第632回 三井不動産レジ「リノベーション分野」に本格参入のわけ
- 2018.06.05
- リフォーム・リノベーション
このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。
現在、日本における中古マンションのストックは約630万戸に達し、新耐震基準を満たす良質なストックの増加とともに、2016年は首都圏において中古マンション成約件数が新築マンション供給戸数を初めて上回り(中略)
このような市場環境を背景に、増加する中古マンションストックの活用を推進するとともに、変化する住宅取得ニーズに対応するべく、2018年4月にリノベーション事業室を新設し、リノベーションマンション事業「RESIDENTIAL MADE(レジデンシャルメイド)」を本格展開いたします。
(中略)
すでに、東京都渋谷区恵比寿、東京都江東区豊洲などで事業化に着手しており、積極的に中古マンションの買い取りを進め、リノベーションマンション事業の拡大を図ってまいります。新耐震基準適合や駅からの距離、専有面積(40㎡以上)などの買い取り条件を定め、より良質で安心のすまいをお客様に提供いたします。
(以下、略) ~三井不動産レジデンシャルのHPより~
これは三井不動産レジデンシャルが本格的にリノベーション事業に進出の公式発表です。1戸単位で買い取ってリノベーション工事を行い「売り主・三井不動産レジデンシャル」として販売するビジネス・買い取り転売を本格的に展開するというわけです。
この意味を考えてみました。
●大手マンションデベロッパーのリノベーション事業
同様のビジネスは、大京グループも既に展開していますし、筆者の調査では累計2000戸に達している模様です。リノベーション事業は、一棟まるごと買い取って展開する「三菱地所レジデンス」や「東急不動産」、「住友林業」などが知られていますが、いずれも「社宅や賃貸マンション」が対象です。
1戸単位とは異なります。(三菱地所レジデンスは、1戸買いのリノベーション事業も展開中)
1棟ごとの買い取りは、対象が少ないはずです。個人オーナーから購入したという情報はなく、今後も増えるとは思いません。なぜなら、賃貸マンションとして個人が建設した建物は収益効率(採算性)重視なので、分譲マンションの品質基準を満たすものは殆どないからです。
その点、一般企業が社宅として使っていたものは、比較的ゆとりがあって、管理人室やエントランスホール、共用廊下などのしつらえは、分譲マンションとしてのレベルを保つ建物に変貌させ得るものが少なくないということのようです。
三菱地所レジデンスのHPによれば、1棟リノベーション物件は「ザ・パークリモア」シリーズと呼ぶようですが、2017年3月から第一号物件となる、「ザ・パークリモア 白金台三丁目(※)」の販売が行われています。
(※)2018年6月4日現在で7戸の残:3憶3500万円~4億5700万円:214.57㎡~267.05㎡・・・坪単価@500万円超
工事は、既存建物完成日/昭和62年8月=築30年、共用部改修工事完了/平成28年11月、専有部改修工事完了/平成29年2月とあります。
東京メトロ南北線・都営三田線「白金台」駅から徒歩4分。大通りから一本入った、緑豊かな高台の住宅街にあります。地上4階地下1階建の総戸数14戸の低層マンションで、すべての住戸が200㎡超(という新築マンションではなかなかお目にかかれない間取り・広さとなっています。
元々は1987年に建てられた外国人向けの高級賃貸マンションだったとあります。
第2号物件でしょうか?「ザ・パークリモア さいたま新都心」(JR埼京線「北与野駅」徒歩7分。6階建て51戸)は完売しています。
また、東急不動産も「MAJES(マジェス)」の名称で展開しています。第1号は「マジェスタワー六本木」で既存建物(賃貸マンション)はRC造地下3階地上27階建て、住戸数は83戸。鹿島の施工で06年に竣工したものです。
第2号プロジェクトは「「MAJES 元麻布ガーデンズ」で3~5階建ての低層マンション41戸、超高級マンションとして分譲中です。物件のHPによれば「今回販売:4戸」とあり、66,000万円~102,000万円(専有面積 231.44㎡~307.16㎡)という、まさにスーパー億ションです。既存建物は、平成13年2月に竣工しています。
尚、東急電鉄・東急グループ各社は、それぞれで1戸単位のリノベーション事業を展開中です。
●リノベーション事業進出の背景
さて、三井不動産レジデンシャルは本格的にリノベーション事業に参入するという報道は何を語っているのでしょうか?筆者なりの分析は以下のようなものです。
先ず、背景には「新築物件の供給が困難な状況」が挙げられます。本ブログでも繰り返しお伝えして来ましたが、新築マンションの供給戸数はひと頃の半分に減ったという事実です。最近5年の平均戸数は40,000戸(首都圏全体)に過ぎません。10年前は80,000戸だったのです。
半分に減ったのは、市場規模が半分に減ったのではなく、供給したくても建設用地がないことに原因があります。
マンション建設に向きそうな土地(適地)が底を着いたと言っても過言ではありません。土地の供給源だった、法人の社宅跡地や廃校になった学校、企業のいらなくなった福利厚生施設(都区内の迎賓館や研修所、グランドなど)、移転に伴って放出した倉庫・研究所、工場跡地などが底を着いたというわけです。
残るタネ地としては、密集地の再開発や老朽マンションの建て替えなどですが、こちらは多数の地権者の合意形成に手間取り、5年や10年では済まない、長いものは20年もの時間がかかるのです。
現在進行形の再開発案件は少なくないように聞きますが、それらが具体的なマンションとして販売の予告PRを始めるまでには長い時間がかかってしまいます。
