第765回「市場のニーズはコンパクト化なのか?」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論「マンションの資産価値論」を展開しております。10日おきの投稿です。

最近のご相談の傾向から1点だけ挙げると、2LDKニーズが多いことです。 子供のないご夫婦、いても1人だけの3人の小家族が増えていることだけではないようです。 今後の展望について整理してみました。  

●小家族の増加傾向はいつまで続くのか

子供を2人、3人と作るのが当たり前だった時代は遠くなり、子供の数は減るばかり。世界でも屈指の老人大国になってしまった日本、結婚しない人も多く、年々子供の数が減っています。少子高齢化の日本は、この傾向を強めて行くのでしょうか?  

 

現在、47都道府県の中で、子供の数が割合的に多いのは沖縄県、次いで滋賀県だそうです。子供の割合が高い県を順に並べると、沖縄県 17.0%、滋賀県 14.0%、佐賀県 13.6%、宮崎県 13.4%、熊本県 13.4%、鹿児島県 13.3%・・・ここまでは全て九州です。ついで、愛知県 13.3%、福岡県 13.2%、広島県 12.9%、福井県 12.8%なのだとか。  

 

一方、子供の割合が低い県はどこかといえば、1位は「秋田県」、2位は「青森県」でした。いずれも高齢化が進む東北地方の県です。人口の多い大都会は、子供の割合が低いイメージがありますが、実は「東京都」は5位なのです。高齢化が進んだ地域の方が子供の割合が少ないのです。  

 

1世帯当たりの子供の数は年々減少し、国の調査によれば「20代・30代の約6割は「結婚しても、必ずしも子供を持つ必要は無い」という考えに賛成の意を示しているのだそうです。  

 

このようなデータを見ていると、日本は老人大国になって行くのかと暗澹たる気分にさいなまれます。  

 

首都圏も、人口は多いものの、子供の数が少ないことは間違いなく、伴って家選びも過去30年ほどを見ると、変わって来たことが実感できます。  

 

とはいえ、その変化の要因を人口構造にだけ求めるのは間違いです。需要構造の変化、中でも共働き世帯の増加も関係があるようです。無論、供給側の事情も無関係ではありません。  

●マンションニーズは60㎡、それとも70㎡?

昨今の分譲マンションに対するニーズの変化で顕著なのは広さの変化です。誤解がないように先にお断りしなければならないのは、狭いものを積極的に求めているわけではないということです。  

 

実は「少なくとも70㎡くらいは欲しい」と語る人は多いのです。ただ、それを求めると手が届かないので、「仕方ない。60㎡で我慢しようか」ということのようです。  

 

私たちは、常に何かと比較して行動を決めるクセがあります。家の選び方では「今より広いマンション」などと、現居との比較です。  

 

狭い賃貸マンション住まいの二人が、子供ができたのをきっかけに家探しをすると、家賃が高過ぎることに驚き、次いで「買った方がトクらしい」と気付いて購入の方向に舵を切る人はたくさんいるのです。  

 

その人たちの希望は、現在居住中の賃貸マンションが40㎡か50㎡程度なので、もう1室あればいいと言います。1室を6畳とすれば10㎡なので、60㎡の2LDKマンションは満足できる水準なのかもしれません。  

 

しかし、計画性のある夫婦は、「将来を考えて70㎡が買えたらいいね」などと話し合って希望条件に70㎡・3LDKと答える例も多いのです。  

 

しかしながら、広くなれば当然ながら値段は高くなります。予算の都合から、高値の物件に手が届かないか、無理したくないと考えて、広さを縮小する方向に動きます。  

 

縮小させたくない人、つまり70㎡以上を求めたい人は、立地条件を変更するか、新築を諦めるなどして探すのです。最近は、コロナ禍のおかげというべきか、通勤時間をさほど気にしなくてよいからと、立地条件を変えても、広さは妥協しない買い手さんも多いと聞きます。  

 

筆者へのご相談でも、ときどき「バス便マンション」や「築年数を気にしない」で、広さを必須条件に挙げて来る方が僅かながらあります。  

 

