第619回 容積率緩和を廃止する中央区・ファミリータイプ制限の江東区・・・ここから見えるもの?

このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論を展開しております。資産価値を重んじる方のための購入のハウツーをお届けするもので、お気に障ることもあろうかと思いますが、失礼はお許し下さい。

 

タワーマンションの開発が急増した都心4区(中央・江東・品川・港)では人口が他市区から流入し、児童数も増えたために学校が足りなくなったそうです。このため、今後は「タワーマンションの開発を規制」するという報道がありました。

 

中央区では容積率の緩和によって建設を促して来た政策を停止するとし、江東区は40㎡未満の住戸を2割設けるよう義務付けるとしています。

 

上記4区は、いずれも湾岸エリアを擁しておりタワーマンションの開発がしやすい区です。

 

首都圏の供給戸数が10年前の半分に減ってしまった、ここ数年の傾向は、たまたまではなく土地の供給(売地)減少という構造的な要因によります。平たく言えば、土地がないためにマンション建設をしたくてもできないという状況が続いているのですが、それでも上記4区のタワーマンション開発が辛うじて足りない供給の下支えの役割を果たして来ました。

 

それを規制するということは、ますますマンションの新規開発・新規供給が減るということにつながるわけです。

 

買い手の立場で考えると、大規模で付加価値の高い大規模マンションは選択対象が減ることになります。従って、買い手が特定の人気マンションに集中する傾向になるかもしれません。そうなれば、抽選ということになって買いそびれる人が続出するでしょう。

 

新築がなければ中古を探すしかありません。とすると、中古人気が高くなり、優良な中古はますます高値になることでしょう。

 

●新築マンションの市場が縮小か?

このブログで何度もお伝えして来ましたが、新築マンションの供給が大きく減っています。最近10年(2008年~17年)の供給は首都圏全体で年平均4.3万戸弱の供給です。直近の2016年・17年は3万5千戸強でした。

 

これは前の10年(1998年~2007年)が8万戸弱なので、半分強という低水準です。

 

供給が半分に減っても需要も半分に減ったなら問題はないのですが、需要が半分に減ったとする根拠はありません。人口が減ったわけでもありません。住宅購入の適齢期とされる30代の世帯数が半分に減ったというデータもありません。

 

将来は少子化のために30代の中心需要世帯が減ることは間違いなく、市場は縮小すると想像できますが、需要は40代も50代の世帯もありますから、急速に減るとは思えません。

 

結婚しない人が増えたことは影響がないのでしょうか?少しは影響しているかもしれませんが、単身者がマンションを積極的に購入する傾向は近年増えていますから、新築マンションの市場が半分近くに減った要因に非婚があるとは言え難いのです。

 

●価格上昇のために需要が後退した?

需要が減退する理由のひとつとして、価格の急上昇が考えられます。売り手側の都合、すなわち売り出しても価格高から売れそうもないと判断できたら、販売を中止することはあります。しかし、着工してしまったマンションなら、いずれ販売を始めます。

 

販売開始を遅らせるだけです。例えば年度後半の販売予定を年明けにずらしたりしますから、供給(発売)戸数が単年度では減るということがあります。しかし、工事が進んで行く以上、いつまでも延期するということはありませんから、供給戸数が極端に減った原因ではありません。

 

着工済みのマンションが例えば半分売れた段階で止めてしまうことはないのでしょうか?例外的ですが、ないこともないようです。販売不振物件の売れ残りを賃貸してしまったというケースは過去にもありました。しかし、それは稀なことです。

 

価格が急上昇し、手が届かない高額マンションだらけということになれば、新築マンションの需要は減るわけです。その意味では需要が減ったと言えないこともありません。しかし、それは一時的なことです。根本的に需要が半減したわけではありません。

 

着工そのものを止めてしまうことはないのでしょうか?高過ぎて売れないと確信できるような場合は、工事に進まず当分の間、塩漬けに(凍結)するということもありますが、これも極めて稀です。

 

