第650回 貴方のマンションがヴィンテージになる条件

このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論を展開しております。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

 

物が時の経過とともに陳腐化するのは、宿命のようなものです。しかし、一方では、「ヴィンテージ」と呼ばれ、古いことが価値として認められる物も世間には存在します。例えば、ワインやウィスキー、古美術品などです。

建物にも古城などがありますね。日本のマンションにも、数は少ないですが「ヴィンテージ」と呼ばれる物件があります。ただ、それらは庶民には高嶺の花と言ってよいような特別なものです。

私たち庶民が手にする大衆マンションに、古くて価値あるマンションというのは出て来ないものなのでしょうか? 今日は、未来のヴィンテージマンションを生みだす条件のようなものを探してみました。

 

●ヴィンテージマンションという曖昧な定義

日本のマンションにおいて「ヴィンテージ」を厳格に定義付けすることは難しいと思います。現状では、「築何年以上でかつ坪単価は何万円以上」とか「○○設計事務所が手がけた作品」あるいは「××マンションシリーズ」といった具合に、無理矢理線引きする傾向があります。

 

また、中古マンションの売却サイトを見ると、ときどき「ヴィンテージ」というキャッチコピーに遭遇しますが、「そのマンションをヴィンテージと呼ぶのはどうかな」と思うことがあります。

ヴィンテージマンションと言う方が物件のイメージが上がり、買い手の関心を呼ぶので、敢えてそう表現しているのでしょうが、古いだけではヴィンテージとは言えないのです。

 

ある先達は言いました。

マンションはコレクションではなく「住まい」である。年月をかけて手を入れた「使い込まれた風合い」や「熟成の度合い」が、ヴィンテージの醍醐味であるなら、その過程を楽しんでこそ意味があり、何よりその歴史そのものが価値だといえる。「ヴィンテージ」は本来、年代物……例えばワインなら良質なブドウが豊作だった年。車なら、1919年~30年に生産されたイギリス製だけが対象になるそうだ。また、特定の産地(ワインならブドウの収穫された地方。車ならイギリス)に限定した選別の仕方もあるようだ。

 

この定義に当てはめると、日本のマンションの場合、半世紀そこらの歴史の浅さからして、少し困難かもしれないと思います。まあ、しかし、日本独自の、またはマンションならではの定義が存在してもおかしなことではありません。

ヴィンテージマンションをイメージ的に言うと、築後30年以上を経過して、なお根強い人気を誇る高級マンションのことになるでしょうか

 

●ヴィンテージマンションは高級マンション?

ヴィンテージマンションとよばれる築後30年以上を経過して、なお根強い人気を誇るマンションは実際にあります。外国人向けの賃貸マンションとして建てられた「ホーマット・キャピタル」や、分譲マンションでは、東京オリンピックの年に完成した「ビラ・ビアンカ」、今年で35年になる億ション団地「広尾ガーデンヒルズ」などです。他にもいくつかあります。

広尾ガーデンヒルズを例にとると、記憶では分譲当時(1982年~)専有面積・坪当たりの単価が300万円前後だったのですが、バブル期には中古市場で何と10倍の3000万円にも跳ね上がったのです。

バブル経済が崩壊して値下がりしたものの、300万円を割ったことは一度もなく、35年を経た今でも坪当たり500万円以上もします(2018年10月25日現在の売り出し価格は下段に列記)。80㎡クラスでも1億2000万円、条件の良い住戸は700万円近い流通価格になっています。新築で、これを超えるマンションは数えるほどしかありません。

O棟3階104.95㎡ 16,500万円(518万円/

K棟9階 97.18㎡ 16,800万円(570万円/

B棟4階101.58㎡ 21,500万円(698万円/

O棟6階117.06㎡ 21,800万円(614万円/

L棟5階118.03㎡ 24,980万円(698万円/

さて、何十年も経て価値が下がらないマンションと一般のマンションとでは、どこがどう違うのでしょうか?立地条件の違いでしょうか?最初から高級マンションだったからでしょうか? 確かにそれもあります。しかし、建物は必ず老朽化していきます。それを放置しておけば、コンクリート住宅が本来もつ寿命を縮めてしまい、最後はスラムと化すのです。高級マンションとて変わりはありません。

