第727回 「コロナ不況でマンション価格は下がるか?」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

最近よく届くご質問に、この場をお借りしてお答えします。

ご質問とは、「コロナ禍によってマンション価格は下がるのではないか。どうなのでしょうか?」です。

今日は、マンション価格の行方について述べることにします。

第724回「今は待った方がいいのか」と併読がお勧めです。

●新築マンションの価格のなりたち

ご承知のように、新築マンションの価格は、「用地費・建築費」の2大原価と販売経費にデベロッパーの利益を加えて決定されます。

大きな利益が得られたらいいですが、想像なさるほどの利益は取っていません。

ざっくりと言えば「粗利率」は20%。その中から販売経費(広告費やモデルルーム経費、販売手数料など)を引いた利益は概ね10%です。

 

意外に利益率は低いのだねとおっしゃる人も少なくありませんが、一般消費財などと比べれば商品単価が高いので10%でも妙味はあるのです。新築マンション1戸の売り値は5000万円以上もするのですから、利益10%でも500万円になるのですから、売れれば妙味はあるというわけです。

 

ただし、1年に何百戸、何千戸と売れないと経営は成り立ちません。言うまでもなく、利益10%の中から、本店経費(管理部門の人件費や事務所経費など)の間接経費を賄う必要があるのですから。

万一、売れ行きが悪ければ、追加広告費もかかることになり、その他の販促費も増えて利益は減ってしまいます。

 

デベロッパーのビジネスは、建物竣工時に払う建築費の残金が多額なので、少なくとも竣工時に80%は売れていないと、支払いに窮すると言われます。売れなければ入るはずの利益も実現できず、経営危機に瀕することとなります。

 

売主・デベロッパーは、余剰資金を貯めこみ、いざというときに備えてはいますが、売れ行きが悪い状態が長引けば、経営危機に瀕することになりかねませんから、期間売り上げ・期間利益の確保に躍起となります。

 

昨今(この4年くらい)は、売れ行きの悪い状態が続いています。原因は価格の高騰に買い手がついて来られなくなったためです。それでも、住宅ローンの金利低下によって購買力が押し上げられ、何とか手が届く人も少なくないこと、物件の供給量が激減しているので、遠回りしながらも買い手は来てくれる状況にあります。

つまり、遅まきながら売れて行くという状況にあるのです。

 

※一言添えると・・・

 新築マンションは売れなくてもディスカウントはしないのが常道です。定価契約をした先行契約者からクレーム=値引き要求が殺到したり、ネット上に書き込まれたりして、販売に支障が起こるというだけでなく、信用問題にも発展しかねないからです。まあ、小さなサービスをしてもらえる程度と思うほかありません。

 

建物が竣工して、売れ残りを多数抱えてしまうと、先行契約者・入居者)から「早く売ってくれ」という声が上がります。売れないマンション、高値のマンションを買ってしまったという後悔の念を持ちたくないためです。言い換えると、早く売れて「評判の良いマンションだった。それを自分は買ったのだ。そう思いたいからです。

 

 そうかと言って、値引き販売を堂々と仕掛けると「売れないマンションだと世間に宣言するようなことはやめてくれ」と言う買い手も出てきて、早く売ってくれよ。だけど、値引きはするな」と言わんばかりです。

 売れ残ると、売主は窮地に追い込まれるのです。

 

●中古マンションの価格はどのように決まるの?

原価+販売経費+利益という価格構造になっている新築マンションですが、中古は全く異なります。いくらで仕入れたか(買ったか)は無関係だからです。

売り値は市況をよく知る仲介業者から提案されますが、ときには期待以上の売り値になり、ときに落胆させられる売り値が提示されるのです。

 

依頼される仲介業者には、売り値の提示額には幅があるものの、その提案書面に「購入価格」の概念はないのです。つまり、業者にとって依頼者(持ち主)の意向など無視していると言えなくもないのです。

 

「売れそうな価格はいくら」、「挑戦価格はこちら」、「買い取り価格はこちら」などとプランを提示して来ます。提案書を見ると、「類似物件または当該マンションの別室」の取引価格が算定されており、依頼物件との差異を点数化して提案して来ます。

 

そこには「いくらで取得したか」も、「ローン残債がいくらあるか」も盛り込まれないのです。基準は「最近の近傍・類似物件の成約価格」のみに置かれます。

 

所有者の希望価格は無視されると言って過言ではありません。

中古マンションは、買い手が決めると言い換えることもできます。売り手がどれほど高値を望んでも、買い手が「高い」と判断すれば取引は成立しないので、売りたい所有者は値を下げるしかないからです。高値のまま市場に放置されれば、ますます売れないマンションになり下がります。やがて、しびれを切らした売主は値を2回。3回と下げることになりかねないのです。

 

結局は、高値のときに見送った買い手候補が値下げしたタイミングで再登場し、購入意思を表明して成約になったりするのです。

 

市況が過熱しているようなときは、売り手の強気な価格も通じてしまうことがあり、その価格が実績としてREINSに登録されれば、それが指標となって、次の売り依頼者の売り価格を押し上げます。

