第688回 「5つの失敗から学ぶマンション選び」

※このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております

10日おきの更新です。(次回は8月10日です)

筆者は客観的にマンションを評価する仕事をしております。買い手の将来を考えて「資産性」の見地から評価するのが常で、個人的な価値観は入れず、世間は当該マンションをどう見ているかという視点でレポートを作成しています。

あなたにとって良いマンションであっても、他人が嫌うマンションは売却時に高く売れないことを意味します。つまり、「資産性」という物差しでマンションを評価することが大事なのです。それが筆者の主張です。

長くやって来たからか、1月に刊行した拙著「マンション大全」のおかげかは判然としませんが、最近は全国各地からのご依頼が増えています。北は札幌から南は鹿児島まで、何故か仙台と広島からこの2か月間で件も依頼が続きました。

無論、評価対象マンションは東京が大半ですが、最近目立つのは「晴海フラッグ」のご依頼です。同マンションは高い人気を誇っていると聞きますし、一気に600戸も売り出すそうですが、それでも抽選倍率が高いという情報が入って来ました。

レポート依頼数も10人に達しましたが、4000戸以上のマンションなので、完売まで4年近くもかかるとも予想されるだけにご依頼が最終的に何件になることか、楽しみでもありますが、忙殺される日々がまた増えるとも思うので、少々恐れも抱いています。

「選手村マンションは買いか?」の書籍も出しましたが、価格も決まっていなかったせいもあって、筆者自身も食い足りないところがあります。「より踏み込んだ答え」をお聞きになりたい人はどうぞ「マンション評価サービス」をご利用ください。

さて、冒頭から宣伝になってしまいましたが、今日はタイトルのとおり「陥りやすい失敗例」を送りします。他山の石にしていただければと思います。

<事例 1>高値掴みをしてしまった

再開発エリアの物件なので将来性が高いと踏んだが、期待したほどではなかったという事例があります。

簡単に理由を述べると、購入した時点で10年先の価格と知らずに買ってしまったからです。

再開発が決定すると、地価が上がり始めます。再開発で魅力が増すエリアは、マンション業者間で用地争奪戦が激しくなり、地価が2倍になったりすることも少なくありません。

用地代が上がれば、当然マンション価格も上がってしまい、地域相場を大幅に超える分譲価格になってしまった例は少なくありません。

このようなケースは、言い換えると、再開発で向上する街の将来価値を織り込み済みの価格で販売されたということです。

●街ぐるみ再開発の中のマンションは価値が高いが・・・

鉄道の駅ができ、早くから人口が集中して発展して来た街は、首都圏には無数にあります。その街もやがて都市としての機能を失い、廃れて行く場合があります。そこで、活性化を図る策が練られます。

ある種の「街起こし」ですが、街ぐるみの造り替えは、グランドデザインと呼べばいいのでしょう。一般には、商店街と商店街に続く大型の周辺施設(工場や倉庫など)が一体的に新たなデザインのもとに作り替えられます。

住宅(マンション)と商業施設、医療施設、スポーツ施設などと憩いの広場や公園、車道と歩道が分離された安全な道路、地下化された電気やガスなどのインフラなど、完成予想図は便利で美しい街並みとして描かれます。

このようにして造られるゆえに、その中に建つマンションは街ぐるみのグランドデザインがベースとしてあり、駅前の利便性と環境の良さを両立する得難い物件となるのです。

●10 年先の価格を先取りした割高物件も多い

街ぐるみの再開発エリアにできるマンションは、その将来性を買われて高い人気を博します。というより、大抵は人気沸騰という状態になるようです。

人間なら誰でも経済的な欲望を持っています。ゆえに、どうせなら値上がりしそうな物件を買おうとするのでしょう。再開発エリアのマンションは、ほぼ間違いなく利便性と環境の両立型で稀少な物件となります。従って、高い資産価値が付きます。

ところが、ここで欲に目がくらんだ人は失敗をしかねません。その理由はこうです。

街ぐるみの再開発には様々な利害がからみます。道路その他のインフラ整備にもコストがかかりますし、地権者の仮住まいの手当てなどにも配慮が必要です。結果的に、マンションの分譲価格は高く設定しなければならない場合が多いのです。

その価格の高さは、しばしば半端なものではなくなっています。例えて言えば、10 年先の価格で分譲されています。

買い手が描く思惑は、「今はまだ不便だし環境も未整備だから我慢しなければならない。その代わり価格は安い。しばらくすれば、便利さと美しい街並みが手に入り、かつ資産価値は大きく跳ね上がる。だから今のうちに買っておこう」なのです。