●根本問題はマンション用地が取得できないことにある

高くてもいい、遠くてもいいということなら売地は少なくありませんが、そうも行きません。

適地は少ないのです。10年前に多数の供給ができたのは、大手企業が社宅跡地などを大量放出したことに依ります。

 

企業の経営に関する考え方に大変革の波が来たのです。歴史ある企業が保有していた遊休資産と福利厚生の一環であった社宅やグランド、企業迎賓館といった直接の生産や営業には不要な施設をリストラという名のもとに次々と手放しました。

 

その波も引き、法人からマンション向きの土地が放出される数は大きく減りました。工場や倉庫の跡地などは、交通便さえよければマンション向きなのですが、もう殆ど残っていないと言って過言ではありません。たまに、売り出される物件はありますが、供給減を補うまでではないのです。

 

今後の期待は再開発ですが、好立地の再開発は合意形成に時間がかかるうえ、、全体の供給減を補うまでには至らないと見なければなりません。

 

●土地の争奪戦に強力なライバルも登場

郊外は、都心・準都心に比べれば土地は取得しやすいと言えるかもしれません。しかし、郊外であっても主要都市の駅前などでは、マンション以外の土地需要があるようです。どんな企業が狙っているかというと、ホテル業者だというのです。

 

訪日観光客の増加がホテルの需要増をもたらしているわけですが、東京オリンピック後も訪日客は増加する見込みらしく、マンション用地が高値でホテル業者にさらわれてしまうという声が漏れ聞こえます。ただし、ホテルが足らないのは東京圏のことで、大阪・名古屋・福岡では余剰になる見込みだという報道もありました。

 

土地が買えなければマンション開発はできません。マンション業者は今後どうするつもりなのでしょうか?

 

●新築マンションの開発から別の事業を模索するデベロッパー

土地が買えないので、マンション事業に将来性はないと見ているデベロッパーが多いのではないか、そんなうがった見方もできそうです。各社の動きを掻い摘んでみました。

 

三菱地所

2011年に藤和不動産を事実上の吸収合併に踏み切って三菱地所レジデンスアとなってから新築マンションの戸数を大幅に増やしましたが、過去3年を見ると3100戸~4000戸、平均では3440戸と堅実です。

一方で1棟単位のリノベーションを積極的に行うと発表しています。1棟リノベーションの分譲は、仕入れ先が企業社宅になるので、案件が次々に出て来るかは未知数ですが、三菱グループの老舗企業とのコネクションが強みなのかもしれません。

 

海外事業に関しては、1980年代のバブル期の象徴的な買収劇、ニューヨークのロックフェラービルでした。

その後、バブル崩壊とともに多くの海外案件を手放して撤退となったのですが、ロックフェラービルも確か10年くらい前に損切りしたと記憶しています。ただ、海外事業から撤退したわけではないのです。

アジアでも、シンガポールやベトナム、タイ、マレーシア、台湾、中国などで住宅・オフィス、商業施設などの開発・運営に実績を上げています。

 

三井不動産

子会社の三井不動産レジデンシャルによる分譲マンションは、過去3年、3700戸~4300戸とコンスタントです。

 

海外事業では、1979年にロサンゼルス「AT&Tセンター」(42階オフィスビル)取得(※1999年 売却)と1984年の高級ホテル「ハワイ・ハレクラニホテル」(16階建て、453室)をオープンしたのが有名です。

2017年9月1日の新聞報道によれば、ニューヨークに58階建てオフィスビルを建設するとありました

 

海外事業の他では、ららぽーとやアウトレットモールを展開し、順調な業績を上げています

 

大京

かつては長年供給戸数トップでしたが、最近は往時の面影が完全になくなったようです。確実に利益の取れるプロジェクトしかやらない。無理な仕入れはやめた。今後はストックビジネスを中心にする。このように宣言して10年近くになります。

 

大京は子会社に「大京アステージ」という管理会社があります。この管理戸数は、2017年現在42万戸と第2位。それもそのはずです。過去に供給したライオンズマンションの累積だけで軽く30万戸を優に超えるのですから。

 

