第643回 「新築は安心・中古は不安」という買い手心理

このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

少し前に届いたメールに次のようなものがありました。

「どんな瑕疵や、逆に秘められた価値がその物件にあるのか、正直素人には分かりません。(中略) 数年後や数十年後の予測の見極めもできません。一番わかりやすいのが新築です。理論的におかしいのは分かっています。でも、感情的に大きな拠り所にはなるのもまた事実です」

 

新築が安心で中古は不安ということの説明に、「感情的に・・・」とあったのが何となく筆者の腑に落ちた気がしましたが、中古マンションを不安に思う理由を改めて考えてみました。

 

●中古マンションを購入する人は新築を超えたが・・・

新築マンションの年間契約戸数と中古の契約戸数は、2017年に逆転しました。新築マンションの品薄感と価格上昇が背景にあるとはいうものの、中古マンションも市場価値が認められ、取引件数も伸びる傾向にあるのは間違いないように思います。

 

日本は欧米諸国に比べて、中古住宅の取引の割合が極端に少ないことが問題視されるようになって長いのですが、国土交通省も業界も共に対策を取って来たせいで、成果がようやく出て来たのかもしれません。住宅性能表示、優良中古認定制度などがすこしずつ功を奏して来たのですが、顕著なのは民間の「リノベーション事業」の広がりです。

 

とはいえ、まだまだ緒に着いたばかりで、大きな柱に育つまでには至っていません。第641回で「国土交通省の調査による、中古住宅に抵抗がある理由」について紹介しましたが、中古マンションには大きな壁が立ちはだかっています。それでも年間に4万人以上(首都圏)の中古取引があるのは事実です。

 

●中古マンション購入時の拠り所は?

中古マンションを買った人たちは、どこに安心の拠り所を求めたのでしょうか?あるいは、どのような考え方をして決断に至ったのでしょうか?

 

これは個人差のあることで、また調査データのようなものも発見できず、分かりにくいテーマですが、筆者は以下のように考えています。

 

大手マンションメーカーの分譲したマンションだから大丈夫だろう

大手ゼネコンが施工したマンションだから大丈夫だろう

③先の大地震でも特に修復が必要な箇所はなかったとの説明を受けた

④内見中、室内はとても静かだった。遮音性も悪くはないのだろう

⑤清掃が行き届いており、管理状態も良さそうだ

⑥管理人さんの目が光っているし、オートロックなのでセキュリティも良さそうだ

⑦管理費等の滞納者がゼロと説明を受けた

⑧売る人が少ないというから、きっと良いマンションなのだろう

⑨建物に傾斜はないようだし、東日本大震災の揺れにも耐えた物件なのだから耐震性は大丈夫だろう

⑩疑ったらキリがない。まあ大丈夫だろう

⑪住んでみて不具合があったら売ればいいさ

 

大体こんなふうに考えて不安を打ち消し、自身を納得させたのだと思います。

 

ここで気付くことがあります。売主と施工会社が大手というくだり⓵②です。逆に言えば、大手の物件以外は不安が解消できないことになります。ところが、気に入って買いたい欲望が強まると、マイナス思考よりプラス思考というか、楽観的というか、そのような心理状態になるようです。

「大手の方がいいが、全て満足す物件はないのだし、仕方ない」というわけです。

 

●買い手の不安を解消してくれる営業マンが少ない

何年か前に、リクルート社が中古住宅(一戸建てを含む)購入者を対象に「不動産業者に対する購入前の期待度と購入後の満足度のギャップ」を調査しています。

 

それによると、次の5項目で大きなギャップがあることが分かりました。

1.物件の欠点を伝えてくれること・・・購入前の期待度3位/購入後の満足度15位

2.物件に関する知識が豊富・・・購入前1位/購入後12位

3.構造に関する知識が豊富・・・購入前9位/購入後18位

4.契約を急いだりしつこくしたりしない・・・購入前2位/購入後11位

5.情報を包み隠さず全部公開・・・購入前5位/購入後13位

 

