第712回「マンション購入のタイミングを改めて考えてみた」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

 筆者の知人に、10年でローンを全額返してしまったご夫婦がいらっしゃいます。35年ローンを組んでいた夫婦は、繰り上げ返済を何回か繰り返して、とうとう10年ちょっとで完済したのです。

 金利がもったいないと考えていたわけでなく、「借金がいやだったから」が理由でした。筆者には理解しがたい話でした。住宅ローンの金利は今より高かったのは確かですが、これは結果論で、10年前も史上まれに見る低金利だったのです。「高い」は後から見た場合のことです。

 ともあれ、無駄な出費は極力避けたいという考えがあったのでしょう。ローン負担をなくしたかったのかもしれません。それはそれで悪いことではありません。しかし、「2年貯めては返済、3年貯めては返済」を繰り返す10年だったとかで、預貯金はゼロに近い状態が長かったと笑っていらっしゃいました。

 10年間に何事もなかったから良いものの、「何かあったら」とは考えなかったのでしょうか? 他人事ながら、「爪に火を点す」ような暮らしをしていたことが窺えただけに「大したものだ」と言うほかありません。

 筆者は、どちらかと言えば借金人生を送って来たので「その功罪」を理解できる方ですが、「手元に現金・預金があることが安心」という思いもありました。

 不動産の欠点は換金のスピードが遅いことが短所だからです。自宅を売却しなければ必要な金に困るなどという事態は招きたくないと思っていたことも確かです。また、住宅ローンの返済に窮して家を失うなどということは考えもしないタイプでもありました。

 さて、最近、マンション購入のご相談で、「金利が低いので住宅ローンを有効に活用しようと思うが、ローンが多額に残っていたら売却も難しいだろう。だったら、長く住むという前提でマンションを買えばいい」、そんな考えの方お二人と続けてお会いしました。

 買い替えは考えないということですが、このことに反論するわけではありませんが、基本的な方針に問題があるように思いました。

 今日は筆者の持論である「マンションは買い替えを前提に置くべし」をトレースしてみようと思います。

●マンションは買い替えを前提に置くべし

 転勤はあっても首都圏内のサブオフィスに動く程度なので、長く住めるマンションを買いたい。子供は2人なので3LDKが希望――このように語るご相談者も少なくありません。

 共通の考えは、「共稼ぎなので立地は都心か準都心。言うまでもなく23区内が希望。新築は難しそうなので中古でいいが、古過ぎない物件を希望する」というものです。この何処がどこが問題なのでしょうか?

 予算を聞いてみると、購入物件の候補は見つかありそうには思うものの、「資産価値」の観点では目をつぶる必要があるかも――そう思うのです。

 ときどき、「資産価値は重視しない」という方に遭遇しますが、そう語る一方で「買い替えの可能性も残しておきたい」ともおっしゃる。そう語る人の心理は、将来どのような事態が起こるかは分からないので、換金処分で損しない程度の価値あるマンションを買いたいということのようです。

 確かに、職種・勤務先等によっては、住み替え・買い替えの必要はないと断言できる人もあるのかもしれません。事実、何十年と同じマンションに住み続けている人もあります。

 しかし、人の一生はいつ何があるか分からないのです。歴史ある安定企業に勤めていて転勤も拒否できるなどという恵まれた人もあるかもしれませんし、弁護士や会計士など士業の場合には、転勤もないでしょうから、「家は買ったら長く住む」という前提を置いてもいいのかもしれません。

 筆者の友人の中にも、30年以上もアドレスが変わっていない人が何人かいます。

 しかし、多くの知人・友人は転居を何度か繰り返しています。それは一般的で珍しいことではありません。人生は途中で何が起こるか分からないものです。予想もしないことが降りかかり、住まいも変わらざるを得ないということもあります。

 筆者も転勤で住まいの移動を余儀なくされたことがありますが、会社員をやめて自営業者になった後も、子供の学校の関係から転居したことがありますし、多忙な長時間労働の日々が続いたことから「もっと都心へ」と移転を計画し、タワーマンションを都心に買ったこともありました、

