第698回 「検討できる新築マンション激減?」

このブログは10日おきの更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

三井健太のマンション相談室では「マンション評価サービス」をメーンに、購入マンションに関するご相談を10年近く続けて来ましたが、最近ご相談件数が大幅に減ったという実感を持っています。

毎年、繁忙期とそうでもない時期があることの繰り返しを実感して来ましたが、今年は例年と違うという印象があるのです。

多数のご相談と「マンション評価サービス」のご依頼、最近は「将来価格の予測サービス」のご利用も急増して、春先からアシスタントを一人、二人と増やして対応していますが、この秋は例年に比べてご依頼件数がめっきり減っています。

これはどういうわけか考ええてみると、「買いたいマンションがない」からではないかと思うのです。筆者へのご相談の大半は、買いたい物件候補が定まりつつある時点で届ききます。ご依頼件数が減っているのは、購入物件がないからではないか?そんな仮説を立ててみました。根拠をお話ししましょう。

●新築マンション発売戸数の激減

買いたいが買うものがないという「供給戸数激減」が理由のひとつではないかと考えています。新築マンションの年間供給戸数は、首都圏全体での記録を見ると、過去最高は2002年の8万8000戸でした。直近の2018年は37,132戸なので、ピーク時の40%程度です。

もっとも、8万8000戸というのは異常値と思われます。

2002年から2006年の5年間は、平均8万3千戸でしたが、2007年~11年の65年間は4万6千戸と半分近くに減りました。

2012年から2018年までの7年間は4万2千戸台、なかんずく直近3年(2016~18年)は、3万6千戸台と激減していることが注目されます。今年は、3万戸も割り込むのではないかと予想されています。

ご存知ない方も多いと思いますので補足しておきますが、新築マンションの発売戸数という統計は、100戸の販売予定戸数があっても20戸ずつ5回に分けて売り出す「分割販売」が常態化してしまったので、分かりにくくしています。

「総戸数100戸、第●期販売:今回販売戸数20戸」などと、何回に分けて売り出すかは売主企業の任意です。特に法的な定めや行政指導があるわけではありません。

100戸売り出して100戸全部が短期間に完売できればいいですが、現実はそうならないので、何回かに分けて売り出すのが一般的です。100戸いっぺんに売り出して短時間で完売してしまうと、「安すぎだ」などと上司の批判を浴びたこともあって、価格を上げて50戸、50戸の2回に分けて分譲する「分割販売」が業界の定石となっているのです。

誤解のないように補足しますが、マンション分譲ビジネスは大きな利益率を得られるわけではありません。過去には、利幅をいくらか標準より多く取れる例もなかったわけではありませんが、近年は利益を多く取るのは難しいようです。

分譲マンションの原価は、いうまでもなく「土地代(用地費)」と「建築費」です。この2大原価以外の出費は「広告費」と「販売経費」です。販売経費は、販売会社に販売を委託する場合は、「販売手数料」と名目が代わりますが、自社販売でも「部門経費」になるだけで、販売経費は同じように必要です。

2大原価と広告費、販売経費を引いた「純利益」は、だいたい10%です。この利益で、会社全体の経営を支えるのです。

近年、用地費も建築費も高騰し、販売価格も上げざるを得ないようになって、マンション分譲ビジネスは厳しい経営環境にあると言われます。

マンション分譲ビジネスでは、原価も経費も切り詰めるのが困難だからです。マンション分譲をメーンビジネスにしている企業の中には、経営危機もささやかれているところもあるようです。

原価も経費も切り詰めることが困難なので、やむを得ず販売価格を上げますが、高くなれば買い手は逃げてしまいます。

先に述べた販売戸数の激減は、売れ行きの悪化と同義語なので、苦しい経営状態を映し出していると言えます。ただし、大手デベロッパーは事業の柱が何本もあって、マンション分譲の落ち込みを別の事業で補っています。つまり、倒産や経営危機に至ることはないのです。

●発売戸数の激減は静かな在庫積み上がりを意味している

発売戸数の減少は、未発売戸数の増加を意味します。やがて、完工して代金を払えば「在庫」となって蔵に眠ることになります。店頭に並べた商品が売れれば、蔵から商品を持ち出して店頭に並べ、「第●期・新発売」と銘打ちますが、大きな戸数が一気に売れなければ「小出し」にして行くほかありません。

完成品は「すぐに居住できるメリット」もあって、完成直後はある程度まとまった数が売れますが、蔵には大量に売れ残りの在庫があります。一気に完売とはなりません。

多数のプロジェクトをしかけているデベロッパーは、複数の未発売在庫も大量に抱え込むことになります。

殆どのマンションデベロッパーは、工事完成時期までには全戸を完売させ、一斉に入居してもらおうと考えています。100%近くを売っておかないと、売れ残り分の管理費も分譲会社で負担しなければならないからです。

負担額はたかが知れているので、経営上の大問題にはならないのですが、完売していれば無用な出費です。好んで負担する企業はありません。

また、完成してしまった商品の管理も大変です。新築マンションとはいえ、窓を閉めっぱなしで長く放置すれば、カビが生えてきたり、壁紙がはがれてきたりと小さな問題箇所が複数発生します。商品ですから、そのまま販売はできません。完成したばかりの綺麗な状態を維持しなければならないのです。

