第608回 素人の生兵法

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論を展開しております。資産価値を重んじる方のための購入のハウツーをお届けするもので、お気に障ることもあろうかと思いますが、満点の家はないと思っていただき、失礼はお許し下さい。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

 

毎日、文章を書く仕事をしているせいか、人の話し方も文章も「その日本語、正しいですか」と言いたくなる自分に「悪いくせ」と思う筆者です。ラ抜きことば、重複ことば、短縮ことばなどに抵抗も覚えます。

 

とまれ、日本語の乱れが叫ばれて久しいはずですが、あまり改善しないようでもあります。言葉というものは時とともに変化するので、流行にいちいち目くじらを立てることもないだろうにと言い聞かせながら日々を送っています。

 

そんな筆者が、読者にお伝えしたい業界用語のNGに関して今日はお話ししようと思います。

 

●違和感を覚える業界用語

ギロチンマンション、新築プレミア、前建、ルーバル、両手と片手、これらの言葉が分かる人は中々のマンション通と言えるかもしれません。

 

ギロチンマンションとは、碓井民朗氏の本に出て来る造語で、部屋の真ん中付近に下がり天井が落ちているものを指します。

 

新築プレミアというのは、多分こうだろうという解説はできますが、よく分からない言葉です。前建とは前面の建物の略です。ルーバルはルーフバルコニーの略です。

 

両手・片手は、仲介業者の両手数料の取引、片手は片方からの手数料しか入らない仲介取引を指します。

 

よく勉強している人は、これらの言葉の意味にも精通しているものです。

 

しかし、それを業者の前で使うとどうなるかを考えているでしょうか?

 

●専門用語は自己防衛の表われか?

買い手は、良いもの価値あるものを選ぼうとするので、不明な箇所があれば売主に的確な説明を求めます。

 

これに対して、営業マンは相手が素人だと思えば、平気ででたらめな説明をしたり、詭弁を弄したりして疑問や不安を消し去ろうとします。また、都合の悪いことはダンマリを決め込むものです。そのようにして、買い手を「買う」という意思決定に導くのです

 

買い手は良いもの・価値あるものを買いたいと願っているのであり、買ったあとで不良品だったとか、安いと思ったがとんでもなく高いものを掴まされたと思いたくないのです。

 

不動産は金額も大きいし、返品が利かないので、より慎重に選ぼうとします。ぱっと見は良くても、よく見たら欠点があった、瑕疵があった、錯覚だった、勘違いだったと、そんな後悔はしたくないのです。

 

言い換えると、買い手は常に「騙されまい」と身構えているのですが、これを「自己防衛反応だよ」と誰かに教わったことがありました。

 

「私は素人ではないのだよ。いい加減な説明はするなよ」と語りたいのですね。専門用語をちらつかせるのは、「専門的なこともちゃ~んと知っているよ。プロではないが、納得できる説明をしなさい」とアピールしているわけです。

 

●てごわい買い手

どこから見ても非の打ちどころのないマンションなんてものはないのです。どこかしら問題・弱点があるので、売り手はそこを指摘されることを恐れます。

 

「いや~、素晴らしいね。気に入った。買うよ」と言ってくれる買い手ばかりを望んでいます。しかし、そんなことはありえない話で、「予算の中ではこの間取りしかないのだね。こっちならいいのに」、「ここがこうだったらよかった」、「ディスポーザーがないのね」、「直貼りはフワフワするね」などという感想を口にするものです。

 

こうした買い手からの指摘を先刻知っている売り手は、チーム内の統一話法を予め決めています。この質問にはこう答えるという反論集が用意されているのです。

 

筆者は、ある現場で素人のふりをして尋ねました。「安いね。どうして安いの?」

営業マンの答えは、「グループ会社の口利きで取り引き企業さんから安く譲っていただいたのです」でした。

 

