第671回 職住近接の傾向が強まる中で郊外マンションの運命は?

このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

東京都の発表によれば、都内の2018年の人口移動調査では、2017年比9%(79,844人。外国人を含む)の転入超過だったそうです。

23区に限ると、新宿区を除く全区で転入超過となった模様です。超過数のトップは世田谷区で6861人、次いで大田区6024人、品川区5958人、足立区3999人、中央区3928人、江東区3919人となっていいます。新聞によれば、「職住近接」志向がより明確になっていると解説しています。また、3大都市圏では名古屋圏と大阪圏が転出超過なので、東京圏だけの傾向となっているのです。

●職住近接と住居費の関係

  もともと家賃が高い都心部に移住者が増えれば、ますます家賃は上がることになります。家賃があまりにも高いので、分譲マンションを買ってしまった方が良い、このように考える人も増えて、都心部のマンションの値段は中古も下がりにくいという循環ができます。

 しかし、家賃にしても中古マンションの価格にしても高過ぎるレベルに至ると、借り手も買い手も敬遠するように変わることが考えられます。

 ここからは中古・新築を問わず、分譲マンションに限っての話です。

 この数年で30%以上も高くなったマンションですが、さすがに敬遠する買い手が多くなりました。しかし、価格はようとして下がらないのです。新築は市況商品ではないので硬直的ですが、中古マンションが下がらないのは一体全体どういうことか、そんな疑問をずっと抱いています。

 理由の一部は分かっています。高くなったマンションに手の届く人たち、どちらも正規雇用のダブルインカム世帯が増えて購買力が高くなったことが真っ先に挙げられます。

もう一つは、新築マンションの品数が少ない状態が続いているため、中古人気が高まっていることです。

この二つの要因で中古の価格が高いまま推移しているのでしょう。中でも都心部では、まだ上昇する傾向すら見えます。断片的な現象で恐縮ですが、筆者のご相談者からご依頼のあったマンションのうち、購入を決心した人の多くが価格交渉に入れないとこぼしています。

つまり、売主の言い値で買うしかないというのです。

昨年7月頃にも書いたのですが、値上がり相場に便乗して高く売りたいという強気な売り主が目立っています。例えば、5000万円が相場と思われる物件を5800万円で売り出すような例は枚挙にいとまがありません。こうした売り手、買い手の行動が相場を吊り上げてしまうのかもしれません。

詳細はこちら: https://www.e-mansion.co.jp/blog/archives/11417/

●職住近接志向は昔からあったが何がどう変わったの?

戦後の一時期、マイホームといえば庭付きの一戸建てが庶民の共通の夢でした。しかし、経済発展に伴って地価は上昇し、庭付き一戸建ての敷地は年々狭くなって「猫の額」と揶揄されるようになりました。

やがて、郊外に大規模な一戸建て専用の住宅地が開発され、150㎡以上の区画の整然とした街並み(ニュータウン)が各地に誕生しました。千葉や埼玉、神奈川、一部は茨城県に多数造成されました。多くは山林だったところを伐採し、道路を作り、ガス・電気・水道を引いて街が作られたのです。

郊外に行けば、邸宅に住むことができた反面、通勤時間が2時間などという住まいは普通のことでした。日本の働きバチと言われたお父さんたちは、満員電車に揺られながら遠距離通勤に堪え、家族のためにと庭付き一戸建てを取得したのでした。

90分、120分の通勤に堪えられない人たちは「西洋長屋」と呼ばれたマンションに注目するようになりました。そして、やがてマンションの大衆化時代を迎えます。庭もないし、広さも十分でない、それでもマイホームが買えるならとマンションを選択する人たちが増えて行きました。

大衆化と断ったのは、それまでのマンションは特定の階層だけが手にするものだったからです。海外駐在経験者や大学教授、自由業、芸能人、会社経営者などが主体でした。用途もセカンドハウス(別宅)の人が多かったと聞いたことがあります。

地価が上がったことで影響を受けたのは、マンションも同様でしたが、通勤の便が良いことが新しいマイホームの形として認知されるようになり、一般サラリーマン層も目を向けるようになりました。やがて、マンションは一戸建ての代替品ではなくなって行きます。

しかし、その後、サラリーマンには二度目の試練が来ます。マンションも郊外に行かなければ買えない時代が来たのです。バブル期のことでした。

バブル崩壊後、地価は大きく下落しました。そのおかげで、郊外に押し出されていた私たちは都心回帰を果たすことができるようになりました。郊外に買ったのは価格高騰の犠牲になることを受け入れたわけですが、ホンネは職住近接の住まいが欲しかったのだということが証明されました。

現在、マンションは都区内でも一般サラリーマン層が購入可能な状況にあります。再び高値になったものの、バブル期のように誰もかれも郊外に押し出されてしまっているとは言えないからです。

23区のマンションの1戸当たりの平均価格は7,000万円を超えてしまいました。都心部は1億円もします。

にもかかわらず、手が届くサラリーマン層が増えています。つまり、買えるなら都心に買いたい。昔は、夫だけ我慢すれば郊外の広いマンションを買えたが、妻にとって郊外は困るのです。だから少し狭いが都心か準都心で買う。このような志向がはっきりしています。

妻が正規雇用で働いている。結婚しても仕事は辞めない。子供ができたら、保育園に預けるが、子供を迎えに行って帰宅し、家事に育児にと多忙な妻の発言力は強い。Wインカムなので、資金も出すが口も出すという事情にあるカップルは職住近接のマンションを選ぶのです。

●郊外部は人口が減り都心居住が増える。乱暴な話ではない

都心・準都心需要が増えれば、都心・準都心のマンションは値崩れしにくいことになります。郊外は人口が減ってマンション需要も減る傾向を続けるでしょう。郊外マンションは、試練のときを迎えることになります。

しかし、都区内に職住近接を希望する受け入れ余力はあるのでしょうか?もし、買いたくても売り物がなければ、結局どうなるのでしょう。ほかの地域には買わないはずです。出るまで賃貸マンション等に住んだまま待つしかないのでしょうか?

