第648回 人を狂わせ専門家を黙らせ、未来予測を狂わせるバブル
- 2018.10.15
- マンション市場
このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております。
5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
この仕事を始めた当初、筆者が立てた予想が少し外れることがありました。冷静に辛めに予想したものとはいえ、「高過ぎます」とコメントして前向きになっていた人を失望させたかもしれない。そう思って反省した時がありました。予想以上に上昇スピードが速かったためです。
そんなことが続いて、一時は自信が揺らぐことすらありました。
なぜ外れたのか、これほど建築費が上がるとは思わなかった、地価上昇もこんなにまで影響するとは思わなかったという言い訳するほかないのですが、高過ぎると言った筆者の相場観がいつの間にか当たり前になって行ったからです。
今日も、注意深く日々の動きを注視していると、今日は述べませんが、過去の常識からは考えられないことが起こっています。
この先、マンション市場はどう動くのだろうか?そのことをいつも考えています。
さて、金融や経済の専門家ではない筆者が金利動向を予想する、為替や株価について語ることはありませんが、不動産の動きに関係が深い分野なので討論番組や新聞報道には興味が尽きません。そんな日常の中、報道を見聞きして感じるのは、専門家でも全く正反対の意見があることに驚かされます。真っ向から反対の意見を戦わすからです。
予想が当たった人が寵児になり、外した人は消えたわけではなく、今も公の場で双方とも活躍を続けていますから、正反対の論者の存在に意義があるということなのでしょう。しかし、結果的に予想を外した専門家は、その話題になると居心地が悪そうにしていますし、発言を控えているように見えます。
さて、2008年に起きたリーマンショックを契機として世界金融危機、世界同時不況を予想した専門家は少なかったと思います。しかし、地球の裏側で起きた事象が日本経済を揺るがしてしまう、今はそんな時代です。未来予測は骨の折れる仕事です。
かつての不動産バブルも、どこかで誰かが常識外というべきか、不遜な行動というべきか、自由の国だからとはいえ、強欲がもたらした行動を始めた結果、それが燎原の火のごとく波及して行ったのでした。ただ、その背景には金余りがあり、財テクブームがあったのです。結果的に、不動産バブルは庶民のマイホームの夢を一時遠ざけました。
今も、バブル期に近い現象が局地的に起こっています。幸い、それが1億総不動産屋などと言われるようなこともなく、一線を越えていないのは幸いです。つまり、国民の多くが冷静に事態を眺めているようでもあります。
首都圏の新築マンションの価格上昇は、東日本大震災の復興需要や都心の再開発による建設ラッシュで人手不足が建築費の高騰を引き起こしたことに起因しますが、都心の物件に関しては地価の上昇も加わっています。
適地不足が過当競争を招き高値で落札されるため、とりわけ駅近の大型案件は地価と建築費のダブルで原価の大幅アップとなり、分譲価格の高騰となったのです。
値上がりは急激でしたが、販売への影響を吸収する材料も生まれました。材料とは、住宅ローン金利の低下によって購買力が向上したこと、アベノミクスの効果で株価が上昇し、景気回復が期待されたことなどです。
また、株価上昇で資産を増やした人、加えて2015年に施行された相続税の強化策が富裕層を都心のタワーマンション、人気の高額マンションに向かわせました。
株高とともに円安も進みましたが、円安効果は新たな需要を生みました。国際的に見て一段と割安になった東京の不動産を外国人が買いにやって来たのです。
これらが、マンション価格の高騰をものともせず、マンション販売は2015年まで好調を維持する要因となりました。しかし、これらの需要層は多数派ではありません。
マンション購入者の大部分を占める買い手は一般勤労者です。この需要階層は、金利低下の恩恵が得られる範囲に価格がとどまっているうちは、販売不調の要因としては表面化しなかったのですが、その限界を超えてしまったのでしょう。2015年秋、契約率に異常値が表れました。年初来、初月契約率が70~80%台を維持していたのですが、突然のように好不調の目安と言われる70%を割ったからです。
秋は通常なら契約率も上がり、契約戸数も伸びるものですが、9月は発売戸数を絞ったにも関わらず契約率が低下したのです。発売戸数は前年同月比で27.2%も少なく、夏枯れと言われる低調な8月との前月比でも6.9%も減らしたのです。
その後、一進一退を続けましたが、年明けの2016年1月には、とうとう50%台に下落しました。初月契約率50%台は、2008年7月以来7年ぶりのことでした。
2月以降、70%台を回復した月もありましたが、60%台に低迷という基調となっていました。
価格高騰は、買い手から見て予算内に収まる物件の減少をもたらします。 金利低下が一段と進んだおかげで価格高騰も一定程度の吸収効果を発揮したものの、限度を超えました。このため、予算に収まる物件を探し求めて郊外マンションに向かう人もあります。新築を諦め、安い中古へと舵を切った人も多く、中古マンションの取引は活発です。