 ところが、契約したタワーマンションが2年後に完成したとき、まさかの転居事情が待っていました。家を買い、それを売って次のマンションを買い、それを売ってタワーマンションに住むつもりでいた我が家に、まさかの転居事情が発生したのです。

 夢にも思わない住み替えでした。買い替えは最後と思っていたところに、一戸建て住まいが待っていたというわけです。筆者の人生プランには全くない形でした。その一戸建ても、現時点の筆者の生活には不都合になっています。近々再々度の住み替えをするかもしれません。

 これらの経験を通じて、「マンションは買い替えを前提とすべし」が持論として筆者の脳裏に刻まれています。

●買ったマンションが値下がりする懸念について

 筆者はマンション業界と深くかかわって生きて来た実務上の経験と、自分自身でもマンション売買を何度か繰り返して来た経験から、ゆるぎない持論が構築されるに至りました。

 ある買い物では何年か後に損切りし、次の買い物では短期間に信じがたい売却益を得るという、損も得も経験して来たことは、今の自分にとって大きな学びになったと思っています。

 そもそも筆者は投資家ではないので、儲かるマンションを吟味して選ぶという立ち位置にはありませんでした。「たまたま儲かった、たまたま損をしてしまった」のです。

 何度も買ったり売ったりができたのは、特別な環境に身を置いていたためですが、それでいて「儲ける」意識は殆どなかったと言って過言ではないのです。

 しかし、「結果的に損をしたのは何故、儲かったのは何故」と分析してみて、今更ながら「儲かる不動産と儲からない不動産の差異」について語ることができるようになったことは確かです。

 経験と知識を整理・分析して、持論として発信できるようになったのは10年ほど前からです。情報を整理・分析する作業は日々欠かせませんが、持論の柱が大きく覆る(くつがえる)可能性は今のところはありません。

 ともあれ、不動産売買、なかんずく自用(自宅として使う)マンションの売買で儲けられるかどうかは、運任せの色が濃いと言えます。従って、購入に当たっては、「大損しない物件を選ぶことが重要」、「買い値を下回る売り値になったとしても、住んでいた期間の満足感が大きければ損ではない」という考えを持つに至りました。

●自宅マンションの大幅な値下がり経験

 買ったマンションが永遠に右肩上がりを続ける。そんなことを夢見心地に語る若い人にお会いすることが稀にあります。確かに、この7~8年の価格上昇トレンドを見ていたら、そんな錯覚に陥ったとしても不思議はありません。

 経済学の本の中に「楽観の錯誤」という言葉が登場して来るそうですが、好調な経済・好景気が長く続くと、それが永遠に続くと錯覚してしまうのが人間なのだ——バブル経済が崩壊した1995年頃に聞いた話です。

 最近のことですが、何人かの若いご相談者から「マンション価格は上がり続けるものだ」という錯覚をしているとしか思えない発言を耳にしました。

 筆者は、短期間で大きく値上がりしたマンションを買って大儲け?した経験もある一方で大損の経験もあるので、「なぜ古くなったマンションが値上がりするのか」「値上がりするマンションと値上がりしないマンションの差はどこにあるのか」という視点をずっと持ち続けています。

 ご相談者から「マンション評価」を依頼されてお答えするときの視点は、「将来の価格はどうなるか」に置きます。「良いマンションか、問題はどこか」といった評価を筆者なりに分析してレポートとしてお届けし、加えて「将来の価格を予測」するのが日常業務です。

 原点は、先述の「大損した自宅マンションと大儲けした購入マンションの実体験」にあります。その体験と市場分析から、ご相談者に「ご検討マンション」の是非等について見解を述べ、助言するレポートの作成が生業になりました。

 簡単な言い方をすれば、「買って問題ないマンションか。損しないマンションか」ということですが、この時期、その判断は微妙になっています。高くなり過ぎたマンション価格の先行きに懸念を抱いているからです。