買い手の建物に対する不安は、営業マンの的確な説明によって相当部分が解消されるものですが、新築マンションほどの資料がそろっていないためもあって、説明不足になってしまうようです。一番の問題は、仲介業者の営業マンは物件に精通していないことかもしれません。上記調査のデータからも容易に想像できます。

 

新築マンションの販売現場では、あらゆる角度から買い手の不安を払拭する準備・営業努力が傾倒されます。そうする理由は簡単、営業マンの担当物件がひとつ(専任)だからです。

 

耐震性や耐久性などの基本構造をはじめ、建物の性能に関する説明を丁寧に行ないますし、床下や壁の内部など見えない部分については、断面模型などを使ってアピールしたりします。

ガラスの断熱性や防音サッシの性能は、メーカーから提供された模型などを使って体感できるようにしています。免震構造の効果をアピールするために、一般の耐震構造との差を模型の揺れで実演します。

 

これらのデモンストレーションは、モデルルームを見学した経験をお持ちの読者ならお分かりいただけるはずです。全て、買い手に「安心感」や「納得感」を与えたい意図から用意された仕掛けです。

 

これに対して、中古マンションは実物を目視するしかなく、建物内部がどうなっているかなどは全く分かりません。工事中の新築マンションを買うのと違って、実際の景色や日当たり、管理状態を確かめることができるという、一面のメリットがあるのは確かですが、それだけでは安心できません。

目に見えない部分は、代わりの何かをもって説明しなければならないはずです。その部分で仲介営業マンは頼りにならないと思う方が正解でしょう。

 

●だから築浅の中古に人気が集まるわけではないが・・・

古いマンションは分からないことだらけ、営業マンに尋ねても納得のいく答えが即座に返って来ない。だから、新築に向かう買い手が多いのでしょうし、中古でも「より新築に近い」物件を探そうとする心理が働くのです。

 

しかし、不動産流通機構(REINS)に登録されている物件の中で、築5年以内は5%程度、10年以内に広げても20%以下しかないと言われます。つまり、REINSに登録されている中古マンションの80%は築11年以上だという実態にあるのです。

 

そのせいか、比較的新しい中古マンションは人気となり、価格も物件格差はあるものの新築並みに高くなってしまうのです。築浅物件にこだわると、中古マンションは選択の幅が狭く、買いにくいということになりそうです。

 

●新築は安心とは限らない

新築が安心と思って買った人も、10年も経過しないあるとき、マンションが傾き始めたという現実に住民はびっくりし、大きな不安に襲われたことでしょう。ご存知2016年10月にマスコミ報道で有名になった「横浜の傾斜マンション事件」は、2007年に竣工マンションでした。建て替えになったことは既報の通りです。

 

川崎市のあるマンションでは、10年ほど経ったころ、一部の部屋で雨漏りするようになり、管理組合が業者に依頼して補修工事や調査を依頼した結果、ベランダの柱と梁(はり)の結合部分などに発泡スチロールや木材の混入と空洞が確認されました。柱の鉄筋が設計図より不足しているなど、構造上の欠陥も複数見つかったのです。その結果、建て替えることになったのです。

 

入居して間もなく、階下の音や同じ階の子供の泣き声などが筒抜けというマンションもありました。管理会社を通しても直接交渉しても誠意ある対応をしてくれないので、とうとう裁判になり、裁判では居住者が勝利的和解を勝ち取ることができたそうです(平成12年11月9日)。

 

2014年春には、新築の億ションが引き渡し寸前に、ゼネコンの内部告発で欠陥工事が発覚しました。手付金3倍返しで全戸解約に至った騒動となりました。

 

マンションの欠陥問題は、入居後の早い時点で露見するか、8~9年で表面化する傾向があります。従って、例えば10年を超えるマンションの方が、出るべき欠陥は出てしまったあとなので、むしろ築浅や新築マンションより安心と言えなくもありません

 

ともあれ、欠陥マンションに遭遇する確率は極めて低いのですが、中古より新築は安心とも言えないのです。

 

●中古マンションを検討するときのスタンスは?

