第686回 「素晴らしい物件だが購入に踏み切れない築古マンションの限界」

※このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております

10日おきの更新です。(次回は7月20日です)

今日は築古(ちくふる)マンション検討の際の注意点についてお送りします。

「40年先を見据えてのマンション購入作戦」シリーズは、しばらくお休みします。

最近のご相談で増えているのは中古マンションですが、中でも築20年以上の物件についてのご相談が目につきます。

だいぶ前のことですが、このブログで「築30年の中古に10年住んで売却」というタイトルの記事を書いたことがあります。

読み返していませんが、マンションを買うという選択肢もあるということ、及び「10年ほどで売り抜けた方がいい」という主旨だったと記憶しています。今日は、その繰り返しではなく、「永住の住まいとしての築古マンション購入の是非」です。

●築古マンションでも永住できる?

管理状態良し、大規模修繕も済んだばかり、駅からも近い、閑静な住宅街でもある

室内も2年前にフルリフォームしたので、殆どどこも触らずそのまま住んでいけそう。築30年を超えてはいたが、新・耐震基準なので耐震性も問題ない。価格も安い――購入意欲がわいていた。しかし、あと何年住めるのだろうか?その不安が湧いてきて思いとどまり相談して来た人の話です。

築年数で30年以上の物件について評価を依頼して来た人は多数ありますが、大抵は問題物件ばかりでした。今日ここで話題に取り上げるような優良中古は数少ないのです。

築40年を超えるマンションのご相談の中にも、優良と思われる物件がそれ以前になかったわけではないのですが、耐震性に問題が残りました。このため、筆者の立場では「優良」と断じることはできなかったというわけです。

依頼者は、家庭の事情で4LDKの間取り、90㎡以上の広さが必須とのことで、かつ郊外には行けないということから、自ずと築古マンションになり、その中で非常に良い物件を見つけたのです。

よく勉強をなさったようで、拙著「マンション大全」も隅々まで読み込んだというお話でした。中古マンションを選ぶときの注意点も念頭に置いて、修繕履歴をチェックすることや、積立金残高、今後の修繕計画、積立金の残高チェックなど、抜かりなく済ませてからのご相談でした。

お持ちくださった資料を拝見すると、なるほど維持管理も良いようでしたし、潤沢な資金を持っているマンションでした。1戸平均に換算すると、250万円も積み上げられていました。駐車場の台数が多く、その使用料が大きいのだと分かったそうです。唯一気になったのは、次のような小修繕がひっきりなしに行われていることでした。

火災感知器交換、消火栓ホース交換、電気設備改修工事、エレベーター改修費、外壁漏水補修工事、汚水排水管交換、000号室の漏水補修、排水管改修工事設計料、屋上防水工事、消防設備改修工事、プランターボックス補修工事、電気設備改修工事、屋上物干し撤去工事等々――しかし、30年を超えている建物なら特に多いということでもないし、件数が多いのは大規模マンションゆえであろうと推察できました。

ご相談者は「マンションは何年くらいまで住んでいけますか?」と問いました。「コンクリ―ト住宅の居住実績は80年」――筆者は、そう答えました。

関東大震災の復興住宅として建てられた「同潤会アパート」の建て替え例を示しながら、それまでの80年間、人が住んでいた古いコンクリート造の集合住宅の話をしました。更に、「分譲マンションの草分けとなった四谷コーポラスは、築60年余で解体された話も紹介しました。

(2017年9月:解体工事着手、2019年7月:竣工予定)

最近のマンションは、メンテナンスのことまで計算して設計されているので、もっと長く住めるかもしれないことも加えました。

「ということは、このマンションは少なくとも50年は住めることになりますね?」ご相談者は自分の考えに間違いはないと確信をしたようですし、妻の方に向いて自信ありげに胸をはったのです。

●長寿命マンションの誕生

マンションは長期修繕計画にのっとり、設備を更新したり修復したりすれば、コンクリートが朽ち果てることはないのだからもっと長く持つのでは?――相談者のこの問いに答えました。

マンションはコンクリートだけでできているのではなく、鉄筋とコンクリートとによる構造、すなわち鉄筋コンクリート造であることに問題があるのです。

コンクリートには時間が経てば、クラック(隙間・ひび割れ・亀裂)ができます。自然劣化だけでなく、地震が原因になることもあります。

表面はタイルで覆われ、内部の亀裂は隠れていますが、長い間にタイル自体も剥離したり、目地が取れてしまったりします。そこからコンクリートの亀裂に雨水が達し、コンクリート内部に染み込むのです。

毛細血管のようになったコンクリートの隙間(クラック)から雨水が染み込むと、鉄筋はさびます。錆は鉄を膨張させます。膨張した鉄筋は、内部からコンクリートを破壊します。亀裂は大きくなり、ますます雨水を呼びこみます。

これが雨漏りや結露などが原因になって、室内に湿気がこもります。不快な住まいとなり、居住性は悪化していきます。

そのような状態の鉄筋コンクリートは、構造的にも弱体化してしまい、耐震性も低い状態になってしまうのです。

しかし、ここまでなるには何十年もかかるに違いありません。私たちの生きている間に重大問題になるとは思えません。それに、亀裂が目視で分かるような状態になっていれば、きっと補修工事を実施するでしょうから、延命できるに違いありません。

では、何も問題はないのでは?