ここに大きなイメージギャップがあるように感じます。発展途上なりの現状価値に則した価格ではなく、最初から完成後の価値を織り込んだ販売価格になっているからです。

再開発エリア内のマンションは、間違いなく資産価値が向上します。100 が200になるのです。現状の街並みからは到底想像できない完成予想図を見たら、価値が上がらないわけがないと誰でも思うものです。

しかし、200 になることを見越して200 の値段がつけられていたなら、その品を買っても儲けることはできません。ここが盲点、ここが落とし穴なのです。再開発マンションに期待し過ぎとならないことを祈るのみです。

●再開発マンション以外の高値つかみ

再開発マンションに限りません。新築マンションの場合では、理解しがたい高値のマンション販売がしばしば登場します。単に強気なのか、仕方なくなのかは分かりませんが、相場から大きく乖離した物件をときおり見かけます。

そうと知らずに買ってしまう人があるのです。高いのを承知で買うという決心をする人もありますが、その物件にしなくてもいいのに何故か買ってしまう人もあるのです。営業マンの巧みな誘導がそうさせたのか、最上階角部屋など特別な部屋だから価値があると思い込んだのか、理由や背景は様々ですが、100の価値の物件を150や200で買ったら損する確率は高いのです。少なくとも儲からないと思うべきです。

不動産の価値は、時とともに変わるものですが、その時点の適正価格で買っておくことが大事です。「将来性が高い」「まだまだ発展する街だ」「駅そばだからリセールバリューが高い」などの甘言は冷静に受け止め、分析しなければなりません。

<事例 2>環境に惚れこみ、創エネ、価格の安さに飛びついたが・・・

交通便のよくない場所でマンション開発を行う場合、デベロッパーは不便さを補うために様々な工夫を凝らします。

東日本大震災直後の原発稼働休止が原因で電力不足が問題なったことから、

機を見て敏な業者は「太陽光発電装置」を実装し注目を集めました。

そんな中で、共用部分の電力に留まらず各住戸にも供給し、かつ「売電もできる」を謳った物件が少なからず登場しました。

ところが、それらの物件の共通点は交通便の悪さにありました。普通は売れない代物でしたが、年間に10数万円の節約、あるいは標準家庭の電気代が半分カットできるといったセールストークに釣られたのでしょうか、分譲価格の安さと相まって購入した人が多かったようです。

また、東京ドームが何個も入るような大きな公園が隣接する環境の良い物件がありました。緑が多いというだけでなく、公園内にはスポーツ施設が複数あり、自由に駆け巡ることのできる広場があり、ジョギングやサイクリングを想定したロードが整備されています。

このような公園を眼下に望む位置に建てられたマンションは、環境はいうことなしでも、いかんせん交通が不便すぎます。しかし、価格も安いし、環境もいいからと通勤便の悪さに難色を示す夫を妻が説き伏せて購入した家族があります。

何年かして、売却を検討したところ、あまりにも安い査定額に愕然としてしたという声は今も例外ではありません。

交通便の悪い物件がは危険なのです。

<事例 3>値引きに釣られたが「安くはなかった」という失敗

マンションの場合、値引きとなると、その額は数百万円にもなります。さて、これだけ大きな金額が売主から提示されると購買意欲が急に高まって来るのも道理です。

しかし、4千万円、5千万円の商品なのですから、10%引きでも400~500 万円。驚くには当りません。中には、1千万円引きという事例も過去にいくつもありました。

ある程度は気に入っていた物件ですが、特別インパクトある魅力があったわけではなく、価格も高い気がして一度は見送りという結論に至ったものの、その後、値引き販売が始まったとき飛びついてしまったという失敗例を紹介しましょう。

販売が長期化していたようですが、見学から1年ほど過ぎたある日、値引き販売の告知メールが届き、実物が見られるということもあって現地を訪ね、買ってしまったというのです。

値引き後の価格でも相場より高い物件でした。決してお得な買い物ではなかったのです。もともと、大幅な値引きしなければ売れない代物でした。そうとは知らずに、定価から300万円引き、500万円びき引きの数字に惑わされたのです。

特長に欠ける物件でしたから、売却時に次の買い手を探すのが難しく、何度か価格を引き下げて処分するほかありませんでした。安く買ったと思い込んでしましたが、実はそうでもなかったということが数年たってから、もしくは売却時に分かったという事例は少なくないのです。