ご自宅で仕事をすることが多いからと、「広めの寝室」や「仕事部屋に使えるコンパクトな個室付き」を望むようです。その意味では、足元は60㎡でなく、70㎡なのかもしれません。  

 

しかし、マンションを選ぶときに「将来の転売」というテーマは軽視できないはずです。その観点では、立地条件をおろそかにはできないのです。立地条件の劣るマンションは、買うときも安いが、売るときは一段と安くなるからです。  

●一次取得者のニーズと買い替えのニーズ

ところで、マンション購入者も千差万別ですが、大別すれば「地域ニーズ」以外に「広さのニーズ」、「グレードのニーズ」などがあります。これらの中に、どうしても加えなければならないのが、「一次取得者ニーズ」と「買い替えニーズ」です。  

 

「買い替え」は、既に分譲マンションの何たるかを知っている人なので、次の家に対するニーズは高水準になるものです。

(「ダウンサイジング」によって別のメリットが得られる人、すなわち夫婦2人だけの高齢者世帯は例外と言って良いでしょう。)  

 

買い替えを希望する人のニーズは、「もっと広いマンションに」、「もっとハイクラスのマンションに」、「もっと利便性の高い場所に」などです。  

 

その希望を叶えるための予算も十分のようです。居住中のマンションを売ると、住宅ローンの残債を整理しても少なくない手取り現金ができるうえに、貯蓄残高も増えているからです。 付け加えると、会社内での職階も高くなって所得が増え、仮に住宅ローンを組むとしても短期の返済が可能だからです。  

 

つまり、予算にゆとりがあるので、好立地で広い家を求めることは可能な余裕派になっているのです。  

●広い家に住んでしまうと買い替えが難しいのか?

最初から広いマンションを買っておけば、長く住むことができる。 だから、さほど買い替えの心配は要らないと考える人もあるようですが、いつ何があっても移住が壁にならないようにしておきたいという人も少なくありません。  

 

転職や子供の学校問題によって移住の必要は生じるはずです。安定企業に勤めている人でも、ずっと安泰というわけでもないはずです。世界的にも有数の大企業・安定企業に勤めている人でも、個人的には一生安泰とは言えない人もあるからです。  

 

子供の通学問題では、遠方の家より、通学のしやすい場所に買い替えた方がよいはずです。大企業に勤める相談者から聞いた話では、首都圏の中だけの異動とはいえ、どこに転勤になっても困らない都心に家を持ちたいという声も少なくないのです。  

 

都心に買うのが無理なら、準都心で売却のしやすい立地が購入条件ですと語ってくれた人もありました。都心・準都心は当然に高値ですから、広さは多少妥協してもいい・・・・こんな声も何度か聞きました。  

 

初めてマンションを買う人、既に持ち家の人の中で、もう1回くらいの買い替えはあると想定できる人は、買い替えのしやすい、言い換えれば、安値にならないマンションを選択しておくことが大事です。そのためにも、立地条件をバス便などに妥協してまで広さを優先して選ぶのは避けた方が良いのです。  

 

広いマンションを駅近の立地で選ぶことができる人は、それに越したことはありません。広い家を欲している人は必ず現れるので、立地条件さえ間違わなければ心配はしなくて良いからです。  

●上昇志向の人・堅実な人生を送る人

マンションを買う人は、上昇志向のある人なのだと思います。賃貸マンションに住んでいる方が気楽でいいなどと豪語する人を何度か見かけましたが、そんな人もやがて家賃の無駄に気付き、安定した人生を思うらしく、家を買う決心をするようです。  

 

賃貸マンション暮らしは、経済的な側面だけで言えば何も残してくれません。まあ、家主さんへ貢献しているだけと言えます。やはり、買った方がメリットは大きいのです。ただし、選ぶものを間違わないことが大事なのは言うまでもありません。  

 

間違うと、いざ売却というとき、全く買い手が現われないなどという事態もあるからです。ともあれ、上昇志向の強い人は、ステップバイステップを念頭に置いて家を選んでいます。  

 