ところが、50年しか持たないマンションは50年経ったら突然コンクリートがぼろぼろになって倒壊し、明日から暮らせなくなるわけではありませんが、その手前の20年か30年あたりから見えないところで雨水の侵入を許し、快適な暮らしを阻害し始めるかもしれないのです。

コンクリートの亀裂は雨漏りや結露の原因をつくっているのですが、原因箇所の特定は難しいので、多分放置されます。その結果、病気のガンではありませんが、気付いたときは全身に転移していたなどという事態に発展する惧れがあります。

そこまで至る前に原因が分かるでしょう。しかし、何年か放置された結果、原因箇所は1か所ではないことに気付かされます。そうなると、多額の修繕費をかけて劣化対策工事を施すということになりかねません。

実施すれば、修繕積立金は予定外の支出で底を着くことになりそうです。

このような状態が、私たちの存命中に起こる可能性がないとは言い切れません。人生90年時代が手の届くところまで近づいている今日、マンションの寿命が50年では短すぎます。

このような指摘が専門家から出て以来、具体的には30年以上前の早い段階から長寿命マンションの開発が研究されてきました。

2020年に施行した「住宅性能表示」に「コンクリートの劣化対策」という項目がありますが、その等級3(最高レベル)のマンションが最近は随分増えた印象があります。

つまり、最近の新築マンションの大半は「高強度コンクリート」を用い、鉄筋の錆を防ぐ「コンクリ―トのかぶり厚」をたっぷり取った、長寿命の建物ばかりなのです。

長寿命とは、大規模な補修をしなくても、鉄筋の腐食やコンクリートの重大な劣化が起こらないと予定される期間がおおよそ100年と定めたものを指します。

(日本建築学会のコンクリート工事標準仕様書による)

長寿命でなく標準の仕様でも、構造体の大規模補修をすれば、おおよその使用期間は100年となっています。下表参照

計画共用期間 強度 (ニュートン/㎡) 大規模補修不要予定期間(年) 供用限界期間 (年)
一般 18 30 65
標準 24 65 100
長期 30 100

最近のマンションは、長寿命になるように設計され施工されたものが多いのです。

2000年以降に販売されたマンションには「住宅性能評価書」が発行されたものがあります。法的な義務ではないので、当初はついていなかったり、ついていたりとまちまちでしたが、昨今は例外がないくらいに定着し、設計段階の評価書と工事途中で検査した(それぞれ第三者機関が行う)評価書の2通が購入者に発行されることになっています。

いわば宝石の鑑定書のようなものですが、これによって「長持ちマンション」か「普通のマンション」かの確認ができます。モデルルームを訪問の際に、または中古のサイトで「性能評価書あり」とあったら、見せてもらうといいですね。

では、2000年以前のマンションの寿命はどうなのでしょうか?長持ちマンションを造ろうという動きは、30数年前に既にあったのですが、当時の「センチュリーハウジングシステム」の基準で建てられたマンションは数少なく、大半のマンションは今の基準でいう「標準耐久」と推察できます。

つまり、構造体の大規模修繕をしないで使用できる期間が65年というマンションが圧倒的に多いと見るのが正しいのです。構造体の大規模修繕とは具体的にどうするのかはさておき、仮に何もしなければ65年しか持たないのだと考えてみましょう。

購入するマンションが新築とは限りません。希望条件に適うマンションは、中古かもしれませんね。その中古に20年間住んだとき、あと20年もつかどうか分からないマンションより、まだ50年以上大丈夫のマンションの方が良いはずです。

しかし、現在で築35年を経過したマンションの場合の余命は30年ということになってしまいます。30年以上の余命があれば、仮に20年後に売却を考えたとして、その時点からの余命は15年しかないのです。

現実は何もしないということはないはずで、定期的な大規模修繕を実施し、構造体はとりわけ優先して行うはずなので、実際は「なにもしないで100年」のマンション同様の耐久性を備えることになるのかもしれません。少なくとも、供用限界値の100年は期待できるかもしれません。