 筆者も、先述の通り2つ目の物件(自用)の売却では大損しました。高いと知って買ったのですが、高値であっても買いたい事情があったのです。住んでいたマンションが大きく値上がりしたという事情もあって、気が大きくなっていたのかもしれませんが、「より広い自宅が持てそうな喜びがあった」からでもあります。

 そのとき、資金的に可能な状況にあったことが踏み切る要因だったことも確かです。価格が急騰した時期でした。

 「山高ければ谷深し」という格言があるそうですが、バブル崩壊によって筆者はこれを体現してしまいました。ほどなく、大きく値下がりした自宅は、その後も元の値に戻ることはなく、十数年後に安値で手放す羽目になったのです。

 買った価格と売却価格の差だけを問題にするなら「多額の売却損」を出しての買い替えでした。

 それでも売却を決断することができたのは、購入時から十数年を経過して住宅ローンの残債が大きく減っていたからです。都区内のマンションではあったものの、都心のオフィスまでの絶対距離が近くもない自宅でした。当初は子供の通学便のための購入でしたが、卒業後は住み続ける理由もなかったのです。

 しかし、大きく値下がりした自宅を売却することができず、しばらく住み続けるしかなかったというわけです。

 この経験から、「売らなければ損も得もない」、「値下がりしてもローン返済ができるなら痛くもかゆくもない」ことを知りました。

●大儲けしたのは「偶然」

 既に述べたように、大儲けしたマンションもありました。「安く買って、高く売る」ことができたのは偶然――筆者はそう思っています。

「安いとき買って高くなったら売る」などということは、投資家でない限り、所詮は無理な注文というものです。買いたい時の相場が運悪く高いという場合も多いからです。

 今後のマンション市場を予測して行くと、足元の新型コロナ風邪の流行による影響を度外視しても価格は安くなる傾向が見えています。

 とはいえ、新築は原価自体が高いので値下げ余地は小さいと見なければなりません。他方、中古マンションの多くは購入価格が安いので、下げ余地は大きいでしょう。

 売れない中古マンションには下押し圧力が強まりつつあるようです。買い手は慌てなくていいのです。じっくり品定めをしましょう。

 とはいえ、新築も中古も大幅な値下がりは期待しない方がいいでしょう。マンションを購入しようというとき、肝心なのは「大損しない買い物をすること」です。言い換えると、「大儲けしなくてもいいから大損しない」ものを選ぶことが大事なのです。

 筆者が大損した経験は、百年に一度のバブル期に高額なマンションを買ってしまったからです。今後の市況を占うとき、値下がり局面があったとしても、下がり幅はせいぜい10%だろうと考えています。

 無論、物件格差が大きいので、同時期に10%も値上がりするものがあり、他方20%も値下がりしてしまうものもあるはずです。結局は物件次第です。

●家賃が下がることがないなら買うべき

 おりしも新型コロナウイルスが蔓延して仕事を失う国民も少なからず出ている昨今ですが、相変わらず「家賃並みの支払いで足りるローンなら買って、賃貸マンション住まいから脱出したい」という人も多いようです。

 賃貸マンションに住んだままの状態で家賃を値下げしてくれる大家さんはいません。勤務先から家賃補助を受けている人が、新年度から補助額が大幅に増えるという企業もないはずです。

 住宅ローンの金利は史上最低水準にあって、この分だともう一段と下がりそうです。価格が大幅に下がる可能性はありませんが、政策的な支援策が再び拡充される可能性もゼロではないでしょう。

 こうしたことを徒然に考えてみると、「良い物件が見つかったら買う」、言い換えると「買い時はいつか」などと考えないで買う、ただし「慌てないで選ぶ」、「できるだけ値下がり幅が小さいと期待できる物件を選ぶ」、こういったスタンスでいればいいと気づきます。。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらからhttp://www.syuppanservice.com

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