふうに考えて自身を納得させたのだと思います。

ここで気付くことがあります。売主と施工会社が大手というくだりです。逆に言えば、大手の物件以外は不安が解消できないことになります。

ところが、気に入って買いたい欲望が強まると、マイナス思考よりプラス思考というか、楽観的というか、そのような心理状態になるようで、

⑩疑ったらキリがない。まあ大丈夫だろう

⑪住んでみて不具合があったら売ればいいさ

などと自分に言い聞かせて不安を打ち消すのです。

 

●新築と中古の取引件数の差異

中古物件は物件数が常時4万戸も市場に流通しているのに、お目当ての物件に辿り着かないという実態があるようです。

 

新築マンションは年間に35,000戸余(2017年。首都圏全体)発売されました。月平均3000戸弱となります。これに対し、中古マンションの年間売り出し件数は東日本流通機構(REINS)によれば2017年が約18万戸もありました。

直近のデータでは2018年6月の新規登録戸数(売り出し戸数と同義)は17,000戸(新築の6倍弱)、成約戸数3140戸、在庫件数は45,000戸でした。

 

年間の売り出し件数で、中古は新築の5倍強にもなります。

数だけなら中古マンションは選択肢が新築より広いのです。もちろん玉石混交なので、「よりどりみどり」ということではありませんが、築年数を割り切れば必ず見つかるはずです。しかし、年間の成約戸数は新築より多いものの、大きな差があるわけでもありません。

2017年の新築の契約戸数は33,510戸、中古は37,329

 

●中古マンションの取引は築20年超が平均

中古マンションの取引データを見ると、「平均築年数」という項目があります。何年か見続けて気付くことは、簡単に言うと、かつては平均15年だったのが最近は20年を超えていることです。

 

東京カンテイ社が公表しているデータから、一部を抜粋してみます。

東京メトロ丸の内線の駅ごとに取引物件の築年数を比較したものです。2017年12月調査のデータです。

西新宿駅 :17.9年

中野坂上駅:27.8年

新高円寺駅:31.8年

荻窪駅:24.3年

※西新宿駅だけが20年未満となっています。これは駅自体の歴史が浅いため、マンションの供給も比較的最近のものが多いと考えられます。

 

次は、京浜東北線の各駅です。

品川駅:14.0年・・・西新宿駅同様、マンンション開発の歴史が浅いと考えられます。

大森駅:25.7年(2年前:24.5年)

蒲田駅:22.3年(2年前:21.9年

川崎駅:20.2年(2年前:17.6年

鶴見駅:24.7年(2年前:23.5年

※4駅の年数は、2年前に比べて長くなっていることが分かります。年々、平均の築年数が伸びて行くことになりそうです。

 

データの一端をご紹介しただけですが、一年ごとにマンションは年を取るので当たり前のようにも思いますが、数年前までは、築年数の平均値は毎年変わらなかった記憶があるのです。としたら、どこが変わったのでしょうか?

新築マンションの供給が毎年、コンスタントに行われていたので、築浅の中古も毎年一定量が中古市場に供給されていたのです。先に述べたように、築浅の中古の方が契約率が高いこともあって、平均築年数は毎年20年を割るような数値でした。ところが、2010年頃から新築の供給は大きく減少するようになり、ひと頃の半分(23区内は10%減)になったため、勢い中古市場に占める築浅物件も減少し、中古取引の平均の築年数は20年を超えるようになったと考えられます。

 

同時に、新築がないので中古を選ぶ人が増えたために築浅物件から築古物件の取引件数も増えて平均築年数が長くなったとも考えられます。

 

今後、新築の供給がストップすれば、新規募集を止めた大学・高校では2~3年すると最上級生しかいなくなるのと同じで、中古市場に10年未満の築浅物件が途絶えるという現象が起こります。ゼロにはなりませんが、新築の供給が用地難から非常に厳しいという状況が当分は続くので、中古市場は若くても10年、多くが20年、30年となり、平均築年数は25年、30年となる運命を辿るでしょう。

 

先のデータでもお分かりのように、中野坂上と新高円寺などは現時点で既に30年前後です。今後は、多くのエリア(駅)で築30年マンションの取引が必然です。

 

●築30年マンションを買って10年だけ住むという発想

マンション探しは大胆な割り切りが必要なときかもしれないと思います。

 

中古マンションに抵抗があり、候補に入れても築浅の物件、大体10年以内を狙う人が多いのですが、これまでそうして来た人は、思い切って築20年以上30年くらいまでの物件に目を転じてはいかがでしょうか?というより、嫌でもそうなるときが近づいているのです。だったら発想を換えて30年中古を買い、自分好みの内装にして住むというのも一考ではないか。筆者はそう思います。

 

築浅の物件は人気が高く、売り出されるとたちまち買い手が付いてしまう傾向が強いのです。依頼していた仲介業者から物件紹介が入ったら即日見に行くくらいのフットワークが必要な場合も少なくありません。

 

しかし、仕事を持っていれば見学に行けるのは早くて週末です。そうそう早くは動けないときも少なくないはずです。見学希望を出しても、実際に行ってみると想像と違っていたり、日当たりが悪かったりと落胆してしまうことも多いので、それを何度も何度も繰り返して疲労感だけが残るというのが実態です。