ところが、ヴィンテージマンションは、そこに長く住む人が多く、長く住み続けるためにメンテナンスに力を入れている点が共通してクローズアップされます。そこが大きく違うのです。

また、外構部分の、例えば植栽は、時が経てば経つほど木々が育って豊かな緑を蓄え、建物を包んでくれる場合があります。その結果、近くに行ってみると分かるのですが、古さを全く感じさせないだけでなく、緑の多さが目立ち、安らぎ感がある、潤いがあるとでも言えばいいのか、こんなマンションに住んでみたいと万人に思わせる雰囲気があります。次の写真は3点とも広尾ガーデンヒルズの敷地内です。

     

(画像出典:1、2は野村不動産アーバンネット社、3番目は三井不動産リアルティ社の物件サイト)

さらに、無形文化財的な価値と言った人があります。「入居者がつくるコミュニティの面で価値あるマンションになっている例もあります。平たく言えば、入居者同士がほどよい距離を保ちながら暮らしているが、いざというときの結びつきが深く、居心地の良いマンション。売却する人も少ない快適な共同住宅が、長い間に入居者によってつくりあげられて来た」・・・このように形容することができるマンションのことです。

築後何年経っても、むしろ何十年も経ったからこそ、価値を高めたマンション。どうせ買うなら、そのようなマンションを買いたいものです。

結局、価値あるマンションになるかならないかは居住者次第ということになります。住んでから価値を上げる努力、または意識。こうしたテーマで語られるような時代がそこまで来ているような気もします。

マンションの維持管理は、何かの事情で手放すことになった場合も、有利な条件で売却ができ、住み替えをスムーズにさせる要因となるのです。言い換えると、「管理のクォリティーが高い」ことがリセールバリューを高く維持する条件なのです。管理といえば委託先の管理会社ブランドや、昨今進化の著しいセキュリティーシステムなどに関心が行きがちですが、それらは二の次です。まずは住み手の意識とマナーが高いことが重要です。

管理会社はあくまでサポート的位置づけであり、防犯ひとつにおいてもその最たる手段は「住人の目」。自主的な管理意識が、クォリティを高めるはずです。

マンション管理は、管理会社に任せておけば大丈夫と勘違いしている人も多く、まだまだという印象もあるのですが、今後は少しずつ変わって行くことでしょう。

 

●ヴィンテージマンションになる条件「住民の愛着」

「住民の愛着」があること。これが最も不可欠であることは言うまでもありません。グレードの高い立派なマンションは分譲会社とゼネコンが用意してくれるものの、それを年月かけてヴィンテージに仕上げていくのは住民の住まいへの愛着に他ならないのです。

欧米では、自宅の維持管理に熱心な家庭が多いと聞きます。それは、少しでも高く売りたいからだそうです。お聞きになったこともあるかと思いますが、日本は新築取引が主体で、中古住宅の流通シェアが少なく、欧米諸国と対象的です。

木と紙の家か、石の家かの違いもありますし、大火事が発生するたびに建て替えて来た「スクラップアンドビルド」の歴史などが背景となって、不動産価値を土地には求めるものの、建物はあまり大事にしない傾向が日本の特徴と言えそうです。

「どうせ売るんだから」、土地神話が根強かった時代には、建物の維持管理にさほどの意識をしなくても、そんな風潮が残ったのかもしれません。そんな時代にもヴィンテージマンションは、住人の愛着が建物の維持管理に及び、高い価値を維持してきたのです。手放したくないという意識と言い換えても良いものでした。ですから、滅多に売り物も出ないのです。

 

●価値保存の意識が高いオーナーがヴィンテージを生み出す

実際に、周辺相場を大きく上回るマンションも少しずつ増えていると聞きます。例えば、あるマンションは築20年経って周辺が分譲時の半値くらいになっている相場の地域で、分譲価格から3割下がっただけの売却価格になっているという物件の話を耳にするのです。古い物は陳腐化が避けられないと冒頭で述べました。これは、建物の内容に関してのことです。つまり、仕上げや設備機器に関してです。