我が家が高く売れそうだと知った人は、悪乗りして相場無視の強気な値を付けて売り出し、それでも言い値で買ってしまう買い手も現れたりしています。今、中古市場は売り手市場になったという人もあります。筆者は、微力ですが「高値掴み」にならないよう、「その売値はこれだけ高い」とお伝えして、ゆがんだ市場の是正に一役買いたいと考えています。
しかし、結果的に指値をしたら売主に断られてしまい、言い値で買う人にさらわれてしまったと言われる始末です。それでも、筆者は少しもひるんでいません。「それでいいんだ」と自分に言い聞かせ、鼓舞しながら「マンション評価レポート」を今日も書いています。
バブル期を思い起こすと、都心の便利なマンションは都区部の土地が投機買い(土地ころがし)にあってデベロッパー各社は取得できず、供給が激減しました。僅かな販売物件も価格は途方もない高さでした。
当時はマンションを含む不動産も株も、あらゆる資産価格が右肩上がりで、それが永遠に続くかのような「楽観の錯誤」に全国民が陥ってしまった時代でした。
いま買わないと一生買えなくなるとの強迫観念に陥ったのか、通勤圏なら何でもいいというくらいの買い手心理が蔓延しました。 中には、新幹線通勤の可能な静岡の「三島」や群馬県「高崎」といった街の物件を選択した人さえありました。しかし、多くの人は限界と見て購入を諦めてしまったのです。
当時と現在では、様々な条件が異なります。時代背景もはっきりと違います。値上り率も今の方がバブル期よりは緩やかな方です。また、金利水準がまるで違います。
東京五輪の関連工事がなくなっても、都心の再開発工事が2020年以後も続くので、建築費は高値安定か緩やかな上昇トレンドを続けるでしょう。
オリンピック以降の工事は、東京だけで言えば、品川駅のリニア新幹線関連工事や山手線「新・品川駅」の開設と関連工事、浜松町駅周辺開発、東京駅北口・常盤橋再開発、虎ノ門~麻布台開発、「新・虎ノ門駅」の開設、首都高日本橋エリアの地下化工事など、都市再開発が目白押しに予定されています。東京五輪後も訪日客の増加が見込まれているので、ホテル建設の需要も続くに違いありません。
これらを俯瞰して行くと、建築費の大幅な低下はないと見なければなりません。
地価も、マンション業者間で争奪戦が激化しているので、まだ下がる見込みは立ちません。仮に地価が下落し、マンション用地が安く取得できるようになったとしても開発期間を経て着工し販売にかかることができるのは平均して2年後です。既に着工し、これから発売される物件は下落の見込みはゼロなので、価格上昇が止まるとしても早くて2年後です。下落局面に転じるのはその先です。
一方、土地の需要はマンションデベロッパーだけではなく、例えば都心の商業地などはホテル用地と直接競合し、ホテル業者に競り負けることが多いと聞きます。訪日客の増加傾向に伴い、ホテル建設ラッシュは続くと見られているからです。
こうした動向を注視していると、安価なマンション用地を簡単に取得できる状況にはならないと見るほかありません。
マンション販売(新築)が順調でない状況が続いているため、今後は少し様子が変わってくるかもしれません。しかし、業界が一斉に土地取得を手控える状況に転じる様子は見られません。
一方、中古マンションの価格は新築価格に連動します。新築が高くなって手が届かなくなった人が中古に目を向けることで中古も値上がりするのです。 その逆も無論あります。
また、新築の供給がない地域においては、その少し前に完売した新築と大差ない高値で買い手がついてしまう人気中古物件も現れています。
新築にせよ中古にせよ、マンションの価格は需要と供給の関係で決まるものですが、外国人の爆買いも、ひと頃の過熱感はなくなったようですし、相続税対策にも「行き過ぎ」と見た国税庁の新方針が出て、タワーマンションの上層階を買うのが有利とする流れも後退しました。マイナス金利を打ち出して以来、一段と低下した住宅ローン金利ですが、価格高騰を吸収するだけの効果には限度があります。直近では僅かながら上昇気配すら見られます。
売れなければデベロッパーは値引き販売を水面下で始めることになります。価格がまだ下がらないと述べたのは、あくまで表面的なことです。言い換えると、売り出し当初の定価ベースでのことです。実質の価格上昇トレンドは間もなく転換時期を迎えるかもしれません。
売れ行きの低迷は発売の先送りも増やしています。しかし、着工してしまった建物、契約が僅かでも進んでいる物件は販売停止というわけには行きません。少しずつでも発売し、販促を図ろうとするはずですが、期間あたりの売り出し戸数の減少は続きます。
ちなみに、2016年の年間・新規供給戸数は前年比約11.7%減の35,772戸、初月契約率の平均は68.8%でした。価格(坪単価)は前年の257万円から1.8%アップの262万円となりました。
2017年も戸数減少、価格上昇、販売スピードの悪化となりました。2018年に入ってからも価格は高いまま、売れ行きは低迷という状況が続いています。
午前と午後で数字が変わる株価のような激しい値動きは不動産にはありません。それは衝撃が加わらないこと意味します。気がついたらこんなに上がっていた、いつの間にかこうなったという「足音もなく危機が迫る」ことを意味します。
その僅かな足音を聞くために、筆者はこれからも耳を立て、目を見開いて歩く覚悟です。今日は、かすかに聞こえて来た危機の足音についてお伝えしました。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com)