2000年から始まった「住宅性能表示制度」によって、建物品質に関する客観的指標が新築マンションの物件ごとに提示されるようになりました。最近は90%くらいまで普及して来たようです。

今後は、中古マンションの紹介の際に提示されることが増えて来ます。また、仲介業者が一定範囲で品質保証を行う例も出てきました。しかし、いずれも緒に着いたばかりです。

 

欠陥マンションを外からの目視で発見するなどということは専門家でも難しいものです。どうしたらいいのでしょうか?内覧の際の観察ポイント、見えない部分の指摘事項、調査方法など、一定の予備知識が必須です。ここでは、簡単に要点のみ挙げておきます。

 

●中古マンションで検討すべき項目

⓵築年数と修繕履歴 (大規模修繕がいつ行われたか。その範囲は?)

②分譲主・施工会社 (売主か施工会社、または両方のブランド力は高いか?)

③管理会社と管理体制、管理状態 (管理会社の経験・実績は豊富か?管理人の勤務日数は?滞在時間は1日5時間以上か? 清掃は隅々まで行き届いているか? 放置自転車はないか?)

④修繕積立金は築年数の割に安いことはないか?

⑤修繕積立金の残高は1戸当たりいくらあるか(100万円以上あるか)

⑥品質保証 (仲介業者による瑕疵担保保証の範囲はどこまでか?)

 

●中古マンションの観察ポイント

以上を踏まえて、内覧時の観察ポイントをいくつか紹介しましょう。入居中のために観察を遠慮しがちになる場合もありますが、できるだけ売主さんにお願いして見せてもらいましょう。質問についても同様です。

 

①ひび割れの有無を目視で探してみる・・・長く放置しておくと雨水が入り込み鉄筋が錆びて、耐震性・耐久性ともに低下してしまうからです。 外壁や廊下の天井、バルコニーの天井などに30センチ以上の長いひび割れがあったら要注意です。タイルの剥離や白華現象(水がしみ込んでいるサイン)も同様です。

また、仲介業者を通じて、管理組合に修繕予定はいつかと質問をしましょう。この点検項目は、管理の良し悪しを見る重要なものとなります。修繕積立金が十分でないためか、それとも管理意識が低い管理組合なのか、どちらにしても適時、適切に修繕を行ったマンションと、そうでないマンションでは、長い間に資産価値に大きく差がついてしまうからです。

 

②設備機器の耐久性をチェックする・・・ガス器具、エアコン、ディスポーザー、食器洗浄乾燥機、床暖房などは、有無を確認しつつ、何年使用しているかを尋ねましょう。 入居後すぐに新品と交換しなければならないのか、まだ数年は使えそうかの判断をするためです。

 

③結露の有無を調べる・・・北側に位置する個室を見るときは、電気を消して明るさを見ることと通行人の足音を聞くことに加えて、窓の周囲の壁と天井に目を凝らしましょう。

黒ずんでいたり汚れがひどかったりするようであれば、冬季に結露ができやすいことを示すものであり、原因は断熱材の施工が十分でない可能性が疑われます。そして、それはリフォーム費用に大きく響きます。

 

④床・壁・天井の表面を全体的に点検する・・・トイレや洗面所の床の表面材(普通はクッションフロアという材料で仕上げてある)がめくれていないかどうか、壁紙の張り合わせ部分がめくれて隙間ができていないか、変色していないか、傷や汚れがないかどうか、フローリングの表面仕上げ部分がはがれていたり、傷が目立ったりしている所がないかどうかなども。

リフォーム工事の予定に組み込むかどうかの判断に必須だからです。

 

 

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