同社は仲介子会社の「大京穴吹不動産」にリノベーション事業を推進させています。個別の買取りによるものが中心ですが、大きな収益源に育っていると聞いています。

 

また、沖縄では空室のマンションを長期滞在者向け施設として展開するサービスを始めたと2017年9月14日に報道されました。

 

東急不動産
昨年、中国上海でサービスアパートメント運営事業に参入したというニュースがありました。また同社のHPによれば、1973年にグアムで宅地造成に着手し、パラオでもホテル用地の調査を開始したのを皮切りに、1975年にはインドネシアに進出。これまでに累計4,500戸の戸建住宅を分譲するなど、着実に実績と信用を重ねているという記載があります。

2007年には中国、2012年にはインドネシアとアメリカに現地法人を設立。現地のニーズに合わせながら、地域貢献と環境配慮を重視した宅地開発や再開発事業、不動産投資などを進めています」とあります。

 

住友不動産

住友不動産は他社と一線を画し、海外進出は積極化していないようです。その分、国内で大型投資を行っています。新聞報道によれば、大手の中でもマンション用地の取得件数(面積)は多く、何でも5年先の販売分まで土地を確保したのだそうです。

 

供給戸数では、全国トップを4年連続でマークし、まるで時代に逆らうかのように数を伸ばしています。2017年は7177戸も発売しました。首都圏だけで5663戸だったので、首都圏全体の供給戸数(3万5898戸)の16%というシェアを誇っています。

 

野村不動産

2017年10月3日の新聞で「野村不動産ホテル参入。訪日客取り込み」とあります。

また、同社は首都圏に9物流施設2018年~2020年に1000億円投資 収益の柱にするという報道もありました。首都圏や近畿圏で既に24の物流施設を運営しているので、拍車をかけるということのようです。

 

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以上のような動きを見ると、国内がダメなら米国やアジアがある。新築マンションがダメなら仲介やリノベーション事業もある。また、マンションデベロッパー(開発業者)から総合不動産デベロッパーとして商業施設や物流施設、ホテル建設などを手掛けるというふうに領域を拡大していることが窺えます。

 

もちろん、どんな領域も素人が手を出して成功する確率は低いので、何年も前から参入してノウハウを学んで来たということかもしれませんが、専門業者との提携・協業という形もあります。

 

住友不動産以外のデベロッパーは、マンション開発から遠ざかっていくのでしょうか?

 

●中小業者への期待

大手がマンション分譲ビジネスに意欲を持てなくなって、業域を拡大したり、転換を図ったりするようになるのは時代の流れというものかもしれません。しかし、需要があるのに供給ができないという土地事情は残念至極です。

 

中小業者には期待できないでしょうか?中小デベロッパー、中でもマンション専業の業者はきっと頑張ることでしょう。しかし、企業数がそもそも減ってしまったので、供給不足を補うまでの力はないと見るほかありません。

 

栄枯盛衰は世の習いと言いますが、2008年のリーマンショックをきっかけとする金融危機で破綻に追い込まれたデベロッパーが多く、他方で新興デベロッパーも少なく、比較的歴史のある中堅企業も伸び悩んでいます。

 

結局、適地が買えないのは中小以下のデベロッパーも同じということでしょう。

 

●マイホームを新築のみに求める時代ではないのかも

新築マンションの供給が全くなくなることはないにしても、絶対戸数が少ない以上、買いたくても物がない。良い物件は抽選になってしまい、運の悪い人は何度も落選し、結局買えないことになってしまう。諦めて違う物件を待つが、それもダメで、気が付いたら3年などという笑えない人も増えて来ることでしょう。

 

先日、横浜の「北仲ザ・タワー」に二度落選したので、みなとみらいの中古マンションを買ったという人にお会いし、他人事(ひとごと)ながら嬉しく思ったものです。その人は、新築の方が奇麗で気持ちがいいけど、中古はすぐに入居できる(2年も待たなくていい)こと、壁紙を自分好みに変えられることなどを楽しそうに語っていました。

 

今後は、このような割り切り方や転換が不可欠になるのです。

 

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