真実は別の所にあると筆者はすぐ気づいていましたが、どう回答するかを試したかったのです。意地悪な性格ではないつもりですが、続いて聞きました。「ここはディスポーザーが付かないのですね?」と。

 

営業マンは、「ディスポーザーは問題があるので、避けることにしました」と答えました。「へ~、そうなの。どんな問題ですか?」と聞くと「音が出ますから」と言います。「でも、各社ずいぶん採用例が増えている気がするけど」とさらに追及すると、「そうですか?」で終わってしまいました。

 

この話は、最近のことです。ご相談者の依頼で見学したモデルルームのないマンションの、コンセプトルームという名の販売事務所に行ったときのことです。

 

30戸足らずの小規模マンションなので、コストダウンの必要からディスポーザー装備を止めただけだろうに。筆者はそう思いました。

 

価格が安いのは、土地代が安かった。それは確かと思いました。その建設地は「谷地」だったから安いのは当然なのですが、谷地だから安かったという説明はしたくなかったのでしょう。

 

●知らないふりをした方が賢明だ

こういうのは「ギロチンマンション」とかいうのですよね。

目の前のマンションの存在がうっとうしいかも(前建は使わない)。

ルーフバルコニーの出入りはどこの窓でもOKですか(ルーバルとは言わない)。

 

どんなときも「素人考えですが」や、「プロには敵いませんので」、「聞きかじりの知識なので分かっているようで分からないもので」といった前置きを用いる方が営業マンの本音を暴くことができる気がします。

 

素人の生兵法という諺があります。中途半端な知識や技術しか身についていないことや、それを用いた愚策を指す言葉ですが、マンションという大きな買い物をしようかというときは、手練手管のマンション業者を相手に戦うのは不利です。

 

下手に知ったかぶりをすると逆効果なので、本音を聞きたかったら素人のふりをした方が賢明と筆者は思います。

 

質問をしてみて、納得できてもできなくても答えを記憶して持ち帰り、そのQ&Aをそのまま筆者にお教えください。嘘か誠かを解き明かしましょう。同時に、疑問点、心配な部分を筆者なりに説明しましょう。

 

そのマンションを前向きに引き続き検討するべきか、反対に見送るべきかの参考になることは間違いないはずです。

 

 

●大事なことは何を質問するかにある

重箱の隅をつつくことがお好きな人は多いものです。そんな人に限って大事なことを見落としています。今日の最後は、買い手が落としがちな重要な質問集を列記します。

 

<建設地に関する問題>
■騒音 (前面道路の交通量・騒音の程度は自分で体感するしかありませんが、販売時は建物が未完成のためグランドレベルでしか体感することができません。それなのに、営業マンは騒音の程度に関して何も語りません)

■液状化しやすいエリアにある (この告知をしてはくれません。安全度が高いエリアの場合のみパンフレットに表示する)

■水没危険エリアにある (同上)

■駅から遠いこと (その弱点には触れて欲しくないのです)

■隣地建物の再建築について (将来のことは全く分からないものの、想定できる範囲を知っておきたいのが購入者心理です。しかし、目の前が駐車場など、危険とすぐに気づく場合以外、想定できる建物の規模・高さなどを主体的に説明することはありません)

<構造に関する問題>
■耐震性 (耐震性能の最低ランク「等級1」のマンションの場合、ことさら説明はしません)

■直床構造 (二重床の場合は、そのメリットをわざわざ説明することはありますが、直床=じかゆか構造の場合は説明をしません)

■耐久性 (コンクリートの劣化対策などを説明することはあっても、耐久性が高いことの意味、すなわち資産価値にどう影響して来るかなどの説明はしません)

 

<その他の設計上の問題>

■東西向きの住戸 (東向き、または西向きの間取りにはデメリットもあればメリットもあるのですが、その説明を主体的にすることはありません)