そのための手間、すなわち「カビが生えないように風通し」などにも気を使います。

こうした商品管理をしつつ、早期完売を狙うのですが、これが中々大変です。売れ残ると、様々な憶測を生み、見学者との対応も気を使います。既に入居している顧客との対応もありますし、長く売れ残ってしまうと、先行契約者から「値引き販売していないかどうか」の疑惑をかわしながら販売をしていかなければなりません。

当然ながら、広告に「値引きします」などは謳えません。

売れ残ったら値引き、言い換えれば場所や建物の条件は代えられないので、価格ダウンかおまけ付き販売しか手はありません。が、それを表に出せば、正規の条件で買った先行入居者との不公正が表面化し、トラブルに発展する危険があります。そのことは避けなければならないのです。

しかし、条件を変えずに販売するのは簡単ではありません。竣工後の売れ残り住戸が多数の場合、完売させるのは至難の業と言って過言ではありません。

●新規開発のマンションも少ない

売り出し戸数が減っている根本要因は売れ行きが悪いからです。

売れ行きの悪化は、未発売在庫は積み上がりと同義です。全くの新規物件の準備ができていても、着工済みの未販売マンション、いわば隠れ在庫が多数あれば、着工は「待て」の号令がかかるかもしれません。

売り上げ計画との関連から、予定通り着工に踏み切る物件もあるのですが、工事だけが進んで売り出せない「隠れ在庫」だけ積み上がれば、やがて資金的なバランスが崩れます。

超低金利時代なので、金利の圧迫は小さいとしても、バランスシートが崩れます。在庫を多数抱えたまま、新たな物件の着工に踏み切るべきか、これは悩ましい問題となります。かといって、新規着工を見送れば、経営計画に重大な影響を与えます。

竣工してしまった売れ残りマンションの未発売在庫を長く放置はできないので、様々な作戦で早期完売を図ろうとしますが、立地条件を含めたマンションの魅力を高める策は多くありません。

次の決算期のことを考慮しつつ新規物件の着工に踏み切ることも実は必要です。売れ行きの悪い状態が長く続けば社内のムードもよくありません。新規物件の販売開始で活気をもたらす作戦も必須なのです。

新規発売マンション(第1期の販売物件)は、新たな顧客の獲得に寄与します。言い換えると、販売が長期化している「第▲期●●マンション」より、「▼▲マンション第1期新発売」の方が確実に契約戸数は伸びるのです。契約戸数が伸びれば社内のムードも良くなるので、新規発売マンションは売り手にとって必須です。

新発売マンションは販売の前線部隊を活気付けますが、それも最初の何か月かのことです。やがて売れ行きは停滞し、沈滞ムードが蔓延します。次々と新たな新発売マンションを送り出すのも限度があります。

結局、売り出すマンションが総じて順調に売れて行かなければなりません。

再び買手の立場に戻って述べましょう。第●期と謳う「継続販売マンション」に期待できるのは、値引きしてくれる場合だけです。第1期・第1次と謳う「本当の新発売マンション」は高いのです。

なぜなら、建築費が低下したという情報もありませんし、安い用地を1年か2年前に仕入れすることができたという情報もないからです。

用地取得費も下がっていない、建築費も下がっていないとしたら、新築マンションの価格が下がるという根拠は何もないのです。

●用地がないことに最大の問題がある

マンション開発の最大の問題は、用地難にあるのだと思います。マンション用地がないという悩みは昔からのことですが、最近は価格が高くなって売り物にならないという業界の苦悩が一段と深くなっているようです。

記録によれば、2016年初頭から新規発売マンションの売れ行きが悪化していますが、現状は一段と悪くなっているようです。原因は価格の高騰にあります。根強い需要に支えられ、一方で金利の低下が購買力を押し上げてくれたので、多少の下支えにはなっているのですが、売れ行きが好転するまでに至っていないのです。

建築費が下らない、マンション用地はない。あっても望む立地条件ではない。良い立地条件で、規模の大きな用地の争奪戦は激しく、高値で買わざるを得ないのです。

立地条件の良い、かつ規模もある程度の土地は結局高値になってしまっています。都心の人気の街などは高値でも売れると踏んで用地を取得するのでしょう。

これから発売されるマンションの価格は信じられないほど高値になるはずです。新築マンションを選ぶなら「売れ残りマンション」の中から値引き交渉して少しでも安く買うしかないのかもしれません。

新発売の第1期を狙って得な物件は極めて少ない、「ほとんどない」そう考えた方が良いのかもしれません。

●中古マンションを探す道もお勧め

新築は高い。手が出ない。そう思う人は中古マンションを狙いましょう。続きは別の機会に書きますが、中古も高いのは確かです。高くなれば売れなくなるのは新築と同じです。

しかし、新築との違いは、中古の方が価格決定に柔軟性があることです。

新築は、売り主企業の採算性の問題があって下げ渋りますが、中古マンションの多くは購入価格と売却希望価格との間に幅があって下げ余地があるからです。

新築も高いが中古も高い。新築は販売期間が1年以上もあって、建物が竣工するまでは下げてくれないものですが、中古の個人所有物件の場合は、長期間売れないまま放置できない家庭が多いので、新築よりは価格の下げは早いのです。

現状を観察していると、中古マンションの方が良い物件を手にできる確率が高いはずです。少なくとも、筆者にご相談下さった方の中で中古を狙った人は確実にゴールに達しています。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

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第225回は「マンションの資産価値は管理組合の力で決まる?」です。