<事例 4>大手物件だからブランド価値が高いという先入観が生んだ失敗

プランは平凡で優良マンションからはほど遠く、魅力的なマンションとは到底言えない代物でした。

大手の手がけるマンションは、それなりの内容を誇るものが多いのは事実ですが、中には大手らしくない平凡な物件が存在します。そのような物件は、リセール時に苦労します。

ブランドとは商品価値の高さを伴ってこそのもので、平凡な品質で名前だけが大手ブランドというのでは、市場の信認は得られません。

平凡な部類でも、どこかに「さすが○○ブランドは違うね」という誰もが気付く特長が僅かでもなければならないのです。

<事例 5>室内の設備・仕様に一目惚れした本末転倒の失敗

室内の装備は完璧、グレードも最高だったが、他には何もないマンションだったという失敗例です。

共用玄関だけでなく住戸玄関にもカメラ付き、ディスポーザーや食器洗浄乾燥機付きのキッチン、ミストサウナとテレビ付きの浴室、タンクレストイレにお洒落な外国製の手洗いボウル、リビングの天井埋め込みエアコン、ワイドな連窓ハイサッシ、バルコニーにはスロップシンクなど、ないものはないほど装備は十分でした。

また、玄関からリビングに至る廊下は天然石貼りで、フローリング材もシート張りではなく、天然突き板張りの高級品が使われていました。キッチンのワークトップも天然石、建具のハンドルは革張りの高級なものが採用されているなど、スペックは最高のマンションでした。

間取りも変わっていて、随所にお洒落なインテリアが使われ、センスの良いマンションだなと一目ぼれしたそうです。

将来価値(リセールバリュー:RV)を決定する要素は、①立地条件(利便性と環境。マクロ的な人気度)、②スケール(存在感)、③外観・玄関・空間デザイン、④建物プラン(共用施設、間取り、内装や設備など)、⑤ブランド、⑥管理体制です。

この中で一番比重が高いのは①の立地条件です。立地さえ良ければ建物は何でもいいという単純なものではないのですが、大きな要素であることは確かです。逆に、どんなに素晴らしい建物でも立地条件の弱点を補うことはできません。 

また、稀少価値の高い土地かどうかの観点で検討することも大事です。そして最も大事な要素は「価格」です。価値に見合わない高値で購入(高値掴み)すれば、将来価格は期待外れになるからです。

筆者が提唱するマンションの価値を測る、上記6大条件に室内設備登場して来ません。上記の④の中の一部に過ぎないのです。

内装だけに目を奪われて肝心の条件をおろそかにすれば、先々どのようなことになるか考えるまでもないのですが、近視眼的になってしまう人もあります。

内装は、古くなると次の購入者にとって大きな意味がなくなります。後付けできないディスポーザー設備や、天井埋め込み型のエアコンにしたくても天井高が足りないといった問題マンションもあるでしょうが、立地条件やデザイン性などが高ければ内装で多少の不足があっても選んで良いマンションもあります。

設備の良いマンションに住みたいのだとか、高級感のある内装のマンションに住みたいのだという個人的な欲求は理解できますが、惚れるべきは「立地」「スケール感」「外観デザイン」や「共用部のしつらえ」であって、内装は二の次なのです。

工事中の新築マンションは、モデルルームに目を奪われる傾向があります。

完成済みの売れ残りマンションでも、モデルルームまでの足を早めてしまい、大事な所を一瞥する(チラリと見る)だけの前のめり状態になる人が多いようです。目に入った瞬間、新しいだけに「綺麗」とは感じても、全く感動を覚えないままでモデルルームに足を入れてしまうというわけです。

モデルルームに行く手前、共用部を歩いているときに足が止まるような感動があれば、そのマンションは売却時に次の買い手にも感動を与える可能性が高いのです。感動、すなわち、「すごい・綺麗・格好いい・素敵」といった感動シーンが多いほど高く評価され、当然良い値で買い手を見つけることにつながるのです。

室内の設備・仕様に目を奪われないように注意しなければなりません。見るべきポイントは室内以外のところで高揚感が生まれるかどうかです。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

★★★三井健太の2大サービスはこちら★★★

「マンション評価サービス」と「将来価格の予測サービス」のご案内

http://www.syuppanservice.com/2dai-service-syoukai.html

※こちらのBLOGも是非ご購読ください。

https://www.sumu-log.com/archives/author/mituikenta/
7月25日の第215回は「選択に迷ったときの考え方」です。