第681回 高過ぎたら売れない外周部・高くても売れる都心

このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しておりま す

10日おきの更新になりました。引き続きご愛読賜りますようお願い申しあげます。(次回は5月30日です)

こちらのブログと5日おき、交互にアップしています 。

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昨今、マンション業者の苦悩は、売れる商品が作りにくいことにあるようです。用地費も建築費もともに急激に高くなってしまい、そのために売れ行きが悪化しているからです。

その前の段階、土地探しのところでも実は苦しんでいます。良い土地がないのです。たまに適地が見つかっても、価格競争が激しく、採算に合う用地の取得に苦しんでいるのです。

この実情を見ながら、買い手の皆さんはどう感じるのでしょうか?何人かの人に質問をしてみたところ、こんな答えが返って来ました。

・売れなければ安くなるので買い手としては歓迎すべきこと。

・売れなければ、次から値下げして来るのでは?それまで待てばいい。

・売れなければ値段は下がるでしょう。それが経済原理ではないですか?

・利益を削ればいいのでは?

理にかなっているようにも見える感想・回答ですが、どれも正しそうで正しくないのです。デベロッパー出身の筆者には、これらの意見には、たちまち反論したくなりますが、それは置いて、新築マンション市場の実態をおさらいしておきましょう。

●新築マンションの数が大幅減

新築マンションの年間発売戸数(新規供給戸数)は、10年前は約8万戸だった(首都圏全体)が、今は4万戸もない。つまり半減したのです。

●価格はうなぎ上り

価格が高騰した原因はどこにあるのでしょうか?何度も書いて来たのですが、最近読者になっていただいた人のためにもう一度述べましょう。

先ず建築費ですが、2011年の東日本大震災で、被災地の復旧・復興工事に大量の人手が必要になり、全国から建設労働者・技術者をかき集めることになりました。そのために人件費が高騰したのです。建築費の半分弱は人件費が占めているので、これが建築費の高騰につながってたというわけです。マンション建築も人手不足で工期が伸び、建築費は高騰しました。

人手不足は今も続いています。その後に発生した熊本地震や西日本豪雨、北海道地震、大阪の地震など災害が相次いだためです。さらに、2013年秋に2020オリンピックが東京に決まったため、その施設工事(国立競技場の建て替えや選手村建設など)が重なり、人手不足は今日も続いています。

3.11地震の2年後の2013年からマンションは顕著な価格上昇が現れ始めました。2008年のリーマンショックを契機に停滞していた設備投資が再び増加基調に転じて以降、オリンピックをにらんだホテル建設の波が重なりました。ホテル建設は、工事費もさることながら、土地の需要増大につながりました。

土地需要はホテル建設だけではありませんが、リーマン後の景気回復過程で土地需要の増大をもたらしました。地価調査でも、地域差はあるというものの、全国的な上昇傾向にあります。

そんな中で、マンション建設の候補地にホテル業者とマンション業者が群がり、これらの競り合いが高値を作り出してしまいました。

こうして、2013年以降のマンション価格は、はじめ建築費の高騰、少し遅れて地価(用地費)の高騰が重なり、とめどなく値上がりトレンドを描いているのです。

次のグラフは、新築マンションの価格の推移を表したものです。

23区と首都圏全体を2008年(リーマンショック発生の年)~2018年の11年間をご覧いただきます。(データ出典:不動産経済研究所。作図は三井健太。以下同様)

●価格が上がり過ぎれば手が出ない人が増えて売れ行きは悪化

次のグラフは2015年以降の新築マンションの売れ行きを示すものです。すなわち、毎月の契約率の推移です。この契約率とは、新規発売の物件が当月内に何%契約になったかというもので、正確には契約ではなく「購入申し込み」なのですが、調査統計の類は継続性が大事なので、昔から「申し込みデータ」の集計をしています。

ともあれ、契約率は売れ行き(立ち上がりの人気度)を表すひとつの指標で、好調か否かのボーダーラインを70%と見なすことが業界では定着しています。80%を超えると絶好調、50%は大不振などと言います。その分かれ目が70%というわけです。

グラフをご覧いただいてお分かりの通り、契約率の低下傾向が顕著になっています。その悪化傾向は2018年に一段と明白になってしまいました。

2018年の1年間、初月契約率は一度も70%を超えたことがなく、平均も62.1%と低迷した1年でした。グラフにはありませんが、2019年1月以降も、低迷が続いています。

首都圏全体の傾向は以上の通りですが、地域ごとの差があります、以下でそれを見て行きましょう。

●高くても買える人が多い都心マンション。誰が買うのか

パワーカップルの話はだいぶ前にも書きましたが、早い話がマンション購入層の中心年代層(30代半ば)の所得が伸びているので、高騰したマンションに手が届く人が増えているという実態が見られます。

長い間、日本人の賃金は低く抑えられていますが、安倍総理の異例の賃上げ要請が功を奏してか、はたまた景気回復が人手不足を生んでいるためか、僅かながらベースアップの動きがあります。