 

こうして中古マンションの価格は形成されて行くのです。

 

●新築マンションの価格は当分下がりそうにない

新築マンションは、売り手の一方的な希望価格として市場に並びます。先に述べた通りですが、店頭に並ぶと、もはや下げることは困難です。先行契約者の目が光っているからです。

 

新築マンションは、用地を買ってから、開発行為、設計、建築確認、工事請負企業の決定まで1年から長くて3年の時間を要します。そこから、1年~3年の工事期間を経て購入者に渡るのです。通常、販売を開始するのは着工後3カ月から半年です

 

今、売り出し中の新築マンションの価格は、安い時に仕入れた用地などというのは稀有ですし、建築費も現状の高値で発注している、従って安値のマンションは期待できないのです。

 

地価が全般的に低落傾向になったとしても、マンション開発に向く土地は稀有のため、仕入れ価格は下がらないと考えるほかありません。 建築費は今後、コロナ不況で仕事が減って下がることはあるかもしれませんが、一方で、景気悪化を懸念する政府は公共工事を増やす策を採るかもしれません。従って、建設会社が暇になって建築費が下がる可能性はないと考えます。

 

コロナ以前に決まっていて着工していない「受注残工事」も多額にあると聞きます。少なくとも、公共工事は減らないでしょう。

このようなことを様々な現象や情報から考察して行くと、建築費が目立って下がる可能性はまだ浮かんで来ないのです。

 

●中古マンションもエリアによっては下がらない

コロナ禍は、倒産企業、業績悪化企業を増やし、この先1年か2年は景気の低迷を招くことでしょう。

 

しかし、マンション市場を見るときは首都圏を広範に見るのではなく、いくつかのブロックに分けて考えることが必要です。

 

コロナ不況など「そよ風」程度にしか感じていない業種、企業もあるようですし、公務員なども無関係と言えるでしょう。少なくとも、筆者に「マンション評価レポート」をご依頼くださる方たちは、影響を受けても軽微な企業・団体に勤務している人たちばかりです。士業の方たちも同様です。

 

こうした人たちの多くは、好立地の高額マンションを選択しようとする例が多いのです。

好立地、すなわち東京都心・準都心の高額マンションの買い手さんたちです。新築マンションの値上がりは、中古価格も押し上げているのは確かですが、なかんずく好立地の中古は値下がりしない傾向が顕著です。

 

しかしながら、中古は物件格差が大きく、例えば築20年を候補に入れる気があれば、そこそこ悪くない物件が出て来ます。

 

●値下がりする可能性が高い中古は郊外

もうお分かりのことと思いますが、中古マンションで値が下がるのは郊外です。

在宅勤務が増えるので郊外マンション人気が高くなるという意見も耳にしますが、筆者は賛同しません。

このような潮流が生まれたとしても、中古人気の高まりが全体としての価格上昇までは行かないと見ているからです。

 

中古マンションを郊外で探す人は、今も郊外に住んでいて郊外マンションを選ぶことに抵抗が小さい家族です。都心・準都心に住んでいる階層が、在宅勤務の増加を機に郊外に移住するという潮流が起こるとは思えないのです。

 

●買いたい時が買いどき

筆者がお目にかかる人は、それぞれに理由があってマンション探しを始めた人ばかりです。入居は2年先でいいが、今からじっくりと研究していきたいという人がある一方、たまたま見学したモデルルームに惚れて急に購買意欲が燃え上がった人もあります。

「急ぐ理由はないが、気に入ったから」という人です。

 

反対に「家賃が上がるので、これをきっかけに買うことを考え始めた」や、「会社の家賃補助が年内でなくなるので、高い家賃を払うくらいならマイホームを買おう」と考え、研究の一環としてマンションを選び始めたという人も多いのです。

 

「何しろ住宅ローンの金利がゼロに等しいほど低いので、月々の負担も少なくマンションが買えてしまいそうだ」と気付いて動き出した人も多いのです。

 

そんな人たちは「今が買い時」または「買わねばならない時」と承知しているのです。いわば、買いたい時が買い時に当たっている人たちです。

思えば、筆者も最初にマンションを買ったのは、市況ではなく我が家の生活設計が理由でした。二度目の購入も、娘の高校進学が理由でした。

 

よく、「買い時はいつか」という議論を雑誌等で目にすることがありますが、筆者はこう思います。「買いたい時が買い時なのだ」と。

 

●「まあ、無理はしないでおこう」が正解

バブルの頃は所得の右肩上がりが当たり前に信じられました。少々無理な住宅ローンを組んでも返済に窮することはないと錯覚した人たちが多かったそうです。

結果、返済に窮して自己破産をした家庭が続出したことも見聞きしました。

 

そんな記憶が残っている親世代は現在の状況を見て「無理するなよ」と助言を送っているようです。悲観的過ぎる親もあるように感じますが、筆者は「いざというときに備えてローンは少し多くなっても預貯金はたっぷり残しておきましょう」と提案しています。

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談のお申込みはこちらからhttp://www.syuppanservice.com

 

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