いえ、おそらく条件を落としてでも買う決断をする人も増えるでしょう。

例えば、駅5分以内という条件を10分でも妥協したり、築10年以内と思っていたところを築20年でもとしたり、ブランドマンションと決めていたが、それを諦めるなど、人によって異なるものの、何かしら妥協して選択することになるのです。

幸いと言うべきか、数だけなら中古の方が市場に多く出回っているからです。

●テレワークで郊外にオフィスが増える?

職住近接というが、企業の方が郊外に移転したらマイホームも郊外に構えることができることになるではありませんか?このような質問を受けたことがありました。

理屈はその通りですが、郊外に企業が移転する可能性はどの程度あるでしょうか?

品川から二子玉川に本社ごと移転した楽天のような例は確かにありますが、二子玉川は世田谷区です。都心とは言い難いですが、郊外でもありません。

ともあれ、郊外都市に大企業が移転して何万人も通勤するような大転換は考えにくいのではないでしょうか?

郊外の拠点都市にサテライトオフィスができたり、在宅勤務の働き方が増えたりしていますから、分散する傾向が出ているのは確かです。今後、加速がつくかもしれませ。しかし、それが大きな潮流に変わることは想像できません。

ともあれ、社会の変化を注視していこうと思います。

●殺人的な通勤ラッシュも職住近接の遠因か?

 話は戻りますが、都心回帰現象があると言っても、郊外に住み都心へ通勤する人たちが「ものすごく多い」のは今も変わりません。その証拠に、朝の通勤ラッシュは殺人的です。

職住近接の一因は、ここにもあるのではないか、そんなふうに思うときがあります。

会社から5㎞か遠くても10㎞以内に住めば、自転車通勤も可能になります。雨天時にどうするのか知りませんが、自転車通勤を社員に勧める企業も増えているそうです。

●一戸建てが安く買える郊外でマンション人気は盛り上がらない

郊外マンションは、選別を間違うとリセールでは厳しい結果になりそうです。先に述べたように需要が減るからです。人口減少は、不動産価格を押し下げます。

マンションも一戸建ても安く取得できるようになるのです。一戸建てが手ごろな価格で買える郊外では、郊外の拠点都市に職場を持つ人たちによって駅から少々離れていても、一駅・二駅遠くなっても支持されたりします。つまり、マンションは関心の対象外になります。

一方、都心に通う人たちは駅に近いマンションを選ぶ傾向はありますが、トータルのマンション需要は少ないのです。需要が少なければリセールで中古マンションが高くなることはありません。

今でも既に郊外のマンションは驚くほど安く購入することができます。

●物件固有の価値に注目しましょう。

ここまでに述べて来たことをまとめると、①職住近接傾向が強まり、郊外マンションは需要が減る、②郊外は一戸建てが安く購入できるので、地元勤務者でマンションを購入する人は少ない、③人口減少もあって、郊外マンションの需要はますます減る。だから、郊外マンションの将来は暗い、の三つです。

しかし、そのような悲観的な予測があっても、人口がゼロになってしまうわけでもないですし、マンション需要も少ないながら有り続けるはずです。しかし、今後のマンション選びは条件をより厳格にしておくことが必須です。

不動産の価値は、極めて個別の要素によって大きく左右されるものです。全体的に価値の低い(価格の安い)地域にあっても特定の人気物件というものがあるのです。

エリアの市場規模によって異なりますが、「この街ならあのマンションだけ、この駅ではトップグループ3つが良い」などと名指しされるような物件を選ぶ必要があるのです。

どんな市況のときもゆるぎない価値を保つ(価格の下落がない)マンションなどというものはありませんが、比較して高い競争力を持つ「地域一番の有名マンション・シンボルになる存在感を放っているマンション」を可能な限り選択したいものです。

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

※サービス中止のお知らせ※

2019年1月29日より、「マンション評価サービス」は中古マンションに限り「無料ご提供」を中止させていただくことになりました。お申込みが多くなって、サービスの提供が困難になったためです。

できる限り長く無料サービスを提供させていただこうと頑張ってまいりましたが、年中無休・1日15時間の活動も限界が来てしまいました。

これもひとえに、皆様がブログを愛読してくださっているおかげと感謝しておりますが、いかんせんアシスタントを雇える状況にもないため、3年前に決断した「地方都市の有料化」に続き「中古マンションの有料化」に踏み切ることといたしました。

引き続き新築マンション(バス便を除く)は無料サービス(初回のみ)を承りますので、ご利用賜りますようご案内申し上げる次第です。  三井健太

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