しかしながら、マンションの価格上昇率には追い付かないレベルの賃上げに過ぎません。それなのに購入者は手が届く。どういうわけかを探ってみると、一人当たりの所得増はわずかでも、世帯年収として見ると、いわゆるダブルインカム世帯の増加によって、大きく増えていることが分かって来たのです。

Wインカム世帯は購買力が高く、高額な都心マンションでも手が届く傾向が見られます。アバウトな言い方で恐縮ですが、1億円する都心マンションが買えてしまうWインカム世帯は少なくない実感が筆者にもあります。

Wインカム世帯は都心居住を強く志向しており、価格がその購買力から大きく乖離しない限り、購入意思は強いと見られます。そのためか、多少高くなっても売れ行きは悪化しないのです。正確には、高くなったことで、買い手に躊躇する姿勢が表れて販売スピードは鈍っているのですが、遅れながらも販売は進んで行くという実態にあるようです。

●都心とは言えない二子玉川あたりは高過ぎれば売れない

Wインカム世帯が望む地域は、言い方を変えると「職住近接エリア」です。都心という言い方には誤解を与えるかもしれませんので、訂正しておきます。

ところで、職住近接とは、どのあたりまでのことを指すのでしょうか?保育園に迎えに行く都合などから、勤務先からおおよそ30分圏に住まいを構えたい。筆者の対面したご相談者の話などから総合して、そのくらいではないかと思います。

ここに興味深いデータがあります。田園都市線の二子玉川駅(俗称:にこたま)は、楽天本社の入るオフィスビルがあったりして、世田谷区のはずれ(多摩川を渡る手前)にありながら賑わいを見せる街です。ご存知の読者も多いと思いますが、二子玉川駅の隣には「玉川高島屋デパート」があり、昔から近隣の富裕層をターゲットにした商売を営んで来たデパートです。

この付近は、敷地の広い一戸建ても多く立ち並んでいる「高級住宅街」として知られています。近年は駅から徒歩圏を中心にマンションの供給も活発になって富裕層以外も移住して街が形成されて来た歴史があります。富裕層でないとしても、価格の上昇に伴って所得の高い区分に入る会社員世帯が多いエリアです。

駅前の再開発によって生まれた商業施設に出店したお洒落なカフェや買い物施設、文化施設などが駅力を高めて人気の街になりました。

SUUMOの住みたい街ランキングでも二子玉川は、関東圏の第16位になっています(2019年調査)。

さて、そんな人気の二子玉川ですが、最近のマンション相場は次のように高いレベルになってしまいました。(データ出典:マーキュリー社)

①2018年12月発売「プラウド瀬田一丁目42戸」二子玉川駅7分:平均97㎡・平均価格17,400万円 坪単価:@590万円  竣工:2020年3月上旬 (予定)

②2017年12月「ブランズ二子玉川テラス79戸」二子玉川駅6分:79㎡・平均価格11,700万円 坪単価:@480万円  竣工:2019年1月竣工済み

③2017年12月発売「ザパークハウス二子玉川碧の杜20戸」二子玉川10分・94㎡:平均価格14,400万円 坪単価:@510万円  竣工:2017年7月建物完成済

世田谷区の平均単価は2018年1年の平均で約365万円/坪なので、上記3物件がいかに高いかが分かります。3物件とも現在販売中です。①は売り出して日が浅いので、今後どのような経過をたどるか分かりませんが、②は物件HPによれば先着順4戸となっています。好調とは言い難いように思います。

③も、竣工から間もなく2年になろうかという段階でHP上では2戸受付中とあります。わずか20戸のマンションですが、販売は不調と見られます。

3物件とも、平均価格は1億円を超えています。

これを選択した買い手はどんな人なのだろう。職住近接立地とは言い難い気がするだけに、Wインカムの会社員世帯では買いづらいのではないか。そんなふうに思います。

実態は分かりませんが、価格がここまで高くなると、買い手の幅が狭くなり、販売は困難を極める。そんな実態が映しだされている現象ではないか。筆者はそんなふうに分析しています。

●外周部には売れ行き不振マンションが多数見られる?

根拠となるデータを提供できない恨みがあり、確証はなかったものが、日を追うに連れて、「やっぱりそうか」と思うに至ることがたびたびあります。不動産経済研究所の契約率データなどと照らし合わせながら市況を判断している筆者ですが、後になって知る「まだ売れ残っている」という事実によって判断の正しさを追認してもいます。

今日も、とある新築マンションの購入者から窺った話で、入居後2年を経過しているので、売れていない住戸の数を正しく把握できる立場から20%強の売れ残りがあると判明しました。

「こんな売れ行きの悪いマンションを買ってしまったが、ここに住み続けるべきか、損切りしても買い替えてしまった方がいいか」という趣旨のご相談でしたが、売れ残りの実態を聞いて、筆者の想像以上に売れていない実態に驚きました。そのマンションは、郊外のバス便マンションなので、完売には長い時間がかかると見ていましたが、これほどとは思っていなかったのです。

