第674回 人口が8,000人減るZ市のマンションはどうなる?

このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております。

10日おきの更新になりました。引き続きご愛読賜りますようお願い申しあげます。      三井健太

筆者の提供するサービスにひとつに「将来価格の予測レポート」があります。

10年後、15年後、20年後と3パターンの中から依頼者のご希望によって10年以上先の価格を予測するものです。

ご購入マンションが、10年~20年後にいくらになりそうかを試算してレポートとしてお届けしています。

このサービスは、対象物件の価値判断を一定範囲のエリア内における「競争力」に着目したうえで試算するものです。地域内で抜群の競争力を有するマンションか、少し強いマンションなのか、それとも普通のマンションなのか、その位置づけを見ます。

売却するとき、同年数のマンションだけでなく、その5年前後のマンションのすべてが競争相手になることを意識しています。

比較のポイントで最も大きな要素になるのは立地条件です。

例を挙げると、以下のような表現でコメントします。

「駅5分は長所ですが、強い競争力があるかというと、さほどでもありません。なぜなら、このエリア(例えば駅を中心にしたおよそ1㎞圏内)では徒歩5分のマンションは特に際立つ条件ではないからです」

「駅3分は本物件の特徴ですが、この界隈は同程度の利便性を誇るマンションは多数あるので、3分は特別なものではありません」

「〇〇駅圏で徒歩10分以内にある物件は、過去20年以上も遡らないと見当たりません。従って、本物件は極めて希少な立地条件を備えたマンションということになります。徒歩7分は近からず・遠からずではありますが、価値ある物件と言えそうです」

「駅に1分のマンションは〇〇駅ではこの物件だけです。規模が大きいことも加わり、地域一番の存在感があります。これは、将来も変わることのない強みで有り続けるに違いありません」

「環境はとても素晴らしいようです。しかし、そのことはこの地域共通の条件であり、本マンションだけの専売特許ではないのです。環境の良い場所と聞いて他の地域から見学にやって来た人が注目するのは、ピンポイントの景観・眺望ですから、高台にあって景観が素晴らしいと感じたかもしれませんが、隣のマンションも同じです。本物件の競争力としては必ずしも強みにならないのです」

立地条件が同じなら、次は建物での競争力を見ます。例えば、こんな評価になります。

「総戸数22戸で12階建てのマンションですから、ワンフロアに2戸だけのペンシルビルと言うほかありません。全戸が角部屋になるのは確かですが、周囲のマンションはみな10階以上、14階建てあり、本物件はそれらの街並みの中で異彩を放つとは思いません。デザイン性を強調していますが、客観的な判断では特に高いデザイン性があるとは感じません。まあ、普通レベルです・・・」

「駅から徒歩5分は平凡ですが、38階建て250戸のタワーマンションは、この地区では際立っています。共用部分、なかんずくエントランスホールの広さと高い天井高、ラウンジのデザインなどは圧巻です。売却時の見学者は豪華さに目を奪われることでしょう。コンシュルジュが来訪者を恭しく迎える感じもいいですね・・・」

「ブランドマンションらしい上質感と風格のようなものを感じます。惜しむらくはエントランスの天井高が並みであることですが、それでも高級マンションとして〇〇地域では負けないレベルの建物と言えるでしょう・・・」

住戸別の評価も加わります。例えばポピュラーなのは次のようなものです。

「選択住戸は、東南の角であり、間取りの良さもさることながら、隅田川ビューが素晴らしいですね。これは付加価値として長く維持されます・・・」

「2階住戸なので、前面の3階建てアパートが視界を遮るだけでなく、距離も5m程度なのでプライバシーの問題もありそうです。購入価格もそれなりに安いですが、リセールバリューでは他の住戸と同率で上げ下げが決まるのではなく、条件の悪い住戸は他住戸より低くなる危険があります・・・」

中古マンションの価格はオークションみたいなもので「この価格で売りたい」と値札をつけてみたら、たちまち買い手が現れるか、それとも買い手が全く現れず、仕方なく価格を下げて改めて買い手を探し直すことにするか、その結果が、その時点の市場価格として定着していくのです。

Aマンションには5,000万円の値が付いたが、Bマンションには4500万円の値しかつかなかった、Cマンションには破格の7000万円で買い手が現れたなどという市場の評価が、地域の平均取引額となり、かつ物件格差を表わすことになります。

一方、10年先を予測するとき、その町が年々衰退していくとしたら、マンションの買い手も減って行くに違いありません。つまり、個別マンションの評価や競争力以前のファクターがここに絡んで来ます。人口減少は各地で問題視されていますが、東京圏もいずれは例外でなくなることでしょう。

人口が減れば、商店等の客も減り、商売が成り立たなくなってシャッターを閉じる、そんな景観が地方都市では当たり前になっています。東京郊外でもいつかそんなときが来るかもしれません。