 

新築のように何か月も前に予告広告が開始され、販売開始までに数か月の余裕があるなどということはありません。

 

そんな中、築年数の古い物件は、例外もありますが、比較的ゆっくり検討する時間が持てそうです。古い物件は見栄えが悪く、新築のモデルルームを見たときの高揚感を味わうことはないでしょう。 買いたいという気分が湧いて来ない場合も少なくないはずです。 しかし、最初から期待をしないので、ある意味で冷静に値踏みすることが可能です。

 

しかも、築年数が古いほど価格は安く、リフォーム費用を計算に入れても予算に余裕を持てる場合が少なくないはずです。外観や共用部分の古臭さは覚悟し、購入住戸の中をどのように手直しすれば快適なマイホームになるかを想像しながら見学するのです。

 

古くて安い中古マンションの一番の不安は、買ってからあと何年住めるのだろうか、といったことです。築30年のものを購入して20年住めば、そのマンションは築50年になります。

築50年のマンションってどうなっているのでしょうか。現在、築50年に達したマンションは少なく、購入したマンションが築50年になった時どのようになっているか想像ができない人も多いでしょう。

 

考えられるケースとしては、①見映えの悪さなどはあっても、そこを我慢すれば快適に暮らすことができる好立地にある、②かなりボロボロで快適に過ごせる状態ではないが、建て替えるに建て替えられず、半分廃墟状態、③その中間という感じでしょうか。

 

①は、管理状態が良く、周期的な大規模修繕も実施して来たので、故障も不具合も少なく何とか住んでいられる状態を期待するものです。このようなマンションであれば、立地の良さで買い手は現われるものです。

 

②は、修繕積立金が足りなく、臨時徴収や銀行借り入れなどの調達も管理組合の合意ができず、結局は適時適切な修繕ができないために劣化に任せる状態となり、逃げ出す居住者も増えて空室の多い、廃墟寸前の状態をイメージさせるものです。このようなマンションは殆ど郊外にあって駅からも遠く、売却は極めて困難になっているかもしれません。

 

③は上二つの中間なので、維持管理もそこそこに良い、立地も抜群ではないが、都心アクセスが良く、欲張らなければそこそこに売却も可能というものです。

 

筆者が推奨するのは①です。築30年時点で①のような物件は、かなり程度の良い中古物件で、購入後10年、20年後も後者のような事態は考えにくい物件だからです。

とにかく安いマンションを購入して、10年以上住めば元がとれるくらいの感覚で、「賃貸に住み続けたよりは得した」と思えるような買い物をすることです。そして、理想は20年以内のローンを組むことです。当然のことながら、借入額は少なく抑えます。そのマンションを、もし借りたら家賃がいくらか調べましょう。そして、その家賃並みのローンを組むのです。

 

このような物件に20年住んだのちに売却したら、たとえ1000万円にしかならなくても、何も残らない賃貸マンションより得になるわけです。

リフォーム費用を別途見積るとしても、築30年まで幅を広げれば予算も大幅に減らすことが可能なのではないでしょうか? 手持ち金をあまり使わずに、かつ毎月の返済額も抑えた買い物になるはずです。

得はそれだけでありません。住んでいる間、持家なりの精神的なメリットはたくさんあるはずです。

 

さて、20年後に売却すると書きましたが、築40年か50年を経たマンションは売れるのでしょうか? その疑問に対する答えを見つけるのは、さほど難しくないはずです。

今でも、築50年はともかく、40年の中古取引は多くはないものの成立しています。つまり値はついているのです。耐震性も、築30年以内なら問題ありません。地方都市やリゾート地では100万円もしない格安事例も多いですが、東京通勤圏なら安くても1000万円以上はします。

 

20年後の中古相場が今と同じとは思えない(上昇している)ので、うまく行けば最悪でも2000万円で買い手を見つけることができるかもしれません。

20年住み続けず、10年で売却することも可能です。築30年マンションを買って10年か15年だけ住み、売り抜けるという方法も真剣に考えてもいいのではないかと思います。

 

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今日の話は大胆な戦略転換についてでした。 築30年の中古なんて、とても考えられないと感じた読者も多いことでしょう。 新築のモデルルームばかり見学して来た人なら、特に大きな抵抗があるものと推察します。

 

しかし、新築物件が少ない現状では、中古も築浅ほど新築価格に接近し、リフォーム代と仲介手数料を加えると結構な予算に跳ね上がってしまうという印象になるようです。それは大きな勘違いでもないようです。だから思い切って築30年マンションも視野に入れるという転換が必要になっているのです。

発想の転換は、ときに大きな成功をもたらすものです。築30年マンションに対して抵抗がどうしても取れない人は、築20年までにしてはいかがでしょうか?

 

本稿は中古の取引を築年数で見ると間もなく30年が当たり前になるなあというひらめきから書き始めたものですが、「築古(ちくふる)マンションを買って自分好みに改装して快適に暮らすのも悪くない選択です」へ発展しました。

早晩そうなるのです。それをあなたが先取りするだけのこととも言えます。先取の精神で検討してみることをお勧めして今日の結びとします。

 

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

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