第702回「広さを妥協するか・場所を妥協するか」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

言うまでもなく、マンションの価格は立地条件で決まる部分が大きいのですが、予算に限りがある以上、一定の広さを求めれば立地条件も多少妥協せざるを得ません。

しかし、仕事(通勤)の事情から妥協には限界があります。

その昔、男は長い通勤時間を覚悟して遠方の一戸建てを買ったものです。時代は変わり、今では通勤時間を犠牲にする人は大幅に減りました。共働きが増えたことに伴い、通勤時間は大幅に短縮されました。遠距離通勤は妻の負担(犠牲)が大き過ぎるためです。

 

子供ができたら、預ける保育園を探し、通勤負担の少ない仕事を望むことになります。しかし、できたら勤務先は変えたくない。そう考える女性も多く、住所を移す道を選択します。

 

結婚したら子育てのために郊外に住むというのは昔の話です。現代は、勤務先はそのままに、通勤時間の短いエリアで家を探す夫婦が増えたのでしょう。郊外のマンションは不人気で、高い値段ながら都心に近いエリアのマンションが人気です。

最近のマンション購入検討者の多くは、遠くても●●駅までと線を引くのが普通です。

 

●都心に近い住まいを望む

東京は広いので、みんながみんな東京駅や新宿駅などの都心のターミナル近辺の企業に勤務するわけではないものの、都心の概念が「山手線の内側」としても、そこにオフィスを構える企業は大量にあります。

 

周辺部にも無論、職場は多数ありますが、東京都心の比ではありません。都心に向かう通勤電車の混雑ぶりが、そのことを証明しています。周辺都市にも職場はありますが、その数はしれています。

 

大昔は、マイホームを求めるとき、通勤時間を犠牲にしても郊外都市を選んだものです。というより、都心のマイホームには高くて手が出なかったので、やむを得ず東京都外の街で買ったのです。最寄り駅から勤務先まで優に1時間はかかったものですが、それですまない人も多数ありました。自宅から駅まではバスに乗る必要があったからです。

 

夢の一戸建ても、遠距離通勤の犠牲が伴うものでした。しかし、それでも男たちは家族のために狭いアパートや社宅暮らしを卒業して夢のマイホームに走ったのです。時代は変わって、比較的通勤時間が短い駅近マンションを選択する人が増えました。遅くなってもバスを待たずにすむのが好評理由です。

 

やがて、そのマンションも価格高騰のために、勤務先から遠い駅を選ばなければならないときがありましたが、バブル経済の崩壊後は地価の下落に伴って都心・準都心でも手が届く時代が戻って来ました。

その後、住宅ローンの金利が低下し、ローン控除などのマイホーム取得支援策などの効果もあって「より都心に近い」エリアでマンションが買えるようになったのです。

 

●就労支援策とローン金利の低下

その昔、女性は結婚を機に職場を離れる傾向がありました。子育てのために仕事を辞める女性が多かったのです。別の理由で女性が長く同一企業に留まるのは難しい時代でもありました。

 

今日、情勢は変わり女性は結婚してからも長く会社務めを続けられるようになりました。人口減少によって働き手が減って、社会が退職を求めなくなったのです。結婚後も、子供ができてからも、女性は仕事を続けることが容易になったと言えましょうか。支援策を企業が用意する例も増えました。保育園の数も増えています。

 

女性が働きやすい環境が整備されて来た結果、ダブルインカム世帯が増えました。そのおかげで、マンションの購入に当たって多額の予算を組むこともできるようになったのです。

最近は金利の低下と相まって、若い夫婦のマンション購入予算は随分大きくなりました。職業、年齢で幅があるのは言うまでもないですが、筆者がお会いするご相談者の中には1億円を超える予算を組むご夫婦も少なくありません。

 

ご承知のように、変動型ローンを選択すれば金利は0.4%などという例もあります。高金利の時代にマイホームを買った筆者などから見れば、ただみたいなものです。金利上昇のリスクはあるものの、最近は安定しているせいか、リスクをとって変動型を選ぶ人も多いようです。

 

●物件価格の1%が還付される支援策

金利が低い上に、年末時点で借入残高の1%を所得税から差し引いて還付してくれるので(初年度。2年目からは源泉税が減額)、実質金利がマイナスになる例も少なくありません。

 住宅ローン控除は10年間だけなので、マイナス金利になるのも10年間に限定されますが、こんなことは過去になく、将に希代の現象です。

 

 例えば年末残高が4000万円のとき、ローン控除は最高(新築マンションの場合。納税額40万円以上の人で)40万円になりますが、4000万円の住宅ローンの金利が0.5%であれば、年間の金利は20万円以下ですから、逆金利が20万円というわけです。

中古マンションの場合でも、年間に最高額20万円の控除があるので、金利負担ははないに等しいと言って過言ではありません。こんな恵まれた時代はありません。

●近距離通勤が可能になったものの・・・

ダブルインカムと低金利、さらにローン控除というバックアップ策が職場に近い場所でマンションが持てる可能性が高くなったと言えますが、肝心なのは希望する売り物が市場にあるかどうかです。

 

筆者の日常業務は、依頼を受けて特定マンションの価値を評価する「マンション評価サービス」ですが、併せてご依頼いただく「将来価格予測サービス」にお応えすべく日々調査をし、予測数字を算出してみると、地域によって大きな差異が出てしまうことに気付かされます。

 

近距離通勤が可能になって、好立地の候補物件をご依頼くださる方も多いのですが、、予算が5000万円以下のご依頼もあって、調査して行くと、問題物件に遭遇することもしばしばです。

 

問題物件、それは主に駅から近くない物件のことです。せっかく、近距離の物件を選んでも、駅から遠い物件は将来価値で危険が多いのです。選択した本人も承知しているようで、不安を覚えて判断を筆者に依頼して来るのです。

 

東京都心の物件は、A駅から8分でもB駅からは5分であったりするので、あまり問題にならないケースが多いのですが、都心から少し外れると、最寄り駅はひとつだけで、そこだけが頼りです。そのような物件の評価依頼も少なくありません。

 

本人が気にならないなら良いとはいうものの、駅から徒歩10分などといった物件は、「競争力」で劣るので、高く売れるのが難しい場合が多いものです。できたら妥協はしたくない点です。最寄り駅から10分は近いと思っている人もありますが、5分以内を希望する人も多いのです。

 

マンション探しは、将来の売却時に人気を博するか否かを考えて選ぶことが大事です。駅に近い物件は、価格も高いものですが、無理をせずに買えるなら「駅近」を絶対条件にしておく方が将来は後悔せずにすみます。

 

●理想的な物件はないが・・・

マンション探しは「あちら立てればこちらが立たぬ」というほど難しいものです。どんなマンションにも、どこか気にいらない点があるもので、そこに目をつぶって購入するのが当然と言って過言ではありません。しかしながら、妥協してよい部分と妥協してはいけない部分を峻別(厳しくはっきりと区別)しなければなりません。

 

全ての条件が揃っていなくとも、以下のような順番で条件を満たしていれば高い価値を持つマンションとなります。

第1位:立地条件

できたら都心に近いこと。または都心へのアクセスが良いこと。最寄り駅に近いこと。5分以内が理想。妥協しても7分。また、環境が良いに越したことはないが、駅近とは両立しにくいものなので、距離が優先します。

 

また、その駅の周囲はどのような施設が、どの程度集積しているか=駅力えきりょくも重要なポイントになります。駅力と駅からの距離は、大きく資産価値を左右する要素になります。

 

第2位:建物規模

少なくとも50戸以上。できたら100戸規模の物件が望ましいのです。小さいと存在感に欠けるきらいがあるからです。

また、小さ過ぎると管理費が割高になるか、管理内容が悪くなるためでもあります。さらに、一定の規模がないと共用スペース・共用設備も貧弱になって豪華さを醸し出すのが難しいためでもあります。

 

共用施設も、建物規模が大きいほど様々な利便施設や癒しの空間を設けることが可能になりますが、小規模マンションでは集会室(談話室・雨天こども遊技場など)すら用意できないものです。

 

第3位:外観・玄関・空間デザイン、及び共用部分のプラン

外から見て他人が羨むようなものであるかどうかも大事なポイントです。価値の源泉とも言える要素です。

 

どのようなデザインが良いかの法則はありませんが、抽象的な表現を使うと、「格好がいい」、「豪華絢爛な雰囲気」、「個性的で異彩を放つ」、「上質・高級な感じ」、「美術館や博物館みたい」、「高級ホテルのようだ」など。

 

第4位:間取りや内装、設備など専有部分と共用の設備

共用設備の内容や耐久性・耐震性の高い構造かどうか等で価値が変わります。

専有部分に関しては、向き、階数、間取り、設備・仕様などを総合的に見て判断されます。

これらをひとくくりにしたのは、それぞれのアイテムの価値が持つシェアは高くないからです。

 

第5位:ブランド

(有名業者が売主、または大手ゼネコン施工の物件) これは第4位に繰り上げたいほどですが、ブランドイメージにふさわしくない物件も見かけるので5番目としました。

ただ、ブランド価値も築30年を超えた辺りから価値判断には関係がなくなる傾向が見られます。

 

第6位:管理体制とメンテナンス 

建物規模と密接な関係になるのが管理人の勤務態勢で、最も懸念されるのが「巡回管理」という管理人不在マンションです。小規模マンションに多い管理方式で、いわば取締り(番人)がいないマンションはルール違反者が増え、秩序の乱れが常態化してしまうのです。

マンションは管理を買えといわれるほど重要な管理は、管理人がいればそれで良しといった単純なものではないものの、少なくとも週5日以上、1日5時間以上はマンションに勤務・滞在し、目配りをすることが必須なのです。

長期的なメンテナンスをいかに実行していくかは、資産価値の維持の観点では最も重要な項目と言ってもよいのです。築20年くらいまでは、度のマンションも見た目で差はできにくいのですが、その先は徐々に格差が生まれます。

従って、中古マンションを検討するときは優先順位が第6位ではなく、第2位に繰り上がると考えなければなりません。

 

・・・・・将来価値(リセールバリュー:RV)を決定する要素は、上記1~6ですが、この中で一番比重が高いのは第1位の立地条件です。

 

分かりやすいキャッチフレーズで特徴を表せる物件が良いとも言えます。例えば、「駅近」「南向き」「眺望良好」「大規模〇〇階建てタワー」「大手分譲」「〇〇畳の広々リビング」「最新設備満載」などです。

 

●妥協してはいけないのが立地条件

都市によっても多少の差はありますが、一般に駅に2~3分の距離にあるマンションは、駅10分のマンションより人気があるものです。人気があれば価格も高くなります。

 

駅5分のマンションは、駅によって異なるものの、数多く見られます。としたら、駅5分の立地に優位性はなくなります。しかし、隣が公園だったらどうでしょうか?同じ駅5分にあってビルの谷間のような物件に比べれば、公園隣の物件が断然優位に立てるはずです。

 

ビルの谷間という表現を使ったので、ついでに補足しておきましょう。

 

商業地にあって小規模ビルが密集している立地があります。検討マンションの両隣もビル・マンションが切迫している例です。

このような場合、当該検討物件が大規模で道路側から見てワイドな建物であれば、存在感があって誇らしい外観に見えることでしょうから、買い手がつきやすいものですが、反対にビルとビルの谷間にあって敷地にゆとりがないだけでなく間口が狭いマンションは嫌われる傾向が強いのです。大手の某デベロッパーは商業地の場合、角地限定で買収するというのです。その方が存在感のあるマンションを建設できるからと聞きました。

 

駅から若干遠いが、その代わりマンション前に広い公園があるといった物件なら迷うことはないかもしれませんが、近いとは言えず、かつ雑然とした街並みで美しいとは言えないような場合、考え直した方が良いかもしれません。

 

世田谷区の某所で、駅から徒歩10分と近くないが公園の前にあって地域一帯は整然とした綺麗な住宅街のマンションがありました。しかし、売れ行きはパッとしないのです。原因は、その駅が各駅停車のみで駅周辺に商業施設の少ない「寂しい駅」だからです。

当然ながら、乗降客数も少なく、世田谷区でも小さな駅のひとつだったのです。小さなレストランや喫茶店、中華料理店などは目につきますが、スーパーマーケットはなく、銀行の支店もひとつ、東京にもそんな駅があります。

 

せめて駅前立地のマンションなら妥協できても、この寂しい駅で、しかも10分も歩くことに買い手は抵抗があるのです。当然のことながら販売は長期化し、最後は大幅値引きを余儀なくされました。このようなマンションを買ってしまうと、買い手としては値引きしてもらって得したように思っても、長い目で見れば損だったということになりかねません。                                                                                                                                                                                                                

●中古マンションほど将来価値を考えるべき

新築マンションは原価積み上げ式に価格が決まるもので、高値で用地を買収してしまったり、思いがけない事情で原価・経費が予算増になって、販売価格が上がってしまうことがあります。

 

これに対し、中古マンションは買った価格とは無関係に中古市場に委ねられる形で価格が決まります。例外もありますが、中古マンションの方が適正なレベルの価格になるものです。

 

今の時期は新築が市場の購買力を超えた異様な高値になっていると言って過言ではありません。中古マンションは、高くなったとはいえ、市場の判断にゆだねられた価格である場合が多いのです。

 

売主が欲張りで、市場価格に20%も乗せて売り出すということがないわけではありませんが、良識ある売り手は高々5%プラスで売り値を決めます。そこから、値引き交渉を経て売買価格が適正なレベルに収まります。

 

物を買うとき、誰でも安いものを買おうとしますが、品質やデザイン等を考慮するので、例えば10万円のハンドバックと5万円のハンドバックの比較で10万円を選ぶことがあります。10万円のほうが、買い手にとって値打ちがあると思うからです。同じ人が、ある時は10万円の買い物をし、あるときは5万円の買い物をする場合があります。

 

マンションの場合は少し異なった行動になります。都心の高級住宅街のマンション1億円と郊外の5000万円のマンションを比べたりもしませんし、短期間に二つのマンションを買うこともありません。そのときの購買力によって買い物も決まるのが普通です。とりあえず購入できるものを予算の限度内で選択し、10年程度の期間を経て「より条件の良い物件」に買い替えるのが一般的です。

 

あとさき考えずに買う人もないわけではないようですが、筆者が知る人は100人中99人まで、将来の買い替えを想定しています。若いうちから理想のマンションを取得できる人は稀で、当面10年か15年住んで、その後は買い替えることをイメージしているのです。

 

転勤がないか、あっても遠方にはならないからと考え、何十年も同じマンションに住む前提でマンションを選ぶ人はいないのかもしれません。長く住む計画だったという人でも、想定外の事情が発生し、20年そこらで住み替えることになったという人から筆者に届くご相談も少なくありません。

 

筆者も、都区内のマンション、転勤先のマンションなどに何度も住み替えて来ましたが、もうすぐ買い替えることになるかもしれません。

振り返ってみると、計画的に住み替えを実行して来たわけではなく、そのためもあって大損もしましたし、今も売るに売れない一戸建てに住んでいます。その反面、いくつかのマンションでは思いがけない大儲けもしました。

投資家ではない筆者ですが、マンション業界に身を置いて長く生きて来たせいか、思いがけない大儲けも、反対に大損もしました。

 

大損をしたのは、時期が悪かっただけですが、家族にとってその時期は重要だったのです。

 

自身の経験から言えるのは、マンション選びは立地が一番ということです。広さにこだわって中途半端な立地条件の物件を選ぶのは避けた方が良いのです。建物規模にしても同様で、小さすぎる物件は避けた方が良いのです。

 

「広さを妥協するか、場所を妥協するか」というテーマで書いて来た記事ですが、立地条件だけは妥協しない方がよいというのが結論です。その視点から、最後に一言だけ付け加えるとしたら、「駅から10分は遠い。駅から5分でも特別なことでない地域もある」です。

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

 

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