とすると、築30年のマンションでも、余命はたっぷりということになります。新築マンションなら余命は100年、築30年でも余命は70年です。どうせ100年も生きてはいないのだから、余命70年なら中古でも同じではないか。そんなふうに考えることが可能です。

ただし、18ニュートンの一般マンションだったら、やはり限界の65年なのです。そのマンションは「一般マンション」なのか「標準マンション」なのかを確認しなければなりません。ところが、古いマンションには資料も残っていないために確認は困難なケースが多いのです。

もうひとつの懸念材料があります。

それは、「新築マンションなら20年経っても、大規模修繕に要する費用は少なくて済みそうだが、35年中古を買うと、20年後は築55年に達しているのだから大規模修繕の費用は多額で、毎月のランニングコストも途轍もなく増えてしまうのではないか」このような不安が消えないのです。

また、「20年後(築55年)は何かと不具合も続発してストレスになるのではないか」といった疑念も残ります。思い切って買ったとしても、次の買い手は55年マンションを目の前にして、強い懸念を覚えるのではないか?そんな不安がよぎります。

10年住んだら売り抜けようと考える人はともかく、ご年配の方は、リタイア後から死ぬまでそこで暮らそうと考えるかもしれません。60歳で購入したとして、90歳まで生きるとしたら、30年しかありません。築古マンションを買った場合、存命中に解体・再建築の必要な寿命に達してしまうかもしれません。

再建築の費用はどうなるのか?う~ん分からない。相談者は行き詰まりました。

●相談者の懸念は「30年後に売れるか」だった

マンションの寿命は80年くらいありそうだから、築30年余の物件でもそこから50年の余命があるなら30年以上は何も心配しないで住んでいけるはずだと相談者は思ったものの、古いマンションの換金価値については五里霧中でした。

永住すると考えながら、本当に永住することになるかどうかは定かでない、何かの事情で売却することになったとき、築50年とか築60年マンションは果たして売れるだろうか?売れるとしても、どのくらいになるだろうか?――こんな疑問が湧きましたが、その答えは得られなかったのです。

築古マンションを検討するとき、新耐震物件はむろん、旧耐震物件でも稀に見られる耐震性に問題なしと診断されたマンションなら、長く住めるかどうかは維持管理次第と言えます。その維持管理が、これまで適切に行われて来たらしい物件、財政も豊かな管理組合なら、おそらくは今後も良い管理が続くと信じられるはずです。

しかし、人間の寿命が延びると、40歳で購入したとしても、そこから50年くらいの余命がある。一方、マンションの寿命が80年とするなら築古マンションの余命は自分と同じ50年かもしれないと思う。しかし、人生90年時代とか100年時代とか世間はいう。まだ寿命は延びるということだ。としたら、自分の寿命よりマンションの寿命が先に来てしまうのかもしれないとも思う。

まだ住んでいけるとしても寿命が迫っている状態になっているということは、不具合が頻繁に起こっているはずだから、快適な住まいとは言えないだろうし、ストレスのたまりそうな家ということにならないか?

築古マンションの未来は、こうした懸念が早い段階で表面化して来るのです。

●古いマンションは賃貸比率が高くなる――その問題点は?

古いマンションのもう一つの気がかりは賃貸比率にあります。

古いマンションほど賃貸比率が高くなる傾向は国土交通省の「マンション総合調査」でも明らかです。ちなみに、「築30年以上のマンションの賃貸比率は約20%(全国の平均)」です。物件によって30%近いものもあるでしょう。

賃貸比率の高いマンションには、どのような問題点が隠れているのでしょうか?

それは、オーナーの愛着が薄らぎ管理意識が弱くなることです。管理意識が弱くなれば、メンテナンスへのこだわりも薄くなってしまいます。そのことが、長い間に建物の劣化を促進してしまうのです。修繕積立金の値上げや支出に反対するオーナーが増える可能性も高まります。今、買おうとしているマンションには、既にその病魔が潜んでいるかもしれません。

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以上のような考察から、今日の結論を以下にまとめておきます。

①40年未満で売り抜けることを前提にして物件を選んだ方がいい

(永住は考えない。売却を前提にして探す。築30年なら10年未満で住み替える計画がよい)

②長く住むことより、家族の事情、ライフステージによって都度ふさわしいマンションに買い替えていく構想が良い

③最初から広い家は狙わない。広い家を狙うと、条件の悪い(リセールがしにくい)物件になりがちだ

④構造(耐久性・更新性など)の品質が分かる建物は築20年未満。そう覚えておく(古いものほど資料が整備されていない)

⑤異様に高い管理費・修繕積立金の物件は避ける(リセール時に敬遠される。ただし、地域性がある)

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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