価格は駅近マンションより安いのは確かですが、3年前に出した筆者の判定は「2割は高い」とうものでした。その立地条件では売れ残るでしょうし、売れ残れば値引き販売する時期も来るでしょう。それまで待っても遅くないとコメントした物件でした。

ご相談者一人一人に、その後どうなさったか聞いてもいませんが、筆者の辛い評価コメントは役に立ったかもしれないと思いました。

●高額都心マンションの売れ行きの良さにしばしば驚かされる

外周部のマンションは、それなりに安いだけではなく、魅力的な価格にならないと買い手を集めるのは難しい時代になったのだろうと思いますが、反対に都心部では多少高くても着実に売れていく傾向にあるようです。

坪単価@500万円を超える文京区のパークコート文京小石川ザ・タワーも好調にスタートを切ったと聞いていますし、恵比寿界隈の複数の物件もまずまずのスタートを切ったようです。また、中央区の大規模タワーマンションは9月の引き渡し前に完売しそうな勢いのようですし、同じ中央区の駅前・大型タワーマンション「ミッドタワーグランド」も順調に数を伸ばしているという情報が入っています。

そのほか、筆者に依頼のある物件は中古も多いのですが、港区白金や高輪、三田、麻布十番、千代田区三番町、渋谷区恵比寿、同代官山といったエリアの1億円、2億円クラスの高額マンションの買い手の存在と検討物件の動きが早いことにも驚かされます。

もっとも、高額マンションの検討者は、妥協しないので、気にいらないことがあれば見送ってしまう傾向も見られます。

●展望をちょっとだけ

今日述べた市場の様子から以下のようなことが言えそうです。短期的な展望について少し触れておきます。

①外周部。郊外マンションは今後も供給は増えないが散発的に売り出されるだろう

②多少時間がかかっても都心マンションは売れるので、今後もデベロッパーの軸足は都心開発に向かうが供給量は増えない

③強含みの価格は上げ足を弱めるが、完全には止まらない

④新築を諦めて中古を買うのが現実的になってしまった。

⑤新築はじっくり検討。中古は素早く判断――を方針とすべし

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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5月10日の第208回は「買いたいと思ったとき一気に走る方がいい!?」です。

★三井健太の新刊 「選手村マンション・晴海フラッグは買いか?」

2019年5月13日発売 全国の書店・アマゾンにて販売中

<プロローグより>

賛否両論が飛び交う注目の物件。「果たして買いか否か」その判断のために公平な指針となる書を目指したい。これが執筆動機です。

筆者の日常業務は、買い手(購入を検討している人)からのマンションの評価レポートを作成することですが、人気のマンションでも不安要素があるものなので、大規模になると複数の検討者からレポート依頼が届きます。晴海フラッグも戸数が多いこと、販売が数年に渡ることからみて、大量にご相談・評価依頼が来るだろうことを予想しています。交通便で疑問が残る物件だけに、判断しかねる人も多いだろう。そうなると大変だな、いったいどれだけ来るだるうか。

この本でレポートの前段部分を代用できたら助かるなどと思っています。

前後しますが、特定の物件だけで1冊の本にするというのは、冒険かもしれない。商品になるだろうか?そんな疑問も持ちましたが、走りながら考えようと決心して動きだしました。朝日新聞出版の調査協力の申し出があったことも決心の後押しになりました。

業界関係者は無論、購入を検討する買い手の迷い・悩みの解消に資するなら筆者の日頃のスタンス、すなわち購入者向けアドバイザーの立場としても本望であるし、売り手にとっても第三者の客観的な意見はマイナスにはなるまい。このように、筆者自身の心の整理をして臨むことにしたのです。

分譲マンションだけで4000戸余の極めて大きな分譲プロジェクトゆえに、また、選手村マンションという話題性もあって、全国的な規模で関心を持つ人が多い。ゆえに出版の意味は十分にあるとも思いました。

前著でも「晴海フラッグ」のことを少し書きましたが、情報が十分でない中で述べることができたのは、僅か12頁でした。

ページタイトルは、「選手村マンションの激安価格に思う」でしたが、内容は少々疑念に満ちたものでした。価格は格安とは思わないとか、BRTの運行に期待していいのかといったことでした。

前著を書き上げてから数か月の時間が経過し、販売活動(いわゆるプレセールス)も始まっています。この本が店頭に並ぶ頃には、検討者の手元には細部の情報が届くことでしょうから、この書では物件の細部について論評することは最小限に抑え、販売現場ではおそらく聞けない情報を主体に紹介しながら、読者の判断に有益な書にしたいと執筆しました。

<主な内容>

 *晴海フラッグというマンションの位置づけを整理する

 *バス便マンションの将来価値を考証する

 *晴海フラッグに魅力を感じる階層を予想

*カギを握るBRT

*晴海フラッグの将来価格を予想する?