こうした実績を見て来ると、マンションの価値は室内よりは共用施設、共用空間、建物全体の印象、管理状態などの方が評価の比重が高いと言えそうです。

その秘密は、管理組合活動の活発さにもあります。具体的な例を拾ってみました。

①美しさを保とうと手入れに努力して来た・・・植栽の手入れや、花壇の追加設置、ロビーの床材の交換、集合郵便受けの交換、名札のプレート材の統一、チラシの投げ込みではみ出したチラシの始末

②新しい設備の導入を図ってきた・・・監視カメラの設置。インターホンを最新のTVモニター付きにした。

③メールボックスの交換した

④玄関ドアを上下2ロック、電子錠、プッシュプル方式の最新式に交換した

⑤防災倉庫を設置した

⑥電気自動車用の電源を増設した

⑥敷地内をガーデニングした

⑦エントランスロビーの壁を飾りつけした

⑧カーシェアリング制度を導入した

③住人同士の交流にも力を入れて来た

「建物が100年もつかどうかは、良い材料を使うかどうかではなく、住む人がもたせる意志を持っているかどうかにかかっています」と語るのは、東京大学教授でもある著名な建築家の隈研吾氏新・国立競技場の設計で一般の人にも知られた)。以下の2点を挙げていらっしゃいます。

1.管理会社任せにしないで住人も積極的に関与すること。当事者意識が大事

2.コミュニティ形成が重要

お互いの顔が見えないと合意形成がしにくいので、日頃からイベント(納涼花火大会、お祭り、クリスマス会、不用品交換会など)や防災訓練などを通じて交流を図ることが、災害の時にも互いに助け合うことにつながるのです。

 

●共用部のレベルが高いこともヴィンテージの条件

マンション(mansion)を直訳すると「プールの付いたような高級住宅」という意味で、「住宅の豪華版」を指しています。エントランスホールに集会室、エレベーターなど共用施設や機器が備わってアパートメントと区別されたのです。

ヴィンテージになる必要条件のひとつは「共用部の充実」です。

 

敷地内の植栽や中庭(パティオ)、外壁、エントランス、ロビー、廊下。大型の場合は展望ラウンジやゲストルーム。そのどれもが誰の目から見ても一定のレベルを満たす質感と耐久性があることが必要条件と言えるのです。

 

・百年先も価値が変わらない美術館のようなデザイン(飽きが来ないデザイン 歴史の重みを感じる建物に似ている。流行を追わない建物。格調が高い)

・重厚な門扉がある

・公道からエントランスまでの距離が長い(エントランスが奥まっている)

・植栽・造園計画にこだわりがある

・共用部は床も壁も天然の石張り、天井の装飾にも気を配っている

・エントランスホールは一流ホテル並み(規模によっては2層吹き抜け)

・車寄せがある

・駐車場は地下格納式

・バルコニーの軒裏まで手を抜かない

・内廊下式になっている(照明や天井飾りまでこだわりがある)

 

以上のような共用部がヴィンテージマンションになる設計要素ではないか・筆者はこう考えます。

 

●外観のデザインの永続性

一部重複しますが、美しく洗練されたデザインと品格・美観、風情も大事です。「外観デザイン」に関しては、時が流れても輝きを失わないものがあります。その多くは、美術館や迎賓館と呼ばれる公共の建物に見られますが、マンションも建築時から外観に力を入れることが不可欠ですし、植栽も重要になります。

 

植栽の効果を改めて整理すると、次のようになります。

 

➀建物のデザインを引き立てる(植栽自体が外観デザインの一部になる

②住まいの個性を生み出す(緑の意匠が特徴となる)

➂季節感を生み出す(都市の暮らしに四季を感じさせる

④外的影響から守る(外からの視線を遮る

➄無機質な建物に彩りを添える(目に優しい・入居者にも周辺住民にも癒しを与える

⑥建物の劣化を樹木の生長が補う経年による価値の向上

 

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ヴィンテージマンションについて、短いながら考察して来ましたが、結局「周囲から賞賛を浴びるような歴史あるマンション。そして誰もが憧れるマンション」をヴィンテージマンションと定義づけていいのではないかと思います。

 

 

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