第687回 「内装に惚れてはいけない!!」

※このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております

10日おきの更新です。(次回は7月30日です)

ときどき問題物件を買おうとしている人からのご相談が届きます。

どんなマンションでもパーフェクトはないので、悩むことはあるものですが、驚くほど条件の良くない物件を前に悩んでいる人もあります。

「何が良くてこれを選ぼうとしているのだろうか」と筆者の理解を超えるお悩みに苦しむ人もあるのです。

例えば、高速道路のきわに建つマンション。建設中で実物を確認できない場合でも現地は確認に行くはずなので、大抵の人は騒音が心配だと感じるはずです。それなのに、そこには一切触れず、別の問題で相談や質問を寄せてくるのです。

高速道路のきわのマンションが環境的に良いわけがないのに、どうしてこれを選ぼうとしているのか?50階建ての50階の部屋というならまだしも、目と鼻の先をゴーという音を立てながら車が通る高さの部屋がなぜ検討対象になるのだろう。防音壁があるようでもないし、価格が飛び抜けて安いようでもないのに。

心配すべきはそこでなく「騒音の程度」の方ですよ、と叫びたくなってしまいます。住まいは先ず「居住性」が大事です。交通便と環境の良し悪し、プライバシー性、日当たり、間取りなど住んで快適なマンションかどうかを問うべきなのです。

以前、別のブログで「住まいの基本は開放感にある」というタイトルで以下の5点を取り上げたことがありました。

●住まいの基本は何?

1)無防備に暮らす

あるご相談者は言いました。 「私は、窓は開けっぱなしにして寝たいのです。カーテンも閉めないで過ごせる家が好きなんです」と。

裸でいるわけではないでしょうが、そんな生活は寛げて大好きだとおっしゃいました。マンションなら、セキュリティもしっかりしているし、選ぶ物件によって実現できるのは確かです。

玄関にオートロックがかかっている、エレベーターは居住者でないと動かない、駐車場などの共用部には防犯カメラが付き、ドアや窓からの侵入を許さない、こうしたシステムがついているのが当たり前になっています。それはマンション作りの必須条件になっているからです。

その結果、居住者は安心して暮らすことができるわけです。

安心して暮らせるとは、空き巣や強盗に襲われないような家であることを意味しています。セールスマンが不意に訪ねて来ることもないし、万一来たとしても、玄関前に設けたカメラが居留守という防御手段を選ばせてくれます。安心は居住者を無防備にさせます。

2)無防備はリラックスにつながる

セキュリティシステムがもたらす無防備な暮らしは「リラックス」につながっていますが、リラックスは、セキュリティシステムだけがもたらすわけではありません。

例えば、風通しの良い家。ある中小のデベロッパーはマンション作りの基本コンセプトに「自然の風が抜ける家」を掲げています。

24時間の小風量換気システムはどのマンションにも付くようになっていますが、それがあるにしても、風が通り抜ける実感はないので、窓を開け放っておけるマンションの方がいいのでしょう。

しかし、折角、風の通り道を作っても開けられない窓では意味がありません。窓のきわに隣の家の窓があれば「プライバシー」を覗かれる心配があるからです。

駅に近くて便利な場所にあるマンションは、隣のビルやマンションがきわまで迫っています。

また、よく見かける地下・半地下のマンションも、窓先が空堀(ドライエリア)の壁であれば、その先に人が立って上から覗かれる心配があります。植込みで隠す工夫はしてあっても、見えてしまう住戸は少なくありません。

見下ろす感じにはならないものの、1階住戸でも通行人に覗かれてしまう例は結構あります。

鈍感な人、気にしない人など、それぞれかもしれあ線が、どこからか覗かれていると思うと真のリラックスは得られないかもしれません。

3)行燈部屋

タワーマンションでときどき見られる窓無しの個室。古くは行燈をしまっておく部屋のこと で、光の入らない暗い部屋が使われたようです。時代小説では、身分の低い住み込みの働き手が寝る部屋として使われたと記憶しています。

これならプライバシーの問題は起こりません。その代わり、採光も通風も期待できないことになります。それが「リラックス」をもたらすかどうか、思案のしどころです。

このような部屋を選ばざるを得ないときは、これを前向きに捉えるしかありません。例えば、趣味の部屋や勉強部屋、位置によっては扉(引き戸)を外してキッチンと一体化し、ダイニングルームとして使えばいいのです。

4)外廊下に面する寝室

タワー以外のマンションの大半が共用廊下に面して寝室がひとつ、または二つあります (タワーにもないわけではない)。この寝室は、防犯上、鉄格子かアルミのシャッター(可動式ルーバー)はあるものの、ガラス一枚で隔てられているだけです。

このため、寝室での会話を外の通行人に聞かれるのではないかと気になる。そんな声を聞きます。サッシの遮音性能が高ければ聞こえないのかもしれないですが、安心できないと言います。

廊下から寝室を遠ざけるのは現実問題としてなかなか難しいのですが、ないわけではありません(昔は結構ありました)。

5)リビングの前に隣の家がある

 都会では仕方ないと割り切れるかどうか、疑問が残るのは前面に隣家が迫っている場合です。眺望が全くダメであるほか、日当たりも良くない上に、プライバシーの侵害を心配しなければなりません。

 寝るために帰るだけの家でいい単身者なら交通便さえ良ければいいのかもしれませんが、ファミリーはそうも行きません。年中、カーテンをしたままの家は、開放的とは言えません。それを快適と思う人は少ないはずです。

