第655回 「売り手市場」の色彩が濃い今、買い手は?

このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論を展開しております。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

 

買い手市場、売り手市場という言葉があります。

辞書によれば、「市場の需給関係において、需要のほうが供給よりも多いため、売り手(供給側)に有利な場合を売り手市場といい、その反対の状態を買い手市場という。売り手市場では、買い手の間に競争が生じ、売り手は自己にもっとも有利な買い手に売り渡そうとする主導権を握ることができるから、その結果として価格は競り上げられ、騰貴する。買い手市場ではこの関係は逆転し、買い手が思うように供給内容を選択し、価格、数量、品質、タイミングについて自己の意志をもっとも有利に反映させることが可能になる。したがって、価格は低落傾向をとることになる」とあります。

 

今のマンション市場は、「売り手市場」にあるという人があります。この意見に筆者は違和感を覚えます。少なくとも、新築マンションの市場は、そうとは思えないからです。しかし、中古市場は「売り手市場」なのです。今日は、中古マンションに限って感じていることをお話ししたいと思います。

 

●相場より1000万円も高く買ったQさん

筆者のレポート(マンション評価レポート)を受け取ったご依頼者Q氏から次のようなメールが届きました。

三井様に売出価格が相場より高いと評価いただいたのですが、同日見学された方が満額で購入を希望しているそうで、相場より高い場合であっても満額で即決しないと先を越されるのではと若干焦る気持ちも出てきております」と。

 

この方のご希望マンション(中古)は、取引事例を調べたところ、最近1年の成約単価とは20%近くも高く、筆者のコメントは階数差を考慮しても1500万円以上も高いとしておりました。

 

しかし、売り物がたくさん出てくる物件でもないので、気に入った、ここに住みたいと感じた物件なら多少高くても資金に無理がない限り買っても良いと思います。とはいえ、1500万円高は売り手にひれ伏すようで気分がよろしくありません。交渉を頑張って値引き額をできるだけ大きくしてもらいましょう」。筆者は、こう返信しました。

 

Q氏は、間に入った仲介業者が頑張ってくれたそうですが、それでも500万円詰めるのが精いっぱいだったらしく、結局1000万円高く買ったのです。

 

●強気な売主が闊歩

昨今は新築の品不足から中古マンションの取引が活発になっています。このため、高い価値を持つ物件、人気物件、希少な物件、有名物件などの売主から異常な強気を感じるのです。筆者はこれを「悪乗りする中古マンションの売主と価格交渉」というタイトルで別サイトのブログに今年書きました。

こちら https://www.e-mansion.co.jp/blog/archives/11417/

 

新築マンションの価格は売主が一方的に決めるものですが、中古マンションは本来、売主と買主が交渉して決めるものです。

 

原価の積み上げで決まる新築価格、需要との関係で決まる中古価格と、大雑把に言えば、この違いがあって、前にも書きましたが「新築はメーカー希望小売価格」で販売され、中古は市場価格で販売されるという特性があります。

 

新築の価格は硬直的ですが、中古は市場にゆだねるというイメージになるのです。オークションのようなものかもしれません。

 

つまり、中古価格は指標になる過去の取引事例があって、自然に妥当なレベルに価格が落ち着くのです。言い換えれば高く売りたい個人オーナーがいても、市場がそれを許さないものです。

 

ところが、高値の物件に遭遇することがあります。筆者に言わせると「売主は悪乗りしている」ケースです。何故なら、仲介業者と相談して売り出し価格を決める際に「もっと高く売りたい」と欲張りな発言をするからです。

 

また聞きですが、査定額を見て「そんな値段じゃ売りたくないなあ。これは立地もいいし、最上階で眺望も最高だよ」などと、まるで査定をして来た業者を説得するかのように我が家の価値を認めさせようとするそうです。

 

業者の立場では、価格が安いほうが早く売れて自社の収益になるので、査定額で受託したいのですが、安くしたいとは言えませんし、遠慮がちに「少し高いかと・・」と発言したとしても受注ができなくては元も子もないので、「分かりました。それでやってみましょう」と言わざるを得ないのです。

 

その高値が、そのまま通用してしまう。売り主の言い値で買い手が決まってしまうことも最近は多いというのです。

 

筆者に届く評価依頼の半数は中古マンションですが、毎日どこかの物件を調査してレポート中の「価格の考察」という項目のところで、「000万円高い」とコメントすることが増えました。2桁なら許容範囲ですが、3桁の後半も多く、1億円を超える物件では4桁も珍しくない昨今です。

 

こうした状況を見ていると、「売り手市場」なのだと思わざるを得ないのです。

 

●買い手はどうすればいいの

新築の場合は、売主の希望価格を呑まざるを得ない場合が多く、建物完成前の段階では値引き交渉も拒絶されてしまいます。

 

しかし、竣工後になると徐々に変化し、半年も経てば売れ残りの販促手段として売主から値引きを逆提案して来るのが一般的です。つまり、その頃は買い手有利になるのです。竣工前の早い段階で完売してしまう物件もあるにはあるのですが、最近は売れ残りが多いので、全体的に見れば「買い手市場」と言えます。

 

筆者は、過去何度も「新築マンションの売れ残りを安く買いましょう」と主張して来ましたが、その理由は「売り手有利」から「買い手有利」に転じる物件が多いからです。悪い物件ではないのに売れ残るのは、戸数が多いためか価格が高過ぎるからで、売れ残りにも福があると考えているためです。

 

一方、中古マンションは言うまでもなく完成しているわけですし、多くが転居先の関係で売買の成立期限があるものです。言い換えれば「待ったなし」です。このため、強気を押し通すにも限度があって、二度、三度と値下げをして漸く契約に至るのが普通です。

 

ところが、先に述べたように物件によっては高値でも買い手がついてしまう例も少なくない状況もあるのです。そこで、買い手は悩みます。言い値で買った方が良い物件か、いくらまでの値引きを要求すべきかと。

 

中古マンション取引の実情を見ると、価格が高過ぎるケース、急いでいるために安く売り出されるケースがあります。また、値引き交渉が比較的たやすい売主、反対に強気の交渉が難しい売主があります。、売主が何らかの事情で早く売りたいと考えている場合には、かなり安く買えるケースもあります。買い替え先の事情で期限が迫っているといったケースはよくある例です。

 

反対に、見学希望者が多数あるようなときは、買い手同士の競争が激しくなって売主の言い値で成約にいたってしまうようなこともあるのです。

 

この辺りのことは、物件ごとに判断して行くほかありません。買い手自身がそのマンションをどの程度気に入ったか、欲しい・住みたいという気持ち(意欲)が強いかなどと天秤にかけながら総合的に考えるしかないのです。ただ、第三者の意見として、筆者のコメントは役立つはずです。

 

最近、レポートに次のようなランク付けをするようにしています。

 

推奨ランクA・・・(滅多にない好条件の物件。人気度は高く、その割に価格も高くないので、大急ぎで決断したい)

推奨ランクB・・・(価格の高さなどネックは多少あるが、前向きに検討したい好物件。急いで結論を伝えたい)

推奨ランクC・・・(略)

 

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました