第711回「コロナウイルス問題とマンション価格」



このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。



最近増えているご質問のトップは「コロナウイルスでマンションの価格は下がりますか」です。

何人かの質問者の趣旨を整理すると、質問の背景や理由は以下のようなものです。

「景気の先行きは悪化が間違いないと思うので、マンションも売れなくなり、待っていれば値が下がると思う」

今日はこの問題の先行きについて考えてみました。

●市況の悪化は風評による場合もある

長くマンション市場を見て来た筆者は、自らの体験も含めて、マンション危機と言える現象をいくつも挙げることができますが、ひとつだけ例を挙げてみましょう。それは、25年前、1995年の阪神大震災です。

未曽有の災害でした。ビル・マンションの損壊に留まらず、高速道路までが倒壊したのです。遠くの関東では、テレビ・新聞報道が連日その被害状況を映し出し、それらを見た視聴者は地震の恐怖を改めて知ることとなりました。

火事が発生して亡くなった人、倒壊家屋の下敷きになって亡くなった人など、数千人もの死者を出したのです。

阪神エリアには無論マンションもありますが、一戸建てが多いエリアなので、瓦礫の山となった街も数多くありました。マンションも1階の駐車場部分の柱が折れて「く」の字に曲がり、パーキングしていた車が押しつぶされた映像が流されました。10度くらい傾き、今にも倒壊しそうな古いビルなどもテレビは映し出していました。

たまたま出張で大阪のホテルに滞在中だった筆者は、現地へ赴いて被害状況を自分の目で見ることとなりました。しばらくして東京へ戻った筆者を待っていたのは、東京のマンションが全く売れなくなったという情報でした。

それを聞いて違和感を覚えた筆者は「なぜ?」と問い返しました。

周囲の人たちは、テレビで倒壊しそうなマンション、パーキング中のクルマを押しつぶしている座屈(ざくつ)したマンションを見て多くの視聴者が「マンションは危ない」と思ってしまったのでした。

現地に行って、この目で被災状況を見ていた筆者は「マンションは、やっぱり安全だ」という思いでした。阪神間の被災地も行き、この目で見た筆者は、倒壊した古いビル、倒壊したも同然の傾斜マンションがある一方で、瓦礫の山の向こうに厳然とそびえるマンションをいくつも見ていたからです。

震度6強、震度7でもマンションは倒壊しない安全な建物なのだ、筆者は理論ではなく、事実として確信した瞬間でした。

何度か建築基準法が改定されて、阪神大震災の1995年には既に現在の「新耐震基準」によって建てられたマンションが多かったのです。激しい揺れに耐えることができたのは、法改正のおかげだったというわけです。

しかし、このとき改正前の旧・基準で建てられたマンションの全てが倒壊したわけではないのです。テレビに映し出されたマンション以外にも倒壊寸前の被害を受けた旧・基準のマンションは何棟もあったのは確かですが、既に新基準によって建てられたマンションの数が圧倒していたからです。

分譲マンションの歴史を紐解くと、第1号のマンションは1955年の建築ですが、大衆マンション時代と呼ばれて各地に数多く建設された始めたのは1970年ころからなので、95年当時も阪神間では、まだまだ一戸建てが主流だった時代です。

話を元に戻しましょう。テレビ報道は、「マンションも地震で倒壊してしまう」という風評をまきおこしました。そのせいで、遠く離れた東京のマンションもぱたりと売れなくなったのです。時計が進むに連れて、「実はマンションは地震に強い」と知れ渡り、そのおかげで再びマンションの売れ行きは回復して行きました。

今、観光地はどこも閑古鳥が鳴いているようです。外出の自粛が蔓延して、東京でも人出が減っているようです。人が動いてお金を使うことが経済の活性化につながるのですし、景気も良くなるのですから、家でじっとしている事態は間違いなく景気の悪化をもたらすでしょう。

しかしながら、自宅で仕事ができる人は多くありません。今の状態は異常です。早く元に戻ってほしいと願う人は多いのです。そう遠くない将来、再び国民の活動は正常に戻ることでしょう。

幸い、国も様々な対策を講じて国民生活を守ろうとしています。東京オリンピックを代表とする大きなイベントは延期になってしまうかもしれませんが、我慢強い日本国民は危機をチャンスに変えるはずと少なくとも筆者は信じます。

●価格は下がるか・・・新築マンションの場合

売れ行きが悪ければ、販売促進のためには値下げもやむを得ない。場合によっては損切りも辞さないなどということはありませんか・・・よく尋ねられる問です。

筆者は間髪を入れずにこう答えています。「90%以上ないでしょう」と。

消費財の世界では「損切り処分」という行為はよくあることです。「損切り処分」「歳末大売出し」「決算セール」といった言葉は昔からよく耳にしてきました。

しかし、ルイヴィトンのようなディスカウントは絶対にしないブランド品もあります。値引きは商品価値をおとしめるからです。

マンション販売も、ある意味でヴィトン流なのかもしれません。とはいえ、こっそり値引き販売は行われています。

「こっそりでなく、大々的に安売りすることはないのでしょうか?」というご質問をいただくこともありますが、「マンションで投げ売りした例は30年以上前にありました。よく覚えているのはST不動産とTW不動産です」と答えつつ、そんな時代もあったなあと思い出されます。

マンションの場合、値下げ販売は原則として期待できないと思った方が良いのです。先述の2社の例も、既契約者に対し、値引き率に応じて差額を返金するという決断を分譲主が断行したことでトラブルなく終わっています。

値下げ断行に際して、既に契約済みで入居していた人には、数百万円の差額を振り込まれました。そのおかげで、「ボーナスを貰った気分」と喜んだ人もあったそうです。

事業主は覚悟を決めて値下げ販売に踏み切ったのですが、同じころ少なからず同様の例は他にも少なからずあったのです。金利の高い時期でもありました。目先の利益は捨てて、再出発しようと腹を固めた瞬間だったのです。

中には、既契約者とのトラブルを恐れて、賃貸に切り替えたり、「買取り転売業者」に何割引きかで未販売住戸をまとめて売却したりした業者が何社かありました。中小業者の場合は、倒産を回避するために「やむを得ない決断」だったのでしょう。換金を急いだのです。

これからも同様の動きはあるでしょうか?筆者は「ない」と思っています。仮にあるとしても、無名業者が売主で、立地もプランも悪い物件に違いありません。価格は若干高いとしても優良な都心物件が値下げ販売に踏み切るとは思えないのです。

●価格は下がるか・・・中古マンションの場合

今後マンション価格はどうなりますか?最近よく尋ねられます。答えはこうです。

まず、新築と中古では事情が異なります。

中古は購入価格から見れば売却見込み額との間に新築にはない大きな幅があります。無論、売れるだろう金額を当てにして買い替え先を決めている場合も少なくないので、予定の金額で売れないと困る人もありそうです。

しかし、大昔と違い、堅実な買い手が多い昨今、少なくとも筆者に入る情報では余裕を持っている売り手さんが多いように見えます。

買い替えの人にとって困る問題は、買い替え先の支払に売却代金を当てるつもりの人です。そうでない人でも、買い替え先のローンと現在利用中のローンの二重払いが懸念点です。金融機関の審査の前提が二重ローンにならないという場合や、そちらが何とかなっていたとしても、二重ローンの返済が重くのしかかって来る人もあるはずです。

このような人は、転居先のローン返済が始まるまでに売却のメドを立てなければなりません。そのためには、価格を下げる決断が必須になるはずです。

下げ余地があれば、下げてでも早く買い手を決めて安心したいと考えるはずです。その下げ余地ですが、所有物件によって異なります。また購入してからの期間によっても異なりますが、最近の値上がり市況から見て多少の下げは問題ない人が多いのです。

金利が低いので、所有期間で異なるとはいえ、売却時のローン清算金額は大幅に減っているはずです。その面からも下げ余地は大きく、売れないと感じた人は仲介業者と相談して10%下げを決断したりします。その決断までの時間も、個人の場合は短いものです。

今後の市況を読むと、中古マンションの価格変動(下げ)は案外早く訪れそうな気がします。

とはいえ、中古マンションでも人気の高い優良物件となると、買い手も多いので売り手を弱気にさせることはないと思う方が正しいでしょう。

つまり、優良中古が安く買える状況は期待しない方がよいのです。

●中古の優良マンションを買う好機が近い?

とはいえ、嫁1人に婿5人といった状況だった優良・人気マンションには婿が3人になり2人になりと、ライバルは減るでしょうから、ウオッチングを続けていれば案外早い時期に好物件をゲットできるかもしれません。

話は変わりますが、利に敏い人というのは本当にいるらしいと聞きます。筆者はその面は苦手な方かもしれないと思って来ました。しかし、幸いにも、不動産業界に身を置いたせいか、あまり緻密な計画なくして財をなす方法を体験することができました。

言うまでもなく、財産三分法の預金・株式・不動産のうちで最も換金スピードが遅いのが不動産です。売却を決意してから数日で現金が手元に入ることはありません。

まして、自宅・住まいを投資対象の不動産と見なすことは何処かおかしいと言わざるを得ません。家は生活の基盤ですから、これを金儲けの対象にするなどということには違和感があるからです。

しかし、結果的に家は持ち主の財となるのも事実です。安いときに買って高くなって売れば利益を享受することは確かにできるのです。

しかし、一方で売りたい時に売れない事情が発生することがある。これまた事実です。仕事の関係、子供の学校問題、親の事情などが行動を左右します。

安く買ったマンションが高く売れて喜んだものの、次に買った家はもっと高かったという場合がありますし、タイミングによっては高く売れないと嘆きながら、次の家はさほど高くなかったので、購入に迷いがなかったという例もあります。

筆者も、安いときに買ったマンションを高く売って多額のキャッシュを掴んだのも束の間、次の家は一段と大きな借金をして買うことになりました。その家も、やがて手放すとき安値になって落胆もしましたが、長く住んだおかげで住宅ローンは残り少なく、手元にいくばくかのキャッシュアが残ったのです。

買った金額と売った金額を比較すれば大きな損失でしたが、残った現金を見れば満足すべきでした。なぜなら、10数年の所有マンションライフは金銭で測れない満足を家族ともに享受できたと思ったからです。

筆者は、マンション業界に身を置いていた関係から複数のマンションを所有する機会もありましたが、金もうけの対象にしてやろうと考えたことは一度もありませんでした。

自宅以外は、仕事の関係から「いただいた縁」によるものでした。浮世の義理と言い換えましょう。ゆえに、処分に当たっては損切りした物件もありましたが、何ら後悔はないのです。

自宅すら損切りしたこともある筆者ですが、人生悪いことばかりではないというのは真理だと思っています。他方では大儲けできたものもあったからです。

立場こそ変われ、長い間マンションと深くかかわりながら生きて来たので、実体験を含めて読者の皆様に有益な情報をお届けして行くことが可能です。今後も方法は変われども、続けていこうと思います。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

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