土地不足から新築マンションの供給戸数増加の見込みはなく、新築マンションを買うことは、もはや宝探しに近い難しさかもしれません。インターネット上の再開発情報に期待しても、詳細は不明、発売時期は2年先・3年先とアバウト、もちろん価格は霧の中です。
30年くらい前から、住宅の新設は大幅に減るだろう。年間00万戸も要らないと予言していた住宅メーカーの社長さんがいましたが、予言通りになりました。そうして、家余り、空き家の増加が社会問題になっています。
人口が増え続けている東京圏でさえ、30年先は分かりません。人が減れば、家も少なくていいのです。
駅から遠い一戸建てを捨てて(売って・貸して)、駅そばのマンションに住み替えたいというシニア層がありますし、郊外のマンションは通勤の問題があるから都心に近いマンションに住み替えたい、子供が大きくなって手狭になった・・・といった買い替え・住み替え需要は今後も続きます。
中には、古くて見映えが悪いし、設備も旧式だからリフォームも考えたが、新築を買うことにしたという人や、一度は新築に住みたいからと決めている人もあるので、新築需要が全くなくなることはあり得ませんが、新築マンションの時代は終わったと発言する業界トップは少なくないのです。
日本の人口構造の変化(高齢化と少子化、晩婚化)と、住宅の数、住宅の質といった問題に絡めて行くと、これからは「中古住宅」がビジネスの主力になるだろうと言われて来ました。
中古住宅の仲介ビジネスに始まり、管理ビジネス、リフォーム・リノベーション事業に軸足を移す不動産業者も増えています。
その一方、マンション分譲をもっと続けたいが適地がないので、新しいビジネスの柱を育てるほかない。そういう考えに至ったマンションメーカー(デベロッパー)も着実に増えているのです。
高い土地を買って開発に時間をかけ、ようやく販売にこぎつけたものの、価格が高ければ買い手から敬遠されてしまう新築マンション。それより、1戸1戸仕入れて行くのは大変だが、50戸の中古リノベーション仕入れも新築50戸のマンション開発も大差はあるまい。そんな考えに至ったマンション業者もあると聞きます。
とはいえ、相場で買い取っていたのでは採算が取れないのです。言い換えれば、リノベーションによって中古マンションのバリューアップを図っても、高過ぎれば売れないので、「安く売ってくれる個人」を安定的に確保しなければなりません。
中古オーナー(主として一般個人)の中で、業者に買い取ってもらうメリットにはどんなものがあるのでしょうか?そのメリットが大きければ、多少安くてもいいと考える人はあるかもしれませんが、仕入れは簡単ではないと筆者は思うのです。
ちなみに、三菱地所レジデンスがHPで紹介している物件を見ると、古くても1992年(築26年:リーラ新高円寺)、新しいものでは2014年(築4年:パークホームズ本八幡)の物件が多数並んでいます。
つまり、1981年以前に建築確認を取ったと思われる旧・耐震基準の物件は見当たりません。おそらく、「耐震性能を満たすもの」という三井不動産レジデンシャルと同じ買い取り条件を設けているのでしょう。。名もない売主の築40年を超えるようなリノベーション物件とは異なる「大手らしい当然の選別」と感じます。
物件の種別にも共通点は見られません。地域的には、都区内が多いのですが、首都圏広範に広がっています。
それにしても、比較的新しい物件が少なくないことに驚きます。中古市場で売れないためにやむをえず業者(三菱地所レジデンス)に買い取ってもらったとは思えません。買い手を大至急探さなければならない個人事情があったのでしょうか? そういえば、前に大京グループのAさんが教えてくれました。「多少安くても、買い手が早く見つかるほうがいいと考える人もいる。近隣の人に知られずに売ってしまいたい人も」
●マンションの新しいカタチ。それがリノベーション物件
リノベマンションが市場の中心的な地位を占めるようになるかどうか、それはまだ分かりませんが、中古物件の買い手は自分の意思で室内をリフォームしてから住み始めるはずですから、それをデベロッパーが肩代わりするのは意義深いことです。
新築と同じに、引き渡し後すぐに住めるからです。リフォームプランを自ら立案し、工事業者を選択し、打ち合わせ、見積り検討、プラン見直し、工事契約といった一連の作業は相当のエネルギーを要します。それを楽しみたい人もいますが、時間がないのでお任せに近い形で進めたい人も多いのです。
新築マンション、中古マンション、その中間に「リノベマンション」が位置付けられるのでしょうが、適正な価格で供給されることが期待されます。課題は、採算に乗るビジネスに育つかどうかにあります。
●注意したいリノベマンション
というのも、第123回の「 リノベーション物件は要注意」にも書きましたが、価格が異常に高いケースがあるからです。業者利益が不当にONされているものも多いので気を付ける必要があります。
大手が扱わない「旧・耐震基準」の危ない物件も多数あります。ところが、そんな物件でも、奇麗に着飾った部屋を見て舞い上がってしまう買い手も多数あります。冷静に見学することは難しいかもしれませんが、「価値を適切に判断する」「適正価格を判定する」ことが重要なチェックポイントです。
なお、筆者の「物件評価サービス」の初回無料の条件に、最近「リノベマンション」は除くとしましたが、その理由は、現地調査(内覧)が必要だからです。価格の判定を机上で行うことは限界があるためです。どのようなリノベーション工事を実施しているか、設備・仕様のレベルはどの程度かをHPの画像だけでは判断しにくいので、無料とはいえ、適切なレポートをお届けするのは難しいと感じることが多いため、初回分から有料サービス(同伴して内見。その後に評価レポートを提供)にさせて頂くことにしました。
・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。
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