一方、堅実な人はマンション選び当たって、「儲からなくていいが、損をしない物件を選びたい」と語ります。このタイプの人は、「ギャンブルはしたくない」だけのことで、「できたら少しは儲けたい」と考えているのです。

このタイプの人に筆者はこう言います。「損をしないマンションを選ぶことは、結局儲かるマンションを選ぶことにつながって行きますよ」と・・・・この具体の説明は割愛しますが、儲けの大小の話です。  

 

マンション購入にギャンブルはないのです。筆者がブログで繰り返し主張する原則論に従う限り、損はないとだけお伝えしておきましょう。  

●マンション開発者の悩み「広さと間取りをどうする?」

立場を変えて話を続けます。買い手のニーズをよく知るデベロッパー(マンションメーカー)は、買い手が喜ぶ間取りの形、そして広さを決めるときの壁の高さに逡巡します。  

 

70㎡より、80㎡の3LDKの方が良いのは分かっているが、価格が高くなって売りにくいから、75㎡に抑えよう。70㎡でも手が出ない買い手も多いので、60㎡の2LDKも用意しよう。 この立地は、単身者ニーズも多いはずだから30㎡も作ろう。上層階は、富裕層のニーズもありそうだから、90~100㎡の住戸も少し用意しよう。 最上階は、さらに大型の住戸を設けよう・・・・などと考えます。  

 

そして、マンション全体の法的に許容される最大面積の中に、60㎡を何戸、80㎡を何戸などと概略のプラン入れて行きます。それに想定される分譲単価を掛け合わせて、分譲価格を想定します。  

 

その概算価格表を見て、販売担当の責任者に意見を求めます。そこで、「これは高過ぎて売れないぞ」と懸念を聞かされます。さらに、もう少し下げたいから、それぞれの住戸面積を縮めてくれないかなどと要請されます。  

 

作図をやり直した結果、住戸数は少し増えますが、1戸当たりの面積は小さくなって、個別の売り値はいくらか下がります。この作業を何度か繰り返して住戸プランが出来上がります。75㎡だった3LDKが66㎡になり、60㎡だった2LDKが59㎡になるのです。  

 

この立地であれば、中途半端な間取りでなく、高くなっても文句の出ない秀逸の間取りを提供した方が販売は成功するはずだという声もあがったりしますが、昨今は用地不足で好立地の開発ができないので、残念な圧縮型の間取りができてしまうことが多いようです。  

●立地条件で決まるマンションの価値

そもそも、マンションの価値は立地条件に左右されますから、どれほど良い企画、良い間取りを作ってみても、立地の良くない物件の場合、価格が高ければ買い手の支持は得られません。何割かは売れても多数の売れ残りを出してしまうのです。  

 

マンション不況に何度も遭遇して来たマンションデベロッパーは、この立地ではどんなプランの商品にしなければ売れないということを知っています。しかしながら、用地費が高く、建築費が高い最近10年の商品はどれも高値になってしまうのが現実で、価格抑制が困難です。  

 

高値でも売れるのは、高額予算を持つ階層が集まる立地の物件だけと言って過言ではありません。言い換えると、好立地のマンションは高くても売れると踏んで、商品企画の面でデベロッパーは妥協をしないのです。  

●予算と広さのバランスをどうする?

買い手の立場に戻りましょう。場所がどこであれ、少子高齢化の時代は長く続くことでしょう。としたら、都心も準都心も、また郊外も「広さのニーズはコンパクト」なのかもしれません。   

 

とはいえ、広い方が快適な暮らしが送れることでしょうから、広い面積を望む買い手も多いはずです。ただ、予算との兼ね合いで面積を妥協しているに過ぎないのです。  

 

予算と広さの関係から郊外を選ぶほかない人は、どうすればいいのでしょうか?そう問われて、筆者は「郊外ほど需要が少ないので、その街で一番、その駅で一番」と思われるような物件を選択しなければなりません」と答えます。

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コンパクト化のトレンドは価格急騰がもたらした「やむを得ない選択」から生まれています。少子化のトレンドが生んだとも言えるものの、多くの買い手が60㎡に満足しているわけではないのです。  

 

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