東京は地方都市から人口を吸い上げているというニュースもありましたが、東京圏の中にも地域差があります。Wインカム世帯が増え、仕事と主婦業と育児に多忙な妻たちは、会社に近いマンションを検討しています。

郊外のマンションは、通勤圏といえども年々希望者が減っています。

郊外マンションのニーズが全くなくなってしまうわけではないものの、近年は都心回帰に拍車がかかり、郊外マンションは売りにくい傾向を強めています。その郊外にマンションを買ったら、10年先には中古になった我が家を買ってくれる人はいなくなるのではないか。そんな心配をする人もいます。

長期的には、その通りです。その心配を減らすには、全体としての需要が多少減っても選ばれ続ける物件を買っておくに限ります。つまり、地域一番か二番のマンションを選択することが大事なのです。

しかし、筆者の「将来価格の予測レポート」では、「10年先に人口増減や街の興廃が激変しないことを前提にしております」と結んでいます。

10年程度ではマンション需要が大幅に減少することはないと考えているためです。

以下の記述は、〇〇県郊外のZ市のマンションをお買いになろうとしている方からのご質問にお答えした一節です。

長期的には、先述のとおり需要減少を覚悟し、できるだけ地域一番のマンションを選択すべきなのですが、兆候が見られない地域であれば、さほど神経質にならなくてもいいということをお伝えしておきたいと思います。つまり、超長期的には危惧されるものの、10年や20年では目覚ましく変わるわけでもないのです。

(以下、回答)

東京郊外の〇〇市、その〇〇駅の近辺にマンションが急増した時がありました。地価が急騰して土地が買えない時代に、ぎりぎりの通勤圏として選んだ土地にマンションデベロッパーが次々に参入し、開発に乗り出したのです。郊外にも地価上昇の波は到着しつつあったせいか、〇〇市も土地を売り出す地主さんが増えていたようです。

デベロッパー各社は競って土地を買い、たくさんのマンションが建設されて行きました。

それから25年経った今日、〇〇市では中古の売り物が数多く出ていますが、買い手は少なく、価格も下がる一方です。都心には遠すぎて、目を向ける買い手がいないのです。地元の買い手はもともと少なく、たまに取引が成立するのは、駅前のXマンションとYマンションの二つだけで、駅から徒歩10分歩くようなマンションは1000万円以下に下がったのに買い手はないと仲介業者はこぼしていました。

一方、ご相談者が住む〇〇県・Z市では、今のところ明らかな取引停滞の兆しは見られないようです。とはいえ、長期的には人口減とマンション需要の減少が懸念される市場かもしれません。

現在の人口22万人が20年後に10%減って20万人になったとしましょう。世帯数では、8万世帯から10%、8000世帯の減少です。これを前提に説明します。

首都圏全体のマンション成約戸数は、新築と中古の合計で最近は年間7~8万戸です。世帯数は約1600万なので、8万戸とするなら総世帯の0.5%が購入する勘定です。郊外のマンション需要は都心に比べればもともと少ないので、郊外にそのまま当てはめることはできませんが、仮に適用したとしてZ市のマンション需要は減少する8000世帯×0.5%=40戸が減少するという計算が成り立ちます。(現在は、8万世帯×0.5%の400人)

Z市全体で10%、20年後のマンション購入者(新築・中古の合計)は現在の戸数より年間40戸減るだけです。レポート中、「人口減の影響は見ない」とした根拠はここにあるのです。

40戸といえども馬鹿にはできないとしても、その減少の影響を受けるのは、Z市内でも不人気の鉄道沿線、不人気の駅、不人気の物件です。ご検討のA物件は言うまでもなく、駅前の大規模マンションで、地域ナンバーワンの物件なので影響は少ないはずです。一方、価格が安いBマンションは20年後に選から漏れる可能性が高いので、買うなら多少高くてもAマンションが無難と言えましょう。

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人口減少が、マンション市場の縮小、買い手不在などを懸念させているのは確かですが、問題は超長期で見るか、20年くらいの長期で見るか、10年の中期で見るかでマンションマーケットは変わって来るという点にあります。

市場の変化と物件固有の価値、その両方をにらみつつマンション選びをしなければならない、そんな時代になりました。

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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紀伊国屋書店(新宿)にて撮影

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全326ページ・定価:1800円+税。朝日新聞出版より。

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<主な内容>第1章 選手村マンションに思う/第2章 東京オリンピック後のマンション価格/第3章 コストカットマンションと業界の苦悩/第4章 中古マンションの価格の成り立ちと変動要因/第5章 マイホームが持つ二面性。居住性と資産価値/第6章 マンションの価値判断と探し方のハウツー/第7章 初めてのマンション購入・タブー集