●大事な点はそこじゃない

本題に戻りましょう。高速道路の問題以外にも「えっ」と驚く物件を真剣に検討してしまう人にお会いすることがあります。

筆者にご相談下さる人の90%以上は、「資産価値」を気にしています。資産価値とは、言い換えれば「リセールバリュー」であり、換金価値のことです。

それを左右するのは、本ブログで何度も書いてきましたが、立地条件です。立地条件の良し悪しは駅に近いことだけではありません。環境や眺望が重要です。

次に大事なのは、建物全体です。小規模よりは大規模がいいのですが、候補地に大規模マンションが全く存在しない場合もあります。その場合は、どのくらいの規模まで妥協していいのかを考えなければなりません。

規模以外で大事な点は、デザイン性です。デザインは、色と使う材料によっても変わって来るのですが、ぱっと見の印象が「上質である」「格調が高い」「個性的である」「高級感が漂っている」と感じるかどうかで判断して行くことです。

規模とも関係あるのですが、エントランスホールが広く、天井が高くて豪華であるかどうかや、敷地のオープンスペースがどのようにデザインされているか(ランドスケープ)も重要です。

商業地のマンションは、敷地にゆとりがなく、オープンスペースのデザインは限界があるものですが、大規模マンションなら工夫された例はいくつもあります。無論、住宅地のマンションなら、敷地の半分はオープンスペースです。そのデザインは建築家の腕の見せ所です。

これらを実感するためには、建物が完成していることが前提かもしれません。新築マンションは完成予想図と建築図面で判断することになりますが、慣れていないとイメージが浮かばないからです。

どちらかと言えば、デフォルメされた完成予想図(パース)によって錯覚を強いられてしまいます。

未完成マンション、もしくは完成マンションの売れ残り住戸、リノベーション物件の場合に陥りやすいのは、室内の設備とインテリアの演出で夢見心地にさせられることです。

設備も内装も間取りも大事ですが、優先するのは立地・環境ですし、建物全体の価値なのです。そう書くと「そんなことわかっているわい」と反論されてしまいそうですが、そう語る人でも売り手の罠にはまってしまいがちです。

●目のつけどころを間違うな

デベロッパーに在籍して実務を担当して来た筆者は、設計面ではいかに喜んでもらうか、気に入ってもらうかに腐心しましたが、どう工夫しようが立地条件の悪いマンションは売れないものであることも肌身で感じたものです。場所が良ければ、プランニングで失敗しても売れ行きに影響は少ないことを知りました。

立地もプランニングも普通であるとき、最後は販売力が大事なことも痛切に感じました。モデルルームやパンフレット、映像などの販売ツールの選び方・使い方によって販売成果が違って来ました。営業マンの販売スキルも結果を左右していました。

大掛かりな仕掛けを要しない中小型マンションでは、とりわけモデルルーム演出が全く違った結果を生み出すことも学びました。

平たく言えば、モデルルームに招き入れた買い手をいかに酔わせるか、有頂天にさせるか、つまり購買意欲をいかに高めるかに懸命だったのです。

立場が変わって買い手に寄り添って仕事をしている今、売り手の購買誘導策にはまらないように、冷徹に判断をなさるようにサポートしていますが、それができるのも売り手側の裏事情と意図を知っているからです。

●目に見えない市場を把握することも重要だ

マンション購入の際に買い手が最も気にするのは「価格は適正か」です。

その心配を解消するため、買い手なりに調査をしますが、分かりにくいのも事実です。そこで「高くないとは思うのですが・・・」と前置きしながら筆者に尋ねて確認をなさろうとします。「高い感じがしますが、どのくらい高いですか?」という質問もあります。

このとき思うのは、価格が安い(もしくは高い)と勘違いされている人も少なくないなあという点です。調査の仕方に問題があるのでしょう。

筆者の立場では、的確に正しいお答えをお届けすればいいのですが、筆者にご相談下さらない買い手さんの方が圧倒的に多いので、調査をしない人、しても間違ってしまう人も多いのだろうなと余計な心配をしてしまいます。

価格が高いか適正かのほかに、大事なことがもうひとつあります。それはマンション市場が今どのような状態にあるかです。この先どこへ向かうのかという点です。

中短期の市場展望、長期展望です。

バブル期の高値で買ったマンションが、何年か後に売却しようとしたら半値になってしまった、半値ならまだマシで、半値八掛けなどという声が飛び交ったときもありました。

2013年ころに買った人は、結果的に最近の売却で大儲けしたが、そんなおいしい話はこの先にあるのかどうか?

オリンピック後は不況が来てマンション価格は下がるといった根拠の薄い書き込みを信じている人もいますが、果たしてどうなるのか。もし値下がりしなかったら、「しまった。やっぱりあのとき買っておけばよかった」と言ってみても意味がありません。

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今日は、目の付け所を間違ってはいけないという話をしたつもりです。特に、内装(設備と仕様)のすばらしさに惚れて「やっぱり分譲マンションは賃貸と違って設備がいいね。天井も高いし、何しろ美しい」などと惚れてしまって、肝心の点を見失ったり、気付いてもスルーしたりすることは厳に戒めなければなりません。決め手は設備・仕様ではないのです。

理性を失い周りが見えなくなる、冷静さを失うことは誰にでもありますが、足を止めてみることが大切です。

マンションは「街選び」に始まり、「マンション全体の姿」を点検し、最後に「室内」という優先順を忘れないように気を付けたいものです。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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