■個室の窓が斜めであること (玄関側の個室の窓は廊下に対して平行に設けられるのが普通ですが、ときどき斜めになっている間取りを見かけます。わざわざ曲げているのは採光を遮蔽する何かがあるためですが、その説明をしてくれることはありません)

■下がり天井のこと (下がり天井はほぼ全部のマンションに誕生します。しかし、それが目立たないケースと強い圧迫感をもたらすケースがあります。その位置と天井高をCH=2000などと表記しますが、そのことに気付かない買い手も多く、完成後の内覧会で落胆する人も少なくありません。事前の説明は一切してくれないからです)

■ルーフテラスへの出入り (ルーフテラスに面する窓の高さは床から50~60センチもあるケースが少なくありません。つまり、バリアフリーではないのです。窓をまたがないとテラスへの出入りはできないのですが、図面に表記はしても説明はしてくれません)

■エントランス真上の住戸の騒音 (マンションの2階住戸を購入する場合に注意したいことは、下階が何かです。共用玄関の場合、ドアが自動式になっていれば、その作動音が響く可能性はゼロでないと考えなければなりません。しかし、そのような告知はありません)

■ピロティ上の住戸の懸念点 (元気な男の子を持つファミリーの場合、下階のお宅に迷惑をかけたくない一心で1階住戸、またはピロティ形式になっている建物なら2階住戸を購入する例があります。後者の場合に気を付けなければならないことが2点あります。それは、床の断熱と駐車場の騒音対策です。ピロティは駐車場になっていて、おまけに機械式2段駐車であったりします。その場合、車の出入りによる騒音が心配なはずです。また、上下を住宅でサンドッイッチされていない住居は一般に冬は寒いと言われます。こうした懸念を払拭するための対策に関しての説明はしてくれないのです)

■エレベーターの数の不足 (意外な盲点のひとつです。コストダウンの一環で必要十分とは言えない台数で抑えているケースでは、それに関しては何も語らないのが常です)

■住宅性能評価書の意義 (住宅性能評価書のない新築マンションは5%もないほど普及して来た現状ですが、性能自体が普通のマンションの場合、その中身について深く語ることはありません。第三者機関による評価だから安心ですなどと説明するだけに留めているのが実態で、評価書を渡せば事足れりとしているのです)

 

<事業者に関する問題>
■施工会社のこと (二流・三流の、または無名のゼネコンを起用するケースは少なくありません。ゼネコンの知名度は、業界人ならよく聞く企業でも、一般の買い手から見れば低いものです。そのことが不安心理を呼ぶのですが、触れたがらない売り手がいるのも事実です)

■管理会社のこと (管理会社の能力や経験、特徴などに関しても同様です)

■売主(自社)のこと (自社のブランド力が高くもないのに、買い手が安心感を持つまでの説明はしてくれません。説明が難しいのも事実なのですが)

 

<販売や管理に関する問題>
■売れ行き (よく売れている物件なら良いものに違いないと思いたがるのが買い手心理です。ゆえに、買い手は販売状況を知りたいのですが、売れ行きが「並み」の物件はそれを隠すのが売主心理と思った方がよいのです。聞けば、「おかげさまで順調です」くらいの答えは返って来ますが、そう語っていた物件が竣工後1年経って売れ残りを抱えている例はたくさんあります)

■値引き提示の理由 (買い手から要求をしたわけでもないのに、営業マンの側から「今週中に結論を下さるなら〇〇〇万円お引きします」などと提示して来ることがあります。「決算期なので」が最もポピュラーな値引き理由ですが、本当の理由は単に販売促進のために値引くのです。計画通りに販売が進んでいない証拠ですが、「売れないから」とは言うはずもありません)

■管理費・修繕積立金が高いこと (管理費等が高いか否かは基準を知らない買い手には判断しにくいものです。規模や高さによって管理費等は割高になってしまうのですが、数字を提示するだけです。「割高なマンションではございますが・・・」などとは決して言いません